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ヨーロッパの日本人・・攻守にわたる勝負所に対する「感性」が再び鈍りはじめた稲本?!・・(2003年11月9日、日曜日)

どうもダメだな〜、うまくボールに絡めない・・。

 今節のチャールトン戦で、四試合ぶりの先発出場を果たした稲本のことです。先週、イエロー累積で出場停止だったこともあって、先発のこのゲームは期待していたのですが、立ち上がりの時間帯、どうも稲本がうまくゲームに入っていけないというシーンが連続するのですよ。

 攻撃では、パスを呼び込む動きがとにかく緩慢(様子見シーンが連発!)。また守備でも、ボールなしのマークが遅いから、インターセプトも、相手のトラップの瞬間を狙ったアタックもうまく機能しない。

 チャールトン先制ゴールのシーン(前半10分)では、後方から上がってきたスチュアートに対するチェックアクションが遅れたことで、結局彼にゴールを決められてしまいました。もちろんこのシーンでは、スチュアートのオーバーラップに付いて戻らなければならなかった味方がマークミスを犯したのですが、この状態でスチュアートをマークできるのは稲本しかいなかったわけだから、彼が、味方のマークミスをクリエイティブに(自分自身のアイデアで!)カバーしなければならなかったというわけです。

 この試合では上がり目の右サイドハーフが基本ポジションの稲本。どうもそのポジションは、日本人選手にとって鬼門だったりして・・。中田にしても、柳沢にしても・・。そこは、基本ポジションを守りながらも(制約を受けながらも)、攻守にわたって自分から常に仕掛けていかなければならないという比較的難しいポジションですからネ。

 先々週のマンチェスター・ユナイテッド戦は、ペンブリッジの負傷退場で出番が回ってきた稲本でしたが(前半30分あたりからの交代出場!)、そこでも、実効あるカタチでボールに絡めるようになるまでには時間がかかりました。そのキッカケになったのは、後半26分のディフェンスプレー。マンUが左から攻め上がったシーンで、スコールズからのタテパスを受けたギグスへ向けて、全力で長い距離を戻った稲本が、ズバッ!!というタックルを仕掛けてボールを奪い返してしまったのです。それは、それはダイナミックでフェアなスライディングタックルでした。たぶん自分自身も、内心で「ヨ〜〜シ!!」と叫んでいたに違いない?! そのプレーをキッカケに、攻守にわたるターゲットイメージがより鮮明になり、徐々に実効あるボール絡みシーンが増えていったのです。そしてそれが、見事なゴールの心理的なベースになりました。

 サッカーでは「守備」がすべてのスタートラインだということです。ボール奪取という本当の目的を果たすディフェンスで実効あるプレーができたとき、選手たちは「よし、やった!」と心底体感できるものなのです。もちろんその体感ほど大きなモティベーションはない・・。すべての基本である、自分主体の「忠実&創造的」ディフェンス。それが機能してはじめてチーム戦術がうまく回転するだけではなく、個人のプレーも活性化するモノなのです。

 だからこの試合でも・・と期待していたのです。そして前半の15分あたりから、期待通りに、稲本のプレーが抜群に活発なものになっていきます。この活性化の背景には、基本的なポジショニングバランスの変更がありました。もちろんベンチ(コールマン監督)からの指示(?!)。

 それまで、レグヴァンスキーを唯一の守備的ハーフとして、その前に、右から稲本、クラーク、マールブランク、モア・ボルテと並べていたのを、稲本を下げてレグヴァンスキーとの守備的ハーフコンビにし、マールブランクをいつもの右サイドへもっていったのです。この基本ポジショニングバランスの変更をキッカケに、稲本のプレーが改善の方向へ向かったというわけです。

 やはり、攻守にわたって自由に(自分主体で)仕事を探せる(リスクにチャレンジしていける!)センターゾーンを基本ポジションとすることが、プレー活性化の(イメージ描写エネルギーアップのための)リソースになった・・。ここで、基本ポジションの変更がデニス・コールマン監督からの指示だったと書いたわけですが、もちろんそれは私の「仮説」です。まあ「あの状況」じゃ、それしか考えられないわけですがネ・・。

