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ヨーロッパの日本人・・セリエ第17節の中村俊輔と中田英寿・・でもまずマンU対チェルシー戦から・・(2003年1月18日、日曜日)

二人をレポートする前に、その前日(土曜日)に行われたプレミアリーグ、マンU対チェルシーについてショートコメント。現在2位のマンUと3位のチェルシーの激突ということで、ものすごくエキサイティングな勝負マッチになりました。

 とはいっても、グラウンドが悪いことで(荒れて重く、まさに典型的な冬のイングランドといった様相)、どうしても両チームの強力ディフェンスばかりが目立ってしまいます。要は、ボールがイレギュラーし「過ぎる」から、選手たちも、次のイメージを描き難い(描いていても実現させ難い)ということです。そのなかでも、素早く上手いボールコントロールを基盤にした、素早く広いボールの動きの演出と、スペースを突く仕掛けの質など、チェルシー選手たちの老練なゲーム運びばかりが目立ちます。まあそれも、中盤でのディフェンスが効果的なことで、より余裕をもってボールを支配できるから・・ということなんですがネ。

 前半は完全にチェルシーペースでした。プティーからの目の覚めるようなラストスルーパスが通り、先制ゴールまで奪ってしまいます。それに対しマンUは、ボールの動きが緩慢なことで(ボールコントロールがカッタるく、周りの選手たちの動きも緩慢だから!)、また、チェルシーの「読みベース」の中盤守備が優れていることで、デサイイーを中心にするチェルシー最終ラインをまったくといっていいほど崩せない。

 そんな雰囲気のなか、マンUの消えていたスーパースターが、突如として存在感を発揮します。デイヴィッド・ベッカム。チェルシーのスーパーGK、クディッチーニがクリアをミスし、そのボールがベッカムの足許に飛んでしまったのです。素早いワントラップから、明確なイメージに誘われたクロスが美しい糸を引いていく。もちろん、その糸の意図は、中央で待ち構えるファン・ニステルローイとスコールズにも伝わっていたというわけです。

 ベッカムには、最後のヘディングシュートシーンが明確に見えているんでしょうネ。彼のラストクロスは、もう芸術の域にあるといっても過言ではない。猫の額のようなスペースへ送り込んだり、走り込む味方のアタマに正確に合わせたり。この正確で創造的なクロスこそが、ベッカムのベッカムたる所以なわけですが、彼は、ペナルティーエリアの「角ゾーン」が仕掛けのキーゾーンになっている現代サッカーの申し子と言えそうです。彼はまた、右サイドからの展開のサイドチェンジパスでも、非凡なところを魅せていました。何度、彼からのサイドを変える、大きく正確なパスによってマンUがチャンスを作り出したことか。フムフム・・。

 後半は、ギグスが登場したことでマンUも盛り返し、どんどんと決定的チャンスを作り出します。スールシャール(ベッカムのクロスから左足ボレー)。スコールズ(中央のこぼれ球をドカン!とシュート)。はたまたファン・ニステルローイ(これまたベッカムの正確なクロスから放たれた決定的ヘッド)。いずれも、どうしてゴールにならないの?というシュートでした。

 ちょいと脱線ですが、ファン・ニステルローイのヘディングシュートの場面では、誰もが、チェルシーGK、クディッチーニのスーパーセーブに驚かされたはずです。私はその瞬間、1970年メキシコワールドカップで、ブラジルのペレが放ったヘディングシュートをはじき出したゴードン・バンクスのスーパーセーブの場面を思い浮かべていましたよ。このゴードン・バンクスのスーパーセーブは、今でも世界中で語り草になっているほど美しい横っ飛びのセービングでした。その直後、ペレ自身がバンクスのところへ飛んでいって祝福したのですが、そのシーンも含めて、いまでも世界サッカー史を彩っているというわけです。

 ちょっと脱線してしまいましたが、押し込んでチャンスを作り出すものの、どうしてもゴールを奪うところまでいけないマンU。ここで、サー・アレックス・ファーガソン監督が動きます。ファン・ニステルローイに代えてフォルラン、シルベストルに代えてヴェーロンを投入したのです。そして、まさにこの二人が決勝ゴールを演出してしまう。

 中盤の後方、左サイドでボールを持ったヴェーロン。もちろん例によって、ボールを持つ前からルックアップです。そして、最前線で満を持していたフォルランが、ヴェーロンの目から放たれるエネルギーに反応するかのように、爆発ダッシュをスタートします。素晴らしかったですよ。とにかく、ヴェーロンのラストスルーパスと、フォルランの爆発スタートが、ほぼ同時だったのですからネ。もちろんフォルランの、ボレー気味のシュートも素晴らしかったのですが・・。とにかく鳥肌モノの決勝ゴールではありました(ロスタイム!)。

 後半のマンUは、アーセナルと優勝を争うにふさわしいチームだということを如実に証明しました。これからはプレミアも積極的に観戦することにしよう・・。この試合のコンテンツは、私のモティベーションを高めるに十分な魅力を秘めていました。

