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ジーコジャパン(24)・・まず「レアル・マドリー」をチョットだけ・・「そこ」で拾ったテーマは、高質なサッカーを展開した日本代表の背景ファクターにも通じていた?!・・(日本対中国、2-0)・・(2003年12月4日、木曜日)

そのとき鳥肌が立ちました。中盤右サイドでミッチェル・サルガドからパスを受けたベッカムが、スッとルックアップしながら「キック体勢」に入ったのです。その瞬間、「あっ、最前線とイメージがシンクロした!」と確信し、鳥肌がたったんですよ。

 次の瞬間、本当に、まさにピンポイントという正確なラスト・ロングパス(ベッカムにとってはアーリークロスのイメージ?!)が美しい糸を引いていきました。もちろん最前線で勝負イメージを「タメ」ていたラウールは、ギリギリのタイミングでオフサイドラインから飛び出している。そして最後は、(相手GKの目測&飛び出しミスもあって・・)そのままヘディングでボールを流し込んだというわけです。

 日本時間で、本日(木曜日)の朝方おこなわれたレアル・マドリー対アトレティコ・マドリーの「マドリー・ダービー」前半21分のことです。

 この試合では、まずロナウドが、立ち上がりの「0分」にスーパードリブル&スーパーシュートを決めてレアルが「1-0」とリードしていたのですが、追加点となったこのラウールのゴールは、だめ押しともいえるものになりました。ここで「だめ押し」といったのは、この試合でのレアルのゲーム内容が非常に「落ち着いた」ものだったからです。たしかにアトレティコも、フェルナンド・トーレスを中心に鋭くダイナミックな攻撃を展開してはいたのですが、レアルの両サイドバックと両守備的ハーフが「戻り気味の意識」でプレーしたこともあって、どうもレアル守備ブロックを崩し切れないというイメージの方が先行していたのです。そんな雰囲気のなかで、レアルの二点目が飛び出したから、だめ押し・・。

 それは、(以前、別テーマのコラムに挿入して書いたように)ベッカム&エルゲラの守備的ハーフコンビが抜群の実効プレーを展開したから。そのことで守備ブロック全体が安定したのです。特にエルゲラは、ボールがないところで後方から走り上がる相手を「最後まで」ケアーするなど、素晴らしい汗かき実効パフォーマンスを披露しました。だからこそ最終ラインも落ち着いて予測ディフェンスを展開できたというわけです。

 もちろんベッカムの守備意識(と実際のディフェンス内容)も優れているのですが、どちらかといえば、ベッカムがボール奪取後の最初のゲームメイカーとして機能し、エルゲラが最終ライン前の「スイーパー」として機能していたとするのが正確な評価でしょう。だからベッカムにとっても最良のパートナーというわけです。だから私は、「マケレレ後に、それに近いパフォーマンスを呈示できるとしたらエルゲラしかいない・・」と書きつづけていたわけです。

 「まだベッカムのパートナーは決まっていない・・」。2-3週間前、レアル・マドリーのケイロス監督がそう言っていたわけですが、彼にしても、悪い内容のゲームを分析した結果(?!)、ベッカムのパートナーを、やはり「ボールがないところでの実効守備パフォーマンス」という評価基準で考えざるを得なくなったということです。もちろんカンビアッソもキャパはありますが、どうも、彼の場合「も」前で勝負するというイメージがまだ強すぎる・・。前での勝負(インターセプトや相手トラップの瞬間でのアタックなど)は、守備的ハーフのお仕事の一部分にしか過ぎません。いや、守備的ハーフに対する本当の評価は、やはりボールのないところで決まるのですよ。

 とにかく、ベッカムとラウールの「イメージ・シンクロ勝負」があまりにも美しすぎたし、レアル・マドリーのゲーム内容が好転してきたから、今回のコラムでもそこから入ることにした次第。もちろんそれは、このゲームでの日本代表に、そのまま置き換えられますからネ。守備的ハーフの重要性と、素早い(ロングディスタンス=長距離の)イメージシンクロ勝負・・。

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 さて日本代表対中国代表。

 この試合のテーマは、何といっても両サイド(アレックスと山田)の攻撃参加と、二列目センターに抜擢された小笠原が日本代表の仕掛けをリードできるかどうか(=自己主張できるかどうか)でしょう。そのポジションは、攻守にわたって完全に自由であり、だからこそ、攻守にわたって自ら仕事を探しつづけなければならないポジションですからね。もちろん「久保竜彦」に対する注目度については言うまでもありません。なにせ彼に対しては、数年越しの思い入れがありますから・・。

 両サイドの攻め上がりに注目している背景には、福西と遠藤で組む「ホンチャン」の守備的ハーフがいます。要は、スリーバックにしただけではなく、この両人に守備的ハーフを任せたことによって、(バックアップがより確実だから!)両サイドバックのリスクチャレンジプレーがより活発になると期待しているということです。

