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ヨーロッパの日本人・・久しぶりの稲本、そして中田英寿・・(2003年3月2日、日曜日)

今週は、まず稲本から。久しぶりの観戦です。ホームゲーム。相手は最下位のサンダーランド。稲本の基本ポジションは二列目ですから、フルアムの仕掛けリーダーとも言えるマールブランクと同じ「高さ」でのスタートということになります。

 イメチェンを期待していた湯浅だったのですが、でも彼のプレー内容は、どうもいただけない・・。

 局面では、素早く深いスライディングでボールを奪い返したり(ボールを奪い返すテクニックはさすが!)、高いジャンプからのヘディングで競り勝ったり、キッチリとボールをコントロールして確実に展開パスを出したり仕掛けパスを送り込んだりと、能力の高さをうかがわせてくれます。また前半9分には、フルアム唯一の決定機ともいえるチャンスも演出しました。このチャンスメイクは、稲本が右サイドを突破し、最後は、相手と競り合いながらのスライディングで、グラウンダーのラストクロスを返したことで生まれました。素晴らしいプレーでした。

 それでも、稲本の全体的なパフォーマンスは低調の極み。攻撃でも守備でも、強烈な意志の発露としての全力ダッシュがほとんど見られず、様子見シーンが続出なんですよ。基本ポジションや、味方とのバランスを気にしている?! そんな、戦術イメージの虜になっていては、自ら発展の可能性にフタをしていることになってしまう。

 もう何度も書いているように、チーム戦術的な発想(プレーイメージのプラン)に基づいた人数バランスや互いのポジショニングバランスについては、それを自ら崩していかなければならないことも多いのです。そんなリスクチャレンジプレーがなければ攻撃の変化を演出できるはずがない。だからこそ、次の守備での「バランス感覚」が問われる。バランス感覚と呼ばれるモノの本質は、自らディフェンスでの仕事を探し実行していくという「ホンモノの守備意識」に他ならないというわけです。もちろん攻撃での「バランス感覚」は、ちょっと意味が違いますがネ。

 チームが守備にはいったとき、稲本は、前線からのチェイシングや、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する爆発チェックアクションなどをもっと意識しなければなりません。また攻撃でも、もっと動きまわることでボールタッチ回数を増やさなければなりません。

 特に攻撃では、味方のアクションに「合わせよう」とする意識が見え隠れ。そうではなく、もっとパスを要求するような自分主体の動きを積極的に展開しなければならないのです。

 要は、攻守にわたって、ボールがないところでの動きが緩慢に過ぎるというということです。もちろんそれは、「ボールがないところでのタメ」だという発想もあります。次の実効プレーへの爆発を狙う、猛禽類の眼。でも稲本の場合は、明らかに単なる様子見。これでは、攻撃でも守備でも、チームに活力を与える実効プレーが出てくるはずがない。もっと自分主体に動かなければ・・、もっとグラウンド上で自己主張をしなければ・・。

 もちろんそれには、チームの全体的な出来が低調だったからという背景もあります。それでも、稲本は「まだ」チャレンジャーなのですから、チャンスを使い切るという意気込みでプレーしなければいけません。「オレが、低調なチームの雰囲気を鼓舞してやる!」。そのくらいの勢いでプレーしなければならないということです。このままでは、どんどんとチーム内での存在感を失ってしまうことは誰の目にも明らかじゃありませんか。

 またまたネガティブ批評になってしまいましたが、その背景に、稲本の潜在能力に対する確信があることは言うまでもありませんよね。いつも書いていることですが・・。

 このことは、日本代表当時のプレーでも感じていたことです。もちろん総体的には、結果が伴った良いプレーをみせていたわけですが、それも、忠実なディフェンスをつづける「汗かきパートナー」の戸田や、攻守にわたる中盤のコンダクターである中田がいたからとも言えます。戸田が、忠実なチェイシングとチェックによって守備での「起点」を作り出してくれたからこそ、稲本のボール奪取能力も活かされたし、中田というコンダクターがいたからこそ、後ろ髪を引かれずに攻撃にも飛び出していけたというわけです。

 稲本は、攻守にわたるボールがないところでのムダ走りも含め、常に、最大限のチカラを発揮するという姿勢でプレーしなければならないと思っている湯浅なのですよ。いいじゃありませんか。前半で燃料切れになってしまっても。一度でもいいから、心身ともに完璧に燃え尽きるくらいのダイナミックプレーにチャレンジするのです。そうすれば、必ず、自身のプレーイメージが一皮むけるものです。そこをスタートラインとして、徐々に「バランス感覚」を磨いていく。それが正しい発展プロセスなのです。特に、彼のような才能をもった選手の場合はね。

 監督から二列目の役割を与えられていたとしても、自身は、ボランチ的なマインドでプレーする。それくらいの意識がちょうどいいのかもしれません。全力でのチェイシングをくり返したり、次のパスレシーバーへの爆発アタックを常に狙いつづける等、前線から積極的に守備参加する(もちろんケースバイケースですよ!)。また攻撃では、積極的にボールへ寄ることで、次の仕掛けのコアになるという姿勢でプレーする。もちろん、自身が下がることで、ルグビンスキーを前線へ「送り出して」もいいじゃありませんか。そんな自分主体のプレーこそが発展の唯一のキッカケであり、チーム内での存在感を高めるための唯一のリソース(資源)なのです。

 久しぶりだったもので、つい、リキを入れて「思い入れコメント」をしてしまいました。何といっても、あれ程のキャパシティーを備えた稲本潤一ですからね。とにかく、ガンバレ稲本!!

