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CL準々決勝(4)・・これ以上ないというコンテンツ満載のエキサイティングマッチでした・・マンチェスター・ユナイテッド対レアル・マドリー(4-3)・・(2003年4月24日、木曜日)

さて頂上対決の第二幕。

 この試合では、両チームともに一人の「コア」を欠いています。マンチェスター・ユナイテッドでは、スコールズ(出場停止)。レアルでは、ラウール(盲腸)。あっと・・ベッカムもベンチスタートなのですが、その理由については「??」です。また、復帰したヴェーロンのプレーにも注目。さて・・。

 マンチェスターでは、ロイ・キーンとニッキー・バットがやや下がり目で、ヴェーロンがスコールズのポジションを埋めるというイメージ。レアルでは、マケレレ、グティー、そしてマクマナマンが守備的な中盤ラインを形成し、その前にフィーゴとジダン、そして最前線にロナウドというイメージです。

 まず、はじまってすぐに、両チームのサッカーについて感じたことがあります。「凄い・・高質な個人の才能を備えたプレーヤーたちが組織パスプレーに徹している・・これほど素早く、そして広く、スムーズなボールの動きは、そうそう見られるものじゃない・・選手全員のプレーリズム・イメージが、高質にリンクしている・・まさに、サッカーは有機的なプレー連鎖の集合体という普遍的コンセプトを体現したサッカーだ・・」。

 とにかく、ボールが間断なく、そして大きく動きつづけるのですよ。もちろんそのなかに、美しいトラップやタメのキープ、はたまた前のスペースへの突っかけドリブルなどもミックスしながらネ。

 私はそれをエスプリプレーなんて呼ぶのですが、普通だったら、そんな「個のプレー」が、全体的なボールの動きの停滞につながりそうなものなのですが、彼らの場合は違う。両チームともに、そんな「個のプレー」をも、完璧に組み立てプレーイメージに組み込んでいる。だから、組織プレーから個のプレー、そしてそこからまたまた組織パスプレーへと、どんどんとボールの動きが加速していくのです。サイドでタテ前方に10メートル動いたかと思ったら、斜めに20メートル下げられる。そこから逆サイドへ、ズバッという矢のような40メートルパスが通され、またまたグラウンダーの「キャノン・パス」が中央へ・・。フ〜〜ッ。

 そんな美しい展開力のベースは、もちろん「個の能力」。そんな才能たちが、忠実なディフェンス参加をベースに、ボールを奪い返した瞬間から、活発なボールの動き(相手守備の薄い部分への仕掛け)をイメージしつづけるのです。要は、選手全員にその「リズム」が浸透し、互いの信頼関係が深いから、ボールのないところでの動きが絶えないし、(変化に富んだボールコントロール・リズムであるにもかかわらず)周りの選手たちが、どのタイミングで「次のボールの動き」が出てくるのかを明確にイメージできているというわけです。

 もちろん、彼らの「目標」イメージは、起点(ある程度フリーでボールを持つ選手)の演出だし、具体的な「目的」イメージは「シュート!」。それがあるからこそ、彼らのリズムに乱れが生じない。ボールを動かすこと自体が「目標や目的」にすり替わってしまうというレベルの低い現象は皆無というわけです。とにかく、溜息が出るほど美しく、そして力強い両チームのサッカーに感嘆しきりの湯浅だったのです。

 チームコンセプトの浸透度とチーム総合力が同レベルにあるチームの対戦では、最後は「個のクオリティーの僅差」が勝負を分ける・・。それはフットボールネーションの現場における不文律です。だからこそトップクラブは「個のクオリティー」を求めつづけるのです。もちろん、前述したメカニズムに対する「理解度」も、そのクオリティーに含まれますがね・・。

 身体能力的ファクター、技術的ファクター、戦術的(理解と実践)ファクター、インテリジェンスと心理・精神的ファクター、そしてツキ。それらが高いレベルでバランスした「個のクオリティー」。

 いま、そんな「個のハイクオリティーたち」が、美しく、力強いサッカーを目の前で展開している。幸せを噛みしめている湯浅なのです。

 でもやはり、個のクオリティーの部分では、レアルに一日の長がありそうです。

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 ラウールのいないレアル・・。それでも全体パフォーマンスは、「また違うカタチ」で維持されていると感じます。

 ラウールの特徴は、とにかくボールがないところでの仕掛けプレーの質の高さ。戻ってボールに触り、シンプルに回してまた前へいく・・そして最後は、スッという抜け出し(決定的パスを呼び込む動き!)でパスを受け、シュートへ向けて個の最終勝負に入っていく・・。

 それでも彼の場合は、ドリブルで何人も抜きにかかる・・というプレーは希です。要は、ボールなしの高質な動きとシンプルプレーを基盤にしたストライカータイプだということ。もちろん、シュートに入っていくときの最終アクションはレベルを超えていますがネ。ただこの試合では、そのラウールがいない・・。

