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ヨーロッパの日本人・・今週は、高原直泰と藤田俊哉から・・また柳沢敦と小野伸二についてもショート・ショートコメント・・(2003年9月14日、日曜日)

まず高原直泰のハンブルガーSVから。

 フ〜〜! 心配していたことが現実になってしまった・・。ハンブルクが勝利の女神に見放されっぱなしなのです。このことは、シーズンがはじまる前、ハンブルガーSVコーチのアルミン・ロイタースハーンと話していたことでした。「シーズン最初の5試合がものすごく大事なんだ。相手も手強いヤツらばかりだし。そこで最低でも9ポイントくらい稼げれば、確実に次につながる。でもそこでツキに見放されたら、シーズンを通して難しい状況に陥ってしまうかもしれないんだよ」。

 アルミンが言っていたのは、初戦のハノーファー96の後、二試合つづけてアウェー戦になるだけではなく(対ボーフム戦、対ヴォルフスブルク戦)、第四節では、リーグチャンピオンのバイエルン・ミュンヘンをホームに迎え、つづいて(今節)、復調著しいレーバークーゼンと(当時、彼らの復調情報はドイツ全土に知れわたっていた!)アウェーで戦わなければならないという厳しいスケジュールのことでした。

 なかでも、もっとも警戒していたのが、初戦のハノーファー。監督のラルフ・ラングニックは、このHPだけではなく、スポナビやサッカーマガジンで何度も取り上げたように、非常に優秀なプロコーチですし、彼によってチームが格段の発展を魅せていることは衆目の認めるところでした。だから、ホームでの開幕戦ということもあって、特に警戒していたというわけです。

 にもかかわらず、「0-3」という完敗を喫し(本当にこの開幕ゲームでの敗戦が痛かった!)、つづくアウェー連戦でも「一分け一敗」という不本意な戦績しか残せなかった。そしてバイエルン・ミュンヘン(8月24日のホームゲーム)と今節のレーバークーゼン(アウェー)でも連敗を喫してしまう。ハンブルガーSVにとっては、まさに悪夢のシーズンスタートとなってしまいました。

 最悪のスタート。それには、決して内容が悪いわけではないのに、勝敗で女神に見放されつづけているという事実も含まれます(選手たちにとっての心理・精神的な負荷が大きい!)。シーズン開幕前におこなわれたリーグカップでは、優勝したハンブルクの堅実なサッカーが目立っていたのに・・(内容を上回る結果を獲得した!・・でもそれで本シーズンでのツキを使い果たしてしまった?!)。

 今節のレーバークーゼン戦でも、決して押し込められていたわけではありません。いや、逆に、全体としてハンブルクの方が積極的なサッカーを展開していた(ボール支配率で上回っていた)と表現しても差しつかえないゲーム展開だったのです。

 全般的にペースを握っていたハンブルク。それでもゴールチャンスは数えるほど(正確には前半の一回だけ・・高原のヘディングでのラストパスが、同時に決定的スペースへ飛び出したヤロリームにピタリと合った!)。組み立てまではまあまあだけれど、仕掛けの段階では、十分な「変化」を演出できないのです。それに対し、回数は少ないけれど、レーバークーゼンの仕掛けでの危険度は、完全にハンブルクを凌駕している。要は、ハンブルクがペースは握っていた(ボール支配率では互角以上だった)けれど、実質的な「ゲームの流れ」ではレーバークーゼンに軍配が上がるということです。

 やはり、戦術レベル(やろうとしているサッカーイメージ)に大きな差がない場合、個の能力の差がモノをいう・・。

 レーバークーゼンは、ブラジル代表のフランサ、ジュアン、ルシオ、アルゼンチン代表のプラセンテ、ドイツ代表のブット、ノイヴィル、ベルント・シュナイダー、ラメロー、ビアロフスカ、クロアチア代表のバビッチなどなど錚々(そうそう)たるメンバーを揃えていますからネ(代表歴のない残りの一人は、イタリア国籍のポンチ・・でも実効レベルは完全に主力!・・フ〜〜!)。それに対し、ハンブルクで目立つのは、高原、マハダビキア、バルバレス(ボスニア・ヘルツェゴビナ)、バインリッヒ(ドイツ)、ヴィッキー(スイス)、ウイファルジとフーカル(チェコ)くらい。

