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ヨーロッパの日本人・・今週も高原から・・(2003年4月20日、日曜日)

凄いですネ〜。とにかく、間断なく仕掛け合う迫力サッカー。ボールを奪い返した瞬間から、全員がシュートをイメージして、タテへ、タテへ。至るところで爆発フリーランニングのオンパレード。そこへ素早いタイミングでの仕掛けパスが飛ぶ。守備側は、そんな仕掛けに対して、マークを受けわたしながらの忠実マーク。そして局面での競り合い。

 でもちょっと、「洗練」という視点では、あまりにもエネルギーが直線的に(縦方向に)ぶつかり合い過ぎるサッカー・・。相手の中盤でのアタックエネルギーを「かわす」エスプリ・ボールコントロールが見られないから、トラップしたときには、仕掛けパスしかイメージできない・・。要は、テクニックレベルが十分ではないから(またベンチもそう考えているから)選手たちの意識も、常に、間髪を入れない仕掛け、仕掛け(逆に守備側は、それ対する勝負ディフェンスプレー)・・ということになってしまうんでしょう。

 もうちょっと落ち着いた「組み立てのボールの動き」があってもよさそうなものだけれど。まあそれには、ホームの1860ミュンヘンが、中盤でのダイナミックディフェンスからタテへ仕掛けつづけたこともあります。そしてハンブルクも、「かわす」のではなく、そのリズムを真正面から受け止めてガンガン押し返していく。たしかにスピーディーで迫力のあるエキサイティングゲームなのですが、どうも攻撃の変化という視点では・・。

 やはりサッカーにおいて根元的なキーになるコンセプトは「バランス」なんだな・・。このテーマについては何冊もの本が書けます。何といってもこのコンセプトは、すべての人間的、社会的な事象に当てはまりますからね。白か黒かではなく、グレーの発想・・というわけです。

 言いたかったことは、両チームともに、緩急のバランス感覚にも課題が見えていたということです。だから、バイエルン・ミュンヘンやレアル・マドリー、ユーヴェントスやACミラン、マンUやアーセナルといった、美しさと強さがバランスよく同居したサッカーを標榜するヨーロッパトップチームに、サッカー内容で置いていかれる・・。もちろんエキサイティングなことこの上ないサッカーではありますがネ。

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 さて試合ですが、局面での迫力ある競り合いが満載された仕掛け合いのなか、やはり勢いではホームの1860ミュンヘンの方が優っています。とはいっても、攻撃の変化が乏しいから、チャンスメイクは、カウンター気味の仕掛けとセットプレーばかり。まあそれはハンブルガーSVも同じですがね。落ち着いた流れのなかでチャンスを作り出すというシーンは(まあ落ち着いた流れを演出すること自体が希でしたが・・)、両チームともに希・・。

 結局両チームが挙げた2ゴールともにセットプレーで、それも、まったく同じ場所(ペナルティーエリア後方20メートルの右サイド)からのフリーキックが起点になりました。ミュンヘンの先制ゴールは前半36分で、ハンブルクの同点ゴールは後半20分。だから、まったく同じスポットからのフリーキックから両ゴールが生まれたというわけです。

 ハンブルクが挙げた同点ゴールは、フーカルの一発ヘディングでした。それに対し、フリーキックをファーサイドの選手が折り返し、後方から逆側のゴールポストゾーンへ走り込んだマックスが決めたというミュンヘンの先制ゴール場面には、ちょっと見所がありました。ゴールを挙げたマックスの動きと、彼を行かせてしまったバルバレスとホラーバッハのマークミス。

 右サイドからのフリーキックが、ファーサイドスペースへ上げられます。この時点でマックスは、ペナルティーエリアの外から(二列目から)、ゴールの逆側ゾーンへスタートを切る。ただマークすべきバルバレスとホラーバッハは完全にボールウォッチャーになってしまって・・。

 わらの中で針を探すような「薄い」チャンスでも、可能性に懸けて忠実にスペースへ走り込んだマックス。たぶん、半自動的に身体が動いたのでしょうが、それこそギリギリの体感の積み重ねという「イメージバックボーン」の為せるワザだったのです。私はそれを、確固たるイメージに支えられた「動きのオートマティゼーション」と呼びます。

