この試合での基本ポジション(基本タスク)イメージは、例によって、レグヴァンスキーと組む守備的ハーフコンビ。その前の中央ゾーンにクラーク、右にマールブランク、左に、キレまくりのボア・モルテ、そしてワントップにサーアが控えます。
稲本のプレーにおけるポジティブな現象面は、こんな感じでしょうか・・。
守備的ハーフとしての「中盤の底プレー」を基盤に、ココゾのボール奪取チャンスには、前方での勝負にも(自分主体で)トライします。もちろん、そこでボールを奪い返せれば、そのまま最終勝負を繰り出せるシチュエーション。中盤でのスペースケアーから、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)へのチェック、インターセプトや相手のトラップの瞬間を狙ったアタックといった次のボール奪取トライなど、基本的な守備的ハーフの仕事も十二分にこなしながらのリスクチャレンジというわけです。
それ以外でも、スッと後方へ下がることで(次の守備でのカバーリング!)、右サイドバックのボルツやレグヴァンスキーを前線へ送り出したり(=タテのポジションチェンジの演出!)、ときには自軍最終ラインを追い越してまでもボールのないところでの粘着マークをつづけたりします。そんなステディーでクリエイティブな守備プレーほど頼りになる存在はいない・・。
またこの試合での稲本は、最前線へ飛び出す頻度が格段にアップするなど、攻撃でも積極プレーを展開しました。その背景には、クラークとレグヴァンスキー、はたまたマールブランクや右サイドバックのヴォルツとの合意(あうんの呼吸)があるに違いない・・。積極的に、ボールと味方を追い越して最前線スペースへ飛び出していく稲本。前半でも2-3本ありましたが(結局はパスは出ず)、やはり、1点をリードされた後半での、2度、3度と、決定的スペースへ飛び出した稲本のオーバーラップが特筆でした。そこへタテパスが通されたことで、チャンスにつながったのです(=プラスの印象ポイント!)。もちろん、そんな飛び出しも、レグヴァンスキーやクラークによるバックアップがあってのこと。徐々に中盤選手たちの「タテのポジションチェンジ」に対する理解が深まっている(イメージシンクロレベルがアップしている)と感じられるじゃありませんか。
また稲本からは、仕掛けのタテパスも出るようになっています。前半は、まだまだ安全優先でしたが、後半には、リスクチャレンジのボールキープから(タメキープから)、最前線サーアへの素晴らしいタテパスを決めるなど、チームメイトの信頼度もアップしたに違いない・・。
さて稲本のプレーに、セキュリティー(安全第一)プレーとリスクチャレンジプレーのハイレベルなバランス感覚が見えてきた。これから発展が楽しみで仕方ありません。
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さて小野伸二。ホームでのPSVとの一戦です。これまた、ものすごく楽しみなゲームでした。何といっても小野伸二が、前気味ハーフとして先発する予定でしたからね。
前節の「AZ戦」では、リードされた状況で前線に投入された小野伸二が、素晴らしいリスクチャレンジプレーのオンパレードで目立ちに目立っていました(完全に、仕掛けのリーダーシップを握っていました=味方も、小野のことを捜してパスを付けていた!)。その試合については「前節のレポート」を参照してください。これだったら、場合によっては、日本代表の二列目を、守備意識の高い「三人」で組んでも面白い・・なんてネ。だからこそ、ものすごく楽しみにしていたというわけです。でもフタを開けてみたら・・。
攻守にわたって大きな「自由度」が保証される二列目センターで先発した小野伸二。このゲームでは、どうも冴えない。またまた以前のイメージと重なるプレーなのですよ(パスを要求するフリーランニングがない・・守備参加も中途半端・・だからボールに触る頻度が低すぎる・・ボールをもっても、リスクにチャレンジせず安全パスばかりが目立つ・・またドリブル突破にもチャレンジしない・・組織プレーでも個人勝負でも中途半端・・)。
たしかに前半の最後の時間帯では、何度か「らしさ」を感じさせてくれるタメからのスルーパスを決めたり、素晴らしいキープからのタテパスを決めたりしました。それでも、全体的なパフォーマンスは、「その他大勢レベルだった」というそしりから逃れられない。ボスフェルト、ファン・ホーイドンク、エマートン等の主力が抜けたフェイエノールトだから、「やっと」小野が、攻守にわたるリーダーとして光り輝ける状況になったのに・・。私は、自分主体で仕事を探しつづけることで(攻守にわたる積極リスクチャレンジを前面に押し出すことで!)自然発生的なリーダーシップの掌握チャンスをモノにしなくていいのか・・なんて憤ったりしていました。何といっても、十分なキャパシティーを備えた者が「やらない」ことほど残念な現象はありませんからネ。
まあ、ケガから復帰したばかりという事情も考慮しなければいけないのでしょうが・・。