 ということで、この試合の総合評価は、そんな強敵を向こうに回したハンブルクが(それも相手のホームで)、全体としては立派なサッカーを展開していたというものです。

 高原にしても、例によって「発展ベクトル上にあること」を誇示できていましたしネ。攻守にわたるボールなしの積極&クレバープレー・・大きく伸びているボール奪取テクニック・・ボールを持ったときの、シンプルパスと勝負パス、はたまた個の勝負(ドリブル突破トライや、タメのキープ等々)の優れたメリハリ・・また自らシュートポジションへ入っていく意識の高揚(パスレシーバーとして、またドリブラーとして)等々、とにかくこの試合でも、高原への期待が間違っていなかったと再認識させてくれました。たしかに課題はまだまだ山積み。でも前進(発展)していることを明確に感じさせてくれるから、それが、観ているこちらにフラストレーションとして残らない・・。

 そんなハンブルクですが、やはり、マハダビキア、フーカルとホラーバッハの両サイドバック(この三人はケガ)、またベンジャミン(出場停止)等の不在は目立っていました。彼らがいれば、右サイドからの正確なクロス(中央ゾーンで待つ味方とのタイミングイメージも高質にシンクロ!)や、サイドでの必殺オーバーラップ、はたまたタイミングの三人目のフリーランニング等々、もっと「仕掛け」に変化をつけることができたに違いない・・。

 この試合では、降格したニュールンベルクから移籍してきたヤロリーム(チェコ)がデビューしました。基本的には、マハダビキアのポジション(右のハーフ)。かなり期待されている新戦力です。たしかに、しっかりとしたテクニックからのドリブルは威力がありそう。でも、どうもボールの持ち方が中途半端。たしかにキープ力は十分ですが、どうも「こねくり回し」の気もある・・またドリブルしても相手を抜き切るところまでいけないし、ボールキープ(ドリブル勝負)のクセが味方によく理解されていないから、パスレシーブなどのサポートの動きもままならない・・クロスにしても、それを上げるという意識が希薄だから(まだ、相手を抜き去ることの方にご執心!)、中央で待つ味方の動きが、どうもうまくシンクロしない・・。

 要は、実効レベルで、マハダビキアとは「まだ」比べものにならないということです。もちろん彼が、マラドーナのようなスーパードリブラーならばハナシは別ですが・・。とはいっても、潜在能力が高いことは疑う余地がありませんから、本当の意味でハンブルクの補強になれるかどうかについて興味がつのります(また新たな学習機会が・・)。

 さて、リーグ最下位付近まで落ち込んでしまったハンブルク。前回のコラムでも書いたとおり、コーチングスタッフは言うまでもなく、クラブマネージメントも含め、とにかく今は「落ち着く」ことが肝心です。たしかに守備ブロックが不安定(最終ラインセンターが不安定・・それは守備的ハーフとのコンビネーションに問題があるから!)、攻撃における最終の仕掛けで変化を演出できないなど課題山積みですが、とにかく今は、我慢マインドを心理ベースとして修正に打ち込むことです。昨シーズンも出足でつまづいていたから(6試合終了時で、2勝4敗)厳しい状況は経験済み・・。

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 さて、待望の初テレビ中継(スカパー)がかなった藤田俊哉。

 彼の存在感ある活躍は聞いてはいたのですが、まだ実際に観ていませんでしたからね。本当に楽しみにしていました。そして観はじめてすぐに思っていました。「この試合は、相手との力の差があり過ぎるな・・」。

 藤田が所属するユトレヒトの相手は、昨シーズンのリーグチャンピオン、PSVアイントホーフェン。それも彼らのホームゲームです。ユトレヒトが押し込まれ、自分たちがイメージするサッカーがままならないのも道理。個人のチカラを加算した「単純総計力」でも、また戦術的な発想レベルでも、明らかにアイントホーフェンの方が上なのです。それでも藤田は、全体的としては、ある程度の存在感はアピールできていましたよ。

