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ヨーロッパの日本人・・今週の締めは、柳沢、藤田、高原ですが、彼らとは関係のないディスカッションの方が多かったりして・・(2003年9月22日、月曜日)

さて、インテル対サンプドリア。

 柳沢は、まだ先発出場を果たせていません。ということで、この試合は、戦前から予想される「ゲーム構図」の背景コンテンツを楽しむことにしました。ゲームの構図とは、もちろん、全般的にゲームを支配して攻め上がるインテルに対し、しっかりと人数をかけ守りながら(常に数的優位な状態を維持!)、機を見たカウンターを繰り出していくサンプドリア・・というものです。まあ実際に、そのような展開になりましたしネ。

 サンプドリアの組織ディフェンスは、よかったですよ。スタートラインとしての選手たちのポジションニングバランス。そして勝負所における、それぞれの「個のアクション」が連鎖するボール奪取プレー。そのプロセスを観察しながら、こんなことを考えていました。

 守備プレーのイメージを構築するスタートラインとしてのチーム守備戦術(どのように追い込み、ボールを奪い返すのかに関する決まり事)は大事だけれど、最終勝負では「個の判断力」も大きなウェイトを占める・・最後の瞬間では、決まり事に反するプレー(クリエイティブなルール破り)がチームを救うことも多い・・守備アクションイメージを描写するためのベースは、何といってもボール(相手ボールホルダーの仕掛け意図)・・それを「読み」ながら、次の実効ディフェンスを判断・決断し、勇気をもって実行していくという「個の姿勢」が重要な意味をもっているということ・・だからこそ監督・コーチは、チーム守備戦術の浸透も含め、選手たちの考える能力を発展させることをプライマリーターゲットにしなければならない・・等々。

 本当にいろいろな「発想」が、アタマのなかを駆けめぐっていたわけですが、そのなかで、「・・守備戦術(守備システム)だからダメだ・・」とか「あの失点は・・守備戦術(守備システム)のせいだ・・」などいった偏ったものではなく、チームの守備戦術という基本的な発想に対する評価と、局面での個々のプレー(選手たちの判断と実行コンテンツ)に対する評価をバランスよく行わなければならないとも思っていました。

 どんな戦術であれ、全員が納得して徹底すれば、かなりの機能性を魅せるものですし、様々なタイプの「失敗という現象」の背景では、チーム戦術的な要素と個人的な要素が入り組んでいるものですからネ。もちろんケースバイケースによって「ウェイト」は大きく異なってくるでしょう。とにかく、そこのところを正確に把握したいと思っているわけです。

 またもっと大きな視点では、守備のチーム戦術について、リスクと安全のバランスというディスカッションテーマもあります。

 チーム守備戦術には、ほんとうに様々な「発想」があります。皆さんご存じのように、私は、より難しく(選手たちの考える能力や判断能力、そして実行力が求められる)リスキーな、そしてだからこそ選手たちとサッカーを発展方向へドライブしていくに違いない、進歩的で攻撃的な「ライン守備戦術」を標榜しています。私はそれを、ポジショニングバランス・オリエンテッド守備戦術などと呼んでいます。

 それに対し、より「人を意識する」方向性の、マンオリエンテッド守備戦術があります。よりシンプルだから、より安全で安定した守備戦術といえるでしょうが、選手たち、そしてサッカーの発展という視点では疑問符がつきます。

 要は、リスクを冒さなければ、決して発展することはない・・という普遍的なコンセプトに立ち戻るというわけです。またそこでは、「選手たちは、攻撃だけではなく、守備においても主体的に楽しむ権利を有する(だから守備も、自主的に考え、判断するタイプのやり方を選択すべき!)・・」とか「選手たちにリスクチャレンジ(積極プレー)を求める前に、監督自ら、リスクへの積極姿勢を明確に示さなければならない・・」などといったベーシックなフィロソフィーもアタマに浮かんできたりする・・。まあサッカーは、本当に深いですよネ。

 そんな、とりとめのないテーマに思いを巡らしながら、サンプドリアが展開する強固なユニットディフェンス(ライン守備戦術)を観察しつづけていたというわけです。結局「0-0」の引き分けに終わったこのゲーム。たしかに、インテルはツキに見放されていたという側面もありますが、「90分をとおした決定的チャンスメイク」という視点も含め、総体的にみた場合、絶対的なチカラで優るインテルが、戦術サッカーに徹しきったサンプドリアの術中にはまったという評価が妥当でしょう。ここでは、「戦術サッカー」の是非についてのディスカッションはご容赦! 何といっても評価の視点は、ケースバイケースの(柔軟な)バランス感覚をベースにしていなければなりませんから・・。

 さて、試合終了寸前の89分に登場した柳沢。

 ロスタイムがあったことで結局6-7分はプレーしましたが、交代出場の「見え方」は、限りなく、クラブ経営マネージメントの「ジャパン・ブランドに対する意識」と捉えられても仕方ないものでした。そこでの救いは、柳沢のプレーが攻守にわたってダイナミックで実効あるものだったこと。もし柳沢が、あのような「経済ファクターを優先した雰囲気」のなかで、プロサッカーが提供する価値の本質である「サッカーの内容」でアピールできなかったら、まさに「ジャパン」がさらしものになるところだった?!

