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チャンピオンズリーグ決勝・・秘術を尽くした闘い・・私は、見所を絞ってとことん楽しみましたよ・・ACミラン対ユーヴェントス(0-0、PK戦は「3-2」で、ミランが6度目の欧州頂点に立つ!)・・(2003年5月29日、木曜日)

さて、何から書きはじめましょうか。

 このコラム(短評)では、文章の構成なんて全く考えず、思いつくままに書書きつづるというのが原則です。そこでは、読み直して文章を改良したり、校正なんかもほとんどやらない。「それが、臨場感があっていいんですよ」なんて言ってくれる方々も多いのですが、まあ、グラウンド上の現象を観察し、その時点で思ったり感じたりしたこと、そしてその背景を「発想の瞬発力」で探って書き残すという作業に徹しているということです。要は、自分自身の「発想のデータベース」だということです。そして後で読み返し、ビデオを観ながら、サッカー論ばかりではなく、政治的、経済的、社会的、文化的な側面なども含む「全方位」の分析・思考を深めることで新たな「発想の瞬発力」を生み出し、それを発展させていく・・。もちろん、サッカーコーチとしてね。それは楽しくもあり、時として苦しい作業でもあります。

 あっと、またまた蛇足が・・。それではゲームに入りましょう。

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 延長も含むレギュラータイムでは得点が入らず、結局突入してしまったPK戦。そこでも、両チーム合わせて「半分」しかゴールが決まらない・・。もちろん私は、はじめからこのような展開を予想していましたから、ゲームの「コンテンツ(内容)」を存分に楽しみましたがね。

 ところで、ハーフタイムに、決勝前に行われた両チーム監督の記者会見の内容が放送されました。興味深いコメントでしたよ。「WOWOW」の生中継で流された(事前収録の)記者会見の内容そのまま書きます。

 まずユーヴェントスのマルチェロ・リッピ。

 「近年、我々イタリアサッカーは多くの非難を浴びました。しかし今シーズン、カルチョは健在であることを証明できました。イタリアサッカーは低迷し、スランプにあるという声をよく耳にしました。しかし実際はご覧の通り・・。実際は常にヨーロッパのトップレベルにあったのです・・」

 次に、ACミランのカルロ・アンチェロッティ。

 「攻守ともに細心の注意をはらうというイタリアサッカーの特徴があります。それが優れているから、ファイナルはこの組み合わせになったのです。イタリア対決を、私はとても誇りに思います。他国に比べても、カルチョの文化とプレーは決して劣っていないことを、このファイナルが証明しているのです・・」

 いや、興味深い内容じゃありませんか。このようなコメント(長い記者会見コメントのなかからこの部分を編集した)ワウワウスタッフの方々の洞察に敬意を表します。

 まず何といっても、両監督ともに、カルチョ(イタリア・サッカー)が「優れている」ことを世界へ向けてアピールするのを忘れていないことがキモ(もちろん、その類の質問があったからこそのコメントではありますが・・)。決勝が「イタリア対決」になったからこその(この数年のあいだ待ちに待った機会なのだから、それを活用しない手はないという)コメントだったというわけです。アピアランスは十分だったし、カルチョの、世界サッカーにおけるポジションアップに貢献するコメントではありました。自分たちのルーツに対する誇り(アイデンティティー)を感じます。

 もちろん、勝負(結果)こそが目的だ(いくら美しく攻撃的なサッカーを志向しても、負けてしまったら本も子もない)とする彼らの基本的な発想からすれば、確かに・・。とはいっても、サッカーの理想型が、美しさと勝負強さという、ある意味では「背反する要素」が高質にバランスしたゲームであることは、誰にも変えられない真実です。その視点で、カルチョをみた場合は?!

 要は、彼らほどの「個の能力」を備えているのだから、「戦術」に偏り過ぎるのではなく、もっとリスクにチャレンジしてもいいのでは・・もっと「解放方向」へサッカーを振ってもいいのでは・・と言いたい湯浅なのですよ(もちろんそれは、私が知る限りの世界中のサッカーエキスパートたちが共通して持っている思いです!)。

 何といっても、そこにこそ、選手たちを発展させ、人々を感動させるルーツがあるのですから・・。自然と「ときめき」が湧きだしてくるようなゲームこそが、サッカーを発展させる・・。もちろん自由方向へ振れすぎても、感動とはかけ離れた「アナーキーな混沌」が待っているだけですがね。またまた、「規制と解放のバランス」という普遍的なテーマに入り込みそうになってしまって・・。

 このままじゃ、「それじゃドイツはどうなんだい?」なんてことになってしまいそう?! まあ、プロの現場も含むドイツ人もまた、「勝負強いけれどつまらないサッカー」という世界的な評価に対して心を痛めているのですよ。それに苛まれているからこそ、美しく、そして強かった「1972年のヨーロッパチャンピオンチーム」に思いを馳せる・・。あっと、またまた脱線しそうになっている。このテーマについては、また別の機会にでも・・。

