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ハンブルガーSVと高原直泰・・ブンデスリーガ開幕を告げる「公式・ブンデスリーガカップ」で、ハンブルクが決勝に進出!・・(2003年7月24日、木曜日)

どうも皆さん、ご無沙汰しています。

 私は、先週の木曜日(17日)にドイツ入りしているのですが、それからサッカー関係ばかりではなく、個人的な友人とも旧交を温める毎日です(そして今週末からは、ドイツサッカーコーチ連盟主催の国際会議がフライブルクでスタートするというスケジュール)。

 ところで、私がドイツに到着した先週の木曜日。ブンデスリーガの「リーグカップ」がスタートしました。これは、前年シーズンの上位「6チーム」によるトーナメント。もう10年近く行われているのですが、それがシーズン開幕の近いことをドイツ全土に告げるというわけです。シーズン直前ですからね、参加する全チームが「ベストメンバー」を揃えてゲームに臨んでいます(まあ、バイエルンでは、コンフェデに参加したリザラズとサニョールは、まだ休暇中でしたが・・)。

 ハンブルク初戦の相手は、強豪のヘルタ・BSCベルリン。私は、フランクフルトでピックアップしたレンタカーをカッ飛ばして「モーゼル川沿いのコッヘム(Cochem)」という小さな観光村まで移動し、ホテルの一室で観戦しました。なかなかエキサイティングで面白いゲームになりました。

 ハンブルクでは、新加入のバインリッヒ(ヘルタ・ベルリンから移籍!)が、攻守にわたって素晴らしいサッカーを展開していたのが印象に残りました。

 後日、高原直泰が所属するハンブルガーSVトップチームのヘッドコーチ(クルト・ヤーラ監督のブレイン)、アルミン・ロイタースハーン(写真参照)と個人的に話したのですが(高原に関する彼とのインタビュー内容は、来週にでも日刊スポーツ新聞に掲載される予定)、そこでアルミンが、「今シーズンは、バインリッヒを獲得したから、攻守にわたって中盤がうまく機能するようになるに違いない・・彼は、構想どおりの素晴らしい「補強」だった・・」と言っていました。またバインリッヒ自身も、テレビのインタビューで「こんなにスムーズにチームに入っていけたことはない・・」と語っていました。

 基本的には守備的ハーフのバインリッヒ。それでも、攻守にわたる活動量は、まさに「ダイナモ」ってな具合。もちろん技術もしっかりしているし、(特に)ボールのないところでの守備も超一流。これだったら、チームメイトに認められ、頼りにされるのも当然の成りゆきです。試合では、チームメイトたちが彼を「探す」姿勢がアリアリ(ボールを彼にわたそうとする!)。そして、パスを受けたバインリッヒから、「活きた展開パス」が効果的に散らされる。まあ、本当に「抜群の実効補強」ではあります。

 もちろんチームメイトから全幅の信頼を寄せられる背景に、素晴らしく実効のある守備意識があるのは言うまでもありません。それこそが、中盤リーダーシップのキーポイントになるというわけです。中田英寿・・。

 そんなバインリッヒが加わった今シーズンのハンブルク基本先発メンバーは、こうなるでしょう。

 GKは、言わずと知れたピーケンハーゲン、フォーバックは、右からフーカル、ウイファルジ、ホークマ(この二人がセンターバック)、そして左サイドバックがホラーバッハ。守備的ハーフのコンビに、マルトリッツと新加入のバインリッヒ。攻撃的ハーフ「トリオ」は、バルバレス、カルドーゾ、マハダビキア。そしてワントップがロメオ。もちろんそのメンバーに、高原直泰を筆頭に、ヴィッキーやベンジャミン、そしてレデスマ(三人とも守備的ハーフ)、ラーン(左サイドバック)、ヤコブセン(右サイド)、メイエル(トップ)等のライバルたちが絡んでくるというわけです。

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 ヘルタ・ベルリン戦では、前述したように、とにかくバインリッヒが目立ちに目立っていました。逆に、だからこそカルドーソの衰えも目立っていた・・。とにかく全ての展開が、バインリッヒを中継して組み立てられていたといっても過言ではないのです。もちろんカルドーソも、ボールを持てば、ある程度は「主張」できるわけですが、それでも、絶対的な運動量が少なすぎるだけではなく、守備もおざなりでは、マラドーナ級のパフォーマンスを要求せざるを得ない・・?!

