ジュニーニョのスーパーフリーキックで、前半6分に先制したリヨンでしたが、その8分後には、バイエルン・ミュンヘンのストライカー、マッカーイの同点ゴールが決まって追いつかれてしまいます。このゴールシーンは絶妙だったから、ちょいと「5秒間のドラマ」風に描写してみましょう。
左サイドでボールをもったピサーロ。一度切り返してタメを演出し、中央ゾーンへ上がってきたバラックへ、比較的ゆっくりとした「横パス」を出します。それが勝負の瞬間でした。その、逃げの安全パスにも見える「横パス」こそ、最終勝負のキッカケとなる勝負のファウンデーションパス(相手をワナにはめる仕掛けパス!)だったのです。
ピサーロの横パスが、彼の右足を離れたとき、その「大外」で、ボールがないところでの爆発アクションを加速したバイエルン選手がいました。ゼ・ロベルト。彼は、中央ゾーンでパスレシーバーになったバラックと、既に「事前のイメージシンクロ作業」を完了していたのです。そしてボールが、まさに夢のコンビネーションという具合に、美しい軌跡を描いていきました。私は、人々が心を奪われ、感動するシーンは、「個のトリックプレー」だけではなく、美しいボールの動きにもあると思っています。完全に人々の予想のウラを突くタイミングとコースのボールの動き・・それです。あっと、ハナシが逸れた。さて最終勝負の瞬間です。
ピサーロから、上がってきたバラックの眼前スペースへの「置くようなファウンデーションパス」が出される・・バラックは、ボールには目もくれず、ゼ・ロベルトのアクションを注視しつづけ、最後の瞬間に、ダイレクトでのスルーパスを通す・・もちろんゼ・ロベルトは、決定的スペースへ抜け出している・・マークする相手は、その高質なイメージシンクロコンビネーションに完全にウラを突かれてマークダッシュのタイミングを失ってしまった・・この状況でもう一人、決定的アクションを起こしていたバイエルン選手がいた・・フィニッシャーのマッカーイ・・リヨンゴール前の決定的スペースへ爆発ダッシュをスタートしていたのだ・・ただマッカーイの動きは定石だったから、リヨンのディフェンダーも、しっかりとマークできている・・そのディフェンダーのマークイメージは、マッカーイへのスルーパスカット・・もちろん、そんなディフェンダーの意図はゼ・ロベルトにも「見えて」いた・・彼にはマッカーイへのラストパスのコースが「薄い」ことが見えていたのだ・・そして最後の瞬間、意を決したゼ・ロベルトから、まさに「針の穴を通す」ラストパス(ゴールラインと平行なトラバースパス!)が、マッカーイが走り込む眼前スペースへと美しい糸を引いていった・・マッカーイをマークしていたリヨンのセンターバックは、ギリギリのところで、そのトラバースパスに触ることができなかった・・そしてマッカーイが右足インサイドでチョン!と弾いたボールが、リヨンゴールの右隅へ吸いこまれていった・・というわけです。
まあ私は、これでゲームは(勝負は)バイエルンのものだろうな・・なんて、イージーに思っていたわけですが、どうもバイエルンの攻めの内容が低級だと感じはじめてしまって・・。彼らの攻めが、相手守備ブロックのウラ(薄い部分)を突いていけるだけの「変化」を演出できていないし、組織プレーもうまく機能していないのです。そんな展開を観ていて、そうかリヨンの守備ブロックは堅牢だったんだ・・なんてことを思い出したりしていました。だからバイエルン選手たちも、組織パスプレーがうまく回らないことで、強引なドリブル突破にトライし過ぎるようになってしまう。リヨンは、ボール絡みの守備プレーばかりではなく、ボールがないところでの「守備イメージ」も高質です。本当によくトレーニングされたチームなのですよ。
攻めあぐむバイエルン・・それに対して、堅牢なディフェンスプレーを基盤に、たまに「蜂の一刺し」という鋭いカウンターを繰り出していくリヨン・・。そんな「表現ニュアンス」にしたら、読者の皆さんが、リヨンが挙げた勝ち越しゴールは順当だったと思うのも当然?! まさにその通り。バイエルンを追い出されリヨンへ移籍したエウベルがたたき込んだ決勝ゴールは、試合の流れからすれば、まさに順当なものだったのですよ。
