そのまま交代と言うことになってしまった小野伸二。今シーズンでもっとも重要なゲームの一つなのに・・。何度もグラウンドを拳で叩きつけながら悔しさを表現する小野。ファン・ボンメルの足が「入った」とき、すでに自覚していたに違いない。「これは、ダメかもしれない・・」。落ち着いた雰囲気にあふれるプレーをつづけていたから、残念で仕方ありません。
安定したプレー・・。互いのポジショんバランスをベースにした確実なディフェンス。ボールを持ったときの、自信に満ちあふれた落ち着きと、例によっての正確な組み立てパスやサイドチェンジパス。まあ、前半の20分くらいまでは、お互いに「様子見」という展開だったから、後方からの押し上げも慎重。ということで、攻守にわたって、ボールがないところでのプレーが勝負を決める・・というところまでゲームが白熱してはいませんでしたがね・・。それにしても、本当に残念で仕方ありません。とにかく今は、小野のケガが大事に至らないことを心から願うしかない・・。
フェイエノールトにとってこの「PSV戦」は、チャンピオンズリーグのイスをアヤックスから奪い取るために絶対に勝たなければならない試合でした。逆に、二位のアヤックスに余裕の差をつけているPSVにとっては、負けたとしても、まあリーグ優勝は堅い・・ということで、立ち上がりから、ホームのフェイエノールトが押し込み、チャンスを作りつづけるというゲーム展開になります。もちろん、後方からの押し上げ人数をコントロールしながらの「慎重な仕掛け」ではありますが・・。
それでも決定的チャンスを作り出し、ゴールを奪えたのは、何といってもカルーのパフォーマンスに拠るところが大きかった。この試合でのカルーは、本当にキレまくっていました。多くの場面で彼を抑えなければならなかったPSVのイ・ヨンピョが、何度もウラを取られて置き去りにされる。また、機を見計らったエマートンの押し上げも特筆でした。この両人とも右サイドが基本。フェイエノールトの攻撃では、特に右からの仕掛けが効果的に機能していたのも道理というわけです。
先制ゴールは、ペナルティーエリア中央でパスを受け、マーク相手を回り込むような素晴らしいコントロールを魅せたカルーがファールを受けたことで得たPK。追加ゴールは、カルーの右サイド突破からの見事なラストパス(マイナス気味の折り返し!)が、走り込むファン・ホーイドンクにピタリと合ったことで陥れました。ドリブルをしながらも、しっかりとファン・ホーイドンクの走り込みをイメージしていたカルー。素晴らしい。何度もチャンスを作り出すフェイエに対し、PSVはほとんどチャンスを作り出すことができない。そんな前半の展開は、まさしく、両チームの緊張感の差と表現できるものでした。
それでも、後半立ち上がりのPSVが、フェイエ守備ブロックの一瞬のスキを突いて一点を返してからは(右から左へ、左から右へという二度の折り返しから、最後はケジュマンがシュート!)、寝静まっていたゲームがエキサイティングに変容していきます。PSVの重心が前へ傾いていったのです。さて、ここからが勝負だな・・なんて思っていたのですが、結局この試合でのPSVには、ギリギリの勝負を仕掛けていくための基盤となる緊張感の高揚を達成できなかった。それに必要な心理・精神的なバックボーンが備わっていなかったいなかったということです。やはりサッカーは、本物の心理ゲーム・・。
その後、再びPKで一点を追加したフェイエノールトが(ファン・ホーイドンクのハットトリック!)、PSVの目立った反抗もないままに押し切ったというゲームでした。
ところで、小野と交代したアクーニャ。素晴らしい出来でしたよ。少なくとも守備での実効レベルでは、小野を凌いでいたといっても過言ではない。
一点を返し、フェイエを押し込みはじめたPSVのエネルギーの増幅を抑制できた背景にも、アクーニャの効果的ディフェンスがあったことは確かな事実でした。ボールのないところでの忠実でダイナミックな守備アクション。その多くを、ボール奪取で完結してしまうのです。もちろん「同方向への競り合い」でも、決して後れをとることなく、落ち着いて、激しいディフェンスを魅せる。また、右サイドで抜かれたパーウエをカバーし、爆発的なスライディングでボールを奪い返して前線へ正確なフィードボールを送ったシーンは特に印象的でした。小野にとって確実なライバルになるところまでチームに「慣れて」きたアクーニャ。小野のモティベーションもアップすることでしょう。
