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チャンピオンズリーグ準決勝(4)・・攻守にわたって素晴らしく「堅い」ゲームを展開したユーヴェントスの完勝でした・・ユーヴェントス対レアル・マドリー(3-1、ユーヴェが決勝進出!)・・(2003年5月15日、木曜日)

試合後、眠気との戦いに負けてしまいました。ということで、一度ベッドに入ってからのショートレポートということになった次第。

 それにしてもユーヴェントスは、素晴らしいゲームを展開しました。キーパーソンは、ネドビェドとダービッツ。

 守備では、レアルのボールの動きに振り回されることなく、互いのポジショニングバランスを維持しつづけ、勝負所では、ピタッ、ピタッと「仕掛けの起点」を、粘り強く潰しにかかります。ボール絡みでも、ボールのないところでも。決して、安易にアタックを仕掛けることなく、最後の最後までスッポン守備をつづける。

 ゲーム戦術的なディフェンスイメージは、こんな具合でしょう。

 レアルの組み立て段階では、決して互いのポジショニングバランスを崩さず、忠実に、素早くボールホルダー(次のパスレシーバー)へのチェックに入る・・そこでは決して安易にアタックを仕掛けない(次の仕掛けにつながる、ディフェンダーの置き去りシーンは決して作らせない)・・マークの受けわたしは、基本的にはボール絡みゾーンの外で・・それ以外は、必ず最後までボールの無いところでのマークをつづける・・後方の選手は、タテへのボールの動きに常に狙いを定めるが、決して「追いすぎる」ことのないように・・相手のワンツー突破では、ワンのパスを出してタテへ抜ける相手に絶対に付いて戻る・・また、フィーゴやジダンのドリブルシーンでは、安易にアタックを仕掛けるのではなく、まず相手が「抜きにかかる体勢」に入るまで粘り強いマーキング維持をイメージし、勝負アクションに入ったところで追い込んでいく(勝負アクションを誘発させるマーキング!)・・等々。

 この試合では、特に「フィーゴ潰し」が効いていた。それを演出したのが、ユーヴェ左サイドバックのビリンデッリとダーヴィッツ。特にダーヴィッツが凄かったですよ。

 そんな守備イメージを徹底するユーヴェ。だからレアルのボールの動きも、どうしても「ヨコ・ヨコ」の傾向が強くなってしまだけではなく、「エスプリプレー」もうまく機能させられない。そのことで、ユーヴェ守備ブロックは、常に相手ゴール方向を(前方を)向いた広い視野で対処できる。

 レアル選手たちは、そんな状態のことを、「相手はスペースを与えてくれない」と表現するのでしょう。まあ、当然ゲーム前から予想されたことではありますが・・。

 レアルがイメージするのは「相手アタックアクションの誘発」。ボールを動かすことでも相手が「乗って」こないときは、フィーゴやジダンが、ドリブルでの「突っかけ」や、ボールを「さらす」キープなど、個の才能を活かした「エスプリプレー」で、相手のアタックマインドを誘発し、その(守備での)仕掛けアクションを逆手にとって一人のディフェンダーを置き去りにし、「ウラ・スペース」への勝負の仕掛けに入っていくというわけです。でも、ユーヴェは「乗せられ」ない・・。さすがに強者です。

 第一戦でも、「1-1」の同点で迎えた後半は同じような「構図」になっていました。どうしてもユーヴェ守備ブロックを振り回すことができず(相手のポジショニングバランスを乱すことができず)、うまく仕掛けていけないレアル。だから最後は、ユーヴェ守備ブロックの手前からの中距離シュートが多くなってしまう。まあ第一戦では、ロベカルのキャノンシュートが決まりましたがネ・・でもこの試合では・・。

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 そしてユーヴェの攻撃。

 例によって、素早く、シンプルに相手ゴールへ迫っていきます。仕掛けの流れがはじまったら、速い、速い。組み立て・・というか「仕掛けの準備段階」といった方が正確かもしれませんが、とにかく「それ」と、仕掛けのスピードアップとのメリハリが本当にはっきりしている。基本的には、前の三人(トレゼゲ、デル・ピエーロ、ネドビェド)をサポートするように交代で押し上げていくのは、ダーヴィッツと、右サイドのチュラムだけ。もちろん、レアル全体が下がったときやセットプレーのときは、後方の選手たちも攻撃ゾーンに入ってきますがね。

 とにかくユーヴェントスの攻撃では、「後方のダイナモ」ダーヴィッツと、「前線のダイナモ」ネドビェドが、明確なコアです。この二人によって、ユーヴェの仕掛けのほとんどが演出されているといっても過言ではありません。

 特に、ネドビェドのボールが無いところでの仕掛けの鋭いこと。それを後方からコントロールしているのがダーヴィッツ・・という構図ですかね。

 ここでレアルの守備ブロックに視点を移しましょう。うまく機能していなかったこの試合でのキーワードは、何といっても「マケレレの不在」(怪我だそうです)。「タラレバ」のハナシですが、我慢してください。

