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ヨーロッパの日本人・・今週のレポートは稲本潤一、藤田俊哉、小野伸二・・またビデオ予約を忘れたことで試合を観られなかった高原直泰についてもチョットだけ・・(2003年12月8日、月曜日)

この試合での稲本ですが、立ち上がりは、そこに「いるだけ」になってしまって・・。今節は、ホームでのボルトン戦。前節、アウェーでのアーセナル戦同様に、右のサイドハーフで先発した稲本でしたが、攻守にわたって、どうもプレーが消極的だと感じられて仕方ないのですよ。動きの範囲も狭いし、攻守にわたるボールがないところでの仕掛けプレーにも吹っ切れたいきおいが感じられない。

 前節のアーセナル戦では、稲本のサイドに、アシュレイ・コールやピレス、はたまたアンリなどが入れ替わり立ち替わり入り込んできたから(また全体的にフラムが押し込まれつづけていたから!)、稲本がやらなければならないプレー内容もおのずと決まってしまっていた・・。でもこの試合では、相手のチカラからすれば(またホームということで)攻守にわたって自ら仕掛けていかなければなりません。にもかかわらず、次のプレーイメージが描写できていないのかも・・と、観ている方に明確に伝わってくるような「無為な様子見シーン」が続出なのですよ。「ダメだな・・使われるだけのプレーになってしまっている・・もっとボールがないところで自らアクションを起こしていかなければ・・そのためにはまず何といっても、もっと積極的にディフェンスに入ることが肝心なんだけれど・・」なんてことを思っていたという次第。

 そんなふうに、この試合での稲本は、ちょいとフラストレーションがたまる立ち上がりだったのですよ。でも前半も20分を過ぎたあたりから、逆サイドのマールブランクとポジションを入れ替わったり、守備にも積極的に絡んでいくなど、稲本のプレーが目に見えて活性化していきます。たぶん彼自身も、受け身のプレー姿勢という「心理的な悪魔のサイクル」にはまっている自身のプレー内容に不満だったに違いありません。「これじゃダメだ・・何とかしなければ・・」。

 まあ以前だったら、そのまま「悪魔のサイクル」を断ち切れずにペースアップも叶わなかったわけですが、でもいまの稲本は違います。プレーのリズムが悪いと感じたらすぐに反応し、自ら「ネガティブ・サイクル」を断ち切れるようになったのですよ。もちろんそのキッカケになるのが積極的なディフェンス参加であることは言うまでもありません。前後左右に動きまわってディフェンスの勝負所をイメージしつづけ、実際に何度もボール奪取シーンに実効あるカタチで絡んでいく稲本。だからこそ次の攻めでも、ボールがないところでの仕掛けフリーランニングなど、効果的に活性ゾーンに絡んでいけるようになったというわけです(ヘディングシュートシーンや、カウンターでの抜け出しフリーランニング&パスレシーブシーンも!)。それは、稲本が本当の意味で成長しつづけていることを「再び」明確に体感できた時間帯でした。

 とにかく積極的に(自分主体の判断と決断で)ディフェンスに入ったときの稲本のプレーはすごい迫力ですよ。スピードも十分だし(ボールがないところでのマーキングで決して振り切られたりしない!)、アタックの内容にしても、ダイナミックで巧妙。激しいけれど、あくまでもフェアなタックルテクニックを駆使し、まさに「見事」という表現がピタリとあてはまるアタックでボールを奪い返してしまうといったインプレッシブな(強烈に印象に残る!)守備シーンを演出するのです。

 そんな玄人好みの高質なディフェンスシーンこそが、エキスパートたちへのアピールの中心的な対象になります。プロ選手にとっては、ソチラの方が意義が大きい! その積み重ねが、「現場評価」のベースになりますからね。とにかくこちらは、そんな稲本の活性化プロセスを見ていてホッと胸をなで下ろしていたという次第です。