 彼は、基本的には「チームプレイヤー」。シンプルにボールを動かしながら(その動きの効果的な中継ポイントとして機能しながら)、最後にはボールのないところで勝負を決めてしまう・・という基本発想のプレーが得意です。そんな組織パスプレー対し、ドリブル突破チャレンジとか、リスキーなタメの演出から勝負パスを出すといった「個の勝負」はそんなに目立たない。要は、味方とのコンビネーションが機能してはじめてチカラを発揮するタイプの選手ということです。

 でもこの試合では、相手が強いこともあって、シンプルにパスを回しても、途中で味方がボールを失ってしまうことで、彼のところへボールが戻ってくるのは希。前半の藤田は、仕掛けの演出がままならないばかりか、ボールを持っても、すぐに相手に詰められてしまうことで横パスに逃げるしかない・・といった後ろ向きのプレーに終始していました。まあそれは、彼の基本ポジションが「二列目センター」という、相手に一番狙われやすいステーションだったこともあります。とにかく味方からのパスタイミングが遅く、藤田へのパスのほとんどが相手ディフェンダーに狙われてしまうのですよ。

 それでも後半は、「中継ポイント」としての藤田の組織パスプレーがうまく機能するようになります。そこでの特筆ポイントは、何といっても、藤田から素早いタイミングのタテパスが出るようになったこと。タテパスはリスク。それでも、ボールがタテに動かなければ、相手守備のバランスを崩すキッカケさえ掴めない。そんな「仕掛けのキーポイント」としてのタテパスが、藤田を中心に繰り出されるようになったのです。また、「素早いタイミング」のタテパスというのもミソ。前線選手をマークする相手が予測できないタイミングでタテパスが送り込まれるから、パスレシーバーも、ある程度余裕をもってボールをコントロールできるし、そこからの展開も効果的になる(周りのサポート意欲も強化できる!)というわけです。そして、ユトレヒトの仕掛けが危険なニオイを放つようになっていったというわけです。

 だから、藤田に対する総合評価が「ある程度の存在感は発揮した」という表現になりました。とはいっても、(相手とのチカラの差があったとはいえ)やはり実効レベルでは不満は残ります。たぶんそれは、藤田が、自分の基本ポジションを意識し過ぎていたからでしょう。相変わらず、藤田の「守備意識」はハイレベル。それでも、二列目センターという基本ポジションを意識し過ぎている(?!)ために、どうも攻守の「つなぎ機能」が効果的に働かないと感じられるのです。要は、中盤で良いカタチでパスを受けるシーンが少なすぎるということです。

 私は、もっと積極的にディフェンスに絡んでもいいと思っていました。もちろん下がり過ぎて(相手を追いすぎて)しまったら、次の攻撃での起点(タテパスレシーブポイント)になり難いという問題点が出てくるから考えもの。それでも、アクティブゾーン(ボールがプレーされるゾーン)に、常に近い位置で(常にそこに絡むという意識で)プレーすることは大事だということです。だから、ボール奪取ゾーンへの絡みを、もう少し積極的に意識してもいい・・。

 藤田がジュビロで大活躍していた背景には、彼の基本ポジションが左サイドバックであるからこその(味方とのバックアップ連携が機能していたからこその)行動半径の広さがありました。相手の死角から入っていくような、上手いアクティブゾーンへの(スペースへの)入り方。そして最終勝負の仕掛けコンビネーションへの、シンプルで効果的な絡み。そんなプレースタイル(プレーイメージ)こそが、彼の能力を最大限に発揮させたと思うのです。要は、相手守備にとって、把握し難いことこの上ない「影武者プレーヤー」というのが彼の強みだということです。

 それでも、ユトレヒトでは、明確な二列目センターという「表のプレーヤー」。たしかに存在感あふれるプレーを展開できているようですが、たまには「隠れて」もいいと思うのですよ。いや、それをもっと強く意識しなければならない・・。それについては、監督の判断を待つのではなく、グラウンド上での仲間との「打ち合わせ」で実行していけばいい。そう、クリエイティブなタテのポジションチェンジのことですよ(タテのポジションチェンジの仕掛け人たれ!)。

