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「ユーロ2004」地域予選・・またまた「イタリアのツボ」を体感させられてしまって・・イタリア対フィンランド(2-0)・・(2003年4月1日、火曜日)

先週末おこなわれたユーロ2004予選、イタリア対フィンランド。イタリアが、まさにイタリア的サッカーで手堅く勝利をおさめたという試合でした。

 イタリア的といったのは、もちろん戦術サッカーのこと。選手一人ひとりが、どのように守り、どのように攻めるのかについて明確なピクチャーをもち、それを最後の最後まで貫きとおしたということです。ガチガチの規制サッカーだから、そんなに美しくはないし、未来志向でもありません。それでも、高い個人能力を有した強者たちが、あれほど徹底したサッカーを展開するのだから、勝負強いのも当たり前です。

 「イタリアは変わらない。ヤツらの勝負至上サッカーには、それはそれで見所はあるけれどな・・」。友人のドイツ人コーチ連中と、よくそんなハナシをしたものです。

 要は、攻守にわたって、極力ベーシックポジションを崩さず、自分たちがイメージする「ツボ」にはまるのを辛抱強く待つということです。だからこそ、そこにはまったときの「爆発」が凄い。ここで言う「ツボ」とは、守備から攻撃へ移ったときの状況のこと。自分たちがイメージする「仕掛けのカタチ」にはまったときの、複数選手たちのイメージシンクロレベルが凄いのです。だから「爆発の内容」もレベルを超えている。

 この試合でのイタリア代表チームの基本的なポジショニングバランスはこうです。フォーバックの最終ライン・・パヌッチ、ネスタ、カンナバーロ、ザンプロッタ。守備的ハーフコンビ・・ペッロッタ、ザネッティー。上がり気味のハーフトリオ・・デルベッキオ、トッティー、カモラネージ。そして、常に最前線に張りつづけるワントップのヴィエリ。

 このポジショニングバランスは、守備でも攻撃でも、ほとんど崩れません。もちろん相手が下がった状況で(全員が押し上げた状況で)仕掛けていくときには、両サイドのオーバーラップなど、柔軟にポジションチェンジはしますけれどネ。

 彼らのサッカーのスタートラインは、守備。それは、全てのサッカーに共通する普遍的なコンセプトである「スタートラインとしての守備」とは、ちょっとニュアンスが違います。要は、自分たちの仕掛けのツボに「はめる」ための準備段階という意味合いの方が強いということです。

 中盤の「5人」は、互いに基本的なポジショニングバランスをとりながら、忠実に、そしてダイナミックに守備に就きます。そう、一人の例外もなく。

 ボールホルダー(次のパスレシーバー)への忠実なチェック。次のパスを狙うインターセプター(忠実なマーキング)。ボールの動きが停滞した瞬間に「集中」する強力プレスを狙う者。そのハーモニーは、たしかに見所満載です。

 そして、その強力ディフェンスを基盤に、(守備に就いている段階からと言った方が正確な表現ですが・・)次の攻撃でのツボのカタチをイメージしつづけるというわけです。

 典型的な攻撃ピクチャーは、後方からの飛び出し、そしてカウンター。また、後方でボールを回しながら唐突に飛び出す、決定的スペースへの一発タテパスというピクチャーもあります。

 後方からの飛び出しですが、それは、最終的な仕掛けでの素早い「タテのポジションチェンジ」とも表現できるものです。

 例えば、ボールを奪い返した右サイドのパヌッチが、ボールを味方に預けて、前方のスペースへ押し上げたとしましょう。この時点で、前気味のハーフトリオを追い越しているわけですが、余程のチャンスではない限り、パヌッチは、そのポジションで、相手ディフェンダーを引きつけ、前方での「ボールの動きのステーション」という役割に徹します。そして、そのステーションをうまく使い、前気味ハーフの一人が「追い越しフリーランニング」を仕掛けていくというわけです。

 トッティーも含む前気味ハーフの全員がディフェンスに参加していますから、「仕掛け」でのスタートラインは常に「後方」。そこから、ヴィエリも含む「前方のオトリ」によって空いた「その前のスペース」へ飛び出していくというピクチャーというわけです。