 その意味で、柳沢のガンバリに拍手をおくっていた湯浅でした。もちろん、こんな屈辱的な「見え方」しか提供できない柳沢に対し、そんな状況を、はやく実力で乗り越えて欲しい願わずにいられなかったことは言うまでもありませんよね。

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 さて、藤田俊哉。フローニンゲンとのアウェー戦です。ユトレヒトは、開始早々に先制ゴールを奪っただけではなく、その後もペースを握りつづけたから、もっとやれると思ったのですが・・。

 藤田にしても、チームがうまく回転しなければ(うまくゲームを支配できなければ)、やはり優れた機能性を発揮することは難しい・・。まだ彼には、沈滞したチームのペースをアップさせるだけのリーダーシップを期待するのは酷だということです。

 藤田は、例によって、攻守にわたって高質でダイナミックなプレーを展開していましたよ。もちろんボールなしのアクションも十分ですしね。それでも、チームメイトたちとのコンビネーション(プレーイメージのシンクロ状態)がまだ十分ではないから、彼のボールなしの動きが、チーム内での活発なボールの動きの基盤になれていないと感じました。要は、シンプルにパスをつないでパス&ムーブを繰り出しても、「次の勝負ゾーン」へボールが動かされてくることは希だということです。前回もレポートしたように、藤田は、中盤でのドリブル突破やタメの演出など、「個の能力」でゲームの流れに変化をつけるようなプレーは得意ではありません。彼も「また」周りとのコンビネーションで活きるタイプのプレーヤーなのです。

 もちろん局面でのプレーでは、しっかりとしたボールキープ(タメ)から正確な仕掛けのタテパスを送り込んだり(もちろん彼の場合はパス&ムーブが有機的に連鎖する!)、味方とのコンビネーション(ワンツー)のコアになったり、決定的なフリーランニングを仕掛けたりと、次の決定的チャンスメイクを予感させるような「ポテンシャル・プレー」を繰りひろげてはいました。でも、そんな(With Ball and Without Ball の)組織プレーが、実効あるチャンスメイクの基盤にならないのですよ。何度、ボールのないところで爆発アクションを起こした藤田が、(味方のパスに対し)「そこじゃないだろう・・」と天を仰ぐシーンを目撃したことか。

 まあ、とはいっても、あれほどハイレベルな組織プレーマインドを備えた藤田のことですから、どんどんとユトレヒトの組織的チャンスメイクのコアとして存在感を高めていくことだけは確かです。そう、ジュビロでの藤田のようにネ。

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 よ〜〜〜〜シ!!!!

 そのとき、拳を突き上げていましたよ。久しぶりに「入れ込んで」しまったエキサイトマッチ。あ〜〜、疲れた。

 あっと・・高原直泰が所属するハンブルガーSVのホームゲームのことです(相手はローシュトック)。第5節まで「勝ち点1」で最下位に沈み込んでしまったハンブルク。彼らにとってこのゲームは、絶対に勝たなければならないサバイバルマッチということになってしまいました。何といっても、このまま勝ち点を伸ばせなければ、コーチングスタッフの交代とか、チームの組み直しとか、ドラスチックな「変化」もテーマにのぼってくるに違いないですし、そのことだけで、チームが大きく動揺してしまう危険性があります。もちろん、そんな刺激が、チームにとってポジティブに作用することもありますが、逆に・・というケースも数え切れないほど・・。とにかくこのローシュトック戦は、いまのハンブルクにとって、ものすごく大事なゲームなのですよ。

