レアルが展開する、エスプリプレー満載のボールの動き・・、対するマンUの、シンプルで鋭いボールの動きと、サイドからの仕掛け・・、それでも最後の仕掛け段階で感じられる「ヴェーロンの穴」・・、「最前線のフタ」と、それをうまく活用するイメージがどんどんと深化しているレアル(特にラウール!)・・、レアル2点目シーンにおける、次の攻守の切り替わりまでも明確にイメージしてしまうレアル・・、後半、マンUが「3-1」としてからのゲームの流れの転換・・等々。さて・・。
試合は、マンUの軽快サッカーが目立つ展開から立ち上がりました。こねくり回すことなく、シンプルに、あくまでもシンプルにボールを動かしつづけるマンチェスター。それに対し、どうも硬さが目立つレアル。そしてマンUが、二本のチャンスを迎えます。左スローインからのこぼれ球をスコールズが中距離シュート! 次には右スローインからの、ファン・ニステルローイのオーバーヘッドシュート!
それでも、5分もすると、レアルの魅惑サッカーも機能をはじめます。タイミングの良い押し上げが出はじめたことで、ボールも活発に動きはじめたのです。たしかに、ロナウドという「最前線のフタ」がいますから「前後方向のボールの動き」はまだまだ鈍い。彼にタテパスをつけても、どうしてもそこでリズムが遅くなってしまい、素早く次のスペースへ展開するというシーンを演出できないのです。
とはいっても、「小さな」ボールがないところでの動きと、各ステーション(=ボールホルダー)での「小さな」エスプリプレー(相手を惑わすボールコントロールなど)を織り交ぜたレアルの組み立ては、やっぱり超一流。徐々に、中盤でボールを奪い返せなくなり、全体のブロックがジリジリと下がりはじめてしまうマンチェスター・ユナイテッド。
前半12分。相手を十分に引きつけたジダンから、左サイドでまったくフリーになったフィーゴへ優しいボールが送られ、それをフィーゴが、これまたフィーリングあふれるカーブキックで、マンUゴールの右上角へ「送り込んだ」という先制ゴールが決まります。まさに技アリのゴールでした。そしてレアルのゲーム支配傾向も強まっていく。
とはいっても、守備ブロックがユニットになったときのマンUディフェンスは強い。支配はするものの、どうもうまく最終勝負を仕掛けていけないレアル。この時間帯のマンUは、完全にカウンターをイメージしていました。それでもレアルが追加ゴールを挙げてしまいます。前半28分。
フィーゴからジダンへのタテパスが、スコールズにカットされる・・ただスコールズのコントロールがちょっと乱れてしてしまう・・すかさずロベカルが詰める・・この瞬間、ほとんどの選手が「状況ウォッチャー」になっていた・・でも一人だけ「次」をイメージして動き出していた選手がいた・・ラウール・・彼は「もしかしたら」と、彼をマークするファーディナンドから離れるように横方向へ動いたのだ・・そして、ロベカルがスライディングで奪い、こぼれたボールを、スッと寄ったジダンが、ダイレクトでラウールへ!・・。
ジダンが演出した完璧なタイミングとコースの、ダイレクト・ラストパス。受けたラウールは、ファーディナンドのアクションを冷静に見定め、身体を回転させるようなコントールでファーディナンドの当たりをブロックしてドカン! シュートされたボールは、見事にマンUゴールの左隅へ飛び込んでいった・・というわけです。
その後マンUも、カウンターからファン・ニステルローイが惜しいシュートを放ちますが、全体的な内容では、ホームのレアルが完全にゲームを掌握したといった前半でした。
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そして後半4分。マンUが、まさかの3点目を奪われてしまいます。
2点を追い、押し上げるマンU。そのスキを突いたレアルのフィーゴが、カウンターから、ゴールシーンを演出したのです。まさに完璧なカウンター。
爆発奪取で押し上げ、ベストタイミングのタテパスを受けたフィーゴ。右サイドで、マンUストッパー、ブラウンと対峙し、二度、三度とフェイントで振り回します。ゴール前には、ファーポストゾーンにロナウド、中央にはジダンが上がってきています。マンU守備は、5人がゴール前まで戻っている。こんな状況だから(フィーゴが、行くぞ!行くぞ!と突っかける素振りをつづけているから!)、二列目ゾーンに太平洋のようなスペースが空いてしまうのも道理。そして切り返したフィーゴが、そのスペースへ入り込んだラウールへの、完璧な横パスを決めたというわけです。
ワントラップで得意の左足へボールを運び、間髪を入れずにシュートを放つラウール。ゴールまでは約20メートル。放たれたシュートは、まさに糸を引くように、マンUゴールの右隅へ吸いこまれていきました。マンUのGKバルテーズも、まったくノーチャンスというスーパーシュート。見事!! 戻っていたニッキー・バットの、ラウールへの「詰め」も甘かった?!
