ハイレベル?! それは、選手たちの高い技術レベルをベースに、両チームともに、自らが描く仕掛けイメージをグラウンド上に現出できていたということです。意図的なボールの動きを基盤にした組み立てからの仕掛け・・。それでも、さすがに両チームともに最終守備ブロックは堅牢ですから、そうそう簡単にチャンスを作り出すことができません。だからこそ、最終勝負での「イメージのせめぎ合い(仕掛け意図の読み合い)が面白かったというわけです。
アーセナルでは、右サイドに張り付くベッカムへ、絶対にスペースを与えないというイメージが守備のプライオリティーだったようで、アンディー・コールが、それこそスッポンのように粘り強いマークをつづけていました。そのこともあり、中盤でベッカムが中央へ入り込むシーンが多かったという印象でした。
でも逆に、そのことが功を奏し、中盤中央のの深い位置でボールを持ったベッカムから、前半の15分過ぎだったと思いますが、最前線に張るギグスへ、それこそ夢のような一発勝負タテパスが出ます。ピタリと、ギグスをマークする相手ディフェンダーのアタマを越えていくロングフィード。その正確さは、これぞベッカム!といったところでした。そして、回り込んだギグスが、素晴らしいトラップ&コントロールで飛び出してきたGKまでもかわし、まったくフリーでシュート体勢に入ったのです。誰もが、あっ、先制ゴールだ・・。もちろん私も・・。
でもギグスが「右足」で蹴ったボールは、方向は正しかったのですが、ちょっと高めに飛んでしまい。誰もいないアーセナルゴールのバーを僅かに越えてしまったという次第。ということで、7万人の観客が「信じられない・・」という表情で沈黙してしまったものです。フ〜〜。「タラレバ」はサッカーでは禁句ですが、それでも・・。それほど素晴らしいシュートチャンスの演出プロセスだったんですよ。このゴールが決まっていたら、試合はまったく別の展開に・・。
そしてその後に、アーセナルの先制ゴールが決まってしまって・・。エドゥーのフリーキック! それも、ベッカムの肩に当たってコースが変わった。フ〜〜。
また後半には、ピレスからエドゥー、そこからヴィルトールへとつながり、ヴィルトールの素晴らしいボールコントロール&シュートから追加ゴールも奪ったアーセナルが、一発勝負のFAカップに、それも敵地で、見事な勝利をおさめたという試合でした。
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この試合でもっとも目立ったのは、ゲームメイカー(展開イメージ・クリエイター!)の差。マンUでは、どうしてもヴェーロンの不在が目立ってしまって・・。それに対してアーセナルでは、トップフォームに戻りつつあるピレスの、自在なコンダクターぶりが目立ちに目立ちます。
ヴェーロンは、その数日前の国際マッチ、オランダ対アルゼンチンで負傷したとのことですが、やはり、ボールの動きのコア(組み立て&仕掛けでの変化の演出家)を欠いたマンUでは、中盤での展開が単純に過ぎると感じたものです。
アーセナルは、どんどんとボールを動かしながら、常にピレスにボールが集まる。そこで、軽くドリブルしたり「タメ」を作るなど、一度「組み立て&仕掛けのリズム」に変化が与えられるのですよ。もちろん、ピレスが最終勝負にまで絡んでいくというシーンは少なくなりますが、最終的な仕掛けの可能性を大きく広げるような組み立てでの「リズム変化」を一手に引き受けてくれるんですから、彼の貢献度は抜群だと言わざるを得ません。
アーセナルが挙げた二点目にしても、中盤の深い位置でボールをもったピレスの「タメ」から生まれたようなものでしたからね。マンUの中盤二人の意識と視線を引きつけ、その背後のタテのスペースへ上がったエドゥーへ、柔らかなベストタイミングパスを出すピレス。このパスで完璧な余裕をもったエドゥーが、ルックアップでの「信号」を受け取って爆発ダッシュしたヴィルトールへ正確なラストパスを通したという次第。
それに対しマンU。明確に中盤リーダーが不在だと感じます。ロイ・キーンは、基本的には守備に大きく重心を置くディフェンシブハーフだし、攻撃に参加しても、誰かにボールを預け、そこからタイミングを見計らった前線への飛び出していくというタイプのプレーをしますからね。またスコールズにしても、シンプルな中継パスからの飛び出しに強みを発揮するタイプ。まあベッカムだけは、なんとか中盤での組み立てのコアとして機能していましたが、それも「変化」という視点では物足りない・・。
こんな試合内容を観ていて、「やっぱり、選手タイプの組み合わせが大事だな・・ポジションなしのサッカーという理想型は、まだまだ・・」なんてことを思っていましたよ。
それでも「2-0」にされてからのマンUは、エネルギーを倍加させ、どんどんとサイドから崩してチャンスを作り出しましたがネ・・。
とにかく『攻守にわたって』、戦術的な見所が満載の高質サッカーを存分に楽しんでいた湯浅でした。
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さて高原直泰。ハンブルガーSVは、昨日のヴォルフスブルクとのホームゲームを「2-0」と勝ちきりました。高原もそれなりに「慣れ」てきているとは感じます。それでも、まだまだ。
まず、先日サッカーマガジンの連載で発表した文章を・・。
(2月3日に仕上げた原稿です)
「慣れてくれば、大きく伸びると思うよ。とにかくタカハラが持っている基本的なチカラは十分だからな」。ハンブルガーSVのヘッドコーチ、アルミン・ロイタースハーンが言う。面識はなかったが、ドイツのサッカー関係者から紹介されたこともあって快く食事をともにしてくれた。まあ高原については、まだ様子見ということで中心的な話題にはならなかったが、それでも、彼の言う「慣れ」については、ちょっと考えさせられた。