 それでも、その「彼がいないゾーン」を、全員がうまく活用してしまうのです。フィーゴとジダンが「前線での起点」になった瞬間、その「イメージ的なスペース」を、マクマナマンやグティーがタイミング良く埋めていく。まさに、「脅威を機会として活用」してしまうレアルというわけです。

 レアルでは、「個」よりも「組織的な戦術イメージ」が優先しているから、誰が出場しても、ある程度以上のチームパフォーマンスを維持することができる。もちろん「最後の仕掛け」では、個の才能が、それぞれの「特徴」を前面に押し出しながら光り輝くわけですが・・。とにかく彼らの(そのチーム戦術的な発想とアイデアの)底知れない可能性を感じていた湯浅だったのです。

 この試合でのマクマナマンは、本当によかったですよ。攻守にわたる実効プレーのオンパレード。もちろん攻撃ではシンプルプレーに徹する。特にマケレレとの、ポジショニングバランスも含む攻守にわたるコンビネーションは抜群でした。そこに、この試合では中盤の底のゲームメイカーてしてうまく機能したグティーが、これまた攻守にわたって実効ある絡みを魅せる。この試合では、この三人の「中盤ライン」がキーポイントだったと思っている湯浅なのです。

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 あっと・・。どうも、ゲームのコノテーション(言外に含蓄される意味)ばかりに注目してしまって・・。まあ、あれだけのコンテンツだから仕方ない・・。

 さてゲームの現象面(特にゴールシーン)を追うことにしましょうか。

 先制ゴールは、ロナウド。最前線のフタが開きはじめていると感じます。まあラウールがいないということも、この試合ではポジティブに作用したようで・・。それにしても、この先制ゴール場面をリードしたジダンとグティーの「ボールの動きの演出」はレベルを超えていました。

 まず、左サイドに張り付いていたジダンへ、寄ってきていたフィーゴから柔らかいパスが回されます。もちろんジダンは、そのパスが来る前の段階から、グティーが、逆の中央右サイド寄りのスペースへ上がっているのを確認している。そしてトラップするなり、ズバッ!という、まさに「キャノン(大砲)グラウンダーパス」をグティーへ回すのです。そしてグティーがトラップしたと同時に(互いの意志がシンクロしたと同時に!)、「最前線のフタ」が爆発ダッシュをスタートする・・。まあこのシーンでは、ロナウドのことを「フタ」と形容するのは失礼ですがネ。

 この時点で、ロナウドを「受けわたして」マークに入ったのはファーディナンド。グティーがフリーでボールを持った関係で(シルベストルがチェックへ行かざるを得なくなったから!)、ロナウドをマークしなければならなくなったというわけです。

 スピードを上げてロナウドへ寄っていくファーディナンド。それでも、まだ立ち上がりの12分ということもあり、ロナウドのスピードに対する感覚的な準備は整っていなかったようで、結局はロナウドのフリーランニングに振り切られてしまう・・。そしてグティーから、ベストタイミング、ベストコースのスルーパスが通されたという次第。

 もちろん、ロナウドが最も得意とする最終勝負のカタチです。「それだよ! このカタチでボールが欲しいんだよ、オレは!!」。ロナウドは、パスを受けながら、そんなことを叫んでいた?!

 それにしてもロナウドのシュートはレベルを超えていました。マンUのGK、バルテーズの動きをしっかりと見定めたニアサイドへのキャノンシュート。いや、凄い!

 ただ前半43分。マンUが同点ゴールを返します。ロングボールを、レアルの両センターバックがヘディングミス。それを拾ったスールシャールが、右サイドからファン・ニステルローイへラストパスを送ったという次第。

 このシーンでは、ファン・ニステルローイへのマークにはマケレレが行くべきだった?! まあ彼は、中央から上がってくるヴェーロンをイメージしていたのでしょう。そしてミッチェル・サルガドが、左サイドから全力でファン・ニステルローイへのマークが急行するも、間一髪とどかなかった・・という同点ゴールでした。それでも、まだマンUは「2点」を奪い取らなければならない・・。

 そんな状況で、またまたレアルが、美しい、本当に美しい(この試合でのベストシーン!)追加ゴールを奪ってしまいまうのです。後半5分のことです。

 マンUペナルティーエリア手前のゾーンで、クルクルとボールを動かしてしまうレアル。横方向が基調ですが、それに「ちょっとしたタテパス」もミックスしていく。もちろんそれは、マンU守備ブロックのイメージの攪乱が目的です。この場合の「攪乱」の目標は、もちろんマンU選手たちの足を止め、ディフェンスの薄い部分を突いていくことです。

