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ヨーロッパの日本人・・今週は、まず高原、小野、中村から・・(2003年3月23日、日曜日)

さて高原直泰から・・。この試合も、高原はベンチスタートということになりました。

 上位チームが、いま一番対戦したくない相手。言うまでもなく「降格リーグ」でギリギリのゲームを戦っているクラブです。

 今節のハンブルガーSVの相手は、「元」超名門で、現在16位と降格圏内にいるメンヘングラッドバッハ。監督が、ハンス・メイヤーから、エーヴァルド・リーネンに代わったばかりですし、彼らのホームゲームということで、ハンブルクにとって厳しい戦いになるのは事前に予想されたことです。

 ブンデスリーガの降格リーグについては先々週に「スポナビ」で書きましたから、そのコラムも参照していただきたいのですが、そこではハノーファー96、レーバークーゼン、そしてカイザースラウテルンを取り上げました。そしてこの試合で、メンヘングラッドバッハについても、基本的なイメージを獲得できました。私は、ゲームを観ながら思っていました。やはり降格リーグチームのパワーは一回りアップする・・。

 パワーアップの要因は、何といっても心理的な基盤。全員が、攻守にわたるすべての状況で仕掛けていくという姿勢でプレーしていると感じます。もちろん、シュートを打つという攻撃の目的と、相手からボールを奪い返すという守備の目的を強烈に意識して・・。

 どんな状況でも、選手一人ひとりが「半歩前に足が出る」という雰囲気なのです。様子見に陥ってしまう選手などは一人もいない。またボールを持っても、常に仕掛けていくという吹っ切れた心理でアクションしますから、中途半端なプレーがほとんどない。そして、そんな積極的な心理状態だからこそミスが少ない・・。

 サッカーの局面は、常に「剣が峰」にあります。だからこそ、ミスをしたらどうしよう・・とか、ここでボールを取られたらピンチになる・・などのネガティブイメージがアクションを縮み込ませ、それが「後ろ向きのミス」につながってしまうというわけです。逆に、ボールを取られても、すぐに守備に就けばいい・・とか、前向きのミスなら何とかなる・・とかいう心理ならば、より高い確率で結果もついてくるというわけです。ちょっと、感覚的に理解するのは難しい「メカニズム」ではありますが・・。

 ということで、ハンブルガーSVが、ホームのメンヘングラッドバッハに押し込まれるのも当然という立ち上がりでした。もちろんハンブルガーSVは、相手の勢いをしっかりと受け止め、ボールを奪い返したところから、素早く、直線的に相手ゴールに迫る・・というゲーム戦術的なイメージなんでしょうが、どうも、相手攻撃をしっかりと受け止める・・というゲームの基本(組織ディフェンス)をうまく機能させられない。だからメンヘングラッドバッハに決定的なカタチを作り出されてしまう・・。

 それでも、徐々にハンブルクも押し返すようになっていきます。メンヘングラッドバッハの立ち上がりの勢いが、徐々に「落ち着いて」きたと感じたハンブルクの中盤選手たちが、「前」にも飛び出しはじめたのです。ベンジャミンが、マルトリッツが、はたまた両サイドバックが・・。そしてまず、フリーキックから、ロメオがヘディングシュートを見舞い、直後には、バルバレスからの上手いオーバーヘッドパスを受けたロメオが、まったくフリーで、それもゴール正面16メートルからシュートを放ったりします(相手GK正面!)。それでも、どうも中盤をコントロールすべきカルドーソのパフォーマンスが安定しない。

 後半10分。メンヘングラッドバッハが、CKから先制ゴールを挙げます。そしてその直後に、例によってカルドーソとの交代で高原が登場します。でもその直後に、メンヘングラッドバッハに追加ゴールを奪われてしまって・・。結局ゲームは、そのままメンヘングラッドバッハの「2-0」の勝利ということになりました。