 また小笠原ですが、ここで自己主張できなかったらもう機会はないだろう・・その事実を彼がどの程度理解しているのか・・というのがポイントです。もちろん自己主張するためには、まず何といってもディフェンスをしっかりとやらなければなりません。それがあってはじめて、次の攻撃においてもパスを呼び込む動きなどのボールなしのプレーも活性化するということです。とにかく動きまわりながら「オレにパスをまわせ!」なんていう大声を出しつづけなければなりません(もちろん実際に大声を出せと言っているのではなく、動きまわること自体が声でのアピールにイコールだということ!)。さて、本当に小笠原が「イメチェン」を果たせるのか・・。

 でも、そんな期待に反して、どうも立ち上がりの小笠原のプレーには不満タラタラです。たしかにダイナミックな守備プレーは出てくるのですが、自らがインターセプトしたりアタックができるような状況でのアクションばかり。誰が見ても「爆発だ!」と感じられるようなチェイス&チェックアクションは希なのですよ。

 前半4分に飛び出した先制ゴール場面。たしかに小笠原は、ドリブルする相手へうまいタイミングで寄せてボールを奪い返し、久保へのラストパスを決めました。でもどうも、それ以降もプレーは冴えない。それが・・、前半も25分分過ぎた辺りからでしたかネ、彼のプレーが目立って好転しはじめたのですよ。それは、日本代表の全体的なペースが上がってきたからという評価の方が正確かもしれません。とはいっても、日本代表のペースアップには、小笠原の、攻守にわたる積極プレーが一役も二役も買っていたのだから・・なんていう見方もできる・・。まあサッカーでは、一つの現象の要因ファクターには、まさに多面的な視点があるということです。

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 先制ゴールの後の日本は、中国に押されまくっていました。中盤での抑えが効かないから(小笠原も含む中盤ディフェンスがうまく機能していなかったから)攻め込まれ、ボールを奪い返しても、前線との距離が遠いということもっあって人数をかけられない・・だからどうしても単発攻撃になってしまう・・ってな具合で、まったくペースをアップさせられなかったのですよ。

 まあそれは、先制ゴールが「早すぎた」ということもあるのでしょう。だから中国がガンガン前へ来た・・逆に日本は「引き過ぎて」しまった・・そして前述したような「悪魔のゲーム展開サイクル」へ・・ってな具合。私はそう見ますが、ここでもまた、「一つの現象を分析するための多面的な視点」という発想が必要になってくる?!

 あっと・・ここで確認しておかなければならないことがあります。それは、たしかに日本代表は押されていたけれども、守備ブロックが崩されていたというわけでは全然なかったという事実です。日本代表の守備ブロックの安定性は抜群でしたよ。何せ、宮本、中澤、坪井のスリーバックに、福西と遠藤の守備的ハーフコンビですからネ。ボール絡みでのチェイス&チェックが素早く確実なだけではなく、ボールがないところでの守備も忠実で正確ということで、中国は、組織的な仕掛けがかなわず、ほとんどの攻撃の最後は「追い込まれ詰まった状態での単独ドリブル勝負」に陥っていたのですよ。もちろん1対1の勝負では、日本の選手たちも負けてはいませんよね。一度だけ、坪井がチンチンにやられたシーンがありましたが、それ以外は(もちろん坪井も含めて!)まったくといっていいほど「やられる」シーンはありませんでした。

 たしかに最終ラインも素晴らしかったのですが、この試合では、何といっても福西と遠藤が特筆の活躍でした。1対1の勝負で強さを発揮しただけではなく、ボールのないところでの忠実マークでも実効プレーを積み重ねた。頼もしい限りでしたよ。そのこともあって、最終ラインも安定したということです(もちろんスリーバックの個々のパフォーマンスも素晴らしかったですがネ・・何度か、最終章ブラ員コントロールが乱れたシーンは目撃しましたが・・まあ後でビデオ確認しましょう)。

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 記者会見では、ジーコも含め、後半に日本がペースアップした・・というニュアンスの発言がくり返されたのですが、私は、前半の30分過ぎから、試合展開がガラリと変容しはじめたと思っていました。その時間帯を境に、日本の前への勢いと「内容」が大きく改善したと思っていたのです。

 そのことを象徴していたのが、前半30分を過ぎたあたりで、小笠原と遠藤がタテにポジションチェンジしたシーン。小笠原が「しつこいチェイシング」をつづけながら戻ってきたのですが、この状況で、「そこ」でボールを奪い返せると確信した遠藤が、スッと「空いたタテのスペース」へ上がっていったのですよ。またその次の瞬間には、福西までが、タテに空いたスペースへ飛び出していきまた。いや、活発なタテのポジションチェンジシーンではありました。

 そのアクションはチャンスに結びつかなかったものの、そんな日本代表のタテへの積極性(もちろん実効ある攻め上がり!)が中国選手たちに対する心理的なプレッシャーにならないはずがない。だから中国選手たちの攻め上がり(中盤での積極ディフェンス)の勢いにも明確に「翳(かげ)り」が出てきたというわけです。