 ディフェンダーは、ボール奪取のイメージを抱けなくなったら(狙い目の予測機能がスタックしたら)どうしてもアクションが止まり、ボールウォッチャーになってしまうものなのです。そしてレアルは、まさにその状態を、自分たちが主体になって演出してしまったというわけです。

 いや、本当にすごいシーンでしたよ。何せ、ボールが、「縦方向にもジグザグに移動しながら」右サイドから左サイドまで動いてしまうのですからネ。

 そして「仕上げ」の起点になったのは、もちろんジダン。

 左サイドでボールを持ち、ちょっと突っかけるドリブルをするロベカル。イメージを攪乱されたマンUディフェンダーが、まるで催眠術にかかったように、(ロベカルが意図したとおりに)無為に寄せてくるんですよ。そして例によっての「ワンのパス」がジダンへ送られ、そのディフェンダーが置き去りにされてしまう。

 ロベカルからのワンのパスを受けたジダンは、もちろん「タメ」る。それは、タイミングを計るための「タメ」。ロベカルが、決定的スペースへ抜け出すタイミングを計っているのです。そして最後の瞬間。まさに「このタイミングしかない」という瞬間に、フィーリングにあふれた決定的スルーパスが出されたという次第。まったくフリーで、決定的スペースでボールを持つロベカル。仕掛けプロセスでの「目標イメージ」が、美しく、そして理想的に達成された瞬間でした。

 この瞬間での中央ゾーンの状況もまた注目に値します。そうです。その前段階でレアルが展開した、相手ディフェンダーのイメージを攪乱してしまうクリエイティブなボールの動きが功を奏し、彼らの足が止まっていたのです。スッと、シュートポジションへ押し上げるロナウドへは、誰もマークに寄っていかなかった。いや、行けなかった?! 彼らは、全員がボールウォッチャーになっていたのです。「あの」マンU守備陣が・・。

 それは、それは美しいゴールでした。これで、レアルの「2-1」。ゲームは、その時点で実質的な終演を迎えました。第一戦の結果(3-1でレアルの勝利)・・そしてアウェーゴール二倍ルール・・。

 でもその直後の後半7分、マンUが、またまた同点ゴールを奪います。ヴェーロンのラストパスを止めようとしたボールが、そのままゴールへ流れ込んでしまったというエルゲラの自殺点でした。

 そして後半14分。レアルの「最前線のフタ」が、オレはフタじゃないぞ!という自己主張ゴールを決めてしまいます。ロナウド。彼のハットトリックが完成した瞬間でした。

 中盤の高い位置でフィーゴからのパスを受けたロナウド。もちろんフィーゴは、ロナウドを追い越して決定的スペースへ全力ダッシュをつづけているし、その直前にボールを奪い返したマケレレも右サイドの決定的スペースへ走り上がっている(中盤の高い位置でボール奪取した選手は、必ずカウンターの最終勝負へ絡んでいくというセオリー!!)。

 レアル的なリズムだったら、一度タメたロナウドから(相手守備を引きつけたロナウドから)、ラスト・ファウンデーションパスがフィーゴかマケレレへ回されるのでしょうが、そこは「フタ」ですからネ・・。まあ、パスのタイミングを失ってしまったということもありましたが・・(ちょっと持ち替えたことで、パスコースを消されてしまった!)。ここなんですよ、ロナウドが改善しなければならないプレーイメージは。仕掛けコンビネーションでの、中継プレーが遅い・・。

 まあこのシーンでは、その直後に「ゴール・オブ・ザ・センチュリー」という爆発的なロングシュートを決めたから良かったものの、まだまだ彼は、イメージトレーニングとパス練習を積まなければならないようです。私は、結果さえ良ければプロセス(戦術的な発想の内容)は問わないという姿勢には、基本的に反対なのです。念のため・・。

 それにしても、ロナウドのロングシュートは凄かった。コースが良く、強烈なだけではなく、スッと「ドロップ」までしましたからネ。これじゃ、「あの」バルテーズだってノーチャンスだ・・。

 その後は、やっと登場したベッカムのスーパーフリーキックが決まって再び同点になり(後半26分)、その後にも、勢いを増した(もう行くしかない!)マンUが、カウンターから勝ち越しゴールを決めてしまう。でも結局は・・

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 とにかく、鳥肌が立つような高質コンテンツが詰め込まれた最高レベルの勝負マッチでした。エキサイティングにキーボードを打ちすぎたかも・・。ちょっと長くなりすぎたこと、また例によっての乱文、ご容赦アレ。ではまた。

 あっと・・。今日はこれからいくつかミーティングが入っているのですが、その後、夜にはACミラン対アヤックスの勝負マッチを「録画放送」で観戦する予定です。それまで「結果」は絶対に見ない、聞かない。内容があれば、この試合についてもレポートしますので・・。




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