3-1とリードされ、ファン・ペルジーが入ったことで、守備的ハーフに下がってからは、例によっての、後方からの確実なボールディストリービューター(分配ステーション)として目立ってはいました。それでも、例によって「そこ」でボールを奪い返せるわけではないから、「そこ」が次の攻撃での直接的な(決定的な)起点になることはない(だから、仕掛けのリーダーではなく、ボールのディストリービューター!)。前気味のハーフをやっているときから、そこまで戻ってパスを要求するような積極リーディング姿勢を魅せていれば、(そこから、自ら最前線まで上がっていけるから!)本当の意味で「仕掛けのコア」になれたのに・・。まあ、仕方ない。
フェイエノールトのファン・マイルヴァイク監督は、小野のプレータイプを(チームに対してもっとも貢献できるプレーコンテンツを)どのように評価しているのだろう・・。今シーズンもまた守備的ハーフで使うことになってしまうのでしょうか・・。それだけはカンベンしてもらいたい・・。そこには、新規に獲得したシュフリューダーやアクーニャがいるのだから、是非小野には、守備意識の高いチャンスメイカーとしての自由を与えつづけて欲しいと思っている湯浅なのですよ。
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そんな煮え切らない(まだまだ無為の様子見状態が目立ちすぎる!)小野のプレーを観ていたから、敵地のラツィオで中田英寿が魅せつづけるメリハリプレーが心地よく脳裏に刻み込まれていくこと・・。
パスを呼び込む爆発ダッシュ・・、シンプルな組織パスプレーと個人勝負プレーの高質なバランス・・、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する鋭い詰め・・、ボールがないところでの忠実なマーキングと実効あるボール奪取プレー・・等々、とにかく攻守にわたり、ボール絡み、ボールがないところ両面で、基本に忠実な実効プレーを魅せつづける中田英寿。味方からボールが集まるのも道理。頼もしい限りです。
より高い自由度で(より戦術から解放される方向で)プレーする中田が中心になって、チームの組織プレーレベルがアップしていく・・。そこでは、もう何度も書いたとおり、彼が高いモティベーションでプレーしていることが如実にうかがえます。それは、本当に大事なことです。
それにしても、開始早々のパルマの先制ゴールには度肝を抜かれた。右サイドでボールを持った中田英寿。すぐに決定的ゾーン(ゴール前ゾーン)へ視線をはしらせます。その行動は、彼のプレーコンセプトに基づいたオートマティゼーション(要は、いの一番にイメージするのが勝負のリスクチャレンジということ!)。アドリアーノがタテのスペースへ走り抜けたフリーランニングに惑わされることなく、一瞬で意を決し、逆サイドでスタートを切ったブレシアーノが走り込むニアポストスペースへ向けて決定的クロスを送り込んだという次第。たしにかブレシアーノのダイレクトシュートも素晴らしかったのですが、まあこの得点では、中田が「0.7点」といったところです。
私は、パルマのサッカー内容が高揚していることもあって、このゲームに注目していました。強豪のラツィオのホームゲームですからね。そこでパルマがどのようなサッカーを展開できるのか・・。内容的にボロボロにされてしまったら、またまたプランデッリ監督が「戦術(規制)方向」へチームを引っ張っていってしまうかもしれませんからネ。
でも大丈夫。パルマは立派なゲームを展開しましたよ。たしにか、予想外の先制ゴールの後や、組織プレーにも目覚めはじめた天才アドリアーノの「天才ゴール」の後10分くらいは、押し込まれて何度もピンチを迎えましたが、それ以降は、守備ブロックが振り回されるシーンは希。二度の号店ゴールは、両方ともにセットプレーからでしたしネ。とにかくこのゲームは、プランデッリ監督だけではなく、チームにも「オレたちは正しいベクトル上にいる・・」という確信を与えたことでしょう。
それにしても、ちょっと相手ディフェンダーに当たってコースがブレたとはいえ、ブレシアーノの決勝ゴールは素晴らしかった。ゴール正面25メートルからの弾丸シュート。目が覚めました。サッカーって、本当は簡単なボールゲームなんだな・・なんてネ。このキャノンシュートを観ながら、たまには、シンプルにサッカーのメカニズムをアタマの中で整理し直すことも大事だな・・なんて思っていた湯浅だったのです。
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さて最後が、この試合(ブレシアとのアウェーゲーム)で先発に復帰した中村俊輔。
前節では、比較的良い出来だったにもかかわらず、一部のイタリアメディアからかなり叩かれたようですが、まあ気にしないことです。昨シーズンなどは、最悪のプレー内容なのに何度も中村を「MVP」に選出した彼らのことですからネ・・あははっ。
このゲームでの中村は、試合開始から「このチャンスを逃さない!」という強烈な意志を放散していましたよ。彼の場合、そんな雰囲気は本当に希。まあ日本代表での数試合を除いてネ。そんな強い意志を象徴するグラウンド上の現象は、言わずと知れたボールがないとろでの忠実プレー。もちろん攻守にわたって・・。