 でもフラムは、後半8分にボルトンに先制ゴールを奪われてしまいます。それまでは良いペースで試合を進めていたのに・・。そしてその数分後に、稲本とサバが交代。要は、ツートップにするために(より積極的にゴールを奪いに行くために)中盤の稲本をベンチへ下げたというわけです。マールブランクは別格として、クラークとショーン・デイヴィス、はたまたレグヴァンスキーは、この試合では戦術的な交代の対象にはならなかった・・。まあ仕方ない・・。

 とはいっても、稲本の出来が悪かったわけでは決してありません。それでも、ここ最近(ペンブリッジやショーン・デイヴィスが復帰してきてから?!)稲本に求められているタスク(基本的な役割と基本的なポジション)が、彼のプレータイプからすれば、どうしても「セカンドチョイス的」なものに偏っているのは否めない事実です。何といっても彼が一番チカラを発揮できるのは、下がり気味のセンターハーフですからネ。

 与えられたポジジョンで、それなりのパフォーマンスを発揮しつづける稲本。まだまだ「逆風の状況」はつづきそうです。もちろん彼は、そんな(表面的には!)ネガティブな状態を、自分自身が発展するための「機会」だという捉えなければいけません。脅威と機会は表裏一体・・。その発想こそが、長い目で見たときの成功のキーポイントになるのです。まあ、そのことは、パルマで「まだ」不遇をかこっている中田英寿にも言えそうです。

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 さて次は、久しぶりに藤田俊哉をレポートしましょう。

 今節は、アウェーで、ビーレム2との対戦。藤田は先発でした。とはいっても、後半26分には交代ということになります。決して出来が悪かったというわけではないのですが・・。

 このことはもう何度も書きましたか、藤田は、個のチカラで状況を打開していくタイプではなく、あくまでも味方との組織プレー&コンビネーションを基調に攻め上がっていくタイプです。要は、攻守にわたる典型的な「組織プレイヤー」。この試合でも、彼のフリーランニングは目立ちに目立っていましたよ。まあ、あれほどハイレベルな発想の「ボールがないところでの仕掛け」を演出していた(演出しようとトライしていた)のは彼だけといっても過言ではなかった・・。でも、「そこ」へタイミングの良いパスが回ってこない・・パスを出せる味方がいない・・そんな鋭い組織プレーに対するイメージがない・・。

 そこが強いチームとの「明確な差」なのですよ。強いチームは、ほとんどの勝負が「ボールのないところで決まる・・」ということを強烈に意識している・・だから、パスレシーバーにしてもボールホルダーにしても、常に、勝負所スペースを意識している。彼らにとっては、三人目がフィニッシャーになるという発想が普通だし、常に「次のボールホルダー」という発想も持っているということです。要は、強いといわれるチームがコンビネーションで仕掛けていく場合、パスレシーバーとパサーはほぼ同義で(ほぼ同義でなければならず!)、常にその両方で機能することを(その両方の機能を交互に果たすことを!)強烈に意識しているということです。でもユトレヒトの場合は(まあ相手のビーレムも同じようなレベル)・・。

 ということでこのゲームからは、攻守にわたって(また両チームともに)、個のプレー(互いの競り合いプレー)のツギハギという印象が強く残りました。だから、藤田のディフェンスシーンにしても、組織的なボール奪取ではなく、どうも「1対1」の対面勝負になってしまうケースが多い。まあこうなったら体力的にも藤田には厳しいですよね。もちろん多くの場面で抑えることはできていましたが、逆に強引なドリブルに振り切られてしまうというネガティブシーンも目立ってしまって・・。普通だったら、そこで自分が犠牲になることで次の味方が、より確実にボールを奪い返せるのに・・。

 相手ボールホルダーをチェックする味方との連携(有機的なイメージ連鎖)がうまく機能していないということです。だから組織的なボール奪取シーンが比較的少なくなり、局部的な力ずくの競り合いシーンが多くなってしまう・・。

 個のチカラのぶつ切り(つぎはぎ)サッカー・・。組織プレーを基調とした日本代表とは似てもに似つかないというわけです。藤田がユトレヒトに参加した当初は、ポンポンと彼にボールが集まったし、そこを中心にボールがよく動いていた。だから、彼の「組織プレー」イメージに周りが引っ張られるという流れも多かったけれど、ここにきて、チームの全体プレーイメージが「バラけて」しまった・・。こうなったら、個のチカラで打開するのは苦しい藤田が目立った活躍ができ「難く」なるのも自然な流れ・・。