 このゲームでは、フラビオ・コンセイソンとカンビアッソが守備的ハーフのコンビを組みました。ただ「そこ」が、実効ある機能性を発揮していない。要は、勝負所で、相手の仕掛けの起点になる、ボールのないところで勝負のアクションに入った相手選手を最後まで抑えるディフェンダーがいないということです。

 ボールがないところで仕掛ける相手の中心選手は、もちろんネドビェド。何度ありましたかね、フラビオ・コンセイソンやカンビアッソが、ネドビェドを「行かせて」しまったシーンが・・。ゲーム立ち上がりの時間帯だけでも、数回。

 例えば前半10の、デル・ピエーロのフリーシュート場面。クロス(ラストパス)を通したのは、右サイドで一瞬フリーになったネドビェド。ただその前の、ネドビェドのフリーランニングを「行かせて」しまったのはカンビアッソでした。まあこのシーンでは、最後のシューター(デル・ピエーロ)に対するイエロのマークが甘かったこともありますが・・(この試合では、特にイエロの衰えが目立つ、目立つ・・)。

 また先制ゴールのシーンでも、起点になったのは、右サイドでまったくフリーになったネドビェド。その直前シーンで、素早い横パスがつながれるのと同時に右サイドスペースへ走り上がったネドビェドは、まったくフリーでした。ここで、彼に付いていかなければならなかったのはフラビオ・コンセイソン。でも結局はボールウォッチャーになってしまって置き去り。

 フラビオ・コンセイソンにしてもカンビアッソにしても、はたまたレアル最終ラインにしても、マケレレがいるからこそ安定したプレーを展開できていたということです。私は、マケレレのようなタイプの守備的ハーフを、「守備の起点プレーヤー」と呼びます。

 相手の仕掛け段階で、二列目から上がっていく選手を「最後」までマークしつづける等、そんな忠実でクリエイティブな「守備の起点プレー」があるからこそ、周りの味方が、カバーリングや次のボール奪取ポイントをイメージでき、守備ブロックが安定するというわけです。

 そのような「ディフェンス起点プレーヤー」は、本当に貴重な存在なのですよ。もちろん今のジーコジャパンでもネ。あっと・・これはテーマが違う・・。

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 ユーヴェの追加ゴールシーンでのデル・ピエーロの「単独アクション」は見応え十分でした。レアルが「さあ攻め上がるぞ」と出したタテパスがカットされ(チーム全体が前へ重心を移動している状態でのパスカット!)、そこからのダイレクトパスが最前線のデル・ピエーロへ通ってしまう。見事なトラップからのコントロール。これで、イエロとの一騎打ちという状態になります。ここで、シュートまでイメージして勝負を仕掛けなければデル・ピエーロじゃない(イタリアのツボが完結しない!)。

 そして、右へ左へとボールを動かすことで、完全にイエロを振り回し、最後は、ネコの額のような間隙をぬったシュートを、レアルゴール左隅へ決めてしまうデル・ピエーロ。素晴らしいゴールでした。

 さてこれでユーヴェの「2-0」。そして後半もまた同じような展開がつづくことになります。ポールポゼッションでは上回るレアル。それに対し、カッチリとした守備ブロックを基盤にカウンターを仕掛けていくというイメージでプレーするユーヴェ。試合の全体的な流れをコントロールしているのは、明らかにユーヴェントスということです。「次の一点」をめぐる、極限の緊張感が支配するゲーム。

 後半7分、フラビオ・コンセイソンに代わってロナウドが登場してきます(グティーが守備的ハーフの位置へ)。そして、ロナウドが倒されてPK(後半21分)・・でも、フィーゴが外してしまう(ユーヴェGKブッフォンの読み勝ち!)。このPKは、レアルにとって起死回生の一発になるはずだったのに・・。

 そしてその7分後に、ネドビェドのカウンター一発が決まってしまいます(これで、ユーヴェの3-0!)。このシーンでは、ザンプロッタの一発タテパスを追うネドビェドと、レアル最終ラインの重鎮イエロとの「走りっこ」になってしまって・・。スピードで、イエロがかなうはずがない・・。まあ、そんな状況になった時点で勝負ありということでしょう。

 さて、これで「延長」はなくなった。何せ「3-0」ですからね。「3-1」でもユーヴェが決勝へ進出し、「3-2」以上ではレアルが・・。まあ、レアルがこれ以上失点しないというのが前提ですが・・。

 ただゲームの流れには、「終演」という雰囲気が漂いはじめていました。何といっても、レアルがユーヴェ守備ブロックを突破できる雰囲気さえなかったのですから・・。それでも、いま一度のドラマが訪れることになります。後半43分。中盤でボールを持ったラウールから、最前線で決定的スペースを狙っていたジダンへ向けたラストパスが通り、ジダンの落ち着いたシュートが決まったのです。これで「3-1」。さて・・。

