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ヨーロッパの日本人・・今週のレポートは小野伸二と中田英寿だけになりそうな・・(2003年11月24日、月曜日)

まず、前半28分に小野伸二が演出した素晴らしい仕掛けシーンをピックアップしましょう。

 そのとき小野伸二は、仕掛けイメージを研ぎ澄ましていました。味方の最終ラインからタテパスが出るタイミングを測っていたのです。ボールを持つのはフェイエノールト最終ラインの重鎮パーウエ。そして、ワントップのカイトが、戻り気味にパスレシーブの動きに入った瞬間、小野伸二もアクションをスタートしたというわけです。それは、まさに理想的な三人目の動きでした。

 最終ラインのパーウエから、戻り気味に動くカイトへタテパスが出る・・同時に小野伸二が、カイトの手前に広がるスペースへ向けて爆発ダッシュをスタートする・・そこでは、カイトと小野のイメージがシンクロしていた・・そしてそのイメージをたどるように、タテパスを受けたカイトが、上がってくる小野伸二へダイレクトでボールを落とした(バックパス!)・・マークする相手を振り切るような力強いトラップを魅せる小野伸二・・その瞬間、左サイドで満を持していたブッフェルが勝負アクションをスタートする・・左サイドの前方に広がる決定的スペースへ向けて全力ダッシュをスタートしたのだ・・その決定的スペースへ、小野伸二からタテパスが送り込まれたのはいうまでもない・・ブッフェルはタテパスに追いついたけれど、相手もチェックにきていたし、ボールに追いついた体勢が「角度が鋭角になりきすぎて」いたことで切り返さざるを得なくなり、結局ゴールラインを割ってしまう・・結果にはつながらなかったが、そこで展開された仕掛けは、確実にチームに勇気と確信を与えたに違いない・・ってな感じですかネ。

 パーウエ、カイト、小野伸二、そしてブッフェルという四人が絡んだ素晴らしいコンビネーション。そこでの仕掛けイメージをリードしていたのが小野伸二だったというわけです。いや、本当に鳥肌が立つほどに素晴らしい「有機連鎖コンビネーション」ではありました。

 さて小野伸二。

 この試合でのフェイエノールトは、ホームゲームだし、相手は絶不調の(ビリ二位の)フィテッセということで、スフリューデルだけを守備的ハーフに、その前に、ルアリンク(右)、小野伸二、ブッフェル(限りなくトップに近い二列目)、ファン・ベルジー(左)を並べるという基本的ポジショニングバランスで試合に臨みました(カイトはワントップ)。

 そこでの小野伸二は、中央ゾーン後方で、攻守のイメージリーダーとして(後方からのゲームメイカーとして)プレーします。要は、攻守にわたる中盤の自由人。そして小野は、その「自由」を存分に謳歌するのですよ。小野伸二の、ここのところのフェイエノールトでの存在感アップには本当に目を見張るものがあります。まあ、小野をチームリーダーにするというファン・マール・ヴァイク監督の意向もありますしね。小野伸二は、その期待に十二分に応えているというわけです。

 たしかに「1対1」の状況では、ボール絡み、ボールなしのマーキングともに、ちょいとまだ不安だし(足が遅いというポイントだけ・・フリーな相手のマーキングとかの予測能力などは格段に発展をつづけている!)、競り合い状況でのボール奪取テクニックにも課題が見えるけれど・・。まあこのことについては、先日の日本代表カメルーン戦レポートでも指摘したとおりです。

 とはいっても、冒頭のシーンばかりではなく、狙い定めたインターセプトを決めたり(もちろんその後のボールなしの攻め上がりも秀逸!)、シンプルなゲームメイク(ボールの動きのコアとして機能!)、勝負所での吹っ切れたドリブルチャレンジやタメキープからのスルーバスチャレンジ(ハイレベルな個の勝負!)、ボールがないところでの決定的なパスレシーブの動き(これが特筆!・・パサーとしてだけではなく、前線を追い越すフリーランニングなど、パスレシーバーとしても抜群の機能性を魅せていた!)・・またタテのポジションチェンジの演出家としてもうまく機能していた・・等々、とにかく小野が魅せつづけた、攻守にわたって頼りがいのある高質プレーは素晴らしくインプレッシブでした。