 例えばジュビロのように、互いにバランスよく使い・使われる(ボールと人がよく動く)組織プレーが前面に押し出されるチームの場合は、藤田が秘める「高質な組織プレー能力」は本当に素晴らしい機能美を魅せるのに・・なんてことを考えていた湯浅でした。

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 さて今週の最後は小野伸二。例によって、攻守にわたってハイレベルに安定したプレーを展開しました。

 この試合を観はじめてまず感じたことは、藤田がフェイエノールトにいたら、それはそれは素晴らしい活躍をするだろうな(100倍はポジティブに評価されるだろうな)・・なんてことでした。

 スターとベテランが抜けたフェイエノールト・・リーグ序盤戦は、パフォーマンスがものすごく不安定だったフェイエノールト・・そして、そんな苦しい時期を乗り越え、選手たちの自覚が格段に高まってきていることで、グンとパフォーマンスがアップしているフェイエノールト・・。まあクラブ首脳陣の意図もそこにあったのでしょうが、これほどの短い期間で「世代交代と権力委譲」を達成してしまうのですから、ファン・マイル・バイク監督のウデに拍手なのですよ。たしかに彼は、ドイツの現場でも高く評価されている監督なのです。

 この試合でもフェイエの選手たちは、高い確信レベルを感じさせるダイナミックサッカーを展開しました。中盤選手たちの縦横無尽のポジションチェンジ・・素早く広いボールの動き・・まさにボールと人の動きが有機的に連鎖するクリエイティブサッカー・・だから藤田がここにいたら抜群の・・なんてネ・・。もちろん相手が弱いということもありますが、逆に、「よし、こいつ等が相手だったら、オレたちの理想イメージを体現できるぞ!」ってな強烈な意図と意志をバクハツさせるのですよ。素晴らしクリエイティブなプレー姿勢とゲーム内容じゃありませんか。

 もちろん、そんな高質サッカーの絶対的な背景は、選手一人ひとりに深く浸透した「守備意識」。ケースバイケースで、ルアリンクが、ファン・ベルジーが、はたまたブッフェルまでが、最終ラインまでも追い越してしまうような勢いで守備に参加してくるのです。それこそ、クリエイティブな「タテのポジションチェンジ」を司るホンモノの背景ファクターというわけです。この試合での小野伸二は、パルドと守備的ハーフコンビを組み、攻守にわたって抜群の実効プレーを披露したのですが、彼が、後ろ髪を引かれずに前後左右に活動領域を広げていけた背景にも高質な「守備意識」があったというわけです。それがあるからこそ、ボールと人が「規制されることなく」動きつづけられる・・。

 それにしても小野伸二のパフォーマンスは、高みで安定しているところに、ホンモノのダイナミズムも加味されてきていると感じます。そこでは、以前のような「アリバイプレー」はほとんどなくなりましたよ。要は、彼自身が「ミスが発生するのは当たり前だし、サッカー選手は常にその事実と対峙しながらプレーしなければならない・・ミスを次のポジティブプレーにつなげられなければならない・・」という基本的なメカニズムに対する理解が深まったということなんでしょう。まあチームの中心選手としての自覚の高揚もあるでしょうしネ。

 また、特にボールのないとろでの守備が良くなっていると感じました(勝負イメージの描写能力の高揚!)。要は、ポジショニングバランスイメージから「ブレイク」してマンマークへ移行するプロセスでのメリハリが効いてきたということです。ちょいと抽象的なのですが、とにかく「ここにパスがくる・・」という予測状況における、ボールがないところでの忠実なマンマーク判断は、秀逸でした。また競り合い状況でも、粘り強さが出てきていると感じます。以前のように、イージーに諦めたり(以前は、自分自身に対する妥協・言い訳がミエミエだった!)することなく、簡単に置き去りされることなく食らいついていくのです。いくら「カッコ悪くても」、とにかく身体全体で食らいついていく・・。素晴らしい。

