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ヨーロッパの日本人・・稲本潤一・・(2003年12月29日、月曜日)

「もっとボールに絡まなければいけない・・」。試合後の稲本がそんなことを言っていたとか。でも私は、その言葉を、「あそこでも、ここでも、行けば勝負に絡めたのに・・とにかく攻守にわたって本当によく勝負所が見えるようになっているから、そこに自分が絡めていけなかったことがものすごく悔やまれる・・」なんていうふうに解釈しましょうかね。

 数日前におこなわれたプレミアリーグ第18節、ホームでのサウサンプトン戦。稲本は、久々に先発フル出場を果たしました。それも、彼本来の守備的ハーフ。そして、攻守にわたって、部分的にせよ「本物のボランチ」という雰囲気のプレーが増えてきていると感じさせてくれました。

 私は、(以前何度か書いたように)守備的ハーフと、ポルトガル語でいうボランチという表現を分けて使っています。ボランチ(フランス語でボラン)はハンドルの意。本物のボランチは、自身がチェイス&チェックで守備の起点になったり、味方のチェックアクションをベースに次の勝負所でボールを奪い返す協力アクションをリードしたりするなど、中盤守備のイメージリーダーとして機能するだけではなく、次の攻撃でも、後方のゲームメイカーとして存分に存在感を発揮する(もちろんたまには自身がシュートシーンまで絡む!)チームの重心プレイヤーのことです。ドゥンガ・・ヴェーロン等々。それに対して守備的ハーフは、守備の起点プレーや汗かきプレーに徹するなど、主にディフェンスをイメージするバランシングプレイヤーのことです。もちろん私がその二つの表現を区別する背景には、ブラジルサッカーに対する敬意も含まれているわけですがネ・・。

 まあ実際には、この試合での稲本の全体的な出来は「本物のボランチ」と呼ぶにはまだまだではあったのですが、部分的には、ボランチイメージにピタリとあてはまるダイナミック&クリエイティブなプレーも魅せてくれていたというわけです。

 守備では、チェイス&チェックアクションはもちろん・・身体を投げ出すスライディングや身体全体でのブロッキングなど「タメの様子見」からの爆発アタックアクション・・ボールがないところでの忠実マーキング・・もちろん協力プレスゾーンへ急行するときのスピードにも確固たる「意志」が込められている・・等々、存分の存在感を発揮しつづけます。

 また攻撃でも、積極的なパスレシーブアクションや、素早く正確な組み立て・展開パスだけではなく、タイミングのよい仕掛けドリブルや勝負のスルーパス(二点目PKのキッカケになった、相手パスカット&ドリブルからのボア・モルテへのスルーパスは秀逸!)、はたまた、後方からのタイミングを見計らった押し上げ(勝負のフリーランニング)で、自身がシュートを放ったり、決定的シーンの演出に絡んだり(自身が決定的スペースへ入り込み、クラークからのスルーパスを受け、それをダイレクトヒールパスで展開したプレーも秀逸)と、インプレッシブな活躍なのですよ。

 まあ、とはいっても、攻守にわたって、まだまだボールへの絡み方が甘い(ボール奪取アクションへ向かうスタートが遅れた・・パスカットアクションが遅れた・・ボールがないところでのマークアクションが遅れた・・協力プレスへの寄せが遅れた・・はたまた攻撃でのパスレシーブアクションが遅れた・・等々)というシーンも至るところで確認できちゃったわけです。そんなシーンは、冒頭の彼の発言に重なるというわけですが、それでも、攻守にわたる全体的な「実効レベルプレー」からの印象は、非常にポジティブ。彼が順調に発展していることを如実に感じるというわけです。

 もちろんそれには、彼自身の努力がもっとも重要なファクター。自覚・・。それです。要は、ある程度のレベルに達した(日本)選手たちが、そこから世界へ向けた「ブレイク」を達成できるかどうかは、そのほとんどがインテリジェンスにかかわっているということです。

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 そんなことを考えながら、昨日の夜中、プレミアリーグ第19節、アウェーでのアストン・ヴィラ戦を観たという次第。

 またまた稲本は先発・・というよりも、サウサンプトン戦で先発した(ケガで途中交代したボニセル以外の)全員が先発に名を連ねたということで、サウサンプトン戦で彼らが魅せた素晴らしいサッカーイメージを維持する(ウィニングチーム・ネバー・チェンジという普遍的概念!)とクリス・コールマン監督が考えたということでしょう。

 この試合でも、稲本も含め、全員が、前節からの良いイメージを維持しつづけていましたよ。とはいってもそこはヴィラパーク(相手のホームスタジアム)ですからネ、相手のプレッシャーが厳しいのは道理。フルハムの選手たちが、脳裏に描写するイメージをうまく実際のプレーにつなげらないといった雰囲気なのです。総合力でフルハムの方が上だとは思うのですが、その地力が、相手の気のパワーに抑制されるという展開がつづくのですよ。ちょっとフラストレーションがたまる。

 そんなネガティブな雰囲気を引きずるように、稲本の攻守にわたる創造的なリスクチャレンジマインドのレベルも上がってこない(攻守わたって、そこそこ安定したダイナミックプレーを展開しているのですが・・)。そうこうしているうちに(後半21分)アストン・ヴィラに追加ゴールを奪われて、(2-0とリードを広げられたことで)クリス・コールマンが動かざるを得ない状況になってしまったというわけです。そして稲本は後半24分に交代。フムフム・・。

 決して私は稲本の出来が良くなかったとは思っていません。でも雰囲気は、彼がいなければ・・というレベルまで至っていないのもたしかなこと。レグヴァンスキーやショーン・デイビスといったライバルがいないうちに・・なんて思うのですが、結局はレベルを超えた存在感を発揮するという域までには到達できなかった・・(でも、彼のプレーコンテンツも含む「状況」がポジティブに回転しはじめていることも確かな事実!)。

 とにかく稲本は、いま自分が置かれている状況を、高い緊張感のなかで、与えられたチャンスを確実にモノにしていくというチャレンジをつづけなければならないという、自身の「発展」にとって願ってもない心理環境だとポジティブに考えなければいけません。

 事実、そうだと思いますよ。脅威と機会は表裏一体。彼も「また」、この普遍的なコンセプトを体現できるだけの物理的才能とインテリジェンスを備えていますからね。




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