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ヨーロッパの日本人・・さて、今週の締めくくりは中田英寿と稲本潤一・・また中村俊輔についてもショートコメント・・(2003年9月15日、月曜日)

さて、日本代表でも、自らのクラブでも、パフォーマンスが高みで安定している中田英寿と稲本潤一。ポジション(基本的なタスクイメージ)は違っても、実効パフォーマンスを基盤にして、確固たるチーム内ポジションを築いていると感じます。

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 まず中田英寿。例によって右サイドハーフを基本ポジションにして、センターのモルフェオと、臨機応変にポジションを変えていく。とはいっても、この試合でのポジションチェンジ頻度は、初戦ほどではありませんでした(もちろん最終勝負シーンは違いますがネ)。でも逆に、そんな個々のポジショニングバランスの安定(固定傾向が、比較的強かったこと)が、互いのプレーイメージのシンクロレベルを引き上げ(どこに誰がいるかにという明確なイメージ!)、仕掛けがうまく流れていたとも感じました。もちろんこれからは、より活発な縦横ポジションチェンジを基盤にした(よりクリエイティブな変化を基盤にした)組織的な仕掛けコンテンツも発展していくでしょうが、この試合では、次の仕掛けイメージを描写するという意味で、どちらかといえば「固定傾向」が強かったことが功を奏していたと感じたわけです。

 まあ、まだアドリアーノの球離れイメージや、モルフェオの守備参加(特にボールがないところでの忠実ディフェンス)などに課題を抱えていることで、中田英寿の負担も大きいとは感じますが、それでも「明るい発展イメージ」があるから、中田のプレーにも、高いモティベーションを感じます。

 何が明るい発展イメージかって? もちろんそれは、チームが、組織プレーと個人プレーのハイレベルなバランスを志向していることですよ。要は、昨シーズンのパルマは、ムトゥー&アドリアーノという「ダブル」の圧倒的才能を擁していたから、攻めのイメージも彼らの個人勝負が中心だったということです。中田も含む周りのチームメイトたちは、いかにこの二人を、良いカタチで単独ドリブル勝負に入らせるのか・・というのがテーマだったのです。最初の頃は、彼らにも組織プレー感覚を植え付けようとしたと聞きますが(その方が、彼らの個人勝負能力がより活かされる!)、結局は、シュートをするという攻撃の目的を達成するためのこの二人の可能性の高さに押されてしまったというわけです(まあベンチが現実的なチョイスをしたということ)。

 それが今シーズンは、ガラリと方向性が変わっている。プランデッリ監督も、もっと活発にボールを動かそうなんていう指示を出しているようですし、中田英寿に対しても、右サイドに張り付いていなくてもいいということになっているらしい・・。まあ今のところは、モルフェオの攻守にわたる組織プレーイメージの「足りないところ」を彼が補填しているという状況ですが、そのうちに(=中盤選手たちの守備意識の発展に伴って!)、より活発な縦横ポジションチェンジが出てくるようになるだろうという期待を抱かせてくれるに十分なゲーム内容なのですよ(前節のゲーム内容も含めて!)。アドリアーノにしても、より「組織と個のバランス」を意識しはじめているようですしネ。その意味でも、パルマの発展プロセスが楽しみです。

 チームが、そんなポジティブな流れにあるから、中田英寿のプレーぶりにも、(たしかに現象面は、まだ昨シーズンと大差ないにしても・・)より高いモティベーションを感じるというわけです。右サイドゾーンの守備で高い実効プレーを展開するだけではなく(ボール絡みやボールのないところでも!)、サイドバックのボネーラや守備的ハーフのバローネをタテへ「送り出した」り、モルフェオとの素早いパス交換で組み立ての中心になったり・・。

 とにかく、高いモティベーションの「シンプルプレーの天才」を観るのは、楽しいことこの上ありません。

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 さて稲本。

 私は、彼の攻守にわたるプレーを、ジッと観察しつづけていました。もちろんテレビ画面から消えることも多々あるわけですが、そんなときでも、「ここにポジションを移動しているに違いない・・」、「次は、このパスレシーバーを狙っているだろう・・」、はたまた「次は、パスを受けるためにこのスペースへ上がってくるだろう・・」なんてネ。そして思っていました。たしかに全体パフォーマンスは高みで安定しているけれど、どうも攻守の勝負所へ絡んでいく「鋭さ」に陰りが見えはじめている・・。

 一対一で抜き去られたり、トラップしたボールをかっさらわれてシュートを打たれたり等・・何度かそんなミスはありましたが、全体的としては、高みで安定したディフェンスパフォーマンス。それでも、どうも勝負所へ絡んでいく鋭い感覚という視点では不満が残るのですよ。

 まあ稲本にしたら、「とにかくまず安定した中盤守備からゲームに入り、落ち着いてきたら前方スペースへのチャンスを狙っていく・・」という意識なのでしょうが、どうもその「チャンスを掴む」のがままならない。観ていて、何度「そこだ!」という声が出そうになったことか。どうも、様子見状態からの次の「爆発」にうまく点火できていないと感じるのです。もちろん何度も、美しいインターセプトや、相手のトラップの瞬間を狙ったボール奪取プレーにつながるクリエイティブな「静から動への爆発プレー」を目撃しました。それでも、まだまだ不満。彼ならば、もっと、もっとできる。いや、あれほどのキャパの持ち主なのだから、可能性を突き詰めるためにも、もっともっと「行かなければ」ならない。もちろん攻守にわたって・・。