 数週間前に、サンプドリアの柳沢が、左サイドから右サイドへ基本ポジションを変更したときも、私は「監督の指示でサイドを変えた」と迷わず書いたのですが、その「事実」は、翌日の新聞紙面に載ったサンプドリア監督のコメントで確かめられましたからネ。

 あっと・・また余談が・・。とにかく、攻守にわたる稲本のプレーが、センターに移ることで、その実効度がアップしたことは確かな事実でした。前半19分には、自ら「追い込み」、そして素晴らしいスライディングで自らボールを奪い返す・・なんていう目の覚めるようなディフェンスも魅せてくれましたしネ。とにかく、ここから私の観戦モティベーションが何倍にも高揚したことは言うまでもありません。でも・・。

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 この試合でのチャールトンの出来は、フラムよりも数段上でした。彼らのホームということもあるのですが、攻守にわたる素晴らしい組織プレー(有機連鎖プレー)は、本当に素晴らしいレベルにあったのです。フラムが攻め上がろうにも、どうしてもボールを「縦方向へ」動かせずに、横パスのオンパレードになってしまう(チャールトンの守備ブロックのポジショニングバランスがハイレベル!)。またマールブランクやモア・ボルテによる「個の突破チャレンジ」も組織的に抑制されてしまう。逆に守備でも、チャールトンが展開するボールと人の動きがとにかく活発だから(ボールホルダーとパスレシーバーイメージシンクロレベルが高質!)、その組織プレーによってフラム守備ブロックがウラを突かれてしまうという場面の連続なのですよ。

 要は、この試合でのチャールトンの方が、選手個々の「攻守わたる仕事量」を極大化するようにチーム戦術がうまく機能していたということです。フラムでは、前半15分の基本ポジショニングバランスの変更によって、例えば稲本の「実効ある仕事量」が増えたわけですが、それでも、この日のチャールトンの「有機的なプレー連鎖の全体仕事量」には及ばなかった・・。この「仕事量」という発想は、ちょいと難しいですかネ。

 そんなだから、稲本一人が良いプレーを展開できるはずもない・・?! いや、センターゾーンへ移ってきた最初の15分間くらいは、彼のマインドも抜群に活性化されたと感じたのですが、それ以降は、またまた様子見シーンの方が目立つようになってしまったという表現の方が適当でしょう。もちろん局面的には、例えば後半15分の、自軍ペナルティへエリア内での確信のスライディングタックル=見事なボール奪取プレーなど、彼の能力の高さを証明するシーンは出てくるのですがネ・・。要は、自分自身のプレーイメージを大きく活性化することがままならなかったということです。

 前述の部分で、稲本のポジションがレグヴァンスキーとのコンビになったと書いたのですが、どうも稲本のプレーイメージは、レグヴァンスキーの「前のセンター」らしい。そして稲本は、ボール奪取シーンの演出家としてだけではなく、後方からタテへのボール供給者(ゲームメイカー)としても目立ちに目立つレグヴァンスキーの脇役に回ってしまうことになる・・。

 後半24分に交代ということになってしまった稲本。結局この試合での全体的な印象は、冒頭に書いたとおり、「どうもダメだな〜・・彼ほどの能力があれば、攻守にわたって、もっと効果的にボールに絡めるはずなのに・・」っていうことで落ち着いてしまいました。

 「様子見」の状態を、「次の仕掛けのタメ」というところまで引き上げる努力を怠れば(イメージトレーニングを怠れば!)、また以前のような心理的な悪魔のサイクルに落ち込んでしまう・・。

 とにかく彼は、いの一番に、中盤守備での意識をブラッシュアップしなければなりません。アクションラディウス(半径)の拡大し、基本的な運動量を増大させるだけではなく、攻守にわたる「ここぞ!」の勝負シーンにおける仕掛けでの爆発ダッシュの頻度も上げなければならなのです。仕掛けの爆発ダッシュの頻度を上げるためには、仕掛けの流れイメージ(リズム)に正確に乗れていなければならない・・だからこそ攻守にわたる仕掛けイメージのブラッシュアップが必要なのです。




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