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ヨーロッパの日本人・・今週の締めは中田英寿と中村俊輔・・(2003年11月10日、月曜日)

パルマのプランデッリ監督が、試合前日に(?!)中田が先発だと公表しました。それも二列目センターでの先発だとか。そんな情報が飛び込んできたものだから、この試合が楽しみにならないはずがない・・。それも相手は「あの」ACミランですからね。

 モルフェオがケガで欠場する・・中田英寿の二列目センターは、その「次善」の策ということなのだろう・・でも中田ならば、それが「最善」だと証明してくれるに違いない・・とにかくそう期待したい・・でも、そのことを証明するには相手が強すぎるかも・・等々、試合前は、そんな考えがアタマを駆けめぐったものです。さて・・。

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 試合がはじまってすぐに感じていました。中田英寿は、素晴らしいゲームへの入り方だ(ゲームの流れなかでの見え方だ)・・守備においても、攻撃においても。例によって、高い守備意識を前面に押し出しながらゲームに入っていった中田英寿。それがよかった。守備こそ、すべてのスタートラインという普遍的メカニズムに対する深い理解。それこそ、長年の厳しい体感を積み重ねてきた経験の為せるワザということです。だから、ボールを奪い返す頻度がいちばん高いゾーンから次の攻撃に絡んでいける。だからこそ組み立ても、彼を経由するケースが増える。

 流れのなかで参加するディフェンスの実効レベルは、まさに一流(中盤守備の本職といっても過言ではない?!)。味方と相手がガンガンと競り合っているスポットへ絡むことで、効果的な協力プレス網を構築しボールを奪い返してしまう。また、ボールを持つ相手の「コントロール方向」を読んでアタックを仕掛け、ボールをかすめ取ってしまう。そんな実効ディフェンスが、仲間の信頼感を高めないはずがありません。中田にボールが集まるはずです。

 もちろんそのバックボーンには、彼のハイレベルなボール絡みプレーに対する信頼もあります。シンプルなつなぎプレーやタメからの効果的パス(サイドチェンジパス、展開パス、仕掛けのファウンデーションパスや勝負のスルーパスなど)を駆使するだけではなく、タテのスペースをつなぐ直線的なドリブルや突破チャレンジドリブルなども臨機応変に繰り出していく。あくまでも落ち着いた雰囲気のなかでの実効プレー。いいじゃありませんか。

 やっと「自由な表現の場」を与えられた中田が、そのチャンスを十二分に活用している・・。まあ大したものだ。

 もちろん彼が優れたプレーを披露できている背景には、パルマ全体の出来が良いこともあります。ここのところの好調ぶりが、そのままグラウンド上のプレーに反映されている・・アドリアーノ、モルフェオという主力が不在なのに自信レベルの減退をほとんど感じない・・それこそ、チーム総合力が全方位で(身体的、技術的、施術的、心理・精神的などなど)高揚していることの証・・というわけです。

 もちろんホームというポジティブな心理要素はあるにしても、攻守にわたる実効プレーを繰りひろげるパルマが、「あの」ミランを相手に、何本もの決定的チャンスを作り出してしまう展開を見ていて、パルマの、チームとしての大幅な底上げを実感していた次第。特に、右サイドのマルキオンニと左サイドのブレシアーノで構成する両サイドハーフが抜群ですね。また、最前線の「潰れ役」であるワントップのジラルディーノと中盤センターの「突貫隊長」フィリッピーニもうまく機能している。そして彼らを操るのが中田英寿というわけです。

 そんなパルマが主導するゲーム展開でしたが、そこはACミラン、やはり時間の経過とともに実力の違いを感じさせるようなってきます。立ち上がりの時間帯はイージーなところが見えた守備も、時間を追うごとにカチッと固まってきます(最初はケガのマルディーニの不在が目立っていた!)。また攻撃でも、ここぞ!という勝負所では、抜群の強さを発揮するのです。

 要は、「勝負所のツボ」が、選手たちのイメージタンクに、深く、深〜く浸透しているということです。だから、「あ、チャンスになる・・」という状況での、周りの味方のボールがないところでの連動アクションの量と質がレベルを超えているのですよ。一瞬のテンポアップ。だから、「普通のチャンス」を「決定的チャンス」に高めることができる。まあ、流石にACミランということです。

 前半の20分を過ぎたあたりからは、完全に互角の展開になります。それも、両チームともにチャンスを作り出すというエキサイティングな展開。結局「0-0」で終わったわけですが、そこには深いコンテンツが詰め込まれていたのです。いや、面白いゲームでしたよ。

