自ら中盤でボールを奪い返し、自分を中心に何度か縦横にボールを動かした後、バス&ムーブで最前線へ押し上げ、タイミングのよいタテパスを受けたバイオッコ。そして、一瞬のタメから、サポートしてきた中村俊輔へパスを回したのです。素晴らしいラストパスからのダイレクトシュート!? いや、中村俊輔は、ちょっとタイミングが合わなかったことで右サイドに上がっていた味方(たぶんコッツァ)へパスを出してシュートさせるしかありませんでした(最後は惜しくもゴールにならず・・)。
ゴールにはつながらなかったとはいえ、それは、最初から最後までバイオッコが中心になった、イタリアのツボともいえる素晴らしいカウンター攻撃シーンでした。フムフム、レッジーナも、中番の補強でもしっかりとしたビジョンを持っていたようだ・・。
バイオッコですが、昨シーズンまでユーヴェントスでプレーをしていたとのこと。なかなか「実」のある、しっかりしたプレーヤーです。守備はもちろんのこと、攻撃でも、後方からのゲームメイカーとして、実効あるプレーを展開します。
ハンブルクで言うならば、今シーズン、ヘルタ・ベルリンから移籍してきたバインリッヒのような堅実なタイプの守備的ハーフ。レッジーナでも、ハンブルクのバインリッヒ同様に、まさに「ツボにはまった補強」ということになりそうです。
このゲームでの彼の守備的ハーフパートナーは、ブラジル人プレーヤーのモザルト(彼はドイツ系なんでしょうね、その名前は、ドイツ語ではモーツァルトですよ!)。バイオッコのパートナーとして、うまくサポートに回っています。あれ程テクニックに優れたモザルトでさえも敬意を表するバイオッコ。これでレッジーナに「中盤の底のコア」が出来上がったと思ったものです。もちろん、中村俊輔の「後方のパートナー」としてネ。
あっと・・、レッジーナ先制ゴール(前半14分)ですが、それも、バイオッコの「影武者のような押し上げ」によって生まれました。カウンター気味の状況で、後ろ髪を引かれない思い切ったオーバーラップを魅せたバイオッコにパスがまわされ、そこからステッローネへラストパスが通されたというわけです。素晴らしい先制ゴールでした。
試合は、なかなか内容のある展開になります。マリノスも、ファーストステージチャンピオンとして、チャレンジャブルな積極プレーを魅せていますしね。立派なサッカーです。それでも、攻守にわたる勝負所のコントロール(チーム内でのイメージシェアのレベル)では、やはりレッジーナに一日「以上」の長がある・・。上手いですよ、やっぱりセリエの連中は・・下位とはいえネ。特にディフェンスが、いい。
最終ラインによる、ラインコントロールからの、タイミング良く正確な「ブレイク(マンマークへの移行)」。それだけではなく、中盤ディフェンスラインも、マリノス攻撃の可能性を、効果的に抑制してしまいます(=それが、レッジーナ最終ラインによるラインコントロールのイメージ基盤!)。秀逸ディフェンスを展開するレッジーナ。それだけに目を凝らしていても入場料にオツリがくる。
試合ですが、レッジーナ先制の後、当然の流れとしてマリノスがペースを握りはじめます。押し上げの勢いを前面に押し出すマリノス。でもそんな展開って、イタリアの得意とするところ。そう「イタリアのツボ」です。案の定、マリノスが攻めあぐんでいた前半26分には、狙いすましたカウンターを決められてしまいそうになります。
中央で、素早いボール奪取からのタテパスを受けたボナッツォーリ。彼は、味方がボールを奪い返すことを明確にイメージしてそのパスレシーブポジションに入っていました。そして、素早いタイミンクで、右サイドを上がっていくコッツァの前方スペースへのタテパスを決めちゃうのです。
このコッツァにしても、ボール奪取からのカウンターの流れを予想したタイミングでスタートを切っていました。まさに「イタリアのツボイメージ」に誘われた「連鎖アクション」といったところ。そして、そのままマリノスディフェンダーを振り切ったコッツァから、走り込んできたボナッツォーリへのラストパスが決まる・・。そのシュートがゴールにならなかったのは誤算でしたが、その後も、(カウンターに対する確信をベースに)分厚くサポートしてきた中村俊輔や、他のレッジーナ選手たちが決定的シュートを見舞う・・。まさに「イタリアのツボ」が最高に機能した瞬間でした。
でもその後は、マリノスも落ち着きを取り戻してきたと感じます。しっかりと前後のバランスをイメージしながら攻め上がる・・それでも決して、攻め上がる者が後ろ髪を引かれることがない・・そこには次の守備の組織に対する確信がある・・。
マリノスはよくトレーニングされたチームです。言い換えれば、攻守にわたる互いのプレーイメージが有機的に連鎖している・・とも表現できます。それが、30分前後のマルキーニョスの惜しいシュート場面や、41分のPKを呼び込んだ素晴らしいカウンター攻撃シーンのバックボーンになっていたというわけです。このPKの成功で(奥が、キッチリと決めた!)、ゲームは「1-1」の振り出しに戻ります。
