ということで、プリントメディアで発表した以前のコラムを載せておくことにしました。たくさんあるのですが、そのなかからいくつかを選んで・・。
ではまず、サッカーマガジンで、2001年2月に発表したコラムから。抽出したシーンは、ベルギー&オランダ共催だった2000年ヨーロッパ選手権(EURO2000)の準決勝、オランダ対イタリア戦。
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ビシッ! イタリア代表のトッティーが、ローマのチームメイトでもあるデルベッキオへロングパスを飛ばす。自陣のペナルティーエリア付近にいたトッティーが、オランダ、ファン・フォッセンのミスパスを奪い、ダイレクトで、正確なラストパスを最前線の決定的スペースへ送り込んだのである。
蹴る寸前トッティーは、一瞬ではあったが、デルベッキオの「意志」を確認するようにトップへ視線をはしらせた。デルベッキオへの「スタートサイン」・・。それは、チーム全員がシェアする「鋭いカウンター感覚」に支えられたロングパスだった。2000年ヨーロッパ選手権、準決勝、イタリア対オランダ。その延長前半9分に飛び出した決定的カウンターのシーンである。
パスが、全力で走るデルベッキオの眼前スペースに落下する。マークするスタム、フランク・デブールは完全に遅れている。バウンドするボールを、一回のヘディングだけで、正確にシュートスポットへ「運ぶ」デルベッキオ。追いついてきたフランク・デブールに、ユニフォームを引っ張られ、手で押さえられてもなお、デルベッキオの体勢は崩れない。まさに「シュートへ向かう極限の集中力」。そして、強烈な左足シュートが、オランダゴール右隅へ放たれた。そう、チームメイトたちの「我慢を積み重ねた期待」を乗せるかのごとく正確なシュートが・・
「アッ、ゴールデンゴールだ!」。誰もが、確信したことだろう。オランダゴールの右ポスト内側へ向け、寸分たがわぬグラウンダーのシュートが突き進む。だがボールは、オランダGK、ファン・デルサールが伸ばした左足の「つま先」で僅かにコースを変えられ、ゴール右へ転々と外れていった。
腰に手を当て、「ウソだろ、あのシュートにさわれたのかい・・」と、放心した顔で天を仰ぐデルベッキオ。トッティーの一瞬のルックアップ、デルベッキオの、刻み込まれたイメージに誘われるようなスタートタイミング、そして「ワンタッチでシュートへ!」というボールコントロールなど、美しいカウンターを支えたそれら全てのプレーの底流には、堅実に守りワンチャンスを確実にゲットするというチーム戦術に象徴される「イタリア的リアリズム」が脈々と流れている。
イタリアは、押し込まれるなかで二本のPKを取られ、ザンプロッタも退場になった。それでもなお、集中を切らさない鉄壁守備をベースにワンチャンスを狙いつづけた。そして、「イタリアのツボ」とでもいえる三本の決定的カウンターシーンを作り出した。大したものだ。
結局、PK戦で決勝まで駒を進めたイタリア。独特の「リアリズム」に支えられた勝負にこだわるゲーム運びは、どんなに揶揄されようと、世界中の「現場」にとって、これからも大いなる脅威であり続けることだろう。(了)
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また2002年10月には、今シーズンの「CL一次リーグ」、ユーヴェントス対フェイエノールトの試合から、下記のようなシーンもピックアップしました。これもまた、サッカーマガジン用の連載記事です。
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はね返されたボールが、ダーヴィッツへわたった。フェイエノールト中盤が入れた最前線へのクサビパスをカットし、それがダーヴィッツへ回されたのだ。それが、カウンターのシグナルだった。チャンピオンズリーグEグループ第五節、ユーヴェントス対フェイエネールト。その後半24分に、ユーヴェが追加ゴールを挙げたシーンである。
素早く右サイドのネドビェドへパスを回し、そのまま中央ゾーンを上がるダーヴィッツ。同時に、右サイドからはカモラネージ、左サイドからはディ・ヴァイオが、全力ダッシュで流れに乗る。完璧なカウンターシチュエーション。
ドリブルで突っかけていくネドビェドが、一度なかへ切り返すことで右サイドにスペースを作る。そして、マークを振り切ってスペースへ上がりつづたカモラネージへのタテパスを通す。それが勝負の瞬間だった。まったくフリーでボールを持ったカモラネージが、ニアポストの決定的スペースへ飛び込んだディ・ヴァイオへのラストパスを決めたのである。ディ・ヴァイオがスタートしたのは、ダーヴィッツよりも後方のゾーン。最後まで、全力スプリントの勢いが落ちることはなかった。全員が、はじめから最終勝負イメージを明確にシェアしていたのである。まさに、イタリアのツボ。
この速攻がスタートする直前、フェイエノールトは、最終勝負を仕掛けていこうとしていた。この時点でユーヴェは、きれいなスリーラインを作っていた。最前線はデル・ピエーロ。中盤ラインは、ダーヴィッツ、カモラネージ、ネドベド、そして前線から戻ったディ・ヴァイオ。高い位置でのディフェンスを展開しながら、研ぎ澄まされた猛禽類の感覚で「攻守の切り換え」を狙っている。
この試合でのフェイエネールトのボールポゼッションは53%。ユーヴェのそれをかなり上回っていた。ただシュートの数では完全に凌駕されていた。先制ゴールは、前半4分にユーヴェが挙げた。だからフェイエネールトは攻めざるを得なかった。たしかにチャンスも作ったが、それに輪をかけた数の決定的ピンチにも陥った。フェイエノールトは、「ツボ」だと知っていながらも仕掛けて行かざるを得なかったのだ。まさに、イタリアサッカーがもっとも得意とするゲーム展開。
「前後左右」のポジショニングが精密にバランスした組織ディフェンス。余裕をもって相手攻撃を受け止めながらも、上がり目の中盤と最前線は、常に、次の素早い攻めにターゲットを絞っている。相手守備は、人数はある程度そろっていても、互いのポジショニングバランスが整っていないことで「受け身に対応」せざるを得ない。それを明確にイメージして仕掛けていく必殺のカウンター。守備から攻撃への流れに対するイメージが見事に統一されていると感じる。
ユーヴェだけではなく、予選G組でも、ACミランがダントツのトップを走っている。今シーズンのチャンピオンズリーグ。磨きのかかったイタリアのツボが、久々に存在感を高揚させる予感がする。(了)
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そして、今シーズンのチャンピオンズリーグで準決勝に残った4チームのうち3チームがイタリア勢ということになってしまいます。
イタリア代表(イタリアのツボの集大成)が存在感を示した近頃の国際大会としては、何といっても「2000年ヨーロッパ選手権」を挙げなければならないわけですが、それについては、拙著、『サッカーを「観る」技術 スーパープレー5秒間のドラマ(新潮社)』も参考にしていただければと思います。また、先日アップした「チャンピオンズリーグ・コラム」や、ヨーロッパ選手権の地域予選「イタリア対フィンランド戦レポート」でも、イタリアのツボに焦点を当てました。
磨きのかかった「イタリアのツボ(リアリズム・サッカー)」。極限の勝負志向サッカーなんて表現できますかネ。それはそれで見所が山積みなのは確かなのですが・・。