さて、第32節まで消化したフェイエノールト。来年のヨーロッパ舞台を争うライバル、アヤックスも、最下位で降格が決まっているグラーフシャープに「7-1」という大勝をおさめ、勝ち点で「1」のリードを保っています。残り二試合。ここからが勝負です。とにかく小野のケガが大事に至らないように・・。
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さてブンデスリーガですが、残り一試合というところまで押し詰まりました(第33節)。
今節のハンブルガーSVの相手は、ホームに彼らを迎え撃つボーフム。ボーフムは、前節で「ブンデスリーガ一部」の残留を決めました。もう何度も私のコラムに登場している、ドイツ・プロコーチ養成コース時代の同期生で、ボーフムの監督、ペーター・ノイルーラーには心からオメデトウといいたい湯浅なのです。たぶんヤツは、来期もボーフムに残るに違いない。今度ドイツへ行ったら、しっかりと「深いハナシ」をすることにしましょう。
基本的には、選手も含めた「現場の人間」とはお近づきにならないというのが私のポリシーなのですが、まあ、クリストフ・ダウム、ペーター・ノイルーラー、エーリッヒ・ルーテメラー等々、「戦友」に当たる連中は別ですし、ヤツらにしても、私とは「本音の深いハナシ」ができるでしょうから・・。もちろん私が、何を、どのように書くのかに対する信頼がベースですよ。
ところでハンブルク対ボーフム。前述したようにモティベーションを極限まで高めるための心理・精神的な背景が「薄く」なったボーフムに対し、ハンブルクはUEFAカップのイスがかかっている。ということで、ゲーム自体は、チームの実力差が明確に現れたという展開になります。
もちろんホームゲームを戦うボーフムにしても、満員にふくれ上がったファンの前で無様なプレーをできるはずがないから、最初の10分間は互角以上に攻め上がってきます。それでもその後は、完全にハンブルクがゲームを支配しつづける。例によってカッチリとまとまった守備ブロックを基盤に、攻撃でも、どんどんとタテのポジションチェンジを演出するなど、ダイナミックに押し上げていくのです。特にマハダビキアがいい。この試合ではバルバレスが出場停止ですからね。その分、攻守にわたるダイナミズムをアップさせなければ・・という気合いを感じるのですよ。そしてハンブルクが、2本、3本と、彼が中心になって決定機を作り出す。でもゴールを割ることはできない。
そんな展開のなか、唐突に、ボーフムが先制ゴールを挙げてしまいます(このところ「唐突ゴール」がやたら多い・・)。
自陣内のフリーキックを(超ロングの一発勝負タテパス!)、クリスティアンセンが、アタマで合わせ、ハンブルクゴールへと「流し込んだ」のです。このシーンでは、「あの」ハンブルクのスーパーGKピーケンハーゲンが、珍しく目測ミスを犯しました。飛び出したまではよかったのですが、ボールに触ることができなかった・・。
もちろんその後は、ハンブルクの勢いが増幅してくる。とはいっても、チャンスは作り出すけれど、ゴールは遠い・・。
そして後半12分、二試合ぶりに高原が登場してきます。この試合ではバルバレスが出場停止ということで先発が期待されたのですが、クルト・ヤーラ監督が選択したのは、オランダ人ストライカー、メイエルの方でした。背が高いパワフルなストライカー。たぶんヤーラ監督は、彼のポストと、その周りでスペースへ動きつづけるロメオのゴールゲットというイメージを描いていたのでしょう。たしかに、いまのハンブルクでは、メイエルほど本格感のあるセンターフォワードはいません。でも・・。まあ仕方ない。
高原が登場したのは、一点リードされ、ガンガンとハンブルクが押し込んでいる状況。だから彼も、ディフェンスには気を遣わず、とにかく最前線に張り出しっばなし。もちろん右サイド、左サイド、中央ゾーンと、変幻自在にね。でも、次のドリブル勝負や、勝負のコンビネーションにつながるような良いカタチでボールを持てない(中盤も含め、ドリブルで進んだり突破トライに入るシーンはほんの数えるほど)。ちょっと下がる動きから決定的スペースへ抜け出すようなクリエイティブな勝負の動きには鋭さがあるのですが・・(二度ほど、マハダビキアとのコンビネーションから、素晴らしいパスを受けました・・決定的フリーランニングと勝負パスのシンクロ!)。
