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ヨーロッパの日本人・・今週の次は中村俊輔と中田英寿・・(2003年3月10日、月曜日)

さて、どちらから見ようかな・・中田英寿と中村俊輔。

 そんなことを考えていたときに、ハッと思い出しました。中村俊輔が所属するレッジーナの対戦相手。そして、そちらの方が面白そうだと、トリノ対レッジーナから観戦することにした次第。

 何といっても現在最下位のトリノは、前回のホームゲームで、不甲斐ない内容に怒ったファンの乱入があったために、ホームスタジアムの使用を禁止されていますからね。だからこのゲームは、トリノのホームゲームであるにもかかわらず、中立スタジアムでの開催。またトリノは、監督が交代したばかり。最低でも、気合いの入ったゲームを展開するに違いない・・。

 そして期待したとおり、トリノが、攻守にわたってまとまりのある積極プレーを展開し、立ち上がりの時間帯にPKから先制ゴールまでも決めてしまいます。言うまでもないことですが、中盤での攻守にわたるプレーが、互いにうまく連鎖しているということですよ。リスキープレーへのチャレンジも頻繁に見られましたしね。だから、期待したとおり面白いゲームになった。また、だから中村のプレーも、より多面的に評価できる・・。

 発展をつづけているレッジーナ。選手たちも、調子の良さを実感しているはず。それには、ボナッツォーリやディアーナ、ファルシーニ等の移籍組の活躍、また中村が、プレッシャーが薄い後方からプレーをスタートするようになったことで、彼の特徴がより活きるようになったこと(周りも、中村の展開力をうまく活用するというイメージでプレーしていること)などが背景として挙げられそうです。

 でもこの試合では、そんなレッジーナの良さがバラバラになってしまいます。ボールを奪い返しても、タテへ、タテへと急ぎ過ぎるのですよ。そして、中盤の深い位置にポジショニングする中村俊輔が、ほとんどのケースで、攻撃の流れに取り残されてしまう。もちろんそれには、「何とか早く同点にしなければ・・」という、タテへ急ぎ過ぎてしまう傾向に歯止めを掛けられるリーダー的な存在が不在だったということもあります。

 ということで、ほとんど良いカタチでボールに触れなかった中村俊輔。だから、一本調子で攻め上がるレッジーナの攻撃にも「変化」が出てこない。だから、トリノ守備陣も、受け身ではありながら、ある程度余裕をもってレッジーナの攻撃を受け止めることができた。

 そんな展開が、後半には、より先鋭化していきます。交代出場したレオンやサボルディー等も、どんどんと前へ突っかけていくばかりでしたからね。そんな「リズム」では、中盤や前線の選手たちが、とにかく「どこからでも最終勝負を仕掛けていくぞ!」というイメージで、前へ重心がかかりっぱなしになってしまうのも道理。そして中盤で右往左往する中村俊輔。

 たまにボールを持っても、トリノ中盤の寄せが早いし、横からの味方サポートも遅いから、余裕を持ってタメることもできない。また、前線のチームメイトたちも、中村がボールをもった瞬間に、アクションを止めて様子見になってしまう。彼らも、中村がボールをもったら、自分たちが描く仕掛けリズムが遅くなってしまうことをよく分かっている?! まあ、そういうことでしょう。

 たしかにディ・ミケーレやボナッツォーリが、決定的なチャンスは得ました。それでも、相手守備を崩したというよりは「力ずく」。逆に、そんな「力ずくリズム」でチャンスを作り出せたことで、その傾向がより強くなってしまったという見方もできそうです。もちろんそれには、トリノが守備ブロックを厚くしていることもあるのですがね。組み立てていては簡単に潰されてしまう・・もっとシンプルにゴール前へ・・ってな具合です。

 でもね・・そんなパワープレーをつづけていたからこそ、たまに「軟のリズム」もミックスすることが格段の効果につながるものなのですよ。

 結局レッジーナには、中盤での攻めのリズムをコントロールできるような選手がいないということでしょう。コッツァがいれば、前へばかり行くのではなく、たまにはバックパスで後方へボールを戻すことで、相手最終ライン前のスペースを活用するというアイデアが出てきたかもしれません。そうすれば、中村の特長が、より活かされたはずです。何度、もっと中村をイメージしてパスを回せばいいのに・・なんて思ったことか。

 ということで、この試合での中村は、まさに「置き去り」状態でしたよ。守備でも、攻撃でも。

 守備ですが、ボールがないところでのマークや、ボールホルダーへのチェイシングなど、参加する意志(もちろん実際の守備アクションも!)は明確に見えてくるのですが、うまく実効プレーにつながらない。足が遅いことやボール奪取が上手くないことは相手も先刻承知ですから、彼がチェックにきたら「よし、チャンス!」とばかりに、一度タメてから軽いカットで中村を置き去りにしてしまう。そんなシーンを何度も目撃しました。そのことで、その周辺ゾーンに大きな穴ができてしまう。くり返しますが、中村俊輔の守備意識が高まっていることは確かな事実なのですよ。それでも残念ながら・・というわけです。

 攻撃でも、「オイ、そんなに前へ急ぐなよ!」ってな違和感がいっぱいで、まったく流れに乗れない(乗っていく意識を高揚させることができない!)中村俊輔。だから見せ場はフリーキックばかり。