 まあ、後方からの飛び出しコンビネーションは、前気味ハーフの3人とトップのヴィエリによって演出されるのが普通ではありますがネ。

 イタリア先制ゴールのシーンは、まさにそれ。左サイドバックのザンプロッタから、最前線センターのヴィエリへタテパスが送り込まれます。それを、チョン!と落とすヴィエリ。そこには、前線から下がるように回り込んだ(要は、前線から下がり、急激にUターンして上がっていくというダイナミックな動きをした)トッティーが入り込んでいる。ボールを落としたヴィエリは、そのまま最前線中央へ爆発ダッシュ。

 ボールを持ったトッティーは、その前の段階で、左サイドの最前線へ走り上がり、そして次の瞬間には中央へ入り込んだデルベッキオへボールを預け、自身は、(デルベッキオが中へ入り込んだことで空いた)左サイドのスペースへ飛び出していく。そこへ、デルベッキオからのリターンパスが通されたのは言うまでもありません。

 そしてまったくフリーになったトッティーが、イタリアの美学そのままに、ゴール前センターゾーンへ入り込んでいたヴィエリへラストパスを通したという次第。素晴らしい勝負コンビネーションではありました。

 2点目は、完璧なカウンター。押し込まれた状況で、相手の横パスのミスを、ダイレクトでトッティーへつなぐデルベッキオ(もちろん彼も、ゴール前まで戻って守備参加していた!)。その前の段階から、トッティーと、最前線に張るヴィエリは、次のカウンターに備えていた(ピクチャーを描いていた!)。そしてまさに、その「ツボ」にはまったというわけです。

 デルベッキオから、トッティーへのダイレクトパスが出された時点で、既にヴィエリは、相手最終ラインのウラスペース(攻め込むフィンランドですから、そのスペースは、フィンランド陣内のハーフコート全体=これぞ太平洋スペース!)へ向けて動き出していました。そこへトッティーから、ピタリとイメージがシンクロしたダイレクトパスが送り込まれたというわけです。デルベッキオとトッティーが魅せた「ダブル・ダイレクトパス」。まさにイタリアのツボでした。

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 この展開を見て、「ユーロ2000」でのあるシーンを思い起こしていました。準決勝。イタリア対オランダ。ギリギリの「神様のドラマ」が展開され末に、PK戦でイタリアが決勝に駒を進めたゲームです。

 このシーンについては、拙著「サッカーを観る技術 スーパープレー5秒間のドラマ(新潮社・・2002年2月刊行)」でも書いたのですが、それをオリジナル原稿から抜き出してみましょう。

 (前段省略!)・・後半21分、イタリアのワントップ、インザーギに代わって、デルベッキオが登場。そして、イタリアの「ワンチャンス速攻」が、オランダ守備に牙をむきはじめる。そこから延長にかけ、デルベッキオが、カウンターから「三本」のシュートチャンスを得るのである・・(中段省略)・・このシーン(二本目の決定的チャンス)でも、フランク・デブールが最後まで追いかけ、後方からプレッシャーをかけ続けたことで、デルベッキオが全力シュートまではいけず、放ったシュートも、オランダGK、ファン・デルサールの正面に飛んでしまった。しかし、わずか数分のうちに創り出した二つのカウンターチャンスに、イタリア選手たちの「確信レベル」が高まりつづけていたことだけは間違いない。そして延長前半9分、イタリア選手たちのイメージの深層で活性化をつづけていた「カウンター感覚」が、クライマックスのシーンを演出する。

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(ここから5秒間のドラマ!)

