トピックス


再び「高原直泰」について・・日刊スポーツ新聞で発表した文章の「原文」です・・また「支配志向」がミエミエの巨大クラブの動向についてもちょっとだけ・・(2003年8月5日、火曜日)

先週の金曜日(7月31日)の日刊スポーツに、高原直泰が所属するハンブルガーSVのコーチ、アルミン・ロイタースハーンとの対談記事が載ったとのこと。その日は、ちょうどフランクフルトから飛び立つ日だったので購入できませんでした。まあ、後で新聞社の方からもらうことにしましょう。

 「原文」は、ストーリー仕立ての長い原稿だったのですが、実際の記事は、もちろん日刊スポーツ新聞の編集部で、インタビュー記事として「まとめ」たとのこと(それについては、事前に合意のうえでした)。ということで、ここでは、その「原文」を載せておくことにします。では・・

===========

 「この二試合でのタカ(チーム内の高原の愛称)は、本当にいいプレーをしたよ。彼は、この半年で、大きく成長した。たしかにまだレギュラーポジションを手にしているわけではないけれど、今シーズンは、中心選手として活躍すると確信しているよ・・」。高原直泰が所属するハンブルガーSVのヘッドコーチ、アルミン・ロイタースハーンが、目を輝かせて高原への期待を語りつづける。

 ハンブルガーSVは、ドイツのシーズン開幕を告げる「リーグカップ」準々決勝(7月17日)で、ヘルタ・ベルリンを「2-1」で破っただけではなく、つづく準決勝では、王者バイエルン・ミュンヘンに対して互角以上の闘いを展開し、PK戦で勝負をモノにした。この両ゲームで、後半10分あたりから登場した高原は、落ち着いたボールキープやシンプルなパスプレー、そして機を見計らった単独勝負など、大きな成長の跡を感じさせてくれた。とはいっても、そこには、越えなければならない課題も見え隠れしていた。(間に合えば、ドルトムントとの決勝の結果と高原の出来も入れてください)

 「たしかにタカはまだ交代要員だけれど、でも彼ほど、交代した瞬間からフルに活躍してくれると確信させてくれる選手は希だな。タカは、心理的に強いモノを持っているということだよ。まあそれが、この半年で一番大きく発展した部分だけれどな」。アルミン・ロイタースハーンがつづける。

 「この半年間で伸びたのは、何といっても、欧州プロの闘うメンタリティーだろうな。厳しい闘いの雰囲気のなかでも、物怖じすることなく自分のテクニックを駆使できるようになっている。まあ、自信を深めたということだけれど、例えば相手にピタリとマークされている状況でパスを受けても、まったく慌てなくなったし怖がらなくなっただけではなく、マークする相手を、身体をつかって(スクリーニングで)しっかりと抑えてボールをキープし、次に展開してしまうんだよ。そんな落ち着きが、チームメイトの信頼を勝ち取った背景にあるんだよ」。

 「たしかにタカは、素晴らしい選手だよ。両足でボールを扱えるし、テクニックも素晴らしい。スピードがあって反応動作も鋭い。またヘディングも強い。ヘディングでのギリギリの競り合いをまったく怖がらないのもいいよな。また人間的なキャラクターも優れていると思うよ。だから、チーム内でも、すぐに彼のパーソナリティーが認められたというわけさ。タカは、1年も経つのに、まだドイツ語に問題を抱える外国人選手が多いなかで、半年でもうドイツ語でのインタビューをこなしているんだよ」。

 そんなに素晴らしい高原なのに、どうしてまだベンチなんだい? そんな私の質問に、アルミン・ロイタースハーンが、まさに端的に答えてくれた。「それは、ゴールが少ないからさ」。

 そんなこと言っても、偶然と必然が交錯するドラマがサッカーだから、ゴールという結果の半分以上は偶然の要素が占めてしまうだろう? 高原は、良いカタチのシュートチャンスも多かったと思うんだけれど?

 「そうさ。たしかにバイエルン・ミュンヘン戦でのヘディングシュートなど、大事なゴールは決めたけれど、それでも、チャンスを活用するという視点では、明らかに、ロメオやバルバレスの方が上なんだよ。例えばロメオは、42ゲームで、22ゴールを決めているし、バルバレスは2000/2001年シーズンの得点王なんだ。まあストレートに言ってしまえば、タカの場合は、自分でシュートが打てるチャンスがあるのに、味方にパスを出してしまうケースが多すぎるということさ。もちろん、より良いポジションにいる味方へパスを出すという発想も必要だけれど、やはりストライカーは、ここぞ!っていう場面じゃ、エゴイストに徹しなければならない。タカはストライカーとして契約しているんだし、素晴らしい能力をもっているのだから、そのクオリティーをもっと前面に押し出すことを学ばなければならないんだよ」。

