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ヨーロッパの日本人・・今週は、高原、中田、小野、そして藤田・・(2003年12月16日、火曜日)

どうも「入り方」が上手くないな・・。

 ハンブルガーSVの高原は、今節のホームでのフライブルク戦でも先発出場を果たしました(3-1とリードをひろげた直後の後半24分、守備固めのために高原とラインハルトが交代)。

 この試合の高原ですが、攻守にわたる全体的なプレー内容は決して悪くはなかったのですが、彼の本業である決定的シュートシーンへの絡み方が、どうも上手くないと感じました。高原自身のシュートシーンが少なすぎるという不満が残るのです。そのポイントでは、ライバルのロメオに差をつけられている・・。ロメオは、シュートできるポジションに入るだけではなく、シュートを決めるのも上手いですからね(イメージ感覚と身体の動きが一体になっている)。それが、高原と比べた、「結果」としてのゴール数の差にあらわれているということです。

 この試合でも、守備に、攻撃にと、優れた「組織プレー」を展開しつづける高原。それでも「個のアピアランス(存在感)」がうまくアップしない。ボールのないところで動きまわってタテパスを受け、シンプルに「ワンのパス」を回す・・そして「パス&ムーブ」で、次の勝負スペースで決定的パスを受ける・・またチャンスでは1対1のドリブル勝負を仕掛けていくというイメージ。そんなプロセスイメージはいいのですが、どうも、特に決定的パスを受ける動きなど、最終勝負シーンへの「入り方」がうまくいかないと感じるのですよ。

 前回のコラムでも書いたとおり、勝負の動き(決定的フリーランニング)では、どうも相手マークを振り切れていないという印象の方が強い(相手の視野から十分に消えていない!)。また、ラストパスを受ける決定的フリーランニングのタイミングとコースにも、もっと工夫が必要だと感じます。

 例えば2週間前のブレーメン戦では、右サイドでマハダビキアがドリブル勝負を仕掛けて抜け出したという決定的シーンがあったのですが、そこで高原は、中央ゾーンからニアポストゾーンへ突っ込んでいくべきだったのに、結局は、「そのまま無為に」ファーサイドスペースへ直進してしまった・・。あの体勢では、マハダビキアがそこへ浮き球のクロスを上げるのは、どう見ても無理ですからネ。

 またこの試合でも、何度か、決定的シーンでの動きが「合わない」と感じさせられたシーンがありました。例えば前半19分に、高原がタッチしたことでこぼれたボールをバルバレスが決めたシーン(もちろん高原は、自分がシュートできないから、バルバレスへボールを落とした!)。バルバレスにとっては、まさに「ゴッツァン・ゴール」。本当は高原がゴールを決めるべきだったのに・・。

 うまくボールの動きに絡み、決定的なボールの動きの起点になった高原が、逆サイドスペースをフリーで上がってきたクリンクへパスが回された次の瞬間、ダイレクトシュートをイメージして斜めに走り込みます(決定的フリーランニング)。でも、その勝負フリーランニングをスタートするタイミングが、ほんのチョット早すぎた・・。そのことで高原のポジションが「入り込みすぎて」しまい、クリンクからのラストパスが「戻り気味」になってしまったのです(パスが、走り込む高原の背後に入ってしまった)。相手GKが飛び出してきたことで、クリンクのパスコースは「そこしか」なかったわけだから、高原は、もう少し「タメ」てからスタートした方が(もう少し余裕をもって状況を見た方が!)よかったのかもしれないと感じたわけです。このプレーで、高原にアシストが記録されたわけですが、もちろんゴールの方がよかった・・。

 とにかく高原は、パサーとのアイコンタクト(イメージシンクロ)を優先するという視点で、もう少し、決定的アクションを「タメ」てもいいのかもしれないと思うのですよ。たしかに「決定的パスを呼び込むフリーランニング」でウラスペースへ抜けるという勝負イメージは高質なのですが、どうも、より高い確率で実際にシュートまでいくという視点では、もう少し「工夫」が必要なのかもしれないと感じる部分もあるということです。非常にセンシティブ(微妙)なテーマではあるのですが・・。