 「ゲームペースの奪い合い」の決定的ファクターになるのは、何といってもディフェンスの実効レベル。要は、この時間帯での日本代表のディフェンスがうまく回転をはじめ、徐々に高い位置でのボール奪取ができるようなったということです。そんな「守備に対する確信レベルの向上」があったからこそ、次の攻撃も、追い越しフリーランニングなど、より積極的に人数をかけられるようになっていった・・。

 そこで、「前線から」効果的な守備プレーを展開していたのが、大久保、久保、小笠原のトリオ。特に小笠原のディフェンス姿勢が好転していると感じました。それまでは「無為な様子見」と感じられれた足の止まっているシーンが、今度は「次の爆発のためのタメだ!」なんて感じられるようになったりして・・。

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 徐々にペースをアップさせていった日本代表ですが、そこに至るまでに時間がかかったのは、早いタイミングで先制ゴールを奪ったことの他にも、このメンバーでサッカーをやる時間が短かったこともあったのかもしれません。だから攻守にわたるリスクチャレンジが出てくるまでに時間が掛かった・・。リスクチャレンジの絶対的な条件は、自信と「相互信頼」ですからネ。

 攻守にわたって抜群に積極的なサッカーが展開できるようになった日本代表。仕掛けのプロセスでも、安全確実ポゼッション(安全確実なパス回し)と、リスクへチャレンジするプレーのバランスが良くなっていきましたよ。まあ、とはいってもまだまだ私は、「ポゼッション(安全ボールキープ)」シーンが目立ち過ぎるとは感じていますがネ。とにかく前半30分を過ぎたあたりから、仕掛けの流れに入ってからのチャレンジに、周りのポールなしのフリーランニングが増えるなど、吹っ切れた勢いが出てきたのは確かなことでした。

 それを象徴していたのが、後半9分のカウンターシーン。秀逸でしたよ。久保からアレックスへパスが回される・・そのままドリブル突破にチャレンジしたアレックスが、中国選手二人をブッちぎってしまう・・そして流れるようなアクションで、逆サイドへラストパスを送り込むアレックス・・そのファーポストスペースには大久保がしっかりと走り込んでいた・・結局は押さえきられてしまったけれど、チーム全体に勇気を与える素晴らしい仕掛けだった・・。

 後半15分・・インターセプトした山田からのタテパスを受けた久保が、そのままガツンッという一発ドリブル勝負で相手を抜き去ってシュートまでいく・・その数分前に飛び出した、抜群の高さのヘディングシュートも含め「やはり久保はホンモノだ!」なんて嬉しくて仕方なかった湯浅なのです・・それだけではなく、その2分後の後半17分には、小笠原からの一発タテパスをポスト直撃のシュートにつなげたり、後半24分には、再び小笠原からの「一発勝負ロングパス」から再び決定的チャンスを迎える・・等々。小笠原のパス出しと、久保の抜け出しタイミング(一発ロングパス勝負!)は、まさに高質なイメージシンクロプレーと呼ぶにふさわしい高質プレーです(=冒頭で紹介したベッカムとラウールのロングパスコンビネーション!!)。

 後半34分に久保が挙げた彼自身の二点目は、この試合での久保の全体パフォーマンスからすれば、まさに正当な報酬と呼ぶにふさわしい素晴らしいゴールでした。この日の久保は、「世界へのブレイクスルー」と呼べるくらいの素晴らしいプレーを展開したのです。もちろん一度「ブレイクスルー」しても、また「掘りの中」へ戻ってしまったという例も多々あるわけで楽観は禁物ですが、とにかく久保が「爆発」したこと、そして彼が秘めるポテンシャルの高さを日本全国の方々が体感したことが本当に大きかったと思っている湯浅なのです。

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 日本代表が魅せた、攻守にわたる自分主体の高質パフォーマンスが嬉しくて、気付いたポイントのほとんどをランダムに書きつづってしまった湯浅でした。

 これで、東アジア選手権自体がものすごく楽しみなものになりました。というのも、正直、はじまる前はちょっとノリが低調だったのですよ。何せジーコにとって、日本代表メンバーのファーストチョイスは「ヨーロッパの日本人」ですからネ。今回のチームは(中盤より前は)、あくまでもセカンドチョイス・・という印象をぬぐい去ることができなかった(そんな偏見をぬぐい去れなかった)とうことです。だからこそ観戦する方も、少しモティベーションがダウンしてしまう・・。

 でも今は違います。選手たちのプレー姿勢に、以前(ジーコが就任した当時に)感じていた「冗談じゃない! オレたちはセカンドチョイスなんかじゃないぞ・・」という主張が、再び見えはじめたと感じたのですよ。それですよ。セカンドチョイス(?!)選手たちのそんな「アグレッシブ」なプレー姿勢こそがジーコを動かし、「ギリギリの闘いに臨むチームにとって必須の緊張感」を生み出していくのです。さて面白くなってきた・・




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