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FC東京vsレアル・マドリー(0-3)・・お祭りだと思って期待していなかったのですが、予想に反して「発見」もありましたよ・・(2003年8月5日、火曜日)

「はやくゴールをぶち込んでしまえ!」。何度、そんな声が出たことか。もちろん、FC東京に対するかけ声ですよ。

 試合は、立ち上がりからFC東京が積極プレー姿勢でレアルを上回ります。それに対し、ロナウド、ロベカル、ジダン等の主力がスターティングメンバーに入っていないレアルは(ジダンは、肉離れ気味だとか・・まあ仕方ない)、攻守にわたって、相手を甘く見たイージープレーに終始するなど、やる気のなさがアリアリ。腹が立つことこの上ないじゃありませんか、ホントに・・。

 それにしても、レアル選手たちの怠慢なスタンディングプレーには心穏やかではいられません。完璧にFC東京を甘く見ている。今は、もう昔のように、いくらチーム総合力に差があるとはいっても、スタンドプレーのテクニックだけで相手を振り回せるような時代じゃネ〜〜ぞ! グローバルな情報化をベースに、世界全体的に、テクニック・戦術レベルは底上げし、世界トップとの差も縮まっているのだ!

 まあ数日前の「中国リーグ選抜」とのゲームがどんなだったかは知りませんが(4-0でレアルが圧勝したとか・・それが原因でFC東京を甘く見た?!)、FC東京は、しっかりとしたハイレベルなサッカーができるチームです。だからレアルも、攻守にわたって気を引き締めなければ(もちろんケガの危険は避けなければならないけれど・・)ゲームを互角以上に展開することなどできるはずがない。

 とにかく前半のレアルのサッカーは、とんでもなく低調なものに終始していたのです。それでも、ベッカムのFK先制ゴール(スーパーフリーキックゴールに脱帽!)だけではなく、ここぞの爆発的なコンビネーションからの追加ゴールまでも奪い取ってしまう・・。これで、前半を終わってみたら、レアルの「2-0」のリード。ああ、本当にアタマにくる。

 私は、前半のサッカーを見ていて、憤りながらも、ある視点では「サスガだな・・」なんてことも感じていました。ヤツ等は、これよりも何倍も素晴らしいサッカーを魅せられるのに・・そのプレー姿勢からは、相手のレベルに合わせたサッカーで僅差で勝てばいいなんていうイージーマインドが明確にうかがえる・・そんな「気抜けプレー」しかやろうとしていないレアルだから、フザケルナよ!と怒りをぶつけられても当然・・それでも、押し上げてはいくものの、「危険なニオイ」をかもし出すような仕掛けを演出することができないFC東京も歯がゆい・・そこでは、最後の勝負所だけは、確実に、そして効率的に「抑えてしまう」など、レアル守備の上手さも、しっかりと目立っていた・・これも世界との差の本質的な部分だな・・なんて、全体的な気抜けプレーに対しては憤りながらも、最終勝負におけるレアルのディフェンスにも感嘆しきりの湯浅だったのです。

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 まあそれでも、ロナウドとロベカルが出場してきた後半は、レアルが展開するサッカーの内容も好転します。またそれに伴って、デイヴィッド・ベッカムのプレーも善循環をみせはじめるのです。

 前半のベッカムはヒドかったですよ。動かず、パスももらえず、ボールをもったらミスパスばかり、またドリブル突破なんてはじめから彼には期待できないし・・等々、「こりゃ、ダメだ・・」なんて思ったものです。それが後半は、まさに180度のイメチェン。素早くシンプルな「仕掛けのタテパス」は素晴らしいし、ボールキープにも冴えが見えはじめた・・また、ボールがないところも含めて守備参加も効果的だから(まあ守備だけは前半も良かったですけれど)、味方も信頼を置きはじめている・・それが、彼へのボールの集中という現象に如実に現れていた・・ってな具合です。

 後方でのゲームメイカーとして、目映い輝きを放ちつづけるベッカム。これはいいかも・・なんてネ。ゲンキンなものです。

 とにかく、シンプルで素早いパスタイミングがいい。それも、逃げの横パスなどではなく、そのほとんどが「仕掛けのタテパス」。それをことごとく「成功」させてしまうのです。ここでの「成功」とは、前線でタテパスを受けた味方が、次の仕掛けに入っていけるかどうかを評価基準にしましょう。タイミングが素早く、正確だから、相手マーカーも付き切れず、パスレシーバーが余裕を持てる。そんなクリエイティブな仕掛けパスのオンパレードだから、(彼に対する信頼感の高揚に伴って!?)味方もベッカムにボールを集めるのも道理でしょう。そしてレアルの攻めが、格段に危険なものへと変容していく。