 ということで、「1-1」で迎えた後半12分、そのカルドーソに代わって高原直泰が登場してきたというわけです。そして、自信あふれる実効プレーを展開します。その「存在感」にはますます磨きがかかっている。まず自信あふれるボールキープが特筆もの。そしてそこからのシンプルプレーと、機を見計らった単独勝負も印象的。全体としては、本当によい出来でした。彼については、末尾で「まとめ」ますので・・。

 ところで、カルドーソが抜け、高原が入ったときの「攻撃イメージ・フォーメーション」は、こんな感じでしょうか・・「後方のゲームメイカー」をバインリッヒが受け持ち、前方のチャンスメイクをバルバレスが、そして右サイドの仕掛け人がマハダビキアで、高原とロメオがツートップを組む・・。まあ、高原が入ったときは、マハダビキア(右)と高原(左)、そしてロメオ(センター)のスリートップというイメージと言ってもいいでしょう。もちろんマハダビキアにしても高原にしても、必要とあらば、最後尾まで戻ってディフェンスに就くことは言うまでもありません。そんな「自分主体の守備意識」こそが、ハンブルクの強さの秘密というわけです。

 そのことについても、アルミン・ロイタースハーンと深く話しましたよ。そこで、ディフェンスでの高い機能性もまた「トレーニングの賜」だと主張するアルミン・・。

 フォーバックのセンターの二人は基本的には「マンマーカー」のイメージ・・両サイドは積極的に攻め上がるから、基本的には守備的ハーフがそこをカバーする・・(両サイドバックも含め)中盤に多くの人を配置することができるから、攻守にわたって、より厚いプレーを展開することができる・・スイーパー(リベロ)は置いていないから、たしかにリスキーなフォーメーションだとすることができるけれど、それを補っているのが、選手たちの高い守備意識・・それがあるからこそ、中盤を厚くすることが出来る・・二列目や三列目から走り上がる相手に対するマーキング等々、スペースを与えないトレーニングは、何度も何度も繰り返している・・そこでは、選手たちの意見(自己主張)も最大限に採りいれている・・だからこそ「自分主体の意識」も格段に高揚する・・そこでは、「マークの受けわたし」「危険なスペースを閉じる」「危険な中央ゾーンには常に人がいる」等々のキーワードに基づき、様々な「ケーススタディー」をベースにしたトレーニングを積み重ねている・・等々。

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 たしかにハンブルクの守備ブロックは強いですよ。一昨日の火曜日(7月22日)に、旧東ドイツのイエナ(カール・ツァイス・イエナというクラブが有名!)という中規模の町で行われた準決勝のバイエルン・ミュンヘン戦でも、ハンブルクは、ディフェンスの実力を存分に発揮しました(もちろん私も観戦にいってきましたよ)。彼らの場合は、ディフェンスブロックのメンバーが「固定されていない(ある程度流動的)」という発想がベースにあるとすることができそうです。以前、スポナビ(湯浅健二の質実剛健ブンデスリーガ)の連載において、バイエルン・ミュンヘンをモデルに表現したドイツの基本的な戦術的発想がそこにあるというわけです(自分主体の守備意識こそが、ポジションなしのサッカーという理想型へ近づくための唯一のベース!)

 それにしてもハンブルクは、王者バイエルンに対して立派な闘いを展開しました。もちろん逆にいえば、バイエルンの気合が乗らなかったということなのですが、それにしても・・の「まとまり」あるソリッドサッカーを展開したハンブルガーSVだったのです。

 全体的にはハンブルクが押し気味に進めるという展開。それに対し、しっかりとその攻撃を受け止めながら危険なカウンター攻撃を仕掛けていくバイエルン。その仕掛けのイメージリーダーは、言わずと知れたミヒャエル・バラックです。彼のプレーイメージは、攻守にわたって、できる限り頻繁に「勝負所」に絡む・・というものでしょう。例えば攻撃では、味方がボールを奪い返すという確信を持った瞬間に前方へダッシュする・・もちろん、この試合でツートップを組んだエウベルとピサーロを追い越して決定的スペースへ抜け出してしまうくらいの勢いで・・。ボールを奪い返した味方も、そんなバラックの意図を明確に感じているからこそ、ズバッという正確なロングパスが飛んでくる・・。