 だからこそ(前回も書いたように)「イメージトレーニング」が大事になってくるのです。もちろんそれは、パスを受けるためのイメージトレーニングだけではなく、そこから個人勝負(リスクチャレンジ)へ入っていくというイメージ描写能力の向上も含めてネ。以前の彼は、何度も「良い勝負シーン」をリードしていたじゃありませんか。そのシーンを編集し、それを繰り返し見返すのですよ。それによって彼自身の勝負イメージに対する確信レベルも向上してくるに違いない・・そしてそれが、味方との勝負イメージをシンクロさせる作業を、よりスムーズなものにする・・。確信というオーラが、味方の感覚をリードするというわけです。とにかく、ガンバレ高原!!

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 さて、後半16分にブレシアーノと交代し、左の前気味ハーフとして出場した中田英寿。局面でのプレーコンテンツは例によって高質でした。守備においても、攻撃においても。

 攻撃では、タテパスを受けるシーンが多かったわけですが、パスを受けるたびに、何らかのカタチで「次の有効な仕掛け」につなげていました。まあ彼としては、ダイレクトで展開したかったというシーンも多かったんでしょうがね・・。とにかくパスレシーブシーンでは、背後からタックルを受けて転んでも、確実に次につながけてしまったり、チェックにくる相手をドリブルで振り切ってクロスを上げたり、はたまた、確実なキープから正確なタテパス(リスキーパス)を決めたりと、実効プレーを魅せつづけていました。

 とはいっても、結局は決定的シーンの演出までは叶わなかった・・だから仕掛けのコアプレーという視点での印象度としては「まあまあ」といったところだった。まあ相手がユーヴェントスということもあるのですが・・。

 守備でもそうなのですが、彼の真骨頂は、何といっても組織プレーにあります。要は、周りとの高質なコンビネーションで攻守の目的を達成するというイメージのこと。例えば守備において、中田が相手ボールホルダー(次のバスレシーバー)に対する爆発的なチェイス&チェックアクションを仕掛けていく背景には、自分が直接ボールを奪取するというだけではなく、次のポイントで味方にボールを奪い返させるというイメージも内包されているわけです。でも、そんなイメージシンクロ守備プレーがうまく連鎖しなかったら、彼の守備での仕掛けアクションは、まさに単なる徒労に終わってしまう・・。それは心理・精神的にも、ものすごく疲れる状況というわけです。

 わたしは、以前から中田のことを「シンプルプレーの天才」と呼んでいるのですが、どうも今のパルマでは彼がイメージするスムーズな組織プレーがうまく回っていかない・・。守備においても、攻撃においても。だから中田のプレーも、どうしても「単発」という印象を拭えない・・。

 とにかく今は「忍耐」のときということです。もちろん彼も、自らが置かれている状況は明確に理解していることでしょう。まあ中田のことだから、脅威と機会は表裏一体という普遍的コンセプトが示唆するように、この状況を、これ以上ないという学習機会として活用し、次には、もっと大きな存在としてブレイクスルーを達成した姿を魅せてくれるに違いありません。

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 さて、小野伸二。立ち上がりから、あれっ?・・どうして「行かない」んだ??・・なんていうシーンが、目に付いてしまいます。ここでキーワードとして使った「行く」という表現は、攻守にわたり、自分主体で(積極的に)ボールに絡んでいくプレーのこと(もちろんそれは、攻守にわたるボールのないところでの積極プレーのことですよ!)。どうも、絶対的な運動量が不足しているから「ボールがないところでのプレー姿勢」に普段のダイナミズムが感じられない・・。

 守備では、ボール奪取シーンに絡めないばかりではなく、相手ボールホルダーへのチェックや、ボールがないところでのマーキングなどにも鋭さが感じられない。また攻撃でも、「寄りの動き」に勢いがないから、どうしても後方からのゲームメイクの起点になれない(ボールが集まらない・・彼を経由した仕掛けプロセスで出てこない)。たしかに勝負所を見計らった素晴らしいタイミングの飛び出しによって、二度、三度と自らシュートを打つという素晴らしい攻撃参加シーンはあったのですが、どうも全体的な出来としては・・。