さてこうなったら、マンUは何も失うものはない。そして、吹っ切れた積極プレーを展開しはじめるのです。それが、ゲームペースの転換点でした。
マンU選手たちの吹っ切れたプレー。それまで、レアルの魔法に翻弄されるように、意識が押され気味になっていたマンU選手たちが、再び自分主体でリスクにチャレンジしはじめたのです。もちろんその背景には、3点リードしたレアルの心理パワーが停滞気味になっていったということもあります。
前半の立ち上がりに魅せた積極サッカーを取り戻したマンU。ロイ・キーンを中盤の底に、その前にポジショニングするベッカム、スコールズ、バット、ギグス等が、まさに縦横無尽のポジションチェンジで押し上げるのです(まあ例によってベッカムは、右サイドに張り付き気味ですがね)。もちろん両サイドのシルベストルとガリー・ネヴィルも、その波に乗るようにどんどんと押し上げていきます。スパッ、スパッと、シンプルに動きつづけるボール。
そして後半7分、やってくれました。マンUが一点を返したのです。こうでなくっちゃ。なんたって頂上対決なんだから・・。
右サイドのベッカムが、後方から(注意深く?!)押し上けてきたロイ・キーンへ横パスが送られます。もちろんベッカムは、すかさず中央ゾーンへ。これで空いた右サイドスペースへ押し上げたガリー・ネヴィルへ、キーンからの優しいファウンデーションパスが回されたのです。ボールがないところでの動きとシンプルなボールの動きが連鎖した組織的な崩し。そしてネヴィルからの鋭いクロスをギグスがダイレクトでシュートし、レアルGKカシージャスが弾いたところをファン・ニステルローイがアタマで押し込んだという次第。
この一点は大きかった。何せアウェーゴールは、ホーム&アウェーの二試合が終了した時点で、勝ち点、得失点差が同じになった場合、「二倍」にカウントされますからネ。まさにそれは、マンU選手たちの脳裏に、大きな希望の光が射し込んだ瞬間だったというわけです。「そうだ! もう一点取れば(3-2にすれば!)、次はオレたちのホームだから、この試合に負けたとしても、状況は絶対的に有利になる!!」。
そこからのマンUの勢いは、凄かったですよ。レアルを押し込んでいくというわけではないのですが、それでも、ここぞ!の押し上げが鋭いから、チャンスを作り出すことができる。そしてファン・ニステルローイ、ベッカム等が、二度、三度と決定機を迎えるのです。
それは、レアル守備ブロックが心理的に押され、様子見(アナタ任せ)のプレー姿勢になってしまっていた時間帯でもありました。「あの」マケレレでさえも、マンUのボールの動きを目で追ってしまうのですからネ。やはりサッカーは本物の心理ゲームだ・・。
ここで私は、マンU中盤のリーダー、ロイ・キーンのプレーに目を凝らしていました。そして思ったものです。さすがにキーンだ・・押せ押せで、重心が前にかかっているチームのなかで、周りへの指示も含め、うまく前後のバランスを取っている・・。
それでも結局は攻めきれず、3-1で初戦を落としてしまったマンチェスター・ユナイテッド。
今シーズンのチャンピオンズリーグ決勝は、次のリターンマッチが行われるマンUのホームスタジアム、オールド・トラフォードに決まっていますからネ。リターンマッチは、まさに「世紀の闘い」になること請け合いなのです。あ〜、すでに今から、血が沸く、肉が躍る。
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ところでロナウド。やっぱり最前線のフタ。それも、個のチカラで突出したものを持っているから始末が悪い。デル・ボスケ監督は、彼のプレーイメージを理想方向へ発展させるという作業をギブアップしてしまったんですかネ。一時期は、メディアを活用して刺激を与えようとしていたようですが・・(その経緯については、過去のコラムを参照してください)。
この試合の数日前に行われたリーガ・エスパニョーラ、レアル対バジェカーノ戦でも、ロナウドの出来は最悪でしたよ。一時期は、「あっ、フタが開きはじめたかも・・」なんて思ったこともあったのですが・・。まあその代わりに、「フタ」を逆用する攻めに鋭さが加わってきたわけですがネ。もちろんそれが可能なのは、ロナウドの単独突破力がレベルを超えているからに他ならないわけですが・・。
ラウール、ジダン、フィーゴ。そして、守備的ハーフの一人(マケレレは戻っていますから、この試合ではフラビオ・コンセイソン)と両サイドのロベカルとサルガド。彼らが展開するサッカーは素晴らしいのですが、どうもタテ方向に限界があるから・・。
バジェカーノ戦でも、ロナウドに代わってモリエンテスが出場した瞬間から、攻撃の変化という視点で、ガラッとレアルの展開が好転しましたからネ。さて、これからどうなることやら・・。