 それはそれで素晴らしいのですが、どうもバイエルンの場合、全体的なゲームペースが上がってこないのですよ。そして徐々に、ハンブルクにゲームを支配されるようになってしまう。とはいっても、ハンブルクも、強力なバイエルン守備ブロックを崩すところまでいけない。ということで、決定的チャンスの数ではバイエルンに軍配が上がります。だから、真のゲームの流れという視点では、バイエルンペースだとするのが妥当な評価です。そんな雰囲気のなかで、バイエルンが先制ゴールを挙げてしまいます。PK・・。それをミヒャエル・バラックがキッチリと決めたという次第。さてハンブルクにとっては厳しい展開になってきた。何せ、攻め込んではいるけれど、どうしてもバイエルン守備ブロックを崩しきるところまでいけない彼らですからネ。

 でも、その後ゲームが抜群にエキサイティングなものに変容していくのです。必死に攻め上がるハンブルク・・それでもバイエルンの守備ブロックのウラを突くことができずにはね返されてしまう・・そんな雰囲気のなか、ハンブルク左サイドバックのラーンが爆発する・・左サイドでハーグリーブスを抜き去り、スライディングキックで、ラストクロスを送り込んだのだ・・両チームの誰もが、「あの体勢からのクロス」を予測していなかった・・だから、中央で待つロメオも、完全にフリーになっていた・・ラーンの、夢のようなクロスボール・・これはもう、ラーンに「0.8ゴール」は献上しなければ・・。

 ところでハンブルクの若手筆頭のラーン。彼は、その前のベルリンとの準々決勝でも大活躍でした。「そうなんだよ。クリスチャン・ラーンは、オレたちの期待の若手なんだ。ホントこれからが楽しみだな・・」。アルミン・ロイタースハーンです。

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 さて、1対1で迎えた後半。どうも攻めきれないという雰囲気のハンブルクに対し、バイエルンの勢いが増していきます。やはり底力ではバイエルンの方が上だよな・・なんて思っていた後半7分、やってくれました。ハンブルクのロメオ。カルドーソからのパスを受けたロメオが、素晴らしい中距離シュートを決めたのです。

 バイエルンGKは、もちろんオリバー・カーン。もかかわらずのスーパーシュートでの勝ち越しゴール。そしてその14分後には、コーナーキックからバルバレスが加点してしまいます。誰もが予想しなかった、ハンブルクの「3-1」というリード。もちろん後半10分には、高原も交代出場しています。

 でもそこからバイエルンが追いつくのですよ。バルバレスの三点目から3分後には、ピサーロからのクロスを、エウベルがヘディングで決め、後半ロスタイムには、(これまた疑惑の!)PKを、ミヒャエル・バラックが同点ゴールをたたき込んだという次第。

 まあ内容的には、後半から徐々にペースを上げ、「3-2」と迫られても落ち着いて守備ブロックをコントロールしつづけたハンブルクに軍配が上がりますから、この試合は、その内容に準じた結果に落ち着ついたとすることができそうです。延長なしですぐに行われたPKで、ハンブルクが勝利をおさめたのです。

 バイエルンで最初に失敗したのが、この試合で、既に二本のPKを決めていたミヒャエル・バラック。そのとき私は、「彼にとっては、三本目のPKか・・これは難しいゾ・・」なんて、隣に座るハンス・マイヤーと話していたモノです。あっと・・ハンス・マイヤーは、先シーズンまでボルシア・メンヘングラッドバッハを率いた名将です(添付写真を参照・・写真手前の人物です)。

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 さて最後に、高原直泰に対するコメントをまとめることにします。その最初は、試合直後にハンス・マイヤーの口から出た「生」のコメント。「ヤツが、パスを出してしまったシーンを見たかい? あそこでパスを出すようじゃ、まだまだダメだ。あんなに素晴らしい才能に恵まれているのだから、もっと、もっと積極的にリスクにチャレンジしてしかなければ・・。タカハラがもっと勝負を仕掛けるようになったら、確実にいまの何倍もパフォーマンスがアップするに違いない・・」。