 また前半6分には、ハンブルクのバックパスミスを味方が奪った瞬間に、二列目から爆発ダッシュで決定的スペースへ飛び出した1860ミュンヘンの点取り屋、ラウトの「オートマティック・スタート」もありました(最後のシュートは、ハンブルクGK、ピーケンハーゲンが指先ではじき出した!)。その感動的な爆発ダッシュにしても、体感の積み重ねがバックボーン。ドイツの勝負強さの秘密を見た思いがしたものです。

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 さて、先発から起用されフル出場を果たした高原。全体的なプレー内容は、着実に発展をつづけていると感じさせてくれるものでした。だからこそヤーラ監督は、エースのロメオや、タッチライン際の必殺仕掛け人マハダビキアを交代させたにもかかわらず、最後まで高原の爆発に期待をかけつづけた・・。

 まずディフェンスからゲームに入っていった高原。たしかに、相手のパスタイミングに対する「読み」にはまだ甘さはあります(だからうまくタックルを決められないし、スマートなインターセプトもかなわない)。それでも、ボールがないところでの忠実マークや、意を決した爆発ダッシュでのアタックアクションなど、ボール奪取に対する強い意志は、チームメイトたちにとっても心強いものだったに違いありません。

 そんな忠実なディフェンスと素早い攻守の切り換えをバックボーンに攻め上がっていく高原。だからこそ攻めの実効レベルも増幅している。パスを受ける動きが大きくダイナミックなことで、うまく味方のパスターゲットになれているし、前を向いてボールを持ったら可能性を感じさせてくれるのです。何度も、相手のファールを誘う(ファールでしか止められない)ボールキープを魅せたし、眼前の敵をうち破るドリブルも魅せました。

 それでも、前述したように、味方のパスのリズムやタイミングが単調だから、うまくフリーでボールを持つことができない(得意なカタチでボールを持つことができない)。また、ボールをもった高原からの展開パスも「出させられている」というニュアンスの方が強くなり、うまく次の仕掛けにつながらない。

 この試合では、自身がシュートチャンスを掴むことができなかった高原でしたが(まあ両チームを通じたシュート自体が少なかったですからネ)、シュートシーンに絡んでいく感覚では鋭いモノを感じさせてくれましたよ。

 ベストシーンは、前半32分。それは、ハンブルガーSVの左サイドバック、ホラーバッハのスローインからはじまりました。バルバレスへボールを入れ、リターンパスを受けたホラーバッハ。この瞬間。ミュンヘンゴールのニアサイドに大きなスペースが出来ます。もちろんホラーバッハの勝負イメージは、そこへの強いラストパス。そして、そのイメージに乗っていたのが高原だった。

 バルバレスがホラーバッハへリターンパスを出した時点で、高原は、一度戻り気味に動いて「次の爆発」をタメます。そして一気に決定的スペースへダッシュ! もちろんホラーバッハも、高原の動きを明確にイメージしています。二人のイメージが、完璧にシンクロした瞬間。「よし、行った!!」。そのとき、思わず声が出たものです。でも・・。

 高原の動きが、そのイメージシンクロを感じ取った相手ディフェンダーに身体で抑えられてしまったのですよ。そのディフェンダーは、高原の爆発ダッシュに付いていけないと瞬間的に判断し、高原を身体で抑えたというわけです。まあ、それも相手の上手さ。逆に高原は、そんな相手のアクションを予測し、身体全体を駆使してすり抜けていけばよかった。そうすれば互いに倒れ込みながらも(ファールにならずに)高原が先にボールに触れたかもしれない(もちろんダイレクトシュート!)。本当に惜しい場面ではありました。

 とにかく、身体的な能力、技術的な能力、戦術的な能力(発想&イメージ)、高まりつつある心理・精神的な強さ、そしてツキなど、本場でも活躍できるベースを備えている高原は、順調にペースを上げています。




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