高原のデビューマッチを観戦した翌週の水曜日、午前と午後の二回おこなわれたハンブルガーSVのトレーニングを観察した。リーグ戦の中日だから、一番厳しいトレーニングの日である。
午前中はボールキープゲーム。テーマは大きな展開なのだろう、監督のヤーラが、しきりに「逆サイドに大きなスペースがあるぞ!」と声をかけている。細かなコンビネーションでフリーになった選手から鋭く正確なロングパスが飛ぶ。ダイレクトの素早いロングもある。そのなかで高原は、仲間のリズムに乗れずに苦労していた。どうも自らがロングパスを飛ばす状況に入れない。
午後のトレーニングでは、「1対1」の後、その日の仕上げとして、ハーフコートゲームが行われた。もちろんテーマは、狭いスペースでの素早いコンビネーション。そこでも高原は仕掛けコンビネーションにうまく乗れない。ダイレクトパス交換のステーションに入り切れていないと感じた。
午前中のボールキープゲームでは、プレスをかけてきた2人を、うまいコントロールで置き去りにしたり、1対1のトレーニングでも、非凡なドリブル突破能力を見せつけた。またハーフコートゲームでは、最終勝負シーンでの爆発的なフリーランニングが健在なことを証明したし、相手にボールを奪い返されたときの、守備への切り換えの早さも特筆ものだった。ただ、最終勝負シーンを作り出す前段階でのコンビネーションプレーでは、味方と呼吸が合わないのである。
要は、まだまだ、味方とのプレーイメージが確実にシンクロしないことで様子見になってしまう瞬間が多いということだ。それでは、ダイレクトコンビネーションのリズムに乗れるはずがない。何度か、高原が動くことを前提にしたダイレクトパスがスペースへ出されたのだが・・。
それは、オレがコンビネーションの仕掛け人になってやる!という意識が脆弱だからに他ならない。遠慮? そんな発想はプロの世界では存在しない。もっと前後左右に動きまわり、自分からパスを要求しなければならない。パスが来なければ、日本語で文句を言えばいい。仲間も、語感で十分に理解する。そんな強烈な主張があってはじめて、狩人の個人事業主たちが高原のパーソナリティーを認知し、本物の仲間として信頼し合うようになるのだ。周りに合わせようとしている限り、絶対にリズムには乗れない。
今の高原にとって最も重要なキーワードは、自己主張。それこそが、アルミン・ロイタースハーンの言う「慣れ」の本当の意味なのである。(了)
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慣れ・・。フム〜。
私がここまで高原を見てきて課題だと思っていることは、何といっても「良いカタチでパスをもらう」ことです。相手マークから「ある程度の間合いを明けて」ボールを持つということです(=ある程度フリーでボールを持つ=攻撃でのイメージ目標!)。だからこそ、より積極的にコンビネーションに絡んでいくべきなのです。もちろんクルト・ヤーラ監督からは、トップに張っていろ・・と言われているに違いありません。それでも、最終の仕掛けがはじまるタイミングでは、味方とのコンビネーションを、自分がコアになるという強い意志で演出する(積極的にコンビネーションに絡んでいく)という意識も大事。それがあって初めて、彼の能力を最大限に活かすことができるようになるのです。そう、ジュビロ時代のようにネ。
前半には、こんな素晴らしいコンビネーションがありました。
最後尾からのロングフィード。それを、横にいるバルバレスへアタマでつなぎ、着地した瞬間に爆発ダッシュでタテのスペースへ抜け出していく高原。そこへ、測ったようなリターンパスがバルバレスから送り込まれたという場面です。一対一の勝負。一人さえ抜けば、確実に絶対的チャンスになる。
結局このシーンでは、ボールがイレギュラーしたこともあって(?!)成就しませんでしたが、そんな、最終勝負シーンへ向かうためのコンビネーションに対する強い意識と鋭いアクションが重要になってくるのです。何といっても彼は、ヤーラ監督が言うまでもなく、マラドーナではありませんからネ。この「マラドーナ」というキーワードは、皆さんもよくご存じの通りです。要は、どんなプレッシャーのなかでも正確にボールをトラップ&コントロールし、そこからのドリブルで何人も外してチャンスを作り出してしまうというプレーは、「まだ」高原には無理だということです。
「こちらにきて、相手ディフェンダーの上手さや速さを体感した。やはり日本のようにはいかない。それでも、ここからが自分のチャレンジだと思っている・・」といった意味のことをインタビューで述べていた高原。キャパは十分ですし、失うものは何もないのですから、仕掛けのコンビネーションのコアになってやる!という積極姿勢も含め、とにかく自分主体でチャレンジするという強い気持ちを持ちつづけて欲しいものです。
相手は早くて上手いから・・というイメージが先行した瞬間に、彼のパフォーマンスは地に落ちてしまう。それが、ホンモノの心理ゲーム(=サッカー)ですからね。
勝負の瞬間での鋭いフリーランニング(ニアポスト勝負の走り込み)やパス&ムーブでの勝負、ドリブル勝負、はたまた機を見計らったチェイシング(守備参加)などで鋭さを魅せつづけている高原。もっと自分主体で「慣れ」ていかなければ・・。
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小野、中田、そして中村に関するコメントは、A3- マツダチャンピオンズカップのレポートもありますから、明日ということになりそうです。では・・