何人かの主力組を欠いているマリノス(特に、松田と中澤のセンターバックコンビの不在は大きい)・・それでも、しっかりとした積極サッカーを展開できている・・だからこそゲームが締まり、エキサイティングなものになった・・。
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そんな試合の流れは、後半には、もっと先鋭化していきます。マリノスの吹っ切れた積極攻撃サッカーがパワーアップしたのです。前半に輪をかけたマリノスの迫力攻撃。それにタジタジとなる場面が増えていくレッジーナ。とはいっても、最終勝負では、まだまだ組織を崩されるところまではいかない。そしてゲームが白熱していきます。
マリノスが仕掛ける最終勝負の中心は、やはりマルキーニョス、ドゥトラ、そしてユー・サンチョル。彼らがボールに絡めば、危険なドリブル勝負やコンビネーションなど、たしかに大きな可能性の光が射し込んでくると感じます。
それでも結局は、イタリアのツボにやられてしまう・・。レッジーナの決勝ゴールが決まったのは60分のこと。中盤の高い位置でボールを持ち、スッ、スッとドリブルで押し上げていく中村俊輔。そして最後の瞬間、最前線で決定的スペースへ飛び出すディ・ミケーレへ、「ここしかない!」というタイミングのタテパスが繰り出されるのです。そこでの、タテへの走り抜けタイミングと、中村のタテパスタイミングの「シンクロナイズ」には、ほれぼれされられました。まあ、その後のディ・ミケーレのドリブルはやり過ぎでしたがネ(でも最後の瞬間にはボナッツォーリにラストパスを出せてラッキー!)。
ディ・ミケーレのプレーでは、65分のレッジーナCKシーンでこぼれ球を拾ったマリノスのカウンターに対して、彼が、最後まで(自ゴール前まで)マリノス選手をマークしつづけたディフェンスは素晴らしいの一言でした。それこそ、イタリアのツボを支える「自分主体の、実効ある守備意識」というわけです。
結局ゲームは、のまま「2-1」でレッジーナが押し切ったわけですが、それでも、マリノスが展開した立派な積極サッカーは(レッジーナとの親善マッチを、実効ある学習機会にできたことは)称賛に値します。終了直前の時間帯には、ユー・サンチョルの絶対的なヘディングシュートチャンスがあったわけですが、それが決まって引き分け・・というのが、「この試合での内容」からすれば妥当な結果だったのかも・・。
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最後に中村俊輔について。
良かったですよ。ボールがないところでの無為な「様子見プレー」や、ボールがないところでのマーキング(チェイシング)ミスなどもまだ目に付きますが、全体的には、彼の攻守にわたるプレーが大きく発展しつづけていることを如実に証明する内容だったと思います。イタリア人のなかに入っても、そのプレーぶりは、頼もしく感じさせるに十分なものだったのです。
そんな彼の「ブレイクスルー」のキッカケになったのは、つい先日のコンフェデレーションズカップだったのかもしれません。それも、フランス戦・・。そう思っているのは私だけではないでしょう。そこで中村が魅せた、抜群の運動量をベースにした攻守にわたる実効ある活躍。特に、守備をすべてのスタートラインとして攻め上がるプレー姿勢に強く共感したものです。そしてそこでのプレーが、彼に、本当の意味での「自信」を与え、ブレイクスルーのキッカケを掴ませた・・。
もちろん、その「前段」には、昨シーズンのセリエで、中盤戦から終盤にかけて徐々に調子を落とし(その原因は、どちらかといえば自己撞着?!)、最後の「降格決定戦」では、結局チームの役に立つことは十分に叶わなかったという悔しい体感がありました。
だからこそ「ジーコの期待」に応えようとするマインドと、(私も含む)批判的な論評を見返してやるという意地パワーが相乗的に高揚していった・・だからこそ、彼本来のチカラが、自分主体で存分に発揮されるようになった・・。まあ、そういうことだと思いますよ。
何か、この試合の前のインタビューで、「攻撃だけじゃなく、ボクの守備にも注目してもらいたい・・」なんていう発言があったとのこと。素晴らしく頼もしい発言じゃありませんか。ホンモノの「守備意識」こそが、自由なサッカーを、実効あるカタチで、もっと自由に、もっと楽しいものにしてくれるというわけです。私がサッカーマガジンで発表したコラムの真意もそこにあった・・。もっと楽しく自由なサッカーを実現するためのベース(全ての基盤)は、選手全員に深く浸透した「実効ある守備意識」に他ならない・・。
バイオッコという、優れた「後方のゲームメイカー(後方のクリエイティブパートナー)」を得た中村俊輔の今シーズンが本当に楽しみになってきました。