トピックス


CL二次リーグ(C組)最終ゲーム・・そのとき、デル・ボスケ監督の心臓が止まったに違いない・・ロコモティフ・モスクワ対レアル・マドリー(0-1)(2003年3月19日、水曜日)

そのとき、レアル・マドリー監督、デル・ボスケの心臓は凍り付いたにちがいない・・。

 ロコモティフ・モスクワ対レアル・マドリー、後半43分のことです。レアルのベンチは知っていた・・もしかしたら選手たちも知っていた?!(その事実関係が知りたい!)。ACミランのホームで戦うドルトムントが、残り10分で決勝ゴールを入れたこと(リードしたこと)を・・。

 CL二次リーグCグループ最終戦は、ミラン対ドルトムント、ロコモティフ対レアルの組み合わせ。ミランの準々決勝進出は決まっていますから、ドルトムントとレアルが、もう一つの「イス」をめぐって競り合うという状況です。

 ご存じのように、前々節では、両者が直接対決しました。場所は、ドルトムントのヴェストファーレン・シュタディオン。そして一点をリードされたレアルが、後半ロスタイム、新鋭ポルティージョの一発で、やっと同点に追いついたというゲーム。その結果レアルが、勝ち点「1」のリードを維持できたというわけです。

 そして前節は、レアルが素晴らしいゲームを展開してミランを「3-1」と粉砕し、ドルトムントも、ホームでロコモティブを「3-0」と一蹴したことで、状況は変わらず(まあその結果は戦前から予想されていたことですが・・)。そして迎えた、ギリギリ勝負の最終節というわけです。

 この試合でのレアルは、勝利を前提とした戦いを強いられました。アウェーとはいえ、ドルトムントの相手であるミランが、既に決勝トーナメント進出を決めていましたからね(サッカーは本物の心理ゲーム!)。レアルは、ドルトムントが最後には勝つ・・ということを大前提にゲームに臨まなければならなかったということです。

 そして案の定、ゲーム残り時間10分というタイミングで、ドルトムントのコレルが先制ゴールを挙げてしまった・・。もちろんその情報は、レアルベンチに届いていたことでしょう。それを選手たちに知らせたかどうかは不明。でも、そのことが知りたい! それは、グラウンド上の現象「以外」で私が知りたい数少ない情報のうちの一つなんですよ。そのことについては、同じような状況で戦われた「J」2001年シーズン・2ステージ最終節のコラム(ヴェルディー対FC東京)を参照してください。

 さて、ロコモティブ対レアル。レアルベンチが震え上がっている・・(百戦錬磨の強者たちだからこその震え・・)。もちろん彼らは知っています。自分たちが演じているかもしれない「悲劇のドラマ」のことを・・。神様のドラマ・・。彼らは、天国と地獄の狭間に押し込まれていたのです。(どこかのメディアで書いたコラムのフレーズ?!)

 そして、ついにやってきました。デル・ボスケ監督の心臓が停止したに違いない瞬間が・・。ロコモティフのフリオ・ゼサールが抜け出し、ゴール前8メートルからフリーシュートを放ったのです。後半43分。それが冒頭のシーンというわけです。

 そんなギリギリの状況に陥ってしまうことを、自らの体感として十二分に知っているデル・ボスケ監督。一点をリードしたハーフタイムには、こんなふうに選手たちを叱咤激励したに違いない・・。「なにがなんでも、もう一点奪ってこい・・それがなければ、必ずオレたちは敗退してしまうぞ!!!」。

 もちろんそれと同時に、守備的ハーフコンビの一人、マケレレに対しては、こんな指示を出す・・。「オマエは、絶対に上がらず、後方からバランスを取れ。周りにも、行け! とか、行くな!! とかいう指示をオマエが飛ばせ!!」。バランスのとれたチームマネージメント・・。もちろん想像ですがネ。

---------------

 ところでマケレレ。数日前のリーガ・エスパニョーラ(アウェーでのビジャ・レアル戦)では、彼に休養が与えられました。ということで、守備的ハーフのコンビは、フラビオ・コンセイソンとカンビアッソ。そしてチーム全体のパフォーマンスが低落してしまう・・。もっとも重要な中盤ディフェンスが、「中盤の汗かきプレーヤー」がいないことで、うまく機能しなくなってしまったのです。マケレレは、まさに「忠実な狩猟犬タイプ」。彼の、ボールホルダーへの素早いチェックや、ボールがないところで忠実なマーキングがあるからこそ、パートナーのフラビオ・コンセイソン(またはカンビアッソ)もうまく機能できるというわけです。マケレレこそ、中盤ディフェンスの起点。レアルでは、マケレレの存在は、ものすごく大きいのです。

 私が言いたいことは、ミッドフィールドにおける「選手タイプの組み合わせ」。ジーコジャパンも同じテーマを抱えていますよね。もう何度も、日本代表のゲームで書いたことですが・・。そんな視点で日本代表を見るのも一興だということです。

 まあ、ディフェンスでの読みやボール奪取テクニックが発展している今の小野伸二だったら、十分に「大人の、ダイナミックバランサー」として機能できるとは思いますが、どうも彼の場合、足があまり速くないから、ボールがないところでのマーキングで振り切られてしまう心配は残りますが・・。

 あっと・・ハナシが逸れてしまった。さてゲーム・・。

--------------

 テレビ中継を見はじめてすぐに、「何だこのカメラマンは!」と怒り心頭に発していましたよ。とにかくボール中心に、半径10メートル範囲しか画面に入れない。もちろん別のカメラが、もっと「引いたアングル」で撮影しているはずですから、これはもうテレビディレクター(画像スイッチャー)の馬鹿さ加減としか言いようがない。頭にくる! これじゃ、サッカーで一番美味しい「ボールがないところでのドラマ」がまったく見えないじゃないか!