 パスが出された瞬間、誰もが「オフサイド?!」と思ったに違いない・・。でも、ジダンのスタートタイミングは絶妙でした。もちろんユーヴェ守備ラインも、ジダンの存在を知っていますから、最終勝負のラインコントロールで、オフサイドラインを保つ・・。それが裏目に出てしまったのです。

 ラウールとのアイコンタクトでパスがくることを確信したジダンは、正確にラウールのキックモーションのリズムを測り、最後の瞬間に飛び出したのです。パスコースも絶妙。そしてジダンの落ち着いたシュートも秀逸。その直後に、ロスタイムが「5分」もあることが表示されたというわけです。もう一点取れば、レアルが決勝へ・・。いま一度のドラマがはじまりました。

 守備を捨て、中盤での組み立ても捨て、ひたすら最前線へ(勝負パスも含む)ロングボールを入れるという仕掛けをつづけるレアル。これは効果的でした。ユーヴェ守備ブロックのプレーイメージの中心は、中盤ディフェンスですからね。そこを割愛し、グラウンドのどこからでも「直接的」に最前線での最終勝負を挑んでくるレアルだから、ユーヴェ守備も受け身の姿勢になってしまうというわけです。

 そして延長1分。レアルに決定的チャンスがめぐってきます。後方から、最前線に上がったエルゲラへ向けたロングボールが飛ぶ・・それをヘッドで、前にいるフィーゴへつなぐエルゲラ・・(ペナルティーエリア内だから相手はファールができないことで)ギリギリのドリブル勝負を仕掛け、そこから決定的なクロスをファーポストサイドへ返すフィーゴ・・そこにはロナウドが待ち構えていたけれど、結局わずかに届かずユーヴェ選手にヘッドでクリアされてしまう・・レアルのベンチでは、全員が「空を仰ぐ」・・フ〜〜ッ・・。

 その数十後には、ユーヴェが攻め上がり、ザンプロッタが惜しい中距離シュートを放つ・・よし、これだ!と、押されているばかりではなく、押し上げなければという意識に目覚めるユーヴェ(心理的な悪魔のサイクルに入らないユーヴェ・・サスガに強者たち!)・・その直後には、中盤での、エルゲラ、ラウールが絡むパス回しから、最後はエルゲラから前線のジダンへグラウンダーのタテパスが通る・・ジダンは、そのボールをこねくり回したりせず、後方から押し上げてきたラウールへ、シンプルなバックパスを戻す・・もちろんラウールは、グラウンド全体を視野に入れて上がってきていたから(ジダンはそのことを知っていたからこそ、シンプルなバックパスを戻した!)、逆サイドでロナウドがフリーになっていることをしっかりと視認している・・そして、ジダンから戻されたボールを、ダイレクトで、ロナウドへのラストパスにつなげてしまう・・でも、ギリギリのところでオフサイド!・・このシーンでは、ロナウドへのパスをイメージしていたユーヴェの最終選手モンテーラが、ほんの少しポジションを上げる・・この状況での落ち着いたクレバープレー・・サスガ強者・・フ〜〜ッ・・。

 そしてその1分後・・押し込むレアル・・はね返すユーヴェ・・というギリギリの展開からボールをもったレアル最終ラインのイエロが、勝負のロングパスを、ユーヴェ最終ラインのウラスペースへ送り込む・・夢のようなラストロングパス(このイエロのパスフィード能力は捨てがたいけれど・・)・・そこには、しっかりとラウールが入り込んでいた・・あの距離での二人の「イメージ・シンクロ」・・素晴らしい・・そしてフリーになったラウールのヘディング・・この瞬間、ユーヴェゴール前にはエルゲラも走り込んでいる・・でも結局、フリーでヘディングされたボールは、無情にも、ユーヴェゴールを外れていってしまう・・グラウンドに突っ伏して悔しがるラウール・・「どうしてオレにパスしてくれなかったんだ・・」と両手を広げるエルゲラ・・そしてゲームが、本当に終演を迎える・・フ〜〜ッ!・・。

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 全体的なゲーム内容は、ユーヴェの完勝ということになりました。それでも終盤には、そんな全体的な内容とは関係のない、サッカーの神様がスクリプト(台本)を書いたドラマもあった。あ〜〜疲れた・・。

 これで、歴史上はじめてのイタリア勢同士の決勝ということになりました。それも、イングランド・マンチェスターにあるオールド・トラフォード(マンチェスター・ユナイテッドのホームスタジアム!)で・・。

 とにかく、さまざまな意味で(しっかりと見所を押さえていれば)、面白く、楽しめる試合になること請け合いです。とはいっても、ユーヴェにとってだけではなく、我々観る方にとっても、ネドビェドの出場停止は本当に残念ではありますが・・。




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