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 さて次は中田英寿。ホームゲームで相手はモデナ。

 この試合の構図は、はじめから明確でした。守備を厚くし、一発カウンターを狙うモデナに対し、ゲームの主導権を握りつづけるパルマ。注目ポイントは、パルマが、どのようにモデナ守備ブロックを崩していくのか・・。もちろん、モデナのカウンターと、それに対する前へ重心がかかったパルマの「次の守備」も注目ポイントですがね。

 この試合での中田は、前節と同様に厳しいマークを受けました。相手は知っています。彼が、パルマ組織プレーのコアだということを。中田が機能しはじめたらボールの動きが活発になる・・もちろんボールがないところでのアクションも大きくなる・・そして守備ブロックがウラを突かれはじめる・・。

 立ち上がりの中田は、例によっての積極的なディフェンスや展開パス、タテパスやフリーキックなど、内容は良かったですよ。それでも、時間が経つにつれて、徐々に、「決定的な仕事」という視点では存在感が希薄になっていきます。その原因は、何といっても、チーム戦術としての基本ポジションの維持・・それによって、仕掛けが単発になってしまったこと。

 モデナは守備を厚くしています。だから攻めが難しいのは当たり前。それでも、全員が基本ポジションに張り付く傾向が強いと、相手にとって守り易いことこの上ない。何せ、自分がマークする相手が「消えてしまう」現象が少ないのですからね。

 攻撃の普遍的なコンセプト(概念・・目指すべき発想ベース)は何といっても「変化」。もちろん、変化を演出するにはリスクが伴いますから、それに消極的なチーム(監督)も多いですよね。要は、「チャレンジプレーによって生じるリスク要素が大きすぎる」から「できないと思われることはやらせない」という消去法のチーム戦術というわけです。まあパルマも、その範疇に入る(選手能力の総体としてのチーム力から、その範疇に入らざるを得ない)チームだと首脳陣が考えているということでしょう。

 フォーバックの前に三人の守備的ハーフを配置し、その人数バランスとポジショニングバランスを極力崩さない・・そんな強固な守備ブロックをベースに、中田、ムトゥー(この試合ではジラルディーノ)、アドリアーノという三人のオフェンダーと、両サイドの臨機応変のオーバーラップ(サイドハーフとサイドバックとのタテのポジションチェンジ)で、少ないチャンス決める・・。もちろん相手にもよりますが・・。

 ということで、この試合でのパルマも、全員が基本ポジションに張り付いてプレーするシーンがマジョリティーだったというわけです。

 だからボールの動きにしても、安全な展開としての横パスが主体で、相手守備ブロックを振り回すような「鋭いタテのボールの動き」はほとんど見られない。まあ最前線でアドリアーノがボールをもったら、そこからの素早いコンビネーションなんて望み薄。彼は、そのまま最終勝負へもっていこうとするイメージが強すぎますからね。とはいっても、そんな彼のドリブル勝負への強い意志があったからこそ先制ゴールが生まれたことも事実です。でも逆に、それが、パルマがチャンスを作り出せない要因の一つでもある?! いや、サッカーの見方は難しいのです。

 まあこの試合は、予想された明確なゲームの構図(モデナのゲーム戦術)と、パルマの攻撃のやりかた(攻めのチーム戦術)が、ピタリと噛み合ってしまった・・ということですかね。これでは、完璧な膠着状態に陥ってしまうのも無理はない。それにしてもパルマの攻撃では、中田のフリーキックとジラルディーノへの鋭いクロスの場面以外、ほとんどチャンスらしいチャンスはありませんでしたね。石橋をたたきながら、一発のチャンスに賭けるパルマ?!

 たしかに今のパルマの戦力では(UEFAカップへの参加を確実なものにしようとする目標イメージからすれば)、度を超えたリスキーなプレーイメージは得策ではないでしょう。それでも、まだまだリスクの限界までは達していない。基本的なチーム戦術をベースに、タテのポジションチェンジや、中盤での仕掛けコンビネーションなど、もう少し、リスクにチャレンジしていってもいいのでは・・そうすれば、中田の能力ももっと活かされる・・なんて「総体的なバランスを視野に入れて」書いていた湯浅でした。

 
 あっと・・結局試合は「1-1」の引き分けに終わりました。



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