 さて、残り15分くらいというタイミングでベンチへ下がった中田英寿ですが、全体的な印象は、先に書いたとおり非常にポジティブなのものでした。

 でも微妙なニュアンスで、ジョギング状態で周りを観察しているときの「内的なアクティビティー」が減退しているとも感じられたりして・・。攻撃でも、守備でも・・。

 私は、その状態を、「次の爆発のタメ」というモノと、「無為な様子見」とに明確に分類しています。選手たちは、常に次の「爆発プレー」を狙っていなければならない・・常にその「爆発プレーのイメージ」をアタマに描写していなければならないということです。それに対し「無為な様子見」は、次の爆発イメージを描写するのではなく単にプレーを目で追っている状態ということです。

 まあ中田の場合は、互いのポジショニングバランスに気を遣っているということなんでしょう。何せそれが「イタリアのツボ」の基盤ですからね。でも「・・過ぎたら」・・。まあ、どんな「コト」でも、バランスを取ることほど難しい作業はないということです。

 とにかく、様々な視点での「チャレンジ状態」にある中田英寿。そんな様々なチャレンジのなかでも、特に、中田に「センターゾーンでの自由」を与えることがチームにとってプラスだと認識させるチャレンジは、彼自身にとっても大いなるモティベーションを駆り立てられるモノに違いない?! まあ私は、「前の自由人」よりも、彼の場合は「後方の自由人」の方が、より彼の能力が引き出されると思っているのですがネ。そのことについては、前回の「長いコラム」も参照してください。

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 さて、先発し、90分を通してプレーした中村俊輔。全体的な出来はまあまあだったけれど、どうも彼のパフォーマンスは揺動(アップダウン)が激しいとも感じられる・・。

 とにかく中村を正しく評価するのは難しい作業です。何せ、ボールをもったら誰にもできないというクリエイティブプレーをやってのけてしまうのですからね。まあ、だからこそ、その創造性プレーが、(ボール奪取とシュートを打つことという)攻守の目的にとって実効あるプレーかどうかが評価基準になるというわけです。

 もちろん、サッカーが本物のチームプレーということで、評価は難しいものになるわけですが、だからこそ私は、結果ではなく内容(この場合は、プレーの意図と意志!)を正しく評価したいと思っているわけです。

 ということで、この試合での中村の出来は、冒頭で書いたように「まあまあ」。無為な様子見シーンが多いし、それで足を止めてしまっている場面も目立つ・・もっと動きまわってたくさんボールに触り、常に、自分がコアになった仕掛けにチャレンジしていかなければならない・・組織プレーを主体にした仕掛けでも、個人勝負を主体にした仕掛けでも・・たしかに、攻守にわたって「勝負」に入ったら目の覚めるようなプレーも見せるけれど・・。とにかく私は、もっと、もっと出来る・・やらなければならないと思っているわけです。そう、コンフェデレーションズカップでの対フランス戦のようにネ。

 また、以前「ジーコジャパン・レポート」で書いたように、彼のプレーでは、特に「パスを呼び込む動き」が消極的だと感じます。要は、パスレシーバーとしてのフリーランニングがないということです。もちろんそれは、横パスを受ける動きではなく、タテへの仕掛けパスを受ける(またはそのパスを呼び込む)動きのこと。そのイメージが希薄なのですよ。

 中村の場合は、常に自分が(決定的な)パサーになろうとしている・・常にそのイメージでしかパスを受ける動きをしないから、どうしても仕掛けの流れに「置き去り」になってしまうというシーンも目立つようになってしまう・・等々の弊害が目立つということです。

 それが彼のプレーの「幅」を狭めているというポイントについては、常々書いている通りです。要は、組織プレー(パスレシーブの動きや、ボールをもったときのシンプルなつなぎパスや、次のパス&ムーブ等々)と、個人勝負プレー(彼の場合は、ドリブル突破と、タメキープからのスルーパス!)をもっと高次元でバランスさせなければならないということです。ここでも「バランス感覚」。

 全体的には、明確な発展ベクトル上に乗っている今の中村俊輔だからこそ、そのパフォーマンスの「揺動」が心配・・。まあ、それは、自身の意識の持ち方次第ですから・・。どんなレベルの選手であれ、やはり最後は「インテリジェンス」が問われてくるということか・・。

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 いま、新しい「シリーズ」のスタートを準備しています。サッカーが内包する魅惑的なコンテンツを突き詰めるアクティビティー(活動)の一環。

 要は、元選手や、現在は「現場」から遠い距離にあるサッカー関係者との「対談」を通して、さまざまなテーマを追求しようという試みです。

 記念すべき第一回目は、グランパスやレッズで活躍した浅野哲也さんとの対談。テーマは「アルセーヌ・ベンゲル」。もちろん浅野さんは無報酬(ボランティア)で協力してくれました。感謝です。さて、どうなるか・・。ご期待アレ。




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