今回はあるアジアの国で骨休めしていたのですが、そこでも人々の興味の中心がサッカーだったという話題から。
衛星中継の技術進歩のおかげで、私が過ごしたリゾートホテルでも、プレミアリーグやリーガエスパニョーラをライブで観ることができました。また、仕事が終わったリゾートホテルの従業員たちが興じるビーチサッカーにも混ぜてもらいました。膝が悪いために思い切りプレーはできませんでしたが、それでもやり始めたら、もう本気。昔のイメージでプレーしようとしますから、現実とのギャップに対峙して落ち込むこと。とにかく走れない、ボールに追いつかない。まあ、仕方ない。それでもボールをもったときのコントロールやフェイント、パスなどは、まあまあイメージ通りだったとは思いますが・・。
「サッカーですか? もちろんみんな大好きですよ。今回のW杯じゃ、日本も立派なゲームをやりましたよね。我々も、同じアジア人として鼻が高かったですよ。あっと・・、まあ成績じゃ韓国に上回られましたけれど、私たちは日本ファンですから・・」。ビーチサッカーで一緒にボールを蹴ったホテルのマネージャー氏は、外交辞令をミックスしながら、目を輝かせてサッカーを語りまくっていました。
自分はマンUの大ファン・・あっと、レアル・マドリーもいい・・この国も、これだけサッカーが盛んなんだから、そのうち日本のように世界でも勝負できるようになるはず・・以前は、外国リーグでも活躍したピアポンなんていう優秀な選手も輩出したし(この名前を聞いて、そこがどの国だったか分かりますか?)・・等々。まあ話していたのは、上っ面な内容ばかりなんですが、サッカーを語っているときの彼が、まさに「心理的にオープン」になっていることを感じ、やはりサッカーは人類史上最高の「異文化接点パワー」を備えた社会的存在なんだということを再認識しました。そして、ちょっとハッピーになっていた湯浅だったのです。
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あっと、前段が長くなってしまって・・。それではまず、前節のピアチェンツァ戦では素晴らしい可能性を感じさせてくれた中村俊輔から。
相手はユーヴェントス。彼の本当のチカラを測るうえで(彼自身をアピールするうえで)大事なゲームなのですが、結局は、実効あるプレーを展開できず、最後まで中途半端な状態に終始してしまいます。
攻守にわたって積極的に動きまわるという姿勢(=発展のための基盤!)や意志が込められた全力ダッシュを仕掛けていく姿勢は継続しているのですが、どうも、相手マークからフリーになってボールを持つというシーンまで行けないの。まあそれも、チームメイトたちのボールを動かす技術が、ユーヴェに比べてかなり劣ること、またユーヴェ選手たちの「読みディフェンス」のレベルが高いからということでしょう。中村がボールを持ったシーンでは、すぐにマーカーに詰められてしまうために、まったくといっていいほど余裕が持てないというわけです。
そうなったときの中村は、やはりちょっと貧弱に過ぎる。中田英寿のように、相手マーカーを背負ってでも、またその相手を引きずってでも、ドリブルやパスなどで勝負シーンを演出する・・というわけにはいかないのですよ。
例えば、パスを受けたときにダーヴィッツにプレスをかけられる・・なんていうシーンでは、もう完全に受け身。どうやって「逃げのパス」を出そうか・・という弱気の姿勢がミエミエになってしまいます。これでは、相手はまったく怖くない。
まあ中村としては、そのプレッシャーを、味方との素早いコンビネーションでかわすというイメージを持っているのでしょうが、いかんせん、次のステーションになるべき味方の動きが鈍いだけではなく、ユーヴェ選手たちの読みがいいから、結局はバックパスなど、完全な逃げパスを出さざるを得なくなってしまう・・。
こんなじり貧の展開になったら、もう自分自身で勝負していくしかない! 相手アタックの逆を突くようなテクニックではレベルを超えた資質に恵まれているのですから、とにかく強い意志をもって「やる」っきゃないじゃありませんか。そんな積極姿勢さえ出てくれば、相手を置き去りにできないまでも、味方にとって何らかの心理的なポジティブ刺激になるものだし、仕掛けていくことで、相手のファールを誘うことだってできるかもしれません。
とにかく、何度、「もっと勝負しようゼ!」なんていう小声が出てしまったことか。覇気のないプレー姿勢に、こちらの声にも勢いが乗ってこない・・。
ユーヴェに対して名前負けした?! プロですからネ・・。そんなことは考えたくもありませんが、ボールを持ったときの、あんなプレー姿勢(=「やれば」ある程度の確率で成功するはずなのに、リスクにチャレンジしない≒ビビっている?!)だったら、観ているこちらはイライラするばかり。もちろん、彼が秘めている能力が発展するはずもない。
よく動いてはいるし、ある程度の頻度でボールには触っているのに・・。そんなフラストレーションがたまりつづけていた湯浅です。
また守備でも、参加する意志は活性化してきていると感じるのですが、実際に「ボールを奪い返す意志」については、大きな疑問符がつきます。インターセプトが叶わなかったら、もう寄るだけ。相手を身体で抑えながら激しくボールを競り合うという意志は、まったくといっていいほど感じません。
厳しい評価ですが、後半の途中で中村を交代させたデカーニオ監督の判断に大いに納得していた湯浅でした。断っておきますが、あくまでも、明確にチカラが上のユーヴェントスが相手だったにもかかわらずですよ(結果は5-0の惨敗)!
