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ヨーロッパの日本人・・さて、お待たせの戸田が、安定したプレミアデビューを果たしました・・また「モトグランプリ」で活躍した加藤大治郎選手の逝去について・・(2003年4月22日、火曜日)

正直に言いますと、今シーズン、スパーズ(トットナム・ホッツパーのニックネーム)のゲームはまだ一つも観ていませんでした。この時点での順位は9位。UEFAカップへの出場権をターゲットにしているという状況で迎えた今節は、マンチェスター・シティーとのホームゲームです。優れたサッカーを展開するチームだと聞くスパーズ。さて・・。

 立ち上がり、ホームのスパーズの集中は切れっぱなしでした。ヘディングでのクリアボールを、シティーのアネルカ(一時期フランス代表の隠し球とまで言われた才気あふれるストライカー)にかっさらわれて右足一閃(僅かに左ポストを外れる)! はたまた右サイドから持ち込まれ、ギリギリの中距離シュートを浴びてしまう。

 普通だったら、そんなピンチが刺激になってチームが覚醒するものですが、前半立ち上がりのスパーズは、まさに泣かず飛ばず。もちろん中盤ディフェンスも受け身で消極的だし(ボールホルダーに対するチェックだけではなくボールがないところでの守備も甘く、競り合いでも簡単に行かれてしまう・・等々)、攻撃でも押し上げが足りないから組織的に崩していけない。チャンスが発芽するとしたら、前線に張るシェリンガムへのロングボールを起点に(彼がヘディングで競り勝つことを前提に)、ロビー・キーンが決定的スペースへ「その前のタイミング」で走り込むというカタチくらい。

 対するシティーは、攻守にわたって活発なゲームを展開します。攻撃では、特にアネルカが効いている。例によって動きは豊富じゃないし守備もおざなりですが、彼の足許にパスが入ったときは、そのキープ力に対するチームメイトたちの絶対的な信頼をベースにした後方からの押し上げが厚くなるから組織的な仕掛けを展開できるというわけです。

 そして、コーナーキックから先制ゴールを上げたシティーが、その後も、スパーズ守備陣のミスからボールを奪って追加ゴールを挙げてしまう。前半のスパーズは本当に熟睡状態だったのです。

 そんな悪い流れのなかに(後半から)戸田が投入されたというわけです。そして、後半がはじまって1分も経たないタイミングでの爆発スライディングタックル。

 その直前のテレビ画面で、(シティーにとっての)左サイドへボールがクリアされたシーンの端っこに、戸田が爆発ダッシュをスタートして寄せていくシーンが映っていました。その直後に画面がスイッチし、左サイドで最初にボールに追いついたマンチェスター選手が大写しになる。その瞬間、「よし、来るぞ!」なんて叫んだものです。そして「よ〜〜しっ!」なんてネ。戸田が、ズバッ!というスライディングタックルを決めたのです。「それだ、それだ!」。そんな奇声を発しながらテレビ画面に釘付けになりました。

 ファールにはなったけれど、相手に怪我させることなく見事にボールに「も」触り、相手の攻撃をストップした! 次シーンは、レフェリーの注意に、余裕をもって肩をすくめてみせる戸田。そこには、私が抱いているイメージそのままの戸田がいました。まさに、強烈な意志に裏打ちされた自分主体の積極プレー。

 守備こそプレーの基本。最初のディフェンスプレーがうまくいけば、確実に次につながりますからね。そして(そのタックルで、自信と確信のレベルを高揚させたと思っている湯浅なのです)、攻守にわたって「安定したプレー」を展開する戸田。彼もまた、最初のワンプレーの重要性を、体感として深く理解しているということです。

 安定プレー。この日の戸田は、まず中盤ディフェンスでの穴埋め作業に徹することからゲームに入っていきます。味方とのポジショニングバランスを取りながら、次のパスを狙いつづける。マークを外された後に粘り強く追いかけ、激しいけれどもフェアなタックルを仕掛ける。二度ほど、見事なスライディングタックルで相手からボールを奪い返したシーンを目撃しました(後方から追いかけ、身体を預けたスライディングタックル=ノー・ファール!!)。

 また、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する、素早く迫力のあるチェック作業(猟犬プレー=ディフェンスの起点プレー!)も目立ちに目立っていました。そんな戸田の「動きのあるディフェンス」が、仲間たちにとって大いなる刺激にならないはずがない。サッカーは、有機的なプレー連鎖の集合体。一人の爆発的な勝負アクションは、周りの味方の「その次」を狙うという連鎖アクションを誘発するものなのです。

 後半の中盤すぎまでのスパーズは、前半とはガラッと違うダイナミックなプレーを展開するようになりました。まあ戸田だけではないでしょうが、少なくとも彼の忠実な爆発アクションが、味方の「気のダイナミズム」を活性化する大きな要因の一つになったことだけは確かでした。

 攻撃では、もちろんシンプルな安全プレーから入ります。味方がボールを奪い返したらすぐにスペースへ動き、パスターゲットになる。最初の10分くらいは、フリーなのに、まったくパスが回されてきませんでしたが、そんな「信頼醸成段階」を過ぎた後は、どんどんとパスが回されてくるようになります(ボールがないところでの動きがいいことの証!)。そして、シンプルに展開パスをスタートラインに、たまには空いた前のスペースをドリブルで仕掛けていったり(そこからのワンツーは、惜しくも成就せず!)、サイドチェンジパスや勝負のタテパス(正確なロングパス)を送ったり、はたまたマーク相手を背負いながらのドリブル突破にトライしたりと(そのシーンでは簡単に潰されてしまいましたが・・)、どんどんとリスクチャレンジレベルを高揚させていくのです。

 そんな、自身でスクリプト(脚本)を書いていたに違いない「段階的なゲームへの入り方」にインテリジェンスを感じます。

 たしかに、レベルを超えた才能に恵まれているわけではない戸田。それでも、攻守にわたって自ら仕事(汗かきプレー!)をさがしつづける強烈な意志(高いセルフモティベーション能力=高質なインテリジェンスと強い精神力)、素晴らしい決断力と吹っ切れた実行力など、その「実効価値」は、スパーズにとって確実にプラスでしょうし、この試合でのプロセスのように、すぐにでもチームメイトたちからの信頼を勝ち取ることもできるでしょう。期待が高まりつづけます。

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 さて明日は、チャンピオンズリーグの勝負マッチ。まずは、バルセロナ対ユーヴェントス。楽しみです。

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 最後に、オートバイの世界選手権「モト・グランプリ」で活躍していた加藤大治郎選手が逝去したことについて。

 同じくスポーツに関わる者として、一ファンとして、また同じ父親として、彼の死を、心から悼みます。合掌・・




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