 フムフム、よく分かる。たしかに、より高い可能性を追求するという姿勢も大事だが、基本的にストライカーは、チャンスがあれば「自分でシュートを打つ」という積極姿勢を貫かなければならない。それはサッカーでの不文律ともいえる。チャンスの確率を高くしようとして、逆にそれを潰してしまうという光景をよく目にする。イレギュラーするボールを足で扱うという、不確実な要素が満載されたサッカーでは日常茶飯事なのだ。いくら最終勝負のイメージが優れていようと、サッカーでは、瞬間的に状況が変わってしまうから、そのイメージを実現できることの方が少ない。だからこそストライカーは、ココゾの場面では「エゴイスト」に徹し、自分自身でリスクにチャレンジしていかなければならないのである。

 リーグカップ準決勝(バイエルン・ミュンヘン戦)で後半10分から登場した高原も、たしかに全体的には良いプレーを展開していながら、そのなかに「悪いクセ」も出ていた。相手マークを抜き去るような素晴らしいドリブル突破から切れ込んでいったにもかかわらず、誰もが「あっ、シュートだ!」と思った次の瞬間、自分自身でシュートへ行くのではなく、フリーになっていた味方へパスを出してしまったのだ。良いタイミングの素晴らしいパスだった。ただ結局は、相手守備にチャンスを潰されてしまうことになる。誰もが、落胆の表情を浮かべた瞬間だった。

 「あのプレーが、タカハラの悪いクセなんだよ。どうして自分でシュートを打たないんだ。ヤツにはそれだけのチカラがあるじゃないか。とにかく、ゴール前での積極性がアップすれば、タカハラは今の何倍も良くなるよ」。バイエルン・ミュンヘンとの試合を一緒に観戦していたハンス・マイヤーが、厳しい表情で、そう言っていた。彼は、昨シーズンまで、ドイツブンデスリーガの雄、ボルシア・メンヘングラッドバッハを率いていた名将だ。もちろん高原とも対戦しているから、彼のプレーをよく知っているというわけだ。

 「そうなんだよ。あのシーンには、オレたちもちょっとガッカリさせられた。それでも全体的に見れば、ストライカーとしてのタカが大きく発展しているのは確かなことだよ。ここまでのプレシーズントレーニングでは、ゴールシーンに絡もうとする意識が格段に向上していることを如実に証明しているしな。それも、タカ自身が、ゴールに絡むことが大事な評価ベースだということを自覚したからに他ならないのだけれど、それを意識的に実践できてしまうのもキャパの高さの証明というわけだ」。アルミン・ロイタースハーンがつづける。

 「我々は、彼のプレーヤーとしての能力を高く評価したからこそ契約したんだ。これまでのタカのパフォーマンスで、その判断の正しさが証明されたというわけさ。なかには、ジャパンマネーを狙っているんだろう・・なんていう憶測も飛び交っているようだけれど、少なくとも我々現場の人間には100パーセント無いよな。もし現場がそんな思惑で動いたとしたら、すぐにでもチームが空中分解してしまうさ。何といってもサッカーは一人でプレーするボールゲームじゃないからな」。

 「とにかくタカの場合は、実力があり、そのことを仲間が認めて期待しているからこそ、チームの一員として深く認められているということだよ。今シーズンのタカは、積極的にゴールシーンに絡んでいくことをより強くイメージしている。それが自信を深めるから、より良いプレーができるようになる。そんな善循環が回りはじめていることを、プレシーズントレーニングでのタカのプレー姿勢に明確に感じているのさ。だからオレたちにとっても、彼がどこまで発展するのか楽しみで仕方ないというわけだ」。(了)

==========

 そして実際に、アルミンの期待通りに今シーズンの高原がスタート切ったということになりました(それについては昨日のレポートを参照してください)。

 まだまだ時差ボケがつづき、朝の4時に目が覚めてしまいました。ということで、このレポートをアップしておくことにした次第。

------------------------------

 さて、今日の夜には、FC東京とレアル・マドリーの練習試合があります。経済メカニズムを駆使した「支配志向」がミエミエのレアルの運営方針には、ちょいと「食傷気味」ではありますが、それでも「美しく、強いサッカー」は見たい・・。まあ、サッカーを「人質」に取られている世界の生活者たち・・ということでしょう。

 私は、生活者が見たいのは、できる限り平等な条件の上でのフェアな戦い・・だと思うのですよ(スポーツの原点!)。それに対して、レアル・マドリーに代表される、富の集中化傾向によりいっそう拍車をかけようとするヨーロッパ強豪クラブの運営方針・・。このところの世界プロサッカー情勢は、どうも、生活者(ファン・サポーター)不在という傾向が強まっていように感じられてなりません。それは、確実にサッカー(文化)の発展・深化を阻害する・・。

 とはいっても、生活者はインターネットというボーダーレスの双方向コミュニケーションツールを手に入れましたからね。その有効活用によって、自分主体で楽しむ草の根サッカー活動の輪が広がれば、生活者のポジティブな意志が、プロサッカー界に対しても「節度あるカタチ」で影響力を強めていくに違いない・・なんて期待している湯浅なのです。

 人類史上最大の「異文化接点パワー」を秘めるサッカー・・今後の「健康的」な発展プロセスでは、本当の意味で、生活者の皆さんが(そのグッドウィルが!)主役になっていくに違いないと確信し、期待に胸膨らませてキーボードを置く湯浅だったのです・・なんちゃって・・。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]