この分析のメインターゲットは、前半と後半でメンバーに変更があったミッドフィールドの機能性。視点の中心は、中盤ディフェンスです。
ゲーム当日のレポートでも書いたように、出来が良くなかった数日前の紅白ゲームが選手たちの危機感を高めたことで(紅白ゲームの後、チーム内で話し合った?!)、この試合での欧州カルテットは、攻守にわたってジャマイカ戦よりは安定していました。要は、稲本と小野が「より」守備に重点を置いてプレーしたというわけです。
とはいっても、中盤のダイナミズム(攻守にわたる活力・迫力・力強さ)という視点では、後半メンバーの方が優っていたのは確かなことでしょう(小野伸二→中田浩二、中村俊輔→アレックス)。
中盤ダイナミズムを高揚させるためのベースは、やはり中盤ディフェンスの「実効レベル」。相手攻撃のリズムの抑制・・、効果的なボール奪取・・。
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たしかに小野のディフェンスは、ボールホルダー(次のパスレシーバー)への最初のチェック(寄せ=ディフェンスの起点!)やカバーリング、相手の次のパスに対するイメージでも安定しています。それでも小野自身が、、勝負のスライディングなど、爆発アタックでボールを奪い返すシーンは希だし(特に1対1の正対場面からのディフェンス勝負!)、ボール絡みでもボールがないところでも、「身体で止める」という泥臭い守備シーンが見られない。要は、彼のところで相手攻撃が「止まる」という雰囲気が希薄だということです(勝負アタックに対する決断が中途半端?!)。
次のボール奪取イメージに迷いがある?! 多分そうなんだろうな・・。インターセプトや、トラップの瞬間を狙ったタックルのチャンスを逸してしまうシーンを何度も目撃しましたし、ボールがないところでのマーキングスタートが遅れたことで相手に走り込まれ(そこへパスを通されて)、ほとんどフリーで危険なクロスを上げられてしまうというシーンもありました。彼は足が速くありませんから、特にボールがないところでのマークでは、予測スタートが決定的に重要な意味をもってくるのです。いつも書いていることではありますが・・。
さて中村俊輔・・。PKは決めたし、素晴らしいフリーキックも魅せました。また例によって、素早いボールコントロールや正確なキック、はたまた細かなトリックプレーでも才能を感じさせてはくれました。それでも、攻守にわたる、流れのなかでの実効レベルという視点では、やはり疑問符ばかりがアタマを占領してしまうのです。
たしかに運動量は多くなっているし、守備にも積極的に顔を見せてはいました。それでも、実際の貢献度という視点では・・。
攻撃では、ボールを上手くコントロールするシーンが多く見られたわりには、そこから決定的パスが出てくるとか(リスクチャレンジパス!)、そこを起点に仲間との仕掛けコンビネーションがスタートするといった雰囲気はない・・ボールがないところのプレーでも、勝負ゾーンのスペースへ自ら走り込んで決定的な仕事をしてやるという意志が見えてこない(常に二列目でのパスレシーブ&パスのイメージしか描いていない)・・もちろんドリブル勝負を挑んでいくというシーンもほとんどない(一度だけ、左サイドでのドリブル勝負からクロスを上げましたが)・・等々。
また守備でも、結局は「そこにいるだけ」というプレーに終始していました。臨機応変に戻って守備参加していたとはいえ、ボールを奪い返すという守備の目的を達成するための貢献度(実効レベル)では、苦しい。もちろんボールがないところでのマーキング(具体的なインターセプト狙いではなく・・)も見られない。これでは、仲間の守備ブロックから信頼されるはずがない。そう、レッジーナでのプレー同様に・・。
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それに対し、後半から出場した中田浩二とアレックスは、迷わずチャレンジしていくからこその失敗やミスはあるものの(また、プレーそのものは小野や中村ほどエレガントではないにせよ!)、攻撃や守備の「本当の目的」を達成するための実効レベルでは、小野と中村よりも明らかに上でした。それが、後半での日本代表のゲームの「実質」を押し上げたのです。
中田浩二は、ディフェンスでの安定したプレーやボールを奪い返した後の確実な展開パスは言うまでもなく、前線へもどんどんと進出していきます。もちろんシンプルなタイミングのパスをベースに。また、彼の守備力を信頼する稲本の押し上げにも、より力強さが加わっていきます。だからこそ後半の日本代表の中盤は、攻守にわたって、よりダイナミックに発展したというわけです。
まあそれには、アレックスが、左サイドの仕掛け人に徹していた(あまりにも徹しすぎていた?!)という背景もありそうです。そのことで、中盤の中央ゾーンを、中田英寿、鈴木(黒部)、稲本、中田浩二等が、臨機応変に(縦横のポジションチェンジで)活用できるようになったということです。
