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U22オリンピック代表・・まったく「別物」のコンテンツになってしまった前半と後半・・日本代表vsニュージーランド代表(4-0)・・(2003年5月21日、水曜日)

立ち上がりの10分間。日本の若武者たちが、攻守にわたって素晴らしいダイナミックプレーを披露してくれました。

 相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)への忠実なチェック、その周りでのインターセプト狙いや協力プレス狙いなどなど、互いのアクションがダイナミックに連鎖しつづける中盤ディフェンスを基盤にゲームをコントロールし、次々と「決定的カタチ」を作り出してしまうのです。

 まず皆さんに、基本的なポジショニングバランスのイメージをもっていただくために、前の先発メンバーから・・。守備的ハーフコンビは、阿部勇樹と鈴木啓太。右サイドが石川、左サイドが根本。前後左右に、まさに縦横無尽にポジションを入れ替えながら相手守備ブロックの「穴(スペース)」入って起点になりつづける松井と大久保。そして最前線には、中山が張る。そんな若武者たちが、これぞダイナミックサッカーというプレーを展開したのです。

 まず右サイドの石川が、ドリブル突破からクロスを送り込む・・ファーサイドで待ち構えていた中山が、ヘディングで大久保へのラストパスを狙う(そのパスは通らず、こぼれたところを根本が中距離シュート!)・・次は、日本最終ラインからの一発ロングラストパス・・もちろん、最前線にポジショニングしていた松井の「パスを呼び込む決定的フリーランニング」に誘われたパス(僅かに長すぎて直接GKへ)・・左サイドで、松井とのタテのポジションチェンジから抜け出した鈴木啓太が、中央ゾーンで決定的フリーランニングを仕掛けた(ニアポストスペースへ飛び出した)中山へ、クロス気味のラストパスを通す(中山が触ったボールは、惜しくもポスト右へ外れる)・・その2分後の前半8分には、これまた左サイドで素晴らしいボールキープ(タメ)によって相手ディフェンダー二人を「死に体」にしてしまった松井から鈴木啓太へバックパスが戻される・・このバックパスが松井の足を離れる瞬間、後方から「大外スペース」を回るダッシュをスタートした根本へ、鈴木啓太から、ベストコース、ベストタイミングのダイレクトタテパスが送り込まれる・・まったくフリーでクロスを送る根本(ニアポストスペースへ走り込む中山をイメージしたのだろうが、結局はミスって逆サイドへ流れてしまった)・・等々。

 この10分間のサッカーを観ていて、ヤツらの雰囲気が変わったと感じたモノです。まあそれには、最初の1分間で相手(日本代表)の強さを「体感」したニュージーランドの守備ブロックが、ちょっと受け身になり、足を止めてしまう悪魔のサイクルに落ち込んだこともありました。

 難しい決定的なラインコントロールまでやろうとしているニュージーランドの最終フォーバックと中盤ディフェンスラインが不安定なのですよ。要は、タテスペースへ走り抜ける日本人選手に「行かれて」しまうシーンのオンパレードだということです。彼らは、相手のウラ狙いのコンビネーションに慣れていない?! とにかく、次の勝負シーンを明確にイメージできないから、自分たちが計画していた(?!)フィジカルの競り合いにまったく持ち込めないというわけです。

 互いのポジショニングバランスを基盤にした「ライン・ディフェンス」をイメージするニュージーランドの守備ブロック。でも、「ラインのブレイク」という発想が明確に見えてこないし、ボールがないところでの「人へのマーキング」も不安定。たぶん彼らは、こんなに素早く、広くボールを動かすチームとやったことがないのでしょう。だから、最悪のタイミングで協力プレスを仕掛けようとして(強引にフィジカル勝負に持ち込もうとして)それを簡単に外されたり、日本選手が明らかに「ワンツー突破」にチャレンジしようとしているのに、「次のパス」を意識していないから、簡単に「パス&ムーブ」で置き去りにされてしまう。特に最終ラインがやろうとしていた最終勝負のラインコントロールがおそまつの極み。オフサイドにならないタイミングで、簡単にウラを突かれてしまうのです。

 もちろん、ニュージーランドの「中盤」の守備が甘いこともあります。だから日本に、簡単に「最終勝負の起点」を作り出されてしまう。それでも、タテへの勝負パスが飛ぶタイミングくらいは予測できるはずですがネ・・。