 前半と後半とでは、まったく「別物」になったレアルのサッカーですが、ゴールは後半の方が少なく、ロナウドが仕掛けた「個の勝負」からのスーパーゴールのみということになりました。それでも、東京の守備ラインを崩した内容と頻度という視点では、後半の方がはるかに高質だったのです(前半では、東京ディフェンスを振り回せたシーンが二度ほどありましたが・・それでもごり押しの低級な仕掛けだった)。

 夢のようなトラップやボールの動きなど、後半の(レアル本来の)魅惑的サッカーに、詰めかけた観客の皆さんは堪能したことでしょう。もちろん私も胸をなで下ろしていましたよ。まだまだトップフォームではないにせよ、また「様々なチーム変更」があったにせよ、高質なサッカーイメージはしっかりと踏襲されている・・ってネ。今シーズンも、レアルのサッカーから目が離せない。

 最終ラインのフォーバックは除いて、今シーズンのレアル中盤は、マケレレのワンボランチになりそうな(もっとも重要な存在であるマケレレの残留工作の成功は、レアルマネージメントの大勝利!!)・・その前方に、フィーゴ、ジダン、ベッカムを並べ、少し下がり気味のラウールとロナウドがトップコンビを組む・・。そのイメージは、フィーゴ、ジダン、ベッカムが、臨機応変に「守備的ハーフ」の仕事もフルにこなすというものですが、さて・・。まあアウェーでは、「前のトリオ」の一人に代えて専業の守備的ハーフを「もう一人」入れるのでしょうがネ。

 とにかく、「最前線のフタ」の発展も含め、そんなことにも興味が湧いてくる今シーズンのレアルではあります。

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 ところで・・。

 この試合は、私の非常に近い友人と一緒に観戦しました。私と同年代の彼は、ニューヨークでも活躍する日本を代表するベーシスト(コントラバス)の一人、藤原清登さん。知る人ぞ知る、バカウマの人です。藤原さんは(私は、清登さんと呼びます)、自身もプレー経験がある大のサッカーファンなのですよ。

 その藤原さんと、試合を観ながら、こんな会話を交わしていました。

 「ケンジさん(彼は私のことをそう呼びます)・・どうして日本人は、テクニックであんなに劣るのだろうか? トレーニングさえしっかり積めばテクニックは同じレベルまでアップするはずだよね?? それともしっかりトレーニングしていないっていうことなんだろうか??」

 「清登さんがいっているのは、実戦の場でのテクニックのことネ・・。まあたしかに大きな差はあるよね。それでも、相手が入っていない状態での純粋なテクニックでは、日本人も世界と遜色ないところまで伸びていると思うよ。ボールを止めて、蹴るという純粋テクニックではネ。それでも、相手が入る実戦の場は、まったく違う。そこでは、相手とのボディーコンタクトもあるし、心理的なプレッシャーも相当なものだから、そんななかでテクニックを発揮するのは容易なことじゃない。ボクは、それを個人の戦術って呼ぶことにしている。まあスキルという呼び方もあるけれどネ。要は、相手がいないところでの止める、蹴るという純粋テクニックが、相手が入る実戦の場では、トラップやパス、はたまたシュートといった戦うスベ(術)になるってわけさ。それが日本人は苦手だと思う。特に、相手のチカラが明らかに上の外国人だった場合は、チャレンジ精神が大きく萎えてしまう傾向が強いと思うんだよ。なにせそこでは、自分主体でリスキープレーにもチャレンジしていかなければならないからね・・」。そんな私の説明に、藤原さんが、瞬間的に激しく反応しました。

 「ナルホド!! そうか・・。それはよく分かる。ジャズのセッションでも、外国人のなかに入った日本人は、基本的なテクニックは十分なのに、どうしても自己主張が足りなくなってしまう傾向が強いんだよ。だから全体のなかに埋没してしまう・・。そして、持てるテクニックを十分に活用したり、感性を十分に表現したりできなくなってしまうんだ。それに、似通っているよネ・・。まあボクの場合は、もうそんなことはないけれど・・」。今度はこちらが「ナルホド!」と、相づちを打つ番。

 いや、面白い会話でした。そうか、ジャズにおいても、自由な雰囲気のなかで、組織プレーと個人プレー(自己主張)をうまくバランスさせていかなければならないということか・・。日本を代表するミュージシャンの言葉に、深く感銘を受けていた湯浅でした。

 やはり、あるジャンルで一廉(ひとかど)のことを成し遂げた人の言葉は活きているし深みがある。だから、自分にとってものすごい刺激になる・・。藤原さんと会話しながらの観戦は、自分の視野の広がりを体感できるなど、本当に心地よいものでした。感謝・・。是非また一緒に観戦しましょう。

 藤原清登さんのホームページは「こちら」。彼のコンサートは、感動ものですよ。たまには、レベルを超えた低音の魅力に舌鼓を打つのもオツなものですよ。




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