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ヨーロッパの日本人・・まずは、先週は辛口のレポートになってしまった小野伸二から・・そして、基本ポジションの変更が可能性を拡大させた中村俊輔についてもショートレポート・・(2003年2月9日、日曜日)

またまた「どうも皆さん」、帰国したその日の夜に、アヤックス対フェイエノールト戦をテレビ観戦しています。

 背水の陣のフェイエノールト。この試合に負けたり引き分けたりすれば、チャンピオンズリーグのイス(2位以内)がかなり難しくなる。

 そんな彼らですから、立ち上がりから、攻守にわたるハイレベルな集中力でアヤックスを押し込んでいくのも道理。オーバーラップも含む攻撃の流れに勢いがあるだけではなく、その流れに乗れなかった者の次の守備に対する意識にも鋭さを感じます。もちろん危急状態には(守備ブロックが崩れかける状況では)前線から、何人もの選手たちが全力で戻ってくることは言うまでもありません。要は、全体的な活動量で、アヤックスを凌駕しているということです。

 そんななかで、小野伸二も、素晴らしいプレーで立ち上がります。アヤックスの中盤でのパス回しを「次の次まで」読んだアタックから、目の覚めるようなアタックを決めてボールを奪い返したり、ボールを持ち、ドリブル勝負で相手を振りきってシュートを放ったり、最前線への仕掛けのタテパスを決めたり、はたまた最終ディフェンス場面で、後方から上がった相手選手を、右サイドで最後までマークしつづけ、そこからの仕掛けを阻止したり、これまた最終勝負シーンで、自分のマークを放り出して、ニアポストに走り込んだ相手への密着マークへいったり。フムフム・・。

 私がスタジアム観戦した先週のゲームでは、明らかにチカラの劣る相手に対して、足を止めて様子見になるシーンが続出するなど、気が抜けた(別の見方をすれば『最初から』バランスをプレーばかりを意識しすぎた=これは、いつも書いているように本当の意味での汗かきバランシングではない!)プレーが目立つなど、その試合での全体的な印象はネガティブが先行していたんですよ。まあ後半は、いくらかは立ち直りましたがね。

 先週のゲームで私がもっとも不満だったのは、自分が主体になったコンビネーション、中盤からのドリブル勝負、タメからのスルーパス狙いなど、攻撃でのリスクチャレンジに対する意志を、ほとんど感じなかったこと。もちろん決定的なフリーランニングはありましたがね。

 「バランサーに徹する」というのは、ファン・マイルバイク監督の指示(意識付け?!)なんでしょう。それでも選手は、その指示の「真意」を守りながらも、常にリスクチャレンジへのマインドを失ってはいけません。要は、クリエイティブな「ルール破り」が、発展のための唯一の糧だということです。私は、小野伸二のプレーに、(相手を甘く見るという姿勢も含め)発展のためのルール破りに対する高い意識とは逆行する「積極姿勢の陰り」を感じたからこそ批判したわけです。

 それが出てこなければ、「上手い汗かき」で終わってしまう・・。いまでも私は、彼はもっとやれると確信しているのです。

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 さて、アヤックスとの「クラシコ」の内容ですが、やはり総合力では、アヤックスに一日の長あり。守備では、シュートシーンの演出を阻止するチカラ。また攻撃では、シュート場面を作り出すチカラ。要は、攻守における最終勝負の強さに差がある・・ということです。

 アヤックス守備ブロックでは、言わずと知れたキブーの守備力が光りますね。優秀な選手です。また攻撃でも、個人個人のチカラで、やはりアヤックスが一歩先んじていると感じます。

 前半の25分過ぎまで、攻めに攻めていたフェイエノールト。それでも、たまに攻め上がるアヤックスの仕掛けの鋭いこと、危険なこと。一つひとつのプレーがチャンスの創出につながっていると感じます。それに対し、フェイエノールトの攻めは、どうしても先を読まれている・・また個人勝負でも相手を抜ききれない・・。そして結局は、イブラヒモビッチに先制ゴールまでも決められてしまうのです。

 そんな悪い流れのなか、フェイエノールトは、前半のロスタイムに、ファン・ペルジーのうまい胸トラップでキブーを外したシュートで追いつきます。まあキブーの一発ミスが原因だったとはいえ、本当によく追いついた・・。

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 後半は、ホームのアヤックスが勢いを倍加させていきます。もちろん倍加のメインコンテンツは、中盤守備。それが、忠実でダイナミックなものへと変身していったということです。そして中盤でのせめぎ合いを制しはじめる。こうなったら、アヤックスがペースを握るのも道理ということです。

 攻めきれないフェイエ。どうしても、守備ブロックのマークの詰めの甘さを突かれてしまうフェイエ(特に中盤!)。ここにボールが来る! その読みに対する集中が途切れてきたから、どうしても中盤や最前線でフリーでボールを持つアヤックスの選手が目立つようになってしまうというわけです。

 小野伸二のディフェンスで、一度こんなシーンがありました。左サイド、走り込む二列目選手のスタートに対するマークが遅れて置き去りされてしまったのです。そこへ、アヤックスの中盤から測ったようなタテパスが通り、ラストクロスを通されてしまう・・。辛くも失点にはなりませんでしたが、完全に守備ブロックが崩されたシーンでした。「次のフリーランニング」に対する集中が落ちてきている?! まあそうことだったのでしょう。でも逆に、そのミスが大いなる刺激になります。その数分後に起きた、同じような場面での、小野のスタートタイミングは抜群だったのです(もちろん、ボールがないところでのマークスタートのことです!)。読みがピタリとはまった・・。やはり彼の場合、特に相手二列目が仕掛ける最終勝負のフリーランニングは、常に意識していなければ間に合わなくなってしまう・・。大変ですが、それが今のポジションで生きる道。でも逆に、それを意識し過ぎたら、今度は前へのエネルギーが分散してしまう・・。難しいですね。