まあボーフムが、人数をかけて守備ブロックを固めていることもあるのですが、「大きく」下がってパスを受けるなどの工夫があれば、もっと頻繁に、良いカタチでボールを持つことができたに違いない・・。もちろんそこから、シンプルにパスをつないでパス&爆発ムーブや、勝負のドリブルチャレンジ!! そんな、高原自身がコアになったコンビネーションは見られず仕舞いということになってしまいました。ちょっと残念。
とはいっても、前述したタテへの爆発フリーランや、左からの正確なクロスなど(メイエルがオーバーヘッドシュート・・それが左ポストを直撃!)、存在感は十分に示しました。
まあ、「天才」ではない高原の場合、攻守にわたって、このような実効プレーを積み重ねていくことで仲間の信頼感とチーム内のポジションを充実させていくという「ステップアップ感覚」が大事だということです。とにかく、高原のプレーには、観ている方が期待をふくらませられるだけの「実効コンテンツ」が詰め込まれている。とにかく、学習機会としても、ブンデスリーガでの高原直泰の発展プロセスに注目しましょう。
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さて最後に、ブンデスリーガの現状を短く・・。
優勝は、もう遙か昔に決着しています。もちろんバイエルン・ミュンヘン。今節でも、シュツットガルトに「2-1」という順当勝利をおさめたのですが、まさに「内容でブンデスリーガをリード」するバイエルンといったところです。来シーズンの(ドイツサッカーという意味合いも含めた!)チャンピオンズリーグでの存在感アップがいまから楽しみなのですが、紆余曲折があった今シーズンのバイエルンについては、連載しているスポナビで、「ドイツサッカーの真髄」というテーマでコラムを書きましたので、そちらを参照してください。
第33節が終了した時点でも、まだ「チャンピオンズリーグ」と「UEFAカップ」へ出場する最後のチームが決まりませんでした。チャンピオンズリーグでは、既にバイエルンとドルトムントが決着。そして最後のイスを、(今節でバイエルンに負けた)シュツットガルトと、高原が所属するハンブルガーSVで争っているというわけです。でもハンブルクの場合は、最終節に負ければ、もしかしたら「UEFAカップ」からもふるい落とされてしまうもあり得るからややこしい(ハンブルクが負け、ヴェルダー・ブレーメンとヘルタ・ベルリンが勝った場合)。
そして「降格リーグ」。ここも、最後のチームが決まるのは最終節の結果待ちということになりました。でも今節は目立った動きがありました。数日前から、クラウス・アウゲンターラーが指揮を執ることになったレーバークーゼンが、1860ミュンヘンに完璧な勝利をおさめ、逆にビーレフェルトが、ローシュトックに完敗したために、16位と17位が入れ替わったのです。
前から、ハノーファー96と同様に、「この試合内容だったらレーバークーゼンは大丈夫・・」だと言いつづけていた湯浅ですから、前節のハンブルク戦で完敗を喫して16位からはい上がれなかったレーバークーゼンにハラハラしていました。何といっても、昨シーズンは「一人」でドイツサッカーのイメージを背負っていたレーバークーゼンですからネ。まあとはいっても、もし彼らが降格した場合、ブンデスリーガの「環境」が、よりポジティブに活性化することも確かだろうから・・。
さて、降格争いは、レーバークーゼンとビーレフェルトに絞り込まれました。最終節は、レーバークーゼンが、アウェーでのニュールンベルク戦で、ビーレフェルトが、ホームでのハノーファー96戦。両チームともに、このゲームに限った「モティベーション背景」が脆弱な相手(ハノーファーは中位が決定、ニュールンベルクは降格が既に決定!)との対戦ということになりました。さて・・。
最終節の結果を受けたコラムは、来週木曜日にアップ予定の「スポナビでの連載」で発表する予定です。
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最後に告知です。5月25日、1800時から、例によって「新宿ロフトプラスワン」において「座談会」が開催されます。私も出演するのですが、それについて詳しい情報は「こちら」から。