とにかく、もっと、もっと、失敗を恐れないチャレンジを! ガンバレ中村俊輔。
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さて次は、惜しくも「1-1」で引き分けてしまったパルマの中田英寿(アウェーでのピアチェンツァ戦)。
後半37分くらいでしたかね・・。中盤での見事なインターセプトから、間髪を入れずに右サイドに開いたジラルディーノへパスを送り、そのままゴール前の決定的スペースへ全力で走り込んでいった中田英寿。最後は、ジラルディーノからのグラウンダー・ラストクロスを、相手のハードマークをものともせずにゴールへ押し込もうとする中田英寿。それでも、ギリギリのところで、相手の必死のタックルに防がれてしまって・・。
後半の中田英寿は、まさに完璧なチームリーダーでした(ラムーシが交代してからは、カピタン・マークを腕に巻いていましたしね)。守備でのダイナミック実効プレーは言うまでもなく、仕掛けパスをつなぐだけではなく(もちろん、その後のパス&ムーブもワンセット!)、ドリブルでもどんどんと突っかけてチャンスを作り出していました。
彼のプレー姿勢は、もう何度も書いているように、まさに日本サッカーの宝物。若い選手たちは、とにかく中田英寿のプレー姿勢を見習いましょう。何度も、何度もビデオを見直すイメージトレーニングで、「擬似体感」を積むのです。そうすれば、必ずや、攻守にわたって、何らかの瞬間的な実効アクションが出てくるはず(少なくとも、プレーイメージが瞬間的にアタマの中をかけめぐるはず)。
イメージトレーニングは、本当にバカにしたものじゃありませんよ。科学的な根拠もありますしね。コーチには、時間が許す限り、素晴らしい「プレー・ユニット」のビデオ編集をお勧めします。もちろん中田英寿ばかりではなく、世界中のサッカーからね。コンテンツは十分に揃っているはずです。
またそこでは、選手に対するイメージトレーニングの最中におけるコーチの効果的な指摘(=刺激)が決定的に重要な意味を持つことは言うまでもありません。だからこそコーチは、日頃からサッカーメカニズムに対するイメージを研鑽しつづけていなければならないのです。そんな「考える作業」を積み重ねることでしか、監督、コーチにとって最も重要な「イメージの瞬発力」を養うことはできないというわけです。この「発想の瞬発力」の詳細については、また別の機会にでも・・。
少し話が逸れてしまいました。さて、ピアチェンツァ対パルマですが、試合全体の流れはこんな感じでした。
立ち上がりから、ダイナミックな中盤ディフェンスを基盤に、どんどんとパルマを押し込みつづけ、実際に何度かの決定的チャンスまでも作り出してしまうピアチェンツァ・・そこでは、明確な仕掛けイメージが機能していた・・そう、ボールを奪い返した地点からのシンプルなパス交換から、素早いタイミングで決定的スペースへパスを供給する・・最前線も、イメージがシンクロした走り抜けを忠実に実行しつづけていた・・それでも、ピアチェンツァが疲れてきたこともあって、徐々に実力の差を見せつけはじめ、何度も相手守備ブロックわ崩すシーンを演出するパルマ・・それでも結局は攻めきれなかった・・。
この試合でのムトゥーですが(アドリアーノは膝の怪我)、ちょっとプレーイメージが好転していることを感じましたよ。要は、組織プレーと個人勝負プレーのメリハリについて、彼自身も真剣に考えはじめている兆候を感じたということです。それでも実際には、まだまだ課題満載。(まだ中盤でのこねくり回しが目立つとはいえ・・)シンプルにパスを回そうとする姿勢はいいのですが、そのパスを出した後がいけない。そこで、自分が出したパスを目で追ってばかりなんですよ。要は、パス&ムーブがなく、次の仕掛けのコンビネーションに乗れていないということです。これだったら、シンプルにパスを出した価値が半減してしまうではありませんか。
要は、ほとんどの勝負が、ボールがないところでの動きで決まってしまう・・という事実があるということです。だからこそ、ボールがないところでの動きの方が主体だという発想が優先されるべきなのです。そう、中田英寿のようにネ(決定的場面で魅せつづける、彼の爆発フリーランニングは感動的!)。
とはいっても、ムトゥーが、まったく一人でパルマの先制ゴールを決めてしまったプレーはレベルを超えていましたがネ。まあ彼の場合も、レアル・マドリーのロナウドと同様に、持てる才能が、諸刃の剣だということです。
中田英寿の素晴らしいプレーに舌鼓を打ちながら、久しぶりのコラムを打ち続けていた湯浅でした。