 そんな変化に富んだプレーコンテンツなど、これから藤田が「どのようなタイプの存在感」を発揮していくのかも注目ポイントです。

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 最後に、柳沢敦、小野伸二について短くコメント。両人とも途中出場ということになりました。

 柳沢は、ボールを持った状況では、より強く「個の仕掛け」を意識しはじめていると感じます。また、最前線でのディフェンスも積極的(基本的には、守備の起点プレーとしてのチェイシング・・数十メートルのチェイシングの後、自身がボールを奪い返したシーンもあった!)。

 でも、ちょっと監督に従い過ぎという側面も感じました。「左サイドでセカンドストライカーを意識せよ・・」という指示だったらしいのですが、それに忠実にプレーし過ぎていた?! たしかに最終的な仕掛けシーンでは中央へも進出してきますが、中央ゾーンにスペースがあれば、組み立て段階でもそこへ進出していってパスを受けてもいいわけですよ。もちろんそのためには、パスを要求するような(パスを呼び込む)爆発アクションを起こさなければならなりません。選手の「意志」は、組み立て段階での(中盤などでの)爆発フリーランニングに如実に現れてくるものなのです。そんな積極プレーが出てくれば、(効果的な汗かきディフェンスプレーと同様に!)チームメイトたちからも、認められるようになるものです。

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 さて、久しぶりの小野伸二。

 今シーズンのフェイエノールトは、ボスフェルト、ファン・ホーイドンク、エマートン等の絶対的主力が抜けたことで、かなりの戦力ダウンということになりました。実際にゲームを観ていても、ゲーム内容の質の低下が如実に分かる。これは大変なシーズンになりそうなフェイエなのです。

 まあだからこそ、チームの中心として頑張らなければならなくなった小野伸二も、チーム内でだけではなく、ヨーロッパサッカーシーンでの存在感をアップさせるビッグチャンスでもあるわけです。脅威と機会は表裏一体・・。

 そんな「機会意識」に目覚めたこともあるのでしょう、「1-2」で負けている状況で、二列目センターとして登場した小野伸二のプレーは、素晴らしかったですよ。久々に、彼の「個の才能」を堪能させてもらいました。ボールがないところでよく動いて、パスターゲットになるだけではなく、ボールを持っても、常にギリギリのリスクチャレンジプレーにトライしつづける。相手を背負ってのボールキープ(タメ)からの仕掛けパス・・相手と正対した状態からのフェイク&ドリブル&パス・・後方でボールを受けてからの、タテのスペースをつなぐ高速ドリブル&パス等々。

 それでも、どうも彼にボールが集まりにくい。選手たちの意識が鈍いこと。もっとベンチは「小野にボールを集めろ!」と指示を出せばいいのに・・なんて、歯がゆい思いをしたものです。

 やはり彼には攻撃的ハーフが似合っている・・それも、守備意識の高い(攻守のバランス感覚に優れた)チャンスメイカーとして・・。そんなことを思っていました。

 そうです。私は、日本代表での中田英寿のパートナーとしての「前気味ハーフ」が小野のベストポジションだと思っているのです。まだ世界の一流ではない日本代表の場合、少なくとも「二人」は専業の(確実な実効ディフェンスパフォーマンスの)守備的ハーフが必要ですし、攻撃的ハーフにしても、(中田英寿のように)通常の守備的ハーフくらいの高い守備意識が求められるというわけです。だからこそ、ハイレベルな(ボール絡みの)才能プレーを基盤に、攻守にわたって(ボール絡み&ボールなしの状況で)自ら積極的に仕事を探しつづけるという「バランス感覚」に磨きをかけてきた小野伸二の、日本代表での理想ポジションが見えてきたと感じるのですよ。

 とにかく今シーズンのフェイエノールトでは、小野伸二の、攻守にわたる積極プレー(意地の復活プレー!)に注目です。私は、大いに期待していますよ。




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