ということで、どうも皆さん、いま、小野伸二が所属するフェイエノールトの「デ・カイプ競技場」のプレスルームでこのコラムを書いています。今日は、フェイエノールトとトゥエンテとの後期開幕マッチ観戦というわけです。
先日のコラムでは、「さて、これからハンブルクのトレーニングを見に行ってきます・・」で締めました。水曜日はブンデスリーガの中日。ということで、一番厳しいトレーニングの日でした。「練習を見るなら、水曜日がいいよ。その日は午前と午後の二回トレーニングするけれど、両方ともボールを使うからな・・」。ハンブルガーSVのヘッドコーチ、アルミン・ロイタースハーンから、そんな情報を仕入れていましたからね。
さてトレーニングですが、午前はボールキープゲームが中心。そして午後は、アルミンの指揮のもと、かなり時間をかけたウォーミングアップの後(基本的にはボールを使う)、まず「1対1」のトレーニングから入りました。面白い。50メートルの間隔で二つのゴールが設置され、その間で、一方が(守備側)が送ったパスをコントロールする選手がドリブル突破を試みるというトレーニング。「個の勝負能力」を見るには恰好の形式です。
さて高原。最初はディフェンスから。期待していたのですが、簡単に外されてゴールを決められてしまいます。フ〜〜。でもドリブル側にまわったら、サスガの突破能力を見せつけました。スバッという「最初の押し出し」で相手を引きつけ、鋭い切り返しで置き去りにしてしまう。また、そのまま直線的にドリブルで進んでシュートを放ったりします。まあ、個人的なチカラは十分だということです。それでも、つづいて行われたハーフコートミニゲームでは、どうも仕掛けコンビネーションのリズムに乗れない。そのことは、午前中のボールキープゲームでも感じたことなんですがネ。
「個のチカラ」は十分に備えている彼の唯一のテーマは、味方とのコンビネーションをベースに、その「チカラ」を十分に発揮できるシーンを作り出すことです。そう、味方のプレーイメージに合わせるのではなく、自らが中心になったコンビネーションの流れを作り出すのです。まあ、このテーマについては、来週号のサッカーマガジンで書きますので。
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ハンブルクのトレーニングを観察した次の木曜日には、北ドイツから南へ下り、二人のサッカー関係者と情報交換をした後、デュッセルドルフからスペインのマラガへ飛びました。前回も書いたように、クリストフ・ダウムと対談するためです。マラガで、彼が率いるオーストリア・ヴィーンが合宿を張っているというわけです。面白かったですよ。久しぶりの再会でもありましたからね。「何のこだわりもなく」、互いに寄っていって自然に「ハグ」になりました。彼との対談記事は、ナンバーに載ります。
私は、対談した金曜日の夕方にはドイツへとんぼ返り。土曜日には、ブンデスリーガ第19節、シャルケ04対カイザースラウテルンを観戦しました。チケットは、シャルケ04のコーチ、ボードー・メンツェに頼んでありました。まあ、数日前に観戦することを決めたもので、プレスチケットは最初から諦めざるを得なかった・・。
試合ですが、ホームのシャルケが数多くのチャンスを生かせず、終了間際にカイザースラウテルンに同点ゴールを押し込まれてしまったという展開(2-2の引き分け)でした。二度のリードを守りきれなかったホームのシャルケ。先シーズンから比べたら、総合力では落ち気味かな?! 要は、攻撃の中心的な存在が欠けているということです。メラーの後継者を早く捜さなければ・・。
それでも、左サイドのベーメは存在感を発揮していましたよ。また、この試合ではワントップを張ったアガリも大きく発展したと感じます。ボールを受ける動きに磨きがかかったから、最前線でのポストプレーだけではなく、仕掛けのコンビネーションにもうまく絡める。でも何といっても特筆は、彼の超ド級のヘディング。まさにレベルを超えた高さと、タイミングを測る目です。ベーメやポウルセンなどは、常に彼のアタマを意識して組み立てていましたよ。この試合でシャルケが挙げた2ゴールともにアガリ。先制ゴールは、ベーメのフリーキックから、ヘディングでドカン!! 2-1とリードを奪う二点目は、勝負のサイドチェンジパスを、左足で、これまたダイレクトでドカン!! 素晴らしいプレーを展開しました。それでも結局試合は・・。
シャルケのホームスタジアムは「アレーナ・アウフ・シャルケ」。日本語では、シャルケの地に立つドーム競技場・・ってな具合ですかね。完成して3年目です(だと思ったのですが・・)。何といってもシャルケ04は、ドイツサッカー界では最高のブランドだから、その名前を付けないわけにはいかない。完全密閉のドーム型スタジアム(ピッチは、札幌ドーム同様に、試合後に屋外へ移動させて育成します)。この試合では、6万人の観客でふくれ上がりました。もちろん満員御礼。雰囲気は、まさに「本場」です。ドイツ人は声が大きいから、歓声のボリュームもレベルを超えているというわけです。