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稲本・・。
スライディングを駆使した見事なボール奪取(読みベース!)、ボールがないところでの、完璧な体勢・ポジショニングのマーキング(何度も、最終ラインを追い越すような忠実マークを続行!)、ボール奪取ポイントからの正確な展開パスや仕掛けパス、はたまた、ドリブル勝負も含むチャンスを見計らった効果的な押し上げ等々、そんなプレーを見ながら、やっと彼が、本来のプレーイメージを取り戻したと実感したものです。試合当日のレポートでも書いたように、フラム、ジャン・ティガナ監督の予言が見事にはまった。もしかしたらこの試合が、彼にとっての大きな転換点だったのかも・・。これからの彼の発展が楽しみになってきました。
まあ、攻守にわたる素晴らしい実効プレーや抜群のリーダーシップ(選手たちの自己主張を活性化するための刺激!)など、中田英寿については書くことが山積みですが、それはまた別の機会にでも・・。
最後に、私がいつもキーワードにしている(重要な評価基準の一つにしている)現象について、サッカーマガジンで連載していたコラムに発表した文章をご紹介します。意志が満載された全力ダッシュ。攻撃においても、守備においても・・。
この文章は、昨年10月2日に書き上げたものです。
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「ここだ!」。そのとき中田英寿が、全力ダッシュでアタックを仕掛けた。セリエの第4節。ユーヴェントス対パルマ、後半35分のことだ。攻め込んでいるユーヴェントスが、パルマのペナルティーエリア際を、右サイドから左サイドへと横パスをつないでいく。中田英寿は、その最後の横パスを「読み」、パスレシーバーへ向けて爆発アタックを敢行したのである。
中田が動き出したのは、最後の横パスが蹴られる寸前。その寄りの動きが、パスを受けるユーヴェ選手の目に留まらないはずがない。トラップが微妙にズレる。その瞬間だ、中田が爆発したのは。素晴らしいボール奪取だった。そこからの迷いのない直線的なカウンタードリブル。例によって、背筋をピンッと伸ばしたルックアップ姿勢を維持する。そして相手を十分に引きつけ、左サイドでフリーになったムトゥーへ丁寧なファウンデーションパスを通したのである。最後は、ムトゥーから、タメにタメたラストパスがアドリアーノへ通されてパルマの追加ゴールが決まった。中田英寿が演出した完璧なカウンター。ため息が出た。
この試合でも中田英寿は、ソリッドにまとまりはじめた新生パルマの骨格となるべき存在であることを証明した。そのバックボーンは、攻守にわたる明確な「意志」。それは、何度も繰りかえされた、攻守にわたるボールがないところでの全力ダッシュという現象に明確に投影されていた。そのダッシュこそが、自らが描く目標イメージを達成しようとする積極的な「意志(意図)」の現れなのである。
特にミッドフィールダーについて、本物の良い選手と、単に上手いだけの選手との「差」が明確に見えてくるのは、ボールがないところでの動きの「質」。それも、実効ある全力ダッシュにあることは、フットボールネーションでの不文律だ。
攻撃の目的はシュートを打つこと。守備のそれは相手からボールを奪い返すこと。得点を挙げたり、自軍ゴールを守るというのは結果にしか過ぎない。ポジションを修正しながら、常に攻守にわたる「勝負所」を強烈に意識する。そして、ねらい所のイメージにはまった瞬間、勝負を賭けた全力ダッシュをスタートする。直接的に「目的」を達成できないまでも、そんな意図が満載された全力アクションは、「次」への効果的なファウンデーションになるものだ。
中田英寿は、攻守にわたり、強烈な「意志」が迸る(ほとばしる)全力スプリントを繰りかえしていた。相手ボールホルダーや次のパスレシーバーに対する鋭い「寄り」ばかりではなく、ここだ!と確信したときのスペースへのフリーランニング。冒頭のシーンでは、ボールを奪い返した後のカウンターシーンまでもが鮮明に脳裏に描かれていたに違いない。素晴らしい。
自分主体で描く「明確なイメージ」を象徴する全力ダッシュ。今度「J」を観戦するとき、特にボール扱いに優れたミッドフィールダーたちについて、本物の良い選手と、単に上手いだけの選手との違いを観察してみるのも面白いだろう。(了)
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まだまだ「発展プロセス(ベクトルの方向性)」が明確に見えてこないジーコジャパン。選手タイプ(能力の特徴)の組み合わせも含め、とにかく柔軟に、「規制と解放のバランス」を探って欲しいと願っている湯浅なのです。