 さて高原。たしかにまだ、味方とのイメージがうまくシンクロしないことで、自分が欲しいカタチでボールを持てるシーンは少な目です。でもこの試合では2-3度、前を向いて勝負するカタチに持ち込みましたよ。左サイドからの切り込んだり、中央ゾーンでのドリブル突破にチャレンジしたり、はたまた右サイドからの爆発的な切り込み(ドリブル突破)からの決定的な折り返しをゴール前へ送り込んだり。やはりカタチに入ったら、可能性を感じさせてくれる・・。

 それでも、交代出場した最初の時間帯は、左サイドに張り付きっぱなしという、受け身の心理が見え隠れしていました。2点リードされている。味方も、全員が前へ、前へと来ている。また自分自身に残された時間も少ない。そんな状況なのだから、ポジショニングバランスなど考えず、どんなところからでも常にスペースへ走り込むという積極性の方がプライオリティー。そう、ここ2-3試合で魅せた、どこからでもボールに絡んでいこうとする、攻守にわたる積極性です。彼が登場した最初の時間帯は、もっともっと、ボールがないところでのパスを受ける動きを活性化させなければ・・と思っていた湯浅です。

 とはいっても、残り15分くらいになってからは、やっと縦横にアクション半径が広がってきました。そして、ゴールへ向かうシーンも増えてくる。ボールがないところでの動きが活発になりさえすれば、次のコンビネーションやドリブル勝負などの仕掛けのイメージも無限の広がりをみせるということです。

 とにかく高原直泰が「彼なりの発展ベクトル上」に乗っているのは確かなこと。彼のダイナミックな仕掛けプレーを見るたびに、期待感が膨らんでいきます。

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 次は小野伸二。本当に高みで安定したプレーを展開しています。

 止まっているときでも、思考停止状態の「様子見」ではなく、常に「次」を狙っていることがビンビン伝わってくる。守備でも、攻撃でも・・。

 ちょっとこの頃、彼の足が遅い・・と書き過ぎているように感じますが、あれ程の集中状態を維持できていたら、守備でウラを突かれることも少ないでしょう。実際に彼のディフェンスでは、ボールがないところで相手をケアーするという状況で、確実な「読み」が機能していますからね。だから、相手の攻めを抑制できるし、うまいタイミングでのインターセプトや、ボールコントロールの瞬間を狙ったアタックも成功させます。

 まあこの試合では、攻めの見せ場は少なかったですがね。それでも、後方からのゲームメイクという重要な役割は十二分に果たしていましたし、例によって、ココゾ!の押し上げでも、実効あるプレーを展開していました。

 本当に消えてしまうことがなくなった小野伸二。目立たないけれど、実効レベルという視点では高質なプレーを標榜する(?!)小野伸二。守備的ハーフとして、玄人好みの本格感が出てきました。

 こうなったら「ドゥンガ」を目指すしかない?! まあそのためには、攻守にわたるリスクチャレンジやリーダーシップなど、まだまだ課題が山積みではあります。とにかく、高原同様に「正しい発展ベクトル」上に乗っている小野伸二を見るのは大きな楽しみです。

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 さて最後が中村俊輔。フ〜〜ッ・・なんていう溜息が出てしまう。

 この試合は、降格リーグの直接対決になりました。モデナ対レッジーナ。中村俊輔は、ベンチスタートということになりました。アウェーということで、中盤ディフェンスを重視したゲーム戦術ということなのでしょう。まあ仕方ない・・。

 その中村が登場してきたのは、後半の残り23分というタイミングでした。直前に、レッジーナが先制ゴールを奪われたという状況です。それも、10人で戦うモデナに・・(前半、モデナの選手が退場処分になった!)。「よし! 中村俊輔がヒーローになる大チャンスだ!」なんていう期待がふくらんだものです。それでも・・。

 結局彼は、前節同様に、中盤で右往左往するばかり。攻守にわたって、まったくといっていいほど勝負所に絡めない。守備に入っても、キッチリとしたチェックをやらないから、周りの味方が「次」に備えられない。攻撃でも、例によって横パスを受けようとするポジションで足を止め、パスを待つばかり。たまにパスを受けても、止まった状態でを受けるから、すぐに相手マーカーに詰められてしまう。だから出てくるのは、単なる安全パスばかり。