開始10分くらいのタイミングでしたかね、攻め込むブレシア選手に、全力で戻った中村がタックルを仕掛けて見事にボールを奪い返しましたよ。それも、自軍ペナルティーエリア内で・・。いや、驚きでした。そんな隠れたファインプレーを観ていて、この試合は、中村にとって「本物のブレイク・スルー」になるかもしれない・・。そんなことを感じていた湯浅でした。そして実際に・・。
攻撃でも、どんどんと動きまわって頻繁にボールに触り、シンプルなプレーと、仕掛けのリスクチャレンジプレーを繰りひろげる中村。誰の目にも「素晴らしく実効の伴ったプレー・・」と映ったに違いありません。
とにかく、ファンタスティックなポールコントロールから繰り出されるタテパス(仕掛けのリスクチャレンジパス)が素晴らしい。まさにクリエイティブ。守備ブロックが、予想し難いギリギリのタイミングとコースなのですよ。言葉で表現するのは難しいのですが、とにかく相手ディフェンダーが「アッ、やばい!」と叫ぶようなパスが、中村の左足からどんどん飛んでいくのです。
また、(相手ディフェンスのサポートがいない等)チャンスがあれば、躊躇なくドリブル突破にもチャレンジしていく。何度も、何度も「後方からのタックル」引っかけられてブチ倒されていました(もちろんファール!)。そんなプロフェッショナルファールを受けるのは、プロ選手としての勲章なのです(相手のロベルト・バッジオも、何度も後方タックルにひっくり返されていた!)。
この試合では、そんな内容の良さに、結果も伴っていました。彼の「タテパス」がキッカケとなった2ゴール(そのうちの1点は、中村のPK!)だけではなく、後半には、フリーキックから勝ち越しの4点目を決めます。
とにかく、コンフェデレーションズカップでの対フランス戦に匹敵する内容あるプレーを展開した中村。たぶんこの試合でのプレー内容は、セリエへ移籍してきてからのベストパフォーマンスでしょう。
もちろんこれからは、フランス戦だけではなく、この試合内容も「評価基準」になります。彼は、もっともっと出来るから、そこでのパフォーマンスが評価のスタートラインになるというわけです(もちろん我々だけではなく、中村自身にとっても!)。そんな厳しさが、発展のための心理・精神的なバックボーンを強化し、善循環を促進する・・。
いまの中村のパフォーマンスからは、そんなポジティブな発展プロセスが明確に見えてきます。良かった・・良かった・・。
ところで試合経過。その後(中村のスーパーフリーキックによる4点目の後)中村の代わりに(守備固めとして)パレーデスが入ったわけですが、結局最後にはブレシアに同点に追いつかれてしまいます(またその同点ゴールの数分前にはPKも取られてしまって・・バッジオが失敗!)。
まあ、何と言おうか・・。やはりサッカーでは、選手交代で守備固めに入るなど、選手たちが守りきることを過度に意識した場合、往々にして受け身にディフェンシブになることで選手たちの足が止まり気味になってしまったり、集中力を減退させてしまったりするものだということです。レッジーナの不甲斐ない試合運びを観ていて、そんなサッカー的な現象のことも考えていましたよ。もちろん本当に強いチームならば、完璧にミッションをやり通してしまうのでしょうがネ。そんなところにも、レッジーナの脆弱さがかいま見えるというわけです。
とにかく、中村俊輔が感じさせてくれた、明確な(意識と意志の?!)ブレイク・スルーの可能性に、気持ちよくベッドに入れる湯浅なのです。
明日は、柳沢敦、藤田俊哉、そして高原直泰をレポートする予定ですので・・。フ〜〜。
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最後に、ある読者の方から頂いた励ましメールについて触れておこうと思います。この方は、生まれつき全盲の40歳代の男性です。
若い頃には、学校でサッカーに汗を流したこともあるそうで、「ボールに鈴が入っているといっても方向が判りません・・でも思いきり走れる快感、思いきりボールを蹴る喜びはすごいものでした・・」と書いていらっしゃいました。いまでもサッカー「観戦」を心から楽しんでいるとのこと。もちろん「音をベースにしたイマジネーション観戦」。ルールと形式がシンプルなボールゲームだから、イマジネーションを膨らませることで十分に楽しめるということでしょう。最近では、視覚障害者でもサッカーをはじめる人が少しずつ増えているということも書いておられました。素晴らしい・・。
私のコラムなどは、「ホームページ音声化ソフト」を活用して読んでいるそうで、そのメールも同じソフトで「書いた」そうです。そしてそのメールの最後は、こんな文章で結ばれていました。「私は生まれつきの全盲で漢字を知らないので間違いの多い漢字を書きましたこと失礼いたします」。
ここ最近、このメールほど、人類史上最大の「異文化接点パワー」を秘めるサッカーの計り知れないキャパシティーを再認識させてくれたものはありませんでした。限りない感動と勇気を頂きました。心から感謝いたします。