 「パス出しシーン」とは、素晴らしいボールキープ(勝負ドリブル)で相手を振り切ったにもかかわらず、自分自身で切れ込んでシュートするのではなく、より可能性の高い味方にパスを出してしまったシーンのことです。たしかに私も、「それは違うだろう・・」と声が出てしまいました。もちろん、そのパスは素晴らしいスペースパスだし、タイミングもベスト。でも結局は、バイエルン守備に潰されてしまった・・。

 「そうなんだよ。タカ(高原のチーム内の愛称)は、もっと自分自身で勝負していかなければならない・・」。アルミンも、同じことを繰り返し言っていました。彼のコメントをまとめればこんな感じでしょう。

 「たしかに高原は素晴らしい選手だ・・両足でボールを扱えるし、テクニックもいい、スピードがあって反応動作も鋭いしヘディングも強く、競り合いでビビらない・・また人間的なキャラクターも優れている・・だから彼のパーソナリティーも、チームメイトたちにすぐに認められた・・いまの彼の課題は、もっと自分自身でリスクにチャレンジしていくこと・・言葉を換えれば「エゴイスト」になること・・自分でシュートが打てるチャンスがあるのに、味方にパスを出してしまったりするシーンが多すぎる・・もちろん、より良いポジションにいる味方へパスを出すことも必要だけれど、やはりストライカーは、ここぞ!っていう場面ではエゴイストに徹することができなければならない・・タカはストライカーとして契約しているんだし、素晴らしい能力をもっているのだから、そのクオリティーをもっと前面に押し出すことを学ばなければならない・・」ってな具合です(詳しくは日刊スポーツ新聞を参照してください・・掲載がいつになるか詳しくは知りませんが・・たぶん来週?!)。

 まあ、アルミンが言わんとするところはよく分かります。たしかに、より高い可能性を追求するという姿勢も大事だけれど、基本的にストライカーは、チャンスがあれば「自分でシュートを打つ」という積極姿勢を貫かなければならないということです。それがサッカーでの不文律なのです。

 チャンスの確率を高くしようとして、逆にそれを潰してしまう・・。イレギュラーするボールを足で扱うという、不確実な要素が満載されたサッカーでは、本当によくあることです。どんなにイメージ的なプランが優れていようと、サッカーでは、瞬間的に状況が変わってしまう。だからこそストライカーは、ここぞの場面では「エゴイスト」に徹し、自分自身でリスクにチャレンジしていかなければならないということです。

 でもアルミンはこんなことも言っていました。「とはいっても、タカが、ストライカーとして大きく発展をつづけているのは確かなことだよ。今回のプレシーズントレーニングでも、彼の意識が大きく変化していることを感じたしな。とにかくゴールシーンに絡むっていう意識が強くなっているし、実際に多くのゴールを決めている。彼自身も、ゴールシーンに絡むことが、自分の評価にとってものすごく大事だって意識しはじめたということだろう。とにかく、今シーズンのタカの活躍がいまから楽しみで仕方ないネ。最初の頃はまだサブでのスタートが多いけれど、まあレギュラーに入るのも時間の問題のように思う。そうなったら自信も深まるだろうし、良いプレーイメージの善循環がはじまるはずだよ」。

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 何か、起承転結を考えずに「一気」に文章を書きつづってしまったように思います。まあそこには、例によっての「情緒パワー」が込められているはずですから、ご容赦・・。

 さて、明日(木曜日)からは、国際会議がはじまる日曜日の夕方まで、完全な「休養期間」にしようと思っています。この数日間、一日平均で「500-600キロ」を移動していましたからネ。ちょっと、ドイツかフランスの田舎町でゆっくりするのもいいかな・・なんてネ。

 あっと・・、ドイツのリーグカップ決勝(ドルトムント対ハンブルク)は、来週月曜日の2000時くらい(日本時間で27時くらい)にキックオフのはず。私は、国際会議のプランに組み込まれているVIPパーティーに招待されているから見られるかどうか・・。とにかく、「この試合は観なければ・・」と、主催者に進言しておくことにします。そうしたらパーティー会場にテレビを設置してくれるかも・・。もし見られなかったら、レポートはご容赦・・。では・・。




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