 ということで、中村俊輔が、攻守両面で「決定的な仕事」をするシーンは皆無でした。小野の項で使った表現を引用すれば、完璧に「消えてしまった」中村俊輔ではありました。

 それは、中盤でボールを奪い返したら俊輔へボールをわたすという意識が希薄だったから(ベンチの意識付けの責任)?! たしかにそれもあります。俊輔を経由するというチーム内の合意が徹底されていたら、もう少し、組み立ての段階で変化をつけられたとは思います。とはいっても、あの状況だったら、とにかく前へ・・ということで、選手全員のイメージが統一されていますからね。その「イメージの流れ」にブレーキをかけるのではなく、その流れに「まず乗る」ことの方が正解なのです。そしてその中で、仕掛けのリズムに変化をつけていく・・。でも中村のプレー姿勢には、「流れに乗る」という意識だけではなく、自ら仕掛けプロセスを演出してやるという意志も感じられませんでした。

 流れに乗るためには、ボールがないところでの爆発的なダッシュも含め、とにかく(その時点でのボールホルダーよりも)前のスペースへ入り込むことをスタートラインにしなければなりません。にもかかわらず、中盤で「ジョギング」をつづける中村のボールがないところでのアクションからは、それに対する意志がまったくといっていいほど感じられないのです。

 このままではマズい、本当にマズい。一時期は、ある程度の運動量を確保しながら、ボールに触る頻度も高かった中村。中盤の後ろ目を基本ポジションにしたことで、後方からのゲームメイクという新境地にも目覚めた中村。それが、この2-3試合では、ボールをもらえず(ボールに触れず)に右往左往してしまうシーンが目立つようになっているのです。

 原因は?? もしかしたら、チームメイトからの信頼度が低落していることが背景にあるのかも。彼にボールをわたせば、何かを起こしてくれるという期待感が薄れてきた?! だから、彼を経由してゲームを組み立てるという意識も希薄になっている?! またチームメイトたちが、中村がボールをもったとき、仕掛けのリズムが遅くなってしまうと感じている?! まあそこには、ボールがないところでの動きがあまりにも「単調」だし、スペースへ入り込むという意識が希薄だということもあるのでしょうがネ。

 また、守備での実効レベルが低いことも信頼度の低下に拍車をかけているのかも。たしかに守備に「参加」はするのですが、ギリギリの競り合いに挑んでいったり、ボールがないところで最後までマークしたり、実際にボールを奪い返すといったディフェンスでの「実効シーン」がほとんどないのですからね。

 とにかく中村は、自ら勝負ゾーン(スペース)へ入り込むことも含め、「スピードにメリハリ」を付けて動きまわることをベースに、より頻繁にボールに触ることを心がけなければいけません(以前のコメント内容に逆戻りしてしまいしまたが・・)。動きの中でパスを受ければ、決定的な仕事ができるカタチにも入りやすいでしょうしネ。とにかく、自分でも仕掛けていける状況でボールを持つ味方の「横」で、「おい・・オレにボールをよこせ!」とパスを待つようなプレーだけは止めた方がいい。そんなふうにボールを持った場合は、ドリブルや、タメからの勝負パスなど、味方全員が納得するくらいの効果を発揮しなければいけませんからね。それがなければ、確実に味方からの信頼感を失ってしまう・・。

 とにかく中村は、ビデオを駆使し、今の自分のプレー状態を謙虚に分析しなければいけません。また必要だったら、仲間や監督と、(議論ではなく!)意見交換しましょう。そんなプロセスを経て、はじめて自分自身も納得するヒントが見えてくるものです。

 【理想】−【現状】=【課題】という普遍的な概念があります。ちなみに中村俊輔の場合は、【彼が理想とするプレーイメージ】−【現在のプレー状態に対する自覚】=【課題やヒントの発見】ということになりそうです。それは大事な学習プロセスです。もしかしたら、いま彼が抱いている「理想プレーイメージ」自体に無理があるのかもしれませんしネ。




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