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 さて前段が長くなってしまいましたが、まずパルマの中田英寿から。今節は、ホームでのエンポリ(現在10位)戦。彼の出来も良く、どんどんと期待が高まっていったのですが、試合が進むにつれて「アリャリャッ・・」。キリがどんどんと濃くなり、ほとんどグラウンド上の現象が見えなくなってしまったんですよ。特に中田英寿がプレーする右サイドはさっぱり・・。あ〜あっ。

 そのなかで、パルマが追加ゴールを奪ったのですが(結果は、2-0でパルマの勝利!)、そのシーンもまったく確認できず・・。ムトゥーだったようですね。交代出場したアドリアーノが、ユニフォームをたくし上げて喜んでいたから、最初は彼だったのかな・・なんて思ったんですが・・あははっ。

 この試合のムトゥーは、良くなっていると感じさせてくれた?! シンプルプレーも、より効果的にミックスしてきているという印象がありました。要は、シンプルな「落としパス」の後、積極的に動いて次のパスを受けようという「意識」だけは見えはじめたということです。もちろん、ココゾ!のドリブル勝負は健在。彼の場合は、とにかく組織プレーと個人勝負プレーのバランスがテーマ。それさえ好転すれば世界レベル・・。

 もちろんそのレベルまで発展するためには、もっともっとディフェンスに気を割かなければなりません。とにかく彼の守備参加は「おざなり」。要は、周りにとっては、彼の守備参加は邪魔なだけの現象だということです。何といっても、オレが奪い返してやるという意志が感じられないし、ボールがないところでのマークもいい加減ですからね。そして、常に左サイドの前スペースを埋めつづける。これでは、基本的に彼のサイドでプレーするジュニオールやフィリッピーニにしても攻撃参加がやり難いでしょう。攻撃の変化という意味でも、ムトゥーはもっと学習しなければならないというわけです。ちょっとニュアンスが、前に書いた「傾向的な印象」とは背反しますがネ。

 それでも後半になったら、特にジュニオールの、サポートやオーバーラップのアクションが目立ちはじめます。ムトゥーにしても、ボールをこねくり回している状況で、ジュニオールが自分を追い越し、前でフリーになっていたらパスを出さざるを得ない?! とにかく、ムトゥーの「個」のプレーイメージを超越するジュニオールの積極プレーから中田へ通したラストパスは見事! あの、中田英寿のダイレクトシュートが入っていれば、例によって、攻守にわたって高みで安定した彼のプレーも100パーセント報われたのに・・。

 中田英寿は、良かったですよ。前半13分に、ラムーシのピンポイントセンタリングから、ジラルディーノがヘディング先制ゴールを決めたことで、エンポリ守備ブロックが少し「開き」気味になっていきます。そんな、相手の「意識の変化」をうまく突いたプレーを繰り広げます。前半に作り出した決定的チャンスは、ほとんど右サイドの中田から。シンプルなコンビネーションからの正確なクロスは輝きを放っていました。

 ここぞ!の状況での彼の全力フリーランニングは、パルマ攻撃のイメージリーディング機能を十二分に果たしていると感じます。もちろん守備でも、例によっての実効プレーのオンパレード。だからこそ、後半のシュートチャンスが惜しい。まあ、それもサッカーだし、イタリアというサッカーの本場だから、結果ではなく、しっかりと「内容」が評価されるでしょうがネ。

 この試合では、ボナッツォーリではなく、ジラルディーノが先発しました。ボールを持った彼は(パスを受けようとする彼は)とにかく中田を捜していると感じます。それも、中田の忠実なサポートプレーに対する信頼があればこそ・・というわけです。

 この試合は「2-0」の勝利をおさめたパルマですが、中田英寿が自身のHPで書いているように、ちょいとこの頃、中盤ディフェンスのダイナミズムレベルが停滞気味になっている(要は、ボールホルダーへのチェック、次のパスへの寄り等が甘くなっている)と感じます。守備的なハーフを三人にしていることで、逆に、中盤守備ブロックの緊張感が低下気味になってしまった?!

 まあ、サッカーは相対的なボールゲームですから、相手が強くなれば、自然と気合いレベルも高まるのでしょうが、私は、格下の相手との対戦において、自分たちがイメージする最高の中盤ディフェンスを展開することも、チームとして発展するために非常に大事だということを選手たちが強く意識していなければならないと思っています。

 プレーイメージを「高みで安定させる」ため、理想イメージを体現させやすい格下相手とのゲームにこそ、より強い意識で臨まなければならないということです。そんなプレー姿勢が統一されてなかった前節のピアチェンツァ戦の前半では、完全に相手の勢いに呑み込まれてしまって・・。まあ後半は、相手が疲れたこと、また同点に追いつかれたことで、パルマが完全に押し込んではいましたが・・。

 とにかく私は、前半の苦しい時間帯に、自らの「意志」でゲームの流れを好転させられなかったことを問題視します。自分たちの意志で、流れを逆流させることほど「ポジティブな成功体感」としてイメージに残る現象はありませんからね。彼らは、その大きなチャンスを逃してしまった・・と思うのです。まあ、このエンポリ戦では、中盤守備も安定してはいましたが・・。