 そして前半だけでの交代。そこで、風邪のために体調が万全ではなかったのかもしれないと伝えられました。まあ、そうだったんだろうな・・ちょっとプレーが鈍すぎた・・まあ仕方ない・・次には、例によっての攻守にわたるダイナミック積極プレーを披露してくれるだろう・・もちろん、守備において自らボールを奪い返すというテーマや、「本当の勝負所」でのボールがないところでの忠実&実効マークというテーマなど、彼が抱える課題の克服も含めてね・・。

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 さて今週の最後は、日本への復帰が決まった藤田俊哉。今節は、アヤックスとのアウェーゲームです。

 相手は、ホームゲームを戦う強豪チームですからね、ユトレヒトが仕掛けに入るというシーンが希なのは当然の成り行きです。ということで、ゲームの構図は、アヤックスに押し込まれつづけるなかで、数少ない機会をカウンターチャンスに結びつけようとするユトレヒトというものです。

 ここでちょいと脱線し、「ゲームを支配する」という現象のコノテーション(言外に含蓄される意味)に簡単に触れておきましょうかネ。この試合でアヤックスがゲームを支配しつづけられていたのは、明らかに彼らの守備ダイナミズムや、攻撃でのボールなしのプレーの勢いが優っていたからです。もちろんそこでは、ボール絡みの局面プレーにおける優れた個の勝負コンテンツの積み重ねが絶対的ベースになるわけですが、能力レベルの高い連中が、汗かきディフェンスや攻撃でのボールがないところでの忠実プレー(=要は、実効ある組織プレー)に精を出すことが、全体的な(その時点での!)チーム力の源泉になるということが言いたかったわけです。サッカーは有機的なプレー連鎖の集合体だからこそ、個人的な能力が高いチームでも、攻守わたる忠実な組織プレーの勢いが減退したら、チーム力は奈落の底・・っちゅうわけです。天皇杯?!・・あははっ・・。

 さて藤田。この試合では、右サイドハーフでの先発でした。前述したように、押し込まれる状況がつづいているから、うまくボール絡みでの効果的プレーを魅せられる場面は少ないけれど、それでも例によっての高質なチームプレーは健在です。

 もう何度も書いたように、彼は、味方とのコンビネーションでチカラを発揮するタイプの選手ですからね。押し込まれている全体的な状況にもかかわらず、守備では、ボールがないところでのマーキングや状況を見計らった激しいアタック、攻撃では、確実なつなぎプレーとボールがないところでの忠実な勝負フリーランニング等々、目立たないけれど、特徴がよく出た効果的なプレーをつづけていたというわけです。本当に彼のプレー姿勢は立派だし、シンパシーを感じます。

 何度も、前後のバランスが崩れた状況でアヤックスにカウンターを仕掛けられたとき、数十メートルは全力ダッシュで戻って効果的なディフェンスプレーを披露したり、味方が足を止めている状況で、彼だけが、決定的スペースへ飛び出していったり(仕掛けでの決定的フリーランニング!)するなど、攻守わたる目立たない実効プレーを目撃しましたよ。たしかに、ボールをもった状況で(何人もの相手を翻弄して)一人でチャンスメイクしてしまうといった派手なプレーはありません(できません・・)。それでも、組織プレーヤーとしての彼の忠実なプレー姿勢にはアタマが下がるのです。

 後半のユトレヒトは、そんな藤田の忠実プレーもあって、徐々に調子を上げてきていました。だから、後半16分の藤田の交代が残念で仕方ありませんでした。その直前には、右サイドから一度下がり、そして再びガンッと押し上げたことで自身のシュートまでいきましたしね(シュートが相手ディフェンダーに当たり味方への決定的パスになった・・惜しいシュート!)。まあ、仕方ない・・。次の「オランダ最終戦」に期待しましょう。




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