 そんな守備での高みの安定があるからこそ、攻撃でも存在感を発揮できるということです。彼が上がれば、チームメイトたちは、積極的に小野にパスを付けるし、次の守備をイメージしたバックアップにも回る・・。

 とにかくフェイエノールトがチームとして発展していることは確かな事実だし、そのプロセスを観ることは楽しい学習機会です。

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 最後に高原直泰について・・。

 今節の、アウェーでのシュツットガルト戦を楽しみにしていた湯浅だったのですが、あまりにやらなければならないことが重なったことでビデオ予約を忘れてしまって・・。

 ここのところ彼に対するレポートが少なくなっていたので、とにかくシュツットガルト戦だけは・・と意気込んでいたのですよ。それが・・。残念で仕方ありません。

 前節、ホームでのヴェルダー・ブレーメン戦。今節のシュツットガルト戦と同様に、高原は先発出場を果たしました。でもどうもプレーは低調。パスレシーブポイントとしては機能するのですが、そこにパスを付けても、安全パスしか出てこないことで、前への仕掛けのキッカケになれないのですよ。まあそれも、ハンブルクの攻めが(押し上げが)全体的に低調だから仕方ない。高原もまた、一人で何人も抜き去ってしまうようなプレーは無理ですからネ。ということで、低調なハンブルク攻撃において、最前線の高原が一人で奮闘しているという印象でしょうかネ。もっと言えば、彼を「捨て石」に、そこで出来たスペースを周りが活用しているというイメージでしょうか・・。

 下がってパスを受け、それを落として「次のスペースでリターンパスをもらう・・」というイメージの高原は、良い動きをしていたとは思うのですが、いかんせん、それが結果につながらない(次の良い展開のキッカケにならない!)。

 また勝負の動き(決定的フリーランニング)にしても、どうも相手マークを振り切れていないという印象の方が強い(相手マークから消えられていない!)。ブレーメン戦では、右サイドでマハダビキアが勝負を仕掛けて抜け出したという決定的シーンがあったのですが、そこで高原は、中央ゾーンからニアポストゾーンへ突っ込むべきだったのに、結局は、「そのまま無為に」ファーサイドスペースへ入っただけでした(あの体勢では、マハダビキアがそこへ浮き球のクロスを上げるのは無理!)。ちょいと、フラストレーションがたまった試合だったのです。だからこそシュツットガルト戦を楽しみにしていたのですよ、それが・・。

 ということで、仕方なくドイツの友人に電話を入れました。「タカハラは良くなっているよ、アクション半径も広いし、ボールをしっかりとキープできるし・・」ってな期待を込めた意見がある反面、別の友人は、「タカハラは、活発な動きをみせてはいるけれど、ロメオのような決定的な仕事がうまくできない・・シュツットガルト戦では、最前線に張りつづけていたけれど、どうもシュートまで行けなかったしな・・」と手厳しい。

 まあこうなったら、とにかく吹っ切れた勝負をつづけるしかない。いまは、ボールを持った高原が、安全につなごうとしているのが良く分かるのですよ。もちろんそれは、個人勝負で局面を打開していくことに対して自信がないということの裏返し(弱気になっていることがよく分かる!)。要は、そこでボールを失うことが怖いということです。もちろん猪突猛進は馬鹿げていますが、彼の場合は、もっともっと個の勝負を仕掛けていかなければアピールできません。何といっても彼はストライカーなのですから・・。

 だからこそ、個の勝負を仕掛けていける「状況」でボールを持つことが(とにかくその状況に入り込むことが!)当面の課題だということです。そのためには、もっとイメージトレーニングを積むことが大事。もちろんそれは、パスを受けるためのイメージトレーニングだけではなく、そこからの個人勝負(リスクチャレンジ)も含めてネ。以前の彼は、何度も「良いシーン」を演出したじゃありませんか。そのシーンを編集し、それを繰り返し見返すのですよ。彼の周りには、そんなバックアップ作業をやらなければならないスタッフがいるでしょう・・? とにかく頑張れ、高原直泰!!




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