 たぶん映像を作っているのは現地テレビ会社なんでしょう。誰も、彼らの仕事を奪うわけにはいきませんからね(まあコスト的な側面もあるのでしょうが・・)。ということは、ロシアのテレビ中継技術はそんなものなのか・・。サッカーのレベルは高いのに・・。それともテレビ局の「体質的」な問題?! まあ仕方ない・・。

 とはいっても、ロコモティブのグラウンドがあまりにもヒドイということで、両チームともに、次、その次までイメージした、素早く、広いコンビネーションを有機的に連鎖させられないから、まあいいか・・。

 こんな状態ですから、両チームともに、各ステーション(ボールホルダー)が、常にしっかりとボールをコントロールすることに「まず」神経を遣わざるを得ないのも道理。当然、次のボールの動きは緩慢になるし、パスも足許へしっかりとつなぐのが基本ということになります。結果として、次のパスレシーバーに対する読みディフェンスもやり易くなるから、ボールがないところでのドラマの質も落ちる・・。やはりサッカーは、良いグラウンドが全ての基盤だということです。グラウンドが良ければ、トレーニングの効果が何倍にもはね上あがりますからね。まあ今更・・でしょうがネ。ちょっと蛇足が多い湯浅ですが・・、ご容赦アレ。

 そんな背景がありますから、この試合でのキーポイントが、個人の局面テクニック(私は、よくエスプリプレー・・なんていう表現を使います)や、攻守にわたって絶対に諦めない強烈な意志ということになります。ラウールが、ジダンが、フィーゴが、フラビオが、そしてもちろんマケレレが、局面での個人プレーの質の高さは言うまでもなく、「意志」の部分でも、中盤で、強烈な意志をふりまきながら必死のプレーを繰り広げている。やはりヤツらは一流だ。

 でもロナウドは・・。こんなゲーム状況ですから、彼の「問題点」が、より鮮明に浮き彫りにされるのも当然の成り行きでした。でもそこはサッカー。決勝ゴールを奪ったのは、そのロナウドだったのです。

 中盤で、ボールを素早くコントロールしたラウールが、タイミング良く、「久々のスペースパス」を右サイドの決定的スペースへ出します。そして走り込んだフィーゴが、ダイレクトで、素晴らしいクロスボールを返し、それがピタリとロナウドのアタマに合った(合わせた?!)というわけです。

 後半は、もちろんロコモティブが押し上げていきます。それを必死に受け止め、総合力の差をみせつけるように押し返していくレアル。全員の「もう一点!」という意志を感じます。それでも簡単にはチャンスを作り出すことができない。逆にロコモティブに、セットプレーや冒頭のシーンなど、2本、3本と、決定的なチャンスを作り出されてしまう。最後の15-20分間は、まさに神様の領域に入っていました。

 あの、百戦錬磨の天才連中があつまったレアルでも、最後の10分間はもう必死の呈でディフェンスをつづけるのです。必死の意味は、前線選手たちの攻守の切り換えに如実にあらわれてくる・・。いや、既に彼らは、守り切ろうとしているから、攻め切るという姿勢が見えないといった方が正しい表現かも。

 そして残り2-3分というタイミングで、ジダンに代わり、カンビアッソが登場します。彼は、もちろん「状況」を知っています。そして仲間たちも、彼を通じてたぶんも・・。そして、なるべく自チームでボールをキープするように・・最後まで攻め切るようなリスクチャレンジはほどほどに、とにかく相手にボールを奪い返されたら、全員が一目散に自陣へ戻る・・というプレー姿勢が、より先鋭化していく・・。とにかく最後の「神様のドラマ」は見応え十分でした。

 テレビ画面には、もう一つの勝負マッチ(ミラン対ドルトムント)の経過が表示されていましたから、とにかくこちらも興奮させられまって・・。あ〜〜面白かった。

 ということで予選「C組」は、チーム総合力からすれば「順当」という結果に落ち着きました。トップのACミランと二位のレアル・マドリーが準々決勝に進出したのです。もちろん情緒的には、ドルトムントが落ちたことは(UEFAカップも含め、ドイツ勢が全滅してしまったことは)ちょっと残念ではありますが、それでもやはりサッカーは「内容」ですからね。心の「別なところ」では落ち着いている自分を見つめていた次第。まあ来シーズンには、再びドイツ勢が存在感を発揮してくれるだろう・・。

 ちなみに、同日おこなわれた予選「D」組でも、「現在」の総合力で優るマンチェスター・ユナイテッドとユーヴェントスが勝ち抜きました。

 さて明日の早朝は、バレンシア対アーセナル。予選B組における地獄の状況は、もう皆さんご存じの通り。お互い、とことん楽しみましょう。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]