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 さて次は、現在6位のボローニャに、中村俊輔のレッジーナが挑みます。前節のユーヴェ戦では、いいところなく完敗を喫したレッジーナ。さて・・。

 「どうも、うまくボールを持てないな・・」。中村のそんな嘆き節が聞こえてきそうな・・。

 この試合での中村俊輔は、守備にもよく参加し、フリーキックや、先制ゴールシーンの起点になるなど見せ場も作りました。それでも、全体的なパフォーマンスは合格点にほど遠い・・。何度も書いているように、発展のベースになる運動量は増えていますが、それが、うまく実効プレーに結びつかないのです。

 守備では、何度かスライディングを成功させたり、チェイシングや(特に前半立ち上がりでの、相手カウンターの芽を摘み取ったシーンは素晴らしい!)ボールがないところでの忠実マークにも意識の高さが伺えます。それでも、効果レベルという視点では、まだまだ不安定。タイミングのよい協力プレス参加シーンでは、ボールを奪い返したりはしますが、一対一となったら相手に振り回されてしまいます。またボールがないところで全力ダッシュの相手をマークしようにも、いかんせんスピードで置いていかれてしまう。ディフェンスの意識は高まっているのですが・・。

 また攻撃でも、どうも流れに乗り遅れ気味です。この試合でのレッジーナは、ボールを奪い返したら、なるべく早く相手ゴールへ!という意識が明確に見て取れます。途中で中村がボールを持ったとき、そこから前へのスピードが明らかにダウンしてしまいますからね。仲間も、何度か、そのスピードダウンを体感し、自分たちのイメージに合わないと判断したのでしょう、中村を経由せず、直線的に最前線へ仕掛けていくようになってしまいます。だから、中村が、自身が描く仕掛けイメージ(タメからの急激なスピードアップ等)を体現しようと入り込んだポジションに、結局は「取り残されて」しまうというシーンが続出してしまうのです。

 この試合での中村は、パスを受ける動きも鈍かった。もっと、ジョギングでの移動と全力ダッシュのメリハリをつけなければいけません。フリーでボールを持つという起点になっている味方が、彼がトントンというリズムで「寄って」きたからというだけで、ボールをわたすはずがありませんからネ。

 またボールをもっても、(前述したように)どうも「仕掛けの勢い」が感じられない。例によって、柔らかいトラップからの、エスプリの効いたコントロールは素晴らしいのですが、それが、味方がイメージする仕掛けリズムとは、まったく相容れないのです。だから、味方の足も止まってしまい、結局は、あまり意味のない(逃げの?!)横パスが多くなってしまう。

 後半15分くらいに、デカーニオ監督が、最前線のディ・ミケーレを他の中盤選手と交代させ、中村俊輔を最前線へ上げたのですが、それからの彼のプレーリズムは、期待に反し、より停滞していってしまいます。足が止まり、後方からのパスを待つばかり・・。そして結局最後は、モザルトと交代。

 まだまだ中村俊輔パフォーマンスは、常にチームの全体的な仕掛けリズムをコントロールするくらいの(常に味方を納得させられるだけの)効果レベルに達していないことは事実だということです。数週間前までは、うまく機能する時間帯も多かったのに、前節のユーヴェントス戦で、完全にプレーリズムを崩してしまって・・。

 この試合での中村は、中盤ディフェンスに気を遣いすぎ、基本ポジションを戻り気味にし過ぎたという見方ができるかもしれません。味方がボールを奪い返した状況で、後方から素早く押し上げて仕掛けの起点になれる程のスピードと持久力は持ち合わせていないでしょうからネ。

 とにかく、コンディションを高揚させることで、守備では、もっと頻繁に「次のボール奪取の起点」になり、攻撃では、もっともっとたくさんボールに触り、仕掛けパス&爆発ムーブ!などのシンプルプレーだけではなく、タメや「タイミング・ドリブル勝負」等のツールを駆使することで、すべての仕掛けの流れに絡む(その流れのコアになる!)という姿勢で積極プレーを展開して欲しいと思う湯浅です。彼の天賦の才を輝かせるために・・。ガンバレ、中村俊輔!

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 さて湯浅は、あと2-3日でヨーロッパへ出発します。ビジネスミーティングや、友人たちと旧友を温めるだけではなく、高原のヨーロッパデビューを見届け、発展をつづける小野伸二を体感するために。またそれ以外にも、ある雑誌の企画に参画したり、私が卒業したドイツプロコーチ養成コースを訪ねたり(その総責任者が、友人である、現ドイツ代表コーチのエアリッヒ・ルーテメラーです)、はたまた、ヨーロッパでチャレンジをつづける日本人選手を取材したりする予定。

 出発するまで、ちょいと忙しいのですが、時間を見て、日本時間で明日(1月20日)の未明に行われるリーガエスパニョーラ、レアル・マドリー対アトレティコ・マドリーの試合もレポートできるかもしれません。

 (彼らの現状から)いま最高の「学習素材」であるレアルについては、基本的にサッカーマガジンでレポートしているのですが、たまには私のHPでも・・なんて思っているのです。もちろん時間があればのハナシですが。それでは今日はこのあたりで・・。




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