この試合を観にいって、何といっても素晴らしいと感じたのは、観客の皆さんが、本当にサッカーを楽しんでいるということです。まさに老若男女。子供連れが目立つだけではなく、三代つづくグループや老夫婦など、そんな人々を見るたびに、長い歴史と、深く浸透したサッカー文化を感じます。もちろん「思い入れも」深いですから、ロスタイムで「2-2」と追いつかれた瞬間には、スタジアム全体が、異様なほどに静まりかえったものです。
帰路につく人々の表情は、例によって眉根にしわ寄せてはいますが、それでも夜は、この「思わぬ引き分け」を肴に、夜通し語り合うんでしょう。イヤ、素晴らしい。
私は、知り合いのサッカーマンたち三人と観戦に行きました。クルマでスタジアムへ行くのが難しいですし、彼らだったら、抜け道も知っていますからね。知り合いとはいっても、面識があるのは一人だけ。あとの二人は初対面です。それでも、数分もしたら、サッカー談義で盛り上がってしまう。やはりサッカーは、人類史上最高の「異文化接点」なのです。
もちろん帰りの車のなかでは、ちょっと沈みがちではありましたが、それでも、百戦錬磨の経験を積んだ猛者連中ですからね(彼らは25年間サッカーをプレーし、最後は、4部のアマチュアリーグまで上り詰めたとか)、すぐに気持ちを切り替えて、シャルケが作り出したチャンスについて語り合っていましたよ。「残り10分に、二本も100パーセントのチャンスを作り出したのに決めきれなかった・・。あれが決まっていれば、3-1で試合を決めることができたのに・・。まあ自業自得だよな・・」ってな具合です。
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前置きが長くなってしまいしまた。さて、小野伸二が所属するフェイエノールトのホームゲーム。相手は、中位(10位)のトゥエンテです。
試合ですが、前半は、まさに中途半端な攻撃のオンパレードでした。要は、大きなタテのポジションチェンジや、後方からの押し上げなどによる攻撃の「変化」を演出できないことで、相手守備ブロックを乱すことさえできないということです。
もちろん、周りの選手たちの動きが緩慢だから(絶対的な運動量が不足しているから)、ボールの動きを加速させることができない。そして足許パスばかりをつなぐ。これでは、いくらチーム力では優っているとはいっても攻め切れるはずがない。
どうもフェイエノールトは、守備だけではなく攻撃でも、互いのポジショニングバランスを気にし過ぎていると感じます。
選手たちのポジショニングバランスの維持・・。「最終勝負シーン」までは、互いのポジショニングバランスを保つように組み立てていこうということなんでしょうが、その発想は「後ろ向き」です。バランスは、崩れるのが大原則。それがなければ、攻撃の変化を演出することなど叶うはずがない。
以前にも何度も書いたように、攻撃では、選手たちのポジショニングバランスは「崩さなければならない」ものなのです(もちろん臨機応変にバランシングプレーをする選手は必要になってはきますがネ)。要は、後方から、善戦を追い越すようなオーバーラップ(フリーランニング)を仕掛けたり、中盤からのドリブルを仕掛けたり等、リスクチャレンジプレーがなければ、攻撃に変化をつけられるハズがないということです。
だから、優れた攻撃では、選手たちのポジショニングバランスがどんどんと崩れていくのは当たり前というわけです。だからこそ、次のディフェンスにおける「素早いバランシング」に対する強い意識が重要だという発想が出てくるというわけです。
それぞれの選手が、自分たちの基本的なポジションを意識し過ぎている・・。サッカーでは、互いのポジショニングバランスを保ちながら攻めようなどという発想は、まさに主客転倒なのです。
それでも後半のフェイエノールトの攻撃は、少しは好転しました(まあそれには、トゥエンテが、より積極的に攻撃を仕掛けてきたこともあったのですがネ)。そして結局試合は、「4-2」でフェイエノールトの勝利。まあ順当な結果なのですが、私は、小野のことが、ちょっと気になっていました。
それは、小野伸二のプレーが、「また」小さく縮こまってきている・・と感じたからです。全体的なプレーは、守備を中心に、安定感にあふれています。また何度かは、狙い定めたインターセプトを成功させたり、最前線までも追い越して攻撃に参加するなど(素晴らしいヘディングシュートも放ちましたし、オーバーラップからのセンタリングシーンもありました)、リスキープレーにチャレンジするシーンはありました。それでも私は不満。一時期、常に攻守の勝負所に絡みつづけるなど、大きく発展する兆しをみせた彼のプレーが、この試合では再び「足踏み」をはじめたと感じられたのです。要は、攻守にわたるリスクチャレンジの頻度が「また」少なくなる傾向にあるということです。
攻撃では、ボールをもっても安全パスを回すシーンばかりが目立ちます。自らが中心になった仕掛けのコンビネーションは見られず仕舞い。ドリブル突破トライは、一回くらいでしたかね。また「タメ」にチャレンジする気配もない。まあ守備は安定していましたが、それでも、例によって、一対一の状況で相手からボールを奪い返せない。
もしそれが、監督からの「意識付け」の結果だとしたら・・。オランダのリーグでは戦術先行の傾向が強いから、まあ多分そうなんだろうな・・。例えば小野に対し、今のポジションで攻撃と守備を五分五分に・・なんてネ。それでは、選手の意識が、より守備に傾く(様子見のバランシングプレーになってしまう)のも道理です。
