トピックス


ヨーロッパの日本人・・興味深いコンテンツが山積みでした・・中田・中村、そして戸田・・(2003年4月28日、月曜日)

さて、レッジーナ対パルマ。両チームともに、昨日レポートしたブンデスリーガ(ハンブルガーSV対ニュールンベルク)と同じような状況にあります。来シーズンのヨーロッパ舞台(特にチャンピオンズリーグ)を目指すパルマ(まあ、勝ち点差を考えれば、難しいでしょうが・・)。降格リーグでのギリギリの勝負マッチを闘うレッジーナ。このゲームでは、中田英寿と中村俊輔の両人ともに先発です。さて・・。

 ということで、試合は、とにかくすごいぶつかり合いの応酬になります。特に、両チームの最前線のキーパーソン(ターゲットマン)であるボナッツォーリ(レッジーナ)とアドリアーノ(パルマ)に対する厳しいタイトマンマークは熾烈を極めました。ボナッツォーリをマークするのはパルマのフェラーリ。アドリアーノを潰しにかかるのは、レッジーナのフランチェスキーニ。この両ストッパーともに、最後まで、かなり効果的に相手トップを抑えつづけたのです。だから両チームともに最前線にポイントができない。だから、どうしてもコンビネーション活用した仕掛けを展開できない。

 全体的には、ホームのレッジーナが、サバイバル心理パワーをバックボーンに押し込んでいくという展開です。でも、流れのなかではどうしてもチャンスを作り出すことができない。組み立てがなく、ド〜〜ン!と最前線へパスを飛ばし、そこからガムシャラに(個の勝負で)仕掛けていくレッジーナ・・。タテパスのターゲットイメージは、もちろんボナッツォーリなのですが、前述したように、そこが、安定したパルマ最終ラインに抑えられていることから(そこでのキープと「落とし」を演出できないから)、簡単には流れのなかでチャンスを作り出すことができないというわけです。

 それに対しパルマ。彼らの場合も、トップが抑えられていることで、仕掛けでのボールの動きは途切れがち。それでも、最前線が、レッジーナよりはボールをキープできるのは強みです。たしかにムトゥーとアドリアーノは、こんな潰し合いの展開ではチカラを発揮する・・。そして、この二人をサポートするように、中田やフィリッピーニだけではなく、たまにはジュニオール等の後方の選手たちもタイミングよく絡んでいくことで、攻撃の実質的なクオリティーは、明らかにレッジーナを凌いでいると感じます。

 だから流れのなかで作り出すチャンスの質はパルマの方が明らかに上。それでも、ゴールの近くまで迫る頻度では、勢いが乗ったレッジーナに軍配が上がる。まあ、そんな視点でも興味を惹かれる内容ではあります。それにしてもすごい潰し合い。究極の消耗戦といったところでしょうか。

 レッジーナは、前述したように流れのなかからはチャンスを作り出せないから、基本的にはセットプレー(フリーキックやコーナーキック)がチャンスの芽ということになります。まあ、ボナッツォーリをマークしているのが強者のフェラーリですからね、いくら中村俊輔のキックが正確だとはいえ、直接ヘディングシュートは難しい。だから、そこでのこぼれ球を狙うというわけです。

----------------

 中村俊輔ですが、前半は「下がり目のハーフ」という基本ポジションでプレーしました。でもやはり守備は難しい。「読み」がツボにはまれだアタックのタイミングは合うのですが、スライディングがないから、結局はボールを奪い返せない(一度だけ、素晴らしいインターセプトを成功させましたが・・)。1対1でも不安が一杯(後半には、ムトゥーに簡単に抜かれ、バー直撃のシュートを打たれてしまう!)。またボールがないところで走られたら、まったく付いていけない。だから周りのチームメイトたちは不安で仕方ない。何せ、一番の勝負所である「ボールのないところ」で、不安要素を拭いきれないわけですからね。

 また、組み立てプロセスをコントロールできているわけでもない。何せボールに触れない(パスをもらえない)のですから。もっと「寄って」いかなければ・・、もっとパス&ムーブで、味方に自分のボールがないところでのアクションを「視認」させなければ・・。

 中村が、後ろ気味のポジションからスタートした当初は、ほんとうによく彼にボールが集まりました。そしてそこから(ボナッツォーリへの正確なパスなど)効果的な展開が演出されたものです。とはいっても、それも数試合だけ。それ以降は、泣かず飛ばずになってしまって・・。それも、彼の中盤ディフェンスの実効レベルがあまりにも低いからに他なりません。まあこの試合では、全員が「とにかく前へ」という意識にかられてしまったこともあったわけですが・・。それにしても・・。

 後半は、少し前へポジションを上げた中村。ただ、彼を経由した「仕掛け」は、ほとんど出てこない。もっと動きまわらなければボールに触れないのに、まだ、止まって横パスを「待つ」という姿勢が目立ちすぎてしまって・・。