 特に、攻撃参加には「一体どうしたんだろう・・」というくらい、落ち着きすぎだと感じていました。もしかしたら彼は、ちょっと確信を失いかけているのかも・・。タテへの突っかけを狙い「過ぎた」ら、どうしても次のディフェンスで、うまく機能できなくなってしまう・・とにかく今は、まず中盤ディフェンスを主体に、汗かきプレー(縁の下の力持ちプレー)に徹しよう・・それを確固たるものにしてから攻撃でのチャンスを狙っていけばいい・・。フムフム・・。

 ゲーム開始前にテレビ画面に映し出された「予想フォーメーション」では、唯一の守備的ハーフ(レグヴァンスキー)の前に、右から、マールブランク、クラーク、稲本、そしてこのゲームではキレまくっていたボア・モルテと並んでいました。まあ予想ですが、番記者が集めた確かな情報に基づいているはずだから、チーム戦術的な意図から大きくハズれてはいないはずです。でもフタを開けてみたら、稲本は、守備的ハーフの位置に張り付きっぱなし。逆に、レグヴァンスキーの攻撃参加の方が目立ってしまって・・。

 コールマン監督の指示なんでしょうか・・。私は違うと思っています。たぶんコールマンは、基本ポジションはセンターハーフ・・守備をベースに、チャンスを見計らって攻め上がろう(でも、そんなに頻繁に行き過ぎず・・バランスを考えて・・)ってな指示を出しているでしょうからネ。最後のところは、選手の自主判断にゆだねているというわけです。自分主体のリスクチャレンジプレーができない選手、自分主体の実効ディフェンス参加ができない選手は、フットボールネーションでは全く通用しない!

 とにかく稲本の、攻守にわたるリスクチャレンジマインドを基調に、積極的に(自ら)バランス感覚を先鋭化していく復調プロセスをしっかりと観察したいと思っている湯浅なのです。

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 さて最後は、中村俊輔。

 まず、レッジーナチームについてですが、とにかく彼らは良くなっています。攻守にわたって、個々のプレーがうまく有機的に連鎖するような優れたユニットになっていると思うのです。何か、この試合では守備的なゲーム戦術で臨んでいる・・という報道が目立つわけですが、私は決してそうは思っていません。モザルト、テデスコ、そしてバイオッコで構成する守備的ハーフ。ディ・ミケーレとコッツァの攻撃的ハーフコンビ。そしてボナッツォーリのワントップ。見方によっては、「前に積極的な布陣」だとも言える・・。そして実際に、中盤での厚く積極的なディフェンスをベースに、組織プレーと個人プレーがうまくバランスした優れた攻撃を仕掛けていくのです。まあ、とはいっても、最後の仕掛けプロセスでは、どうしても「個の勝負」が優先されがちですがネ・・。

 そこで、とにかく目立つのが、今シーズンから加入したバイオッコ。攻守両面での実効プレーは、本当に超一流。彼こそが、本当の補強。コッツァやディ・ミケーレたちも、ボールをキープしながら、押し上げてくるバイオッコを探してボールを預けるのです。彼に対するチームメイトたちの信頼の高さを感じるじゃありませんか。

 そんなユニットに、後半12分から中村俊輔が組み入れられます。守備的ハーフの、テデスコとの交代。そしてすぐに中盤での爆発ドリブル突破にチャレンジするなど(相手のファールで止められてしまった!)、積極性をアピールするのです。フムフム・・これは期待できそうだ。

 たしかに中村の意識はアクティブになっている。「もう、自分のチカラでレギュラーを奪い取るしかない・・誰も何も言えないくらいの実効パフォーマンスを魅せてやる・・」。そんな意気込みを明確に感じさせてくれるような積極的なボールがないところでの動き(パスを待つのではなく、呼び込む積極アクション!)、そしてボールを持ってからの積極的な仕掛け姿勢。いいですよ。

 後半20分には、左サイドからのコンビプレーに、逆サイドから走り込んだ中村が、決定的スペースへ最後まで走り抜けました。決定的チャンス! でも結局は、パスを受けたディ・ミケーレがボールをこねくり回してしまう。最終勝負場面での悪いクセ(貧困な勝負イメージ!)。あの場面でのディ・ミケーレは、絶対にダイレクトで中村へパスを出すべきだった。そうすれば、確実にエンポリの決定的スペースを攻略できたのに・・。

 そんな中村の積極プレーに期待が高まっていったのですが、どうもそれが周りの味方とリンク(連鎖)しない。それには、レッジーナの前線選手たちが、最後の仕掛け段階では、どうしても個の勝負に偏りがちということもあります。だから、パスとボールのないところでの動きのコンビネーションで崩そうとする中村のイメージとシンクロしない。そして、自分主体でギリギリの勝負を仕掛けるという中村の闘う姿勢が、時間を追うごとに減退し、徐々に足許パスを「待つ」ようになってしまう・・。

 この試合でも中村はここまでか・・なんて思いはじめたのですが、驚いたことに、試合が押し詰まった35分ころから、再び彼のプレーが活性化してきたのです。それは、今までにはなかった大きな変化。一度ダウンした自身のプレーペースを、自分主体で再び活性化させた中村俊輔。それは、意識のブレイクスルーだったのかもしれません。

 とはいっても、全体的にはまだまだ不満。とにかく中村は、もっともっと、守備への「爆発参加」だけではなく、ボールがないところでの「パスを呼び込む爆発アクション」を強烈に意識しつづけなければいけません。それがなければ、チームメイトにアピールする「スピリチュアル・エネルギー」を放散することなどできない。「コイツは、何かをやってくれる・・」という期待値を高めることはできない。何といっても彼は、ボールに絡む頻度を高めさえすれば、おのずと良い仕事ができるようになるのだから・・。

 とにかく彼には、チームメイトたちの「組織的な仕掛けイメージ」を高揚させる中心的な存在になってやる・・という高い意識を持って、チャレンジをつづけて欲しいと願って止まない湯浅です。




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