 さて、「よ〜〜〜〜シ!!」というところまでの試合プロセスを簡単に・・。

 最初から押し込んでいくハンブルク・・マハダヴィキアが復帰したことで右サイドからの仕掛けが目立つ・・それでも、久しぶりのマハダヴィキアが入ったこと、そしてこの試合では、それまで中盤のコアになっていたバインリッヒがベンチスタートということで、どうもコンビネーションが合わず、流れのなかではうまくチャンスを作り出せない・・ただセットプレーでは、ウイファルジのヘディング、バルバレスのヘディングなど、何度か大きなチャンスを演出できている・・だから、いつかはゴールを決められるだろうという期待が高まってきた前半10分、逆にローシュトックにやられてしまう・・中盤でヴィッキーがボールを失う・・それを奪ったローシュトックの中盤選手が、一発の勝負ロングパスをハンブルクゴール前へ送り込む・・それを、あろうことか、ウイファルジが、クリアミス(ボールに足は当たったけれど、中途半端だったから、飛び出してきたハンブルクGKピーケンハーゲンの脇をすり抜け、走り込むローシュトックのストライカー、マックスの目の前にポトリと落ちてしまった!)・・その後は、堅いローシュトックの守備ブロックを崩し切れずに四苦八苦するハンブルク・・後半は、守備のベンジャミンに代わって、ストライカーのロメオが登場する・・これでハンブルクは、ロメオ、バルバレス、高原、マハダビキアと四人のストライカーを前線に並べることになる・・でも後半12分には、ハンブルク最終ラインの重鎮であるホークマが二枚目のイエローを受けて退場になってしまう・・状況がどんどんと悪化の一途をたどるけれど、諦めずに攻め上がりつづけるハンブルク・・とはいっても、高原のドリブル勝負や、マハダビキアのクロス攻撃など、何度か「あっ・・」というチャンスメイクはあったものの、やはり決定的なところまではいけない・・そんな重苦しい雰囲気が漂っていた後半24分、やっとハンブルクが同点に追いつく・・バルバレスの、吹っ切れたドリブル勝負からのクロスボールを、ファーサイドに詰めていたロメオがヘディングで決めたのだ・・でも同点ではダメ・・とにかく「勝ち点3」を奪いにいくハンブルク・・その後もひたむきに攻めるけれど、守備を固めるローシュトックに、どうしても良いカタチを作り出せない・・逆に、ローシュトックの危険なカウンターを浴びてしまう(センターバックのホークマが退場になった後も、そこに選手を補給せず、リスク承知で攻め上がりつづけるハンブルク!)・・そして迎えた85分、マハダヴィキアのクロスを、クリンクと交代したばかりのラインハルトがアタマで決めたのである・・そして私は拳を突き上げて「よ〜〜〜〜シ!!」・・ってな具合でした。フ〜〜。

 とにかくこの時点まで(シーズン開幕前のリーグカップのときから)、スタジアム観戦も含め、すべてのハンブルクのゲームを観ていたから、かなり心配していた湯浅だったのです。内容は悪くないのに「結果」に恵まれず、数字的にボトムまで落ち込んでしまったハンブルク・・。その経緯は、これまでのいくつかのレポート(1, 2, 3, 4)を参照してください。

 そんな状況にあるチーム。そんな彼らに対して与える「刺激」は、ものすごくセンシティブにならざるを得ませんからね。やり過ぎ(刺激を与え過ぎ)れば、チームを崩壊の危機にまで追い込んでしまうかもしれないし、でも何もやらなければ、心理・精神的な落ち込みが物理的な現象に悪影響を及ぼしてくる可能性が大きくなってしまう・・。

 この試合でのハンブルクは、(前節のレーバークーゼン戦から)バインリッヒとシュリッケをベンチに下げました。代わりに、復帰したマハダヴィキア(ケガからの復帰)とベンジャミン(出場停止あけ)を投入。バインリッヒが受け持っていた役割は、新加入のヤロリームとバルバレスが臨機応変に受け持つことになったわけです。まあ、ある程度は機能しましたが、リーグカップでの、バインリッヒの高い機能性が強く印象に残っていた私は、あまり満足というわけにはいきませんでした。とはいっても、結果は出たわけですからネ。さてこれからどうするのだろうか・・。

 高原のパフォーマンスは良かったですよ。例によって、発展ベクトルを大きく引き上げるような、自分主体の積極プレーを展開していました。もちろん攻守にわたってネ。この試合では、ドリブル勝負からのクロスやスルーパスも目立っていましたし、シュートポジションへも、より積極的に入り込んでいくという強い意志も感じました。彼はもう心配ない・・。これからも順調に発展していくでしょう。それよりも、彼のチームのことの方が心配。さて・・。

 まあとにかく、やっと一息つくことができたハンブルガーSV。コーチングスタッフも、やっと落ち着いて、(物理的&心理・精神的な)リカバリーワークに着手できるでしょう。

 それにしても、このゲーム観戦にはリキが入りました。まさに、ロジックを超越したスピリチュアルパワー(やる気)の勝負になりましたからネ。まあたまには「情緒パワー全開」でサッカーに入り込むのもいいものです。とにかく、本当に、ハンブルガーSVが勝ってよかった・・。




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