 それでも、レッジーナの、流れのなかからのベストチャンス(唯一の、流れのなかでの決定機!)は中村俊輔が演出しましたよ。後半、相手ペナルティーエリア前まで進出した中村に「横パス」が回され、そこから、素早く、左サイドのディ・ミケーレへ、素晴らしいラストスルーパス(浮き球・・逆回転をかけたストップボール)が出されたのです。フリーでシュートに入るディ・ミケーレ。結局、パルマGKのフレイに防がれてしまいましたが、中村の才能を感じさせる素晴らしいチャンスメイクではありました。

 彼は、持てる才能をチームプレーのなかに活かしていくためのイメージトレーニングを積まなければなりません。あれほどの才能に恵まれているのに・・。

---------------

 さて中田英寿。

 「ここからが勝負所なのに、どうして交代なんだ・・??」。またまた不満が口をつきました。後半30分に、再び中田が交代してしまったのです。不可解・・。もちろん、外部の人間には分からないプランデッリ監督の論理(ロジック)があるのでしょうがネ。

 この試合での中田は、例のごとく、攻守にわたって実効あるプレーを積み重ねていましたよ。もちろん「こんな展開」ですから、彼がイメージするコンビネーションを成就させるのは難しい。相手がタイトに潰しにくるし、だからムトゥーやアドリアーノにしても、より「個のプレー」に奔りますからね。それでも、陰に日向に実効プレーをつづける中田。私の目には、「あの厳しい展開」にしては、グッドパフォーマンスだったと映ります。

 まあ、またちょっと右サイドに張り付きすぎという印象はぬぐえませんがね。もちろんそれが、イタリア式ロジックのチーム戦術だということですが・・。

 このところ、ちょっと中田のことも心配になっています。型(基本ポジションと基本的なプレータスク)にはめ込まれ過ぎ・・もっと自由にやらせてもいいいのに・・彼にはそれが出来るし、それによってチームパフォーマンスも確実にアップするのに・・。

 サッカーの理想型へ近づいていくための絶対的なベースは、自分主体でクリエイティブな「高い守備意識」。中田は、それを備えていると確信しているのですよ。

 ということは、いまの状況は、中田のプレーイメージとイタリア式ロジックとの相克なんて表現できる?! さて・・。

 サッカーの理想型とイタリア式ロジックについては、先日アップした、(チャンピオンズリーグ準々決勝に絡めた)コラムを参照してください。

=============

 さて最後に戸田和幸。

 二試合連続の先発出場を果たしました。それも相手はマンチェスター・ユナイテッド。たしかに故障者やフォームを崩している選手が多いとはいえ、グレン・ホドル監督の「彼をもっと試してみたい・・」という意志を感じます。

 試合は、もう完全にマンUのものでした。内容でも、結果でも。

 とにかく、選手たちの戦術的な発想のレベルが、一回りも二回りも違うと感じるのです。スムーズで大きく、そして常にスペースを活用してしまう活発なボールの動き。もちろんそれは、選手個々の身体的・技術的な能力の高さと、ボールのないところでの高質な動きのクオリティー(高質な戦術的発想)が基盤です。

 緩急のリズムを入れたパス&ムーブも、忠実で効果的。そんなプレーリズムに対して、全員が常に「同質のイメージ」を描きつづけている。だから、フリーで動けば必ずパスが回されて来るという確信を持てる。彼らの高質サッカーの基盤は、その「確信」といえるかも・・。もちろんパスが出てこなくても、何事もなかったかのように次の動きをつづけたり(クリエイティブなムダ走り!)、そのままアクティブに守備に参加していきます。まあ大したものだ。

 そんなマンUですから、前半の立ち上がりから、次々と決定的チャンスを作り出してしまうのも道理。ファン・ニステルローイが、ギグスが、はたまたスールシャールが、勝負のフリーランニングを基盤に、決定的フリーシュートを放ちます。個のドリブル突破と、「ボールがないところでの動きとパスのシンクロ(同期)」がハイレベルにバランスした仕掛け。いや、美しい・・。

 とはいっても、不運もあって実際のゴールを陥れることができない。そして時間だけが過ぎていく。これは、サッカーの神様が・・なんて思いはじめていた後半23分、やりましたよ、影武者が・・。ポール・スコールズ。

----------------

 このゴールシーンには、この試合における戸田の戦術的コンテンツが詰め込まれていましたから、ちょっと詳しく振り返ってみましょう。

 それは、戸田のチャレンジパスのミスからはじまりました。トットナムの左サイドでスローインを受けた戸田が、前線とのワンツーをイメージし(自身の攻め上がりをイメージし)、ズバッというワンのタテパスを出して前方へダッシュします。彼にとってそれは、この試合では初めてともいえる、タテへのリスクチャレンジ(コンビネーション)プレーだったのです。ただ、そのキッカケの「ワンのパス」がミスになってしまって・・。そのワンのパスをインターセプトしたのはベッカム。

 それでも、すぐにカウンターにつながらなかったのはラッキー。何せ、スパーズ(トットナムの愛称)の全員が前掛かりになっていましたからネ。そこから右サイドへボールを運んだベッカムが、次の仕掛けの「起点」になります。