 この「ライン守備のメカニズム」については、(少し長いコラムですが)以前にアップした「フラットライン守備システムを語り合いましょう」を参照してください。

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 そんなニュージーランドの稚拙なディフェンスに対し、決定的タテパスと、勝負の走り込みが、ピタリ、ピタリとシンクロしつづける日本代表。前半15分には、前述の中山のシュート以上の可能性を含んだチャンスを作り出します。演出者は、最終ラインの青木と、二列目からタテへ抜け出した松井のフリーランニング。まさに、両者のイメージが高質にシンクロしたチャンスメイク。青木の、50メートルはあろうかという決定的タテパスが、直前のタイミングで爆発スタートを切った松井がイメージする決定的スペースへ、ピタリと落ちたのです。松井のフリーシュート! でもシュートが、相手GKの正面に飛んでしまって・・。そんなシーンを観ながら思っていました。これは、日本とニュージーランドとでは「戦術的な発想」のレベルが違う・・。

 また前半20分には、大久保と阿部勇樹がタテにポジションチェンジし、ボールを持った大久保から、見事に決定的スペースー抜け出した阿部へのタテパスが決まる。またまた阿部のフリーシュート! いや、素晴らしい。

 それでも、日本がゴールを決められなかったことで、またニュージーランドも、やっと日本の攻めのリズムに慣れてきたことで(守備ブロックが安定してきたことで)、ゲームの流れが膠着しはじめるのです。

 そのとき、「これは・・」なんて思ったものです。何せ、ゲームが落ち着いてきたら、その雰囲気に呑み込まれて足が止まり気味になり、自分たち主体で「仕掛けの勢い」を再生し、増幅できない(だからおとなしい・・と言われてしまう)彼らのことですからネ。でも、この試合での彼らは違いました。

 とにかく、中盤ディフェンスの勢いが「静」に落ち着いてしまうことなく、常に高いレベルのダイナミズムを維持しつづけたのです。やはりサッカーでは、中盤ディフェンスが全てだ・・なんて思っていました。鈴木、阿部、石川、根本、大久保、松井たちが繰りひろげるダイナミックな中盤ディフェンス。心地よいことこの上ありません。

 自分たち主体で再びゲームを支配しはじめた日本代表が、右サイドからの石川の突破、大きなタテのダイレクト・コンビネーションからの決定的スルーパス(青木→大久保→石川→大久保)等々、次々と「必然のチャンス」を作りつづける。そして前半36分、まさに順当という先制ゴールが生まれます。左サイドの根本からの必殺のクロスが、中央で待つ中山にピタリと合ったのです。根本の、ピンポイントクロスに乾杯!!

 その後は、ニュージーランドの前へのエネルギーが増幅してきますが、それを落ち着いて受け止め、活発な攻撃を仕掛けていく日本代表。前半40分には、阿部のフリーキックから、大久保がヘディングを決めて追加ゴールを奪います。正確な、ファーポストスペースへのフリーキック。これもまた、ラストパスを送った阿部に拍手をおくりましょう(この10分ほど前には、フリーキックからの直接シュートが、ニュージーランドゴールのバーを直撃しましたしネ・・)。

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 私は、前半のサッカーを観ていて思っていました。

 「日本代表は、徹底的にニュージーランドを叩きつぶすべし!・・これだけの実力差があるのだから、絶対にペースを落とさず、できる限り多くのゴールをブチ込むべし!・・情け容赦なく、鬼の形相で相手ゴールへ迫るべし!・・そんな、アグレッシブな(相手をとことん叩きのめすという攻撃的な)マインドこそが、最終予選というギリギリの勝負にとってプラスとなる本物の勝負の体感として脳裏に焼き付く・・そんなマインドこそが、このチームにとって必要なことだ・・それでなければトレーニングマッチの意味がない!」。

 でも後半は、大久保、松井、根本、阿部が交代したことで(特に大久保、松井、阿部のラインが痛い!)、攻守にわたってダイナミックに「回っていた」チームのプレーイメージが寸断されてしまって・・。

 まあ、色々とチーム戦術的にトライしなければならないこともあるでしょうし、他の選手たちに経験を積ませる必要もあったのでしょうがね・・。

 後半では、サイドスペースも含め、ニュージーランド守備ラインのウラを突けたシーンは、ほとんど演出することができませんでした。もちろんその背景には、中盤守備のダイナミズムの低落があった・・。そして緩慢になっていったゲームの全体的なリズムに呑み込まれていく日本代表・・。

 それでも、後半37分の山瀬のゴールは秀逸でしたよ。自陣内でボールをもった山瀬。タイミング良く最前線へタテパスを出し、そのまま抜け出していく。そして最後は、左サイドでボールをもった田中達也からのピンポイントクロスが、正確に、山瀬がイメージした決定的スペースへ糸を引いていく・・。最後の瞬間、相手GKのモーションを読み切ったような、山瀬の「チョンとボールをつつくシュート」。

 パス&ムーブで、60メートルは全力ダッシュしてシュートポジションへ入っていった山瀬。ボールを持つ前から、その山瀬の動きをイメージしていた田中。素晴らしいゴールでした。




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