ヒディンクのPSVは違いますよ。選手たちは、活発に、縦横無尽のポジションチェンジをくり返します。もちろんそのベースは、選手たち善意の高い守備意識なんですけれどネ。ここが大事なところなんですが、監督が、そんなリスクチャレンジマインドをもっていなければ、選手たちの「ダイナミックな守備意識」も発展しないということです。そして、互いのポジショニングバランスばかりに気を遣う「静的プレー」に終始する。それでは、どんどんと攻撃のダイナミズムが沈滞していってしまうのも道理じゃありませんか。
ファン・ホーイドンクが、スバッと戻ってパスを受ける・・空いた最前線スペースに小野が飛び出していく・・そこへシンプルなパス交換からタテパスが通される・・。はたまた、中盤センターでボールを持った小野が、しっかりとタメながら、最後の瞬間に、ファン・ホーイドンクと勝負のワンツーを決めたり、ツーのパスを受けた小野が、同時に三人目のフリーランニングをスタートしたブッフェルへのラストパスを決める・・等々。
とにかく小野伸二に対し、常に意識を高くもちつづけて欲しいと願って止まない湯浅なのです。
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私は、タイムアップと同時に、クルマまで急ぎ、そのまま友人が待つエッセンまで飛ばしました。高原が出場するハンブルク対ブレーメン戦を、少なくとも後半だけでもテレビ観戦するためです。
オランダ国内は、制限速度が120キロなので、まあ20-30キロオーバーで巡航しました。それでもドイツに入ってからは、もうフルスロットル。借りたのは速いクルマですから、常時220-230キロの間で突っ走ったというわけです。そして、ギリギリで、後半開始のホイッスルを聞いた次第。そこは、前述した、シャルケ04の試合を一緒に観にいったサッカーマンの自宅です。
高原は良かったですよ。初のホームゲームですからね。ものすごく大事な意味をもっています。そこで何度か、観客からの「タカハ〜〜ラ!!」という大合唱を聞き、ホッと胸をなで下ろしていた湯浅でした。
とにかく動きが軽快でした。運動量もさることながら、その質もいいから、味方からのパスも頻繁に出てくるようになっています。先週のハノーファー戦では、相手の組織的守備が良かったことで前線に孤立したり、ボールを持っても、すぐに数人に取り囲まれてしまったわけですが、この試合では、ブレーメンも積極的に攻め上がることで、高原も、良いカタチでパスを受けられるシーンが続出していまたよ。そしてボールを持ったときは、確実にキープしてシンプルにパスを回したり、ドリブル勝負を仕掛けたりと、メリハリも十分。もちろん守備参加にも抜群のダイナミズムが感じられました。
一度などは、右サイドでボールを持ち、一瞬タメてから、逆サイドのファーサイドスペースへ走り込むバルバレスへ、見事な、本当に見事な「トラバース・クロス」を決めました。要は、GKと相手ディフェンダーの間の「猫の額」のような間隙を通したラストパスを送り込んだということです。最後は、バルバレスをマークする相手ディフェンダーに、ギリギリのところで防がれてしまったのですが、観客から大きな拍手が沸き起こるのも当然・・という素晴らしいプレーでした。
やはり本場。観客は、サッカーを観る目を持っている。高原の、運動量豊富なダイナミック&忠実プレーに、彼らも大満足だったようです。もちろん彼らが「1-0」で勝利をおさめたこともあるのですがネ。
とはいっても、まだまだ。たしかにミスが少ない(たまにはほれぼれさせられるボールコントロールも魅せる!)良いプレーは展開していましたが、まだ決定的シーンの演出では不十分。やはりストライカーは、決定的シュート場面を演出できて「ナンボ」の存在ですからネ。もちろんゴールは結果にしか過ぎません。私が言っているのは、シュートシーンのことですよ・・あくまでも。
「タカハラは、いいね。攻守にわたって積極的だし、ボール扱いや勝負のドリブルなんかにも可能性を感じるよ。それでも、ロメオが戻ってきたらどうかな・・。チカラでは、やっぱりヤツの方が明らかに上だな」。友人のサッカーマンの言葉です。アマチュアとはいいながら、やはり彼らの目には確かなものがありますからネ。私も同感でした。
とにかく高原が、(ある程度)成功裏にホームスタジアムデビューをかざったことは確かな事実です。良かった、良かった。もちろん、もっともっとパフォーマンスを上げていかなければならないわけですが、それには何といっても、仲間たちの信頼を勝ち取ることが重要。だからこそ、トレーニングなどでの自己主張が大事になってくるというわけです。とにかくガンバレ、高原!
さて、これから週刊プレイボーイやサッカーマガジン、はたまたナンバーの記事にも取りかからなければ・・。フ〜〜ッ!
今週は、これから数人のサッカー関係者とミーティングをし、火曜日か水曜日にドイツを離れます。そしてある国を経由して日本へ。ということで、今回の出張では、これが最後のヨーロッパ便りということになりそうです。それでは・・。