 もちろん戸田も中央ゾーンを戻ります。そして、この日のゲームプラン通りに、後方からセンターサークル付近を上がりつづけるスコールズのマンマークへ向かう・・。

 この日のゲーム戦術における戸田のタスクはこうです(ホドル監督からの指示はこうだったに違いない!)。「トダ、オマエは、ウチが攻めに入っても決して上がらず、中盤の後方に残ってバランスを取りながらスコールズをマンマークしろ・・スコールズが下がっても、前へは行くな・・またヤツらが攻め上がってきても(マンUの攻めの主流が戸田を追い越していっても!)最後までスコールズをマークし、ヤツの二列目からの飛び出しを確実に抑えろ・・またボールを奪い返したら素早くボールを動かすプレーに徹しろ・・それがこの試合でのオマエの主な役割だ・・」。

 そして戸田は、そのタスクを着実にこなしていたというわけです。それでも・・

 先制ゴールを奪われるまで、戸田はスコールズに目立った仕事をさてていませんでした。「これはいいぞ・・スコールズが、フリーで前線に絡んでいけないから、マンUの攻めの勢いはこれ以上増幅しない・・戸田の隠れた貢献度はまあまあだな・・」なんて思っていたのですが・・。

 さて先制ゴールのシーン。右サイドで、まだベッカムがボールをキープしています。そしてルックアップ。次の瞬間、例によって正確な仕掛けのロングパスが前線に送り込まれます。狙うのは、後方から上がってきたスコールズのアタマ。もちろん戸田がマークに入ってはいましたが、そのパスがあまりにも正確だったから競り合えない。そして、スコールズに「流しヘッド」されたボールが、左サイドでフリーになっていたギグスへと飛んでいきます。それが勝負の瞬間でした。

 ボールの軌跡を確認した瞬間、スコールズが勝負の動きに入ったのです。戸田は、ボールの行方を見定めるようにギグスへ視線をやっている。スコールズは、そんな戸田のリアクションまでも正確に計算していた?! 次の瞬間、スコールズが、戸田の視野から「消えた」のです。スッと、空いているファーポストスペースへダッシュするスコールズ。完全にスコールズを見失ってしまう戸田・・。

 ギグスからファーポストサイドスペースへ送り込まれた正確なラストクロス。スコールズの、相手GKのアクションを予測した、地面に叩きつけるヘディングシュート。そしてゲームは終演を迎えました。「やられた・・」と、力なく天を仰ぐ戸田。それは、彼にとって、これ以上ないほどの「体感学習機会」ではありました。何せ、それまで抑えていたスコールズに、まさにピンポイントで仕事をされてしまったわけですからネ。

 どんなに思い通りのプレーができなくても、我慢に我慢を重ねて機会を狙いつづけ、ピンホールチャンスを見逃さずに強烈な意志を叩きつける・・。まさにスコールズは、「世界」を証明したということです。

 この後、攻めなければならなくなったスパーズ監督グレン・ホドルは、戸田ともう一人を引っ込め、代わりに攻撃的な選手を投入します。攻め上がるトットナム。それでも、マンUの堅守ブロックを、そう簡単にこじ開けられるはずがない。そしてロスタイムに入ったところで、逆に見事なカウンターから追加ゴールを奪われて万事休す・・というわけです。

----------------

 このゲームでの戸田は、チームにとって貴重な「戦術(汗かき)プレーヤー」として機能できることを、ある程度は証明できたと思います。また彼にとって、素晴らしい学習機会にもなったはずです。何といっても、相手はマンチェスター・ユナイテッドですからね。

 人は失敗からしか学べないという意味での学習機会・・。

 前半20分にはこんな「失敗」もありました。

 中盤で、スコールズとギグスが左右にポジションを入れ替えます。それに応じて、戸田も、味方とマークを受けわたす(スコールズへのスッポンマークだけではなく、危ないシーンでは、彼のマークを放り出して味方のカバーへ回ったり、スペースへ押し上げてきた相手ディフェンダーをマークするという柔軟なクリエイティブ守備シーンを何度も披露!)。

 そこまではよかったのですが、戸田は、それからの、ギグスが起点になった大きなワンツー(スールシャールとブラウンを経由)のワナにはまってしまうのです。マークをつづけなければならなかったギグスをフリーで「行かせ」てしまい、決定的な仕事をさせてしまった戸田・・(最後はフリーのギグスから決定的パスがファン・ニステルローイへ!)。

 ここでも、自分の失敗をしっかりと認識していたに違いない(?!)戸田が、「フ〜〜ッ!」と溜息をつきながら(?!)遠くへ視線をやっていましたよ。

 ゲーム戦術に忠実に、チームにとって価値のある汗かきプレーに徹した戸田。最後に、前回の戸田コラムの締めフレーズを、ちょっと加工して・・。

 『たしかに、レベルを超えた才能に恵まれているわけではない戸田。それでも、攻守にわたって自ら仕事(汗かきプレー!)をさがしつづける強烈な意志(高いセルフモティベーション能力=高質なインテリジェンスと強い精神力)、高い決断力と吹っ切れた実行力、そして高い学習能力など、その実効価値は、スパーズにとって確実にプラスに違いない・・』。

 失敗は成功の元・・だと期待している湯浅なのです。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]