 試合は、残り10分を切ったところで大きく動きはじめます。要は、両チームともにリスクチャレンジの頻度が上がったということです。前へ、前へと重心をかけ、中盤での積極守備を展開する。そしてボールを奪い返してからの「人数をかけた」仕掛け。やはり、それがサッカーの醍醐味の基本だということです。

 そして、まずフェイエノールトが勝ち越しの絶対的なチャンスを作り出し(右サイドを攻め、そこからのラストタテパスをダイレクトシュート!)、次にアヤックスが、右サイドを崩し、これまたラストクロスをダイレクトシュート。フ〜。

 でも、こうなったら、やはり地力で上回るアヤックスのもの。ロスタイムにも、もう一本決定的チャンスを作り出しました。

 まあ全体的な出来からすれば(試合は1-1の引き分け)、フェイエが、本当によく頑張った・・というゲームでした。

 小野伸二は、後半の途中には、またまた「様子見シーン」が増える時間帯があったとはいえ、最後まで、攻守にわたって高みで安定したプレーを展開していました。とにかく、もっともっと・・という期待が高まる湯浅なのです。そう、「上手い汗かき」で終わってしまわないために。

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 さて次は中村俊輔。

 三週間ほど見ていなかったわけですが、その間にレッジーナは三連勝。ちょっと驚いたのですが、それよりもビックリさせられたのが、レッジーナの基本ポジションの変化。中村が三列目とは・・。

 でも試合がはじまって、デカーニオ監督の発想がよく理解できました。要は、中村俊輔の展開力を最大限に活用しようというアイデアです。

 二列目で、相手に厳しくマークされている状況で(主に後方からの)パスを受けるのではなく、後方のミッドフィールダーとして構えることを基本的なプレーイメージにすることで、ある程度フリーで、それも高い頻度で「前を向いて」パスを受けることができるようになるというわけです。チームメイトたちも、彼を「クリエイティブな展開の起点」として活用しようと意識が抜群に高まっていますから、後方で(または横のスペースで)フリーになっている中村にボールを集めるというわけです。そうなったら強い。

 ボールをもった中村は、遅れた無理なタイミングでプレスをかけようとするインテルの選手たちを、軽快に、そして優雅にかわし、縦横無尽にクリエイティブな展開パスを決めつづけます。そして、コッツァ、ディ・ミケーレ、ボナッツォーリ(パルマから移籍したことは聞いてはいたのですが・・)、はたまた両サイドのディアーナやファルジーニ、守備的ハーフのマメーデ等が、素早く直線的な攻めを仕掛けていくというわけです。

 その「攻めのイメージ」がチーム内に確立しはじめていることが、チーム力の発展につながっていると、すぐに確信した湯浅でした。

 もちろん、そうなった場合、中村俊輔は、攻めの最終シーンには「追いつき」ません。それは仕方ない。デカーニオ監督は、中村の才能を、主に、攻撃のスタートラインとして、また「直線的な一次攻撃」がうまくいかず、遅らさせられたときの「二次攻撃」でのキーファクターとして活用していける・・その方が、確実にチームにとっての実効レベルは上がる・・と判断したのです。

 この基本的な発想が、殊の外うまく機能していると感じます。中村にしても、後方を基本ポジションにしていることで守備参加も抜群に活性化していますしネ。もちろんディフェンスでの実効レベルという視点では、中村がそのポジションでプレーすることは、レッジーナ守備ブロックにとって危険因子という意味合いの方が強いわけですが、それを、スリーバック(基本的にはファイブバック)にすることで、また上がり気味の両サイド、コッツァ、ディ・ミケーレ、はたまた両サイドバックのファルジーニやディアーナ等が中盤ディフェンスに積極的に参加してくることでカバーしているというわけです。

 チームメイトにしても、後方での「起点」になれる中村が、ボールを奪い返した地点に「より近いところ」にいるのですから、やりやすいでしょう。たしかにこれまでの彼らは、ボールを奪い返した後方からの組み立てに大きな問題を抱えていましたからね。デカーニオ監督のアイデアに拍手を送っていた湯浅なのです。

 もちろんこれは、中村俊輔にとっても、よりボールタッチの回数を楽に上げることができるという意味で、また守備での実効あるプレーを「体感ベース」で発展させられるという意味で、はたまた基本的なチーム戦術として自らの運動量を増やさなければならないという意味で、願ってもないことです。実際に、彼の守備プレーも(もちろんボールのないところでの守備は除いてですが・・)伸びはじめていると感じますよ。

 そんな中村でしたが、後半は活動量が落ちたことで(前半ほどの実効プレーが展開できないということで・・3-0のリードを追いかけるため、何とか中盤のダイナミズムを上げなければということで?!)15分で交代ということになってしまいました。残念ではありますが、彼の攻守にわたる実効レベルが大きく発展するかも・・という大いなる期待を抱かせてくれただけでも楽しめたゲームでした。

 結局この試合でのレッジーナは、インテルとの実力の差を見せつけられたわけですが、それでも彼らが、チームとして発展していることだけは確かな事実です。

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 中田ヒデについては、機会を見てレポートすることにします。また高原については、これまでの経緯も含めて、スポナビで(湯浅健二の質実剛健コラム)書くことにしましょうかネ。

 ということで、眠い目をこすりながら、帰国した日の仕事はじめをこなした湯浅でした。




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