 チーム戦術的に自由度が高いということは、自身の考える能力によって全体パフォーマンスが決まってくることも意味します。どんどんと発展をつづける小野伸二。その発展プロセスを見ながら、サッカーという、様々な錯綜したファクターが入り乱れながら交錯する(ある視点では複雑な)ボールゲームでは、本当の意味で発展するための絶対的なベースは「インテリジェンス」しかないという普遍的な事実を反芻していた湯浅でした。

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 さて中田英寿。今節は、(小野伸二が対戦したフィテッセ同様に!)これまた絶不調のエンポリとのアウェーゲームです。ポジションは、出来が良かった前節ミラン戦と同じセンターハーフ。期待が高まります。

 でも立ち上がりの彼のプレーコンテンツは、ちょっと重いと感じていました。運動量が(プレーリズムが)なかなか高まらないことで、攻守の勝負所への絡み方(頻度と内容)で、ミラン戦ほどの「ゲームへの入り方」ができていないと感じるのです。まあ・・ネ、数日のうちに2万キロ以上を移動しての二試合目ですからね(実は国内移動の方が疲れがたまるのかも・・)。

 とはいっても、守備を固めるエンポリに対して攻めあぐむパルマの攻撃では、やはり中田が起点(コア)になった仕掛けが、決定的スペースを突いていけるという雰囲気をもっとも強くかもし出していると感じます。もちろんそれには、ジラルディーノやブレシアーノ、はたまたマルキオンニやフィリッピーニといった攻撃陣が、彼がボールを持ったときの「パス・リズム」に対して深い信頼を抱いているという背景があります。彼らは、中田がボールをもって仕掛けの起点になったときは当然として、彼にパスがまわりそうになった状況でも、アイコンタクトをベースに動き出したりしますからネ。やはり中田の存在感は違う・・なんて思っていました。

 中田も、時間とともに調子をアップさせ、前半も20分を過ぎたあたりからは、目立ってボールに触るようになります。彼の運動量が増えただけではなく(中盤守備での絡みがより積極的になったこともある!)、仲間たちも、より積極的に彼を捜すようになったということです。例えば前半42分にパルマが繰り出した一連の仕掛けでは、そのすべてのプロセスで、中田がコアになっていました。最初のカウンターシーンでフィリッピーニへの仕掛けパスを出したのも、一度スローダウンさせられた後の次の仕掛けで、タメからスルーパスを通したのも中田だったというわけです。フムフム・・なんて納得していた湯浅だったのです。

 そんな、パルマがゲームを支配していた前半でしたが、後半の流れはまったく違ったものになります。エンポリの攻めに勢いが乗り、実効も伴ってきたのです。立ち上がり5分、8分と決定的なチャンス作り出すエンポリ。完璧なシュートチャンスでしたよ。そこには、パルマ守備ブロックの気が抜けていたという背景もあったでしょう(前半の出来から相手を甘く見た?!)。

 そんな危ないシーンを見ながら、「ゴールを奪われなくてよかった・・この絶対的なピンチが、リズム好転のためのよい刺激になるに違いない・・」なんて思ったものです。ところが、さあこれから・・という後半15分に、中田英寿が交代させられてしまうのですよ。たしかに、まだまだ全体的な運動量だけではなく、意志が込められた全力ダッシュシーンも少ないとは感じていたのですが、それでも期待できるコンテンツは魅せていたのに・・。

 そしてその後のパルマは、ペースアップできずに、後半ロスタイムの失点で痛い黒星を喫してしまう・・。まあ、長いシーズンにはこんな日もあるさ・・ってなところでした。




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