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 さて両監督のコメント。そのなかで、アンチェロッティが語った「攻守ともに細心の注意をはらうというイタリアサッカーの特徴・・」という表現が、今年のチャンピオンズリーグ決勝のゲームコンテンツを端的に言い表していました。

 まあこのことについては、これまでに何度も書いたとおりですが、とにかく短くまとめましょう。

 まず、(イタリアに限らず)サッカーにおける全ての基盤であるディフェンス・・。

 ボールを奪われた瞬間からはじまる(奪われるかもしれないという予測をベースにした)素早い戻りと、組織作り・・身体にしみついているとでも言えそうな、優れた相互ポジショニングバランス(決して穴をつくらない!)・・ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する忠実で激しいチェック(=守備のイメージ起点)・・次のボールの動きに対する読みをベースにした、集中と分散(再度のポジショニングバランス)の繰り返し・・また、相手のボールの動きをコントロールしてしまうような意図をもった「組織的な追い込み」・・ボールとの距離がどんなに離れていても、ボールがないところでの勝負の動きに対する忠実マークは健在・・そして、高いディフェンステクニックに裏打ちされた「局面での競り合い」・・。観ていて、ほれぼれさせられます。本当の彼らのディフェンスは見所満載です。

 そしてボールを奪い返した後の攻撃・・。

 もちろんボールを奪い返した「状況(位置や、相手守備の状態などなど)」によって千差万別・・たとえば後方でのボール奪取・・奪い返した者は、まずまっ先に最前線への勝負ロングパスをイメージする・・もちろん最前線も、味方がボールを奪い返すかもしれないというタイミングで動きはじめている(これが凄い)・・状況によっては、ダイレクトに近いタイミングでの勝負のロングパスをイメージしたスタートまで魅せる・・また「高い位置」でボールを奪い返したら、最前線への一発勝負パスばかりではなく、そのボール奪取した選手も、迷わず最終勝負を仕掛けていく・・ただ、そんなカウンター気味の攻撃が難しいとなったら、すぐに組み立てプロセスへ移行する・・もちろん、(次のディフェンスもイメージした!)互いのポジショニングバランスを確実に維持しながら・・だからボールの動きは、組み立て段階の確実な「つなぎパス」ばかりということになる・・そして、チーム全体が、互いのポジショニングバランスを執りながら押し上げたところで(相手が全体的に下がったところで=人数をかけた組織パスでのカウンターの危険性が低下したところで!)サイドや中央ゾーンから、急激なテンポアップで仕掛けに入っていく・・そこではじめて前後左右のポジションチェンジが出てきたりする・・とはいっても、最終勝負を仕掛けていくのは、やはり「前の三人」が基本・・そこへ、ミランではセードルフ、ユーヴェではダーヴィッツというオランダ人が、臨機応変に絡んでいく(勝負所への入り込みだけではなく、仕掛けのサポートや、両サイドのオーバーラップのコントロール等々)・・そして両チームともに、チャンスとして強烈に意識するセットプレー・・たまには、良い位置でフリーキックを得るためのファール誘発プレーも見られたりする・・。フムフム・・。

 まあちょっと舌っ足らずではありますが、全体的なゲームの動きは、そんな感じでしょう。

 攻めの最後のところで「前の三人」と書きました。ミランでは、インザーギ、シェフチェンコ、そしてルイ・コスタ。ユーヴェでは、デル・ピエーロ、トレゼゲ、そしてネドビェド・・のはずだったのですが・・。

 ネドビェドの不在は、ユーヴェにとって、本当に痛かったということです。彼さえいれば、ダーヴィッツの押し上げ効果も倍増していたに違いない・・。そのことで、(特に前半は)ミランがゲームペースを握り、より多くのチャンスを作り出したというわけです。

 この「前線の自由人」とでも表現される「トップ下」のポジション。攻守にわたって、限りない「自由度」を与えられます。彼こそが、最前線プレーヤーとの仕掛けイメージを司るなど、カルチョにおける攻撃のイメージリーダーなのです。中田英寿が一番やりたいポジション(役割)・・。

 もちろん、どんなサッカーでも、チャンスメイカー(=攻撃のイメージリーダー)は重要な存在ですが、ディフェンス(組織)重視の(戦術プランが全てに先行する)カルチョでは、より重要な、(自由であるからこその)よりクリエイティブ(創造的)なタスクを担うというわけです。その「攻撃リーダー」が、ユーヴェでは不在になってしまった・・。とはいってもそこはユーヴェントス。たしかに前半は押し込まれる場面も多かったわけですが、徐々に、中盤に並べた四人が機能するようになっていく・・。

 後半以降は、完全に拮抗したゲーム内容になっていきます。互いに、まさにカルチョという一発チャンスは作り出しますが、結局ゴールを奪えずに120分が経過したという次第。

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 ちょっと時間が・・。ということで、第一報はここまでにします。また気付いたポイントがありましたらレポートしますので。また、ブンデスリーガ終盤のドラマについては、スポナビ連載コラムで書きましたので・・。

 さて今夜は、セリエでのプレーオフ。中村俊輔は出場するのでしょうか。とにかく注目しましょう。では・・




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