でもこのゴールシーンでの最終勝負は泥臭かったですよ。鋭いカウンターの流れのなかでスパッというボールの動きがピンポイントで合ったというのではなく、左サイドでの「ゴチャ・ゴチャ・ボールキープ」によってバイエルン選手たちがそのスポットに集中させられ、そこからの泥臭い横パスが、一瞬フリーになっていたエウベルに通ったというわけです。エウベルのマークに急行したのはバラック。でもエウベルの、身体をつかった(バラックのアタックをスクリーニングしながらの)うまいトラップとシュートに、バラックは為す術がありませんでした。エウベルは、バラックのアタックアクションが明確にイメージできていたということです。素晴らしい・・。
その後の展開は、皆さんご想像のとおりです。ガンガンと攻め上がるバイエルン・・でも結局は、早すぎるタイミングでの仕掛けドリブルなど、「個の勝負プレー」が前面に押し出され過ぎることで組織プレーイメージ(イメージシンクロ状態)が大きく減退していってしまう(もっとサイドからの組織的な仕掛けを増やし、正確なクロスを決めるというイメージで全員が一致していなければならなかったのに!)。それこそ、リヨン守備ブロックの思うツボ。彼らは、まさにイメージ通りにバイエルンの仕掛けを抑え込んでいたというわけです。
最後の20分間のゲーム展開を観ていて、「あっ・・これは、リヨンが追加ゴールを挙げるぞ!」なんて確信していました。実際に、まったくシュートシーンを作り出せないバイエルンに対し、リヨンは、二本も決定的シュートを放ちましたからね(ジュニーニョとマルダ)。特にマルダのチャンスは決定的。クフォーのミスパスからの(つまりリヨン最前線に近い位置でのボール奪取からの)カウンターシーンだったから、バイエルンは、もうどうしようもなく「対処ディフェンス」をやるしかなかった。まあ最後は、オリバー・カーンが、「カーンのカーンたる所以」ともいえるスーパー「1対1プレー」を誇示したわけですがネ(マルダは、ゴールから飛び出して「あの形相」で迫り来るカーンの術中に完全にはまり、シュートアクションがフリーズ状態になってしまっていた!)。
とにかく、リヨンの、クレバーな勝利でした。
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ところでバイエルン。数日前のブンデスリーガでも、シャルケ04に「2-0」という敗戦を喫しています。シャルケのホームゲームで、前半32分には、バイエルン最終ラインの重鎮トーマス・リンケが一発レッドで退場させられてしまったというゲーム展開。まあ結果だけを見たら、今シーズンのバイエルンはダメか・・なんてことになりそうですが、実際には、やっとエンジンがかかりはじめたところという感覚です。もちろん、先シーズン、チャンピオンズリーグからキックアウトされた後に到達した「スーパーフォーム」までにはまだまだですがネ。
とにかく彼らは「刺激」を必要としている。この試合でも、攻守にわたって組織プレーを忘れている・・そのために大事なボールがないところでの忠実プレーを忘れがちになっている・・だからヤツらは、強烈な刺激によって覚醒することが必要(初心に戻れ!)・・この連敗は、ヤツらにとって、これ以上ないというほどのポジティブな刺激になったに違いない・・次はアウェーでのセルティック・グラスゴー戦・・さてこれからだな・・。
ヤツらについては、本日(11月6日、木曜日)にアップされるスポナビのコラム(湯浅健二の質実剛健ブンデスリーガ!)で触れましたので、そちらも参照あれ。
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さてもう一つのドイツクラブ、VfBシュツットガルト。数日前のブンデスリーガで再び首位を奪取しただけでなく、チャンピオンズリーグでも抜群の存在感を発揮しつづけています(今節も「1-3」の勝利!)。まだその試合は観ていないのですが、アウェーで、それもホームで無類の強さを発揮する「あの」パナシナイコスとのアウェーゲームでの勝利ですからネ、深〜いコンテンツが内包されていたに違いない・・。
とにかく守備が抜群に強いシュツットガルトだから、アウェーは得意な方でしょう。たぶんこの試合でも、ものすごいホーム応援に後押しされるパナシナイコスの「前への勢い」を逆手にとったのでは・・?? 今夜のリピート放送が楽しみです。
それ以外の予選グループでも、バイエルンが入っているグループAだけではなく、グループB、CやHなど、残り2試合という押し詰まったタイミングで、やっと最高テンションの勝負がつづくという状況になってきました。いや、楽しみです・・。
他の試合についても順次観戦し、内容に応じてレポートする予定ですので・・。