 それには、トリノの中盤選手たちが、中村のプレーを明確にイメージしてチェックに入っていることもあります。ボールを持ってタメ、そこからタイミングを見計らって勝負パスを最前線へ供給する・・。そんな中村得意のプレーを、トリノの中盤選手たちが明確にイメージしていたということです。彼がボールを持ったときの効果的な集中プレスに、トリノ選手たちの明確なディフェンスイメージを感じるのです。

 でも、だからといって、中村のプレーが、単なる中継パスのオンパレードになってしまったことの言い訳にはなりません。中村に対しては、どんどんとボールホルダーへ寄ることで、自分をもっとアピールしなければ・・と言いたい湯浅なのです。いや、ボールホルダーではなく、次のパスレシーバーを予測して、事前にそこへ寄っていく・・。そんな積極性が見えてこないのですよ。

 そろそろ彼も、中盤でのリーダーシップを発揮しはじめてもいい頃。イタリア語もかなりうまくなったでしょうからネ。「ここだよ! ここによこせ!!」と寄っていく。もしパスが来なければ、「何故ここに出さない!」と文句をいう。そんな自己主張さえあれば、それによって明確な自己責任が生じるという意味合いも含め、おのずと彼自身の自覚も高まるに違いない。

 ちょっと、中村のプレー内容に落胆していた湯浅でした。

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 さて中田英寿・・と、書きはじめようと思ったら、当の中田はベンチスタート。それも、試合時間が残り10分強というタイミングでの登場になってしまいました。

 監督に、若手の起用とか、新しいチーム戦術へのトライとか、何らかの意図があった?! まあそういうことなんでしょうが、それだったら、彼が出てきた時には、選手たちの意識(プレーイメージ)が変化する雰囲気くらいは感じたかった湯浅だったのですが・・。

 とにかく、組織プレー「も」駆使して最終勝負を仕掛けていこうとする中田の落胆の表情ばかりが目についてしまって・・。例によって、アドリアーノの「個のプレーの行き過ぎ」が原因ですよ。明確なシーンは二度ほどありましたかね。

 右サイドを超速のドリブルで上がり、相手にアタックされる前のギリギリのタイミングで、同サイドの前方にいるアドリアーノへ鋭いタテパスを出し、そのまま全力で中央ゾーンへ上がっていく中田。アドリアーノからのリターンパスが出れば、前にスペースがあるから大きなチャンスになったはず。でも結局は、中田からのパスを受けたアドリアーノが「こねくり回した」ことでチャンスを失ってしまう。

 もう一つは、コンビネーションから、アドリアーノが最後にボールを持ったシーン。たしかに彼がボールを持ったのは中央ゾーンだったし、明確なシュートレンジでもありました。それでも、目の前には3人もの相手ディフェンダーがいたんですよ。アドリアーノが前を向いてボールを持ったとき、中田が、左から右サイドのスペースへ走り抜けていました。そこへ素早いタイミングでパスが出れば、確実に、良いカタチでのラストクロスが出たに違いない。もちろん、自分のゴールの可能性も高まったに違いない。まったく・・。

 確かにアドリアーノは素晴らしい能力を備えています。一度などは、相手二人を相手に、鋭いドリブルから爆発シュートを放ってしまいましたしね(相手GKの軌跡のセービングでバーを直撃!)。あんなシーンを見せつけられたら、コンビネーションよりも、アドリアーノの個の才能に賭けた方が・・と考えるのも一つの選択肢ではあると思えてきます。でも、今の彼のプレーは、ちょっと極端。

 一時期は、シンプルなパスも見られたのに、この数週間は、あまりにも「ゆき過ぎたエゴプレー」が目立ち過ぎるアドリアーノというわけです。そろそろ、プレーイメージを調整する時期にきている・・と思うのは、私だけではないでしょう。何といっても、変化を演出する組織プレーがうまく回転すれば、彼の能力が何倍もの威力を発揮することは確かなことなのですから。彼にとっても、その方がいいに決まっている。

 さて試合ですが、両チームともに守備ブロックを厚くしていることで、まったくといっていいほど、変化のある攻撃は見られませんでした。タテのポジションチェンジもないし、タメもない。素早く広いボールの動きもないし、決定的な三人目の動きも目立たないから(それがあっても、そこへパスが出てくることは希だから!)、コイツさえ抜けば・・という決定的な「1対1のシーン」も演出できない。また、両サイドバックの攻め上がりはあっても、そこへパスが出るのは、相手に詰められてしまった後(もちろん相手攻撃選手の忠実な戻りもあったわけですがネ・・)。

 そして、密着マークされている前線プレーヤーの足許へのパスをくり返すばかり。これでは・・。まあ、ラムーシと中田英寿がそろった最後の15-20分間は、パルマの攻めにも効果的な変化の兆しが感じられるようになりましたがね。

 この試合では、両チーム共に、ガチッとスリーライン(最終&中盤&前線の三つのライン)を維持しつづけ、カウンターも含めたワンチャンスの「薄い攻め」を繰り出していくばかり。とにかく、リスク要素を極限まで排除しようとする「これぞイタリアサッカー」という試合を見せつけられ、ちょっと閉口気味の湯浅でした。

 一体、両チームで何回の「可能性を感じさせてくれる(ワクワクさせられる)シュートシーン」が演出されたのか・・。申し訳ありませんが、私は数える気にもなりませんでした。




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