 オランダ右サイドのボスフェルトが、ヴィンターとのコンビから抜け出し、右サイドのタッチライン際でフリーでボールを持つ。イタリアのマルディーニが詰めてくるが、その瞬間、ボスフェルトが「仕掛け」をスタートした。前にポジションをとっていたファン・フォッセンへタテパスを出し、ワンツーでの抜け出しにトライしたのである。

 ファン・フォッセンは、もちろんボスフェルトの「意図」を十二分に理解している。チョンと、ボスフェルトへのリターンパスを返すファン・フォッセン。ただそのパスが少しずれ、最前線から戻って守備についていたトッティーの目の前へ転がってしまう。それが勝負の瞬間だった。

 自分の前へ「絶好のミスパス」が転がってくる・・。その瞬間トッティーは、スッと、最前線へ視線を奔らせていた。本当に一瞬のルックアップ。ただそれだけで十分だった。そのルックアップは、イタリア選手たちの「カウンター感覚」の象徴でもある。

 「どんなに後方からでも、とにかく一発タテパスのチャンスがあれば、事前にルックアップして、最前線に張るトップのスタートをうながせ!」、それだ。もちろん、最前線の選手が主体になり、「決定的なタテパスを出させる」フリーランニングをスタートするケースもある。とにかくイタリア選手たちの脳裏には、常に「ワンチャンスを狙う」というイメージが深く刻み込まれているのだ。

 そしてその瞬間、タテパスを「感じ」た最前線のデルベッキオが、爆発ダッシュのスタートを切った。

 そんな「あうんの呼吸」のスタートも、イタリア選手たちに共通する、「カウンター」に対する明確なイメージの為せるワザだったのだ。

 近くにいたオランダのディフェンダー、スタム、そしてフランク・デブールも、デルベッキオが魅せた、夢のような「スタートタイミング」に付いてゆけず、トッティーからの正確なタテパスが、デルベッキオが走る「前のスペース」へポトリと落ちたときには、三メートルは後方を追いかけていた。

 ワンバウンドしたボールを、頭で「前へ運ぶ」デルベッキオ。「ヘディング」されたボールは、正確に、本当に正確に、シュートを打つスポットへ転がっていく。そんな、「ワンタッチだけでシュートへ!」というボールコントロールも、イタリア選手たちの、鋭い「カウンター感覚」の象徴なのだ。

 追いついてきたフランク・デブールに、ユニフォームを引っ張られ、手で押さえられてもなお、デルベッキオの体勢は崩れない。まさに「シュートへ向かう極限の集中力」である。もちろんフランクも、ペナルティーエリアに入っているから、大袈裟に引っ張ったり押さえたりはできなかったわけだが・・。そして、左足の正確なシュートが、オランダゴール右隅へ放たれた。そう、イタリア全選手の「我慢を積み重ねた希望」を乗せるかのごとく正確なシュートが・・

 「アッ! ゴールデンゴールだ!」。誰もが、そう確信したに違いない。だが、デルベッキオが放ったグラウンダーのシュートは、オランダGK、ファン・デルサールが伸ばした左足の「つま先」によって、わずかにコースを変えられ、コロコロと、ゴール右へ外れていった。

 腰に手を当て、「ウソだろ・・、あのシュートに触れたのかい・・」と、放心した顔で天を仰ぐデルベッキオ。「イタリアのリアリズム」というツボにはまった完璧なチャンスだったのに・・

 「いったいサッカーの神様は、どちらに勝たせようとしているんだろう・・」、そのとき、「神様の領域」に入ったゲームを、手に汗にぎって観つづけながら、そんなことを思ったものだ。

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 ちょっと脱線してしまいしまたが、とにかくイタリア対フィンランド戦を見ていて、久しぶりに「イタリアのツボ」を堪能していた湯浅だったのです。

 あっと・・、上記したシーン以外にも、何度も、後方でのボール回しからの「唐突なタイミングでの一発ロングパス」にヴィエリが抜け出すという決定的場面がありました。要は、後方でボールを回している選手たちと、最前線でウラを狙う(決定的フリーランニングのタイミングを測っている)ヴィエリが、最終勝負について常に同じピクチャーを共有しているということです。

 イタリアの選手たちは、どのように点を取るのかということについて、全員のイメージが高質にシンクロしている・・。彼らのサッカーでは、組織ディフェンスばかりではなく、そんなポイントにも注目して観戦したら、とことん楽しめますよ。

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 さて今日は、U22のコスタリカ戦。その前に、先週の日本代表対ウルグアイ戦をビデオで見直しておきましょう。気付いたポイントがあれば、U22のゲームとともにレポートしますので・・。




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