ポンポンとマリノスが二点を先行したときは、誰もがこのまま楽勝だと思ったに違いありません。もちろん選手たちも例外ではない。そして、そんなイージーな心理がチーム内に蔓延する(心理的な悪魔のサイクル)というワナにはまっていってしまう・・。マリノス選手たちは、サッカーはホンモノの心理ゲームだという普遍的な概念を噛みしめたことでしょう。だからこそ、ツイていた。トーナメントに対する本物のモティベーションを覚醒させる刺激を得るという幸運を掴んだということです。
そんな心理的な背景があったから、サンフレッチェ戦でのマリノスが、立ち上がりから、攻守にわたってダイナミックなサッカーが展開できていたのも自然な流れだと感じていたわけです。久保が、安永が、次々と決定的チャンスを得る。たしかにゴールにはなりませんでしたが、チャンスメイクの「実質的コンテンツ」にレベルの差を感じていました。
やはり、サッカーでの勝負はボールがないところで決まる・・だから攻守にわたるボールがないところでのアクションの「質と量」が勝負を分ける・・個人の能力で(その単純集積で)優れたチームが、その個の差を「実効ある組織総合力の差」へと高められるかどうかというポイントもまた、攻守わたるボールなしアクションの質と量にかかっている・・市立船橋とのゲームでは、簡単にリードを広げてしまったことで、その後のプレーが、まさに「シンクロしない個のアクションの無為な積み重ね」になってしまったマリノスだったけれど、このサンフレッチェ戦では、たしかにチームになっていた・・そのことは、中盤での、互いのアクションがうまくリンクしたディフェンスアクションや、決定的シーンでの相手フリーランニングに対する忠実マークなどに如実に現れてくる・・この試合での立ち上がりの時間帯では、両チームの「実効ある差」が明確に認識できた・・。
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そんな展開のなか、マリノスが、順当な先制ゴールを決めます。前半33分。中盤でボールをもった上野から、最前線で「消えた」久保へ向けて、ここしかないというタイミングとコースの見事なラストロングパスが通されたのです。それは、それは素晴らしい瞬間でした。何せ、久保のボールなしの創造的アクションが見事に報われた瞬間でしたからネ。それこそ久保の真骨頂。それは、彼自身が「次の勝負シーン」を明確に描写できていることの確かな証だったというわけです。
そのゴールを(そのボールなしの爆発アクションを)観たとき、私の脳裏を以前のシーンが駆けめぐっていました。フィリップ・トルシエが日本代表の監督に就任して迎えた、エジプトとの初戦(1998年10月28日)。途中交代で登場した久保が、ボール絡みだけではなく、ボールがないところでも確かな存在感を示したのです。
そしてすぐに、以前のトピックスコラムを探しにいったという次第(トピックス・トップページの一番下に、以前のコラムを読みたい方は・・というリンクボタンを設置してあります!)。そこで書いたレポートを読み返したのですが、やはり当時の久保のプレーでも、「ボールなしの勝負アクション」が印象的だったようです。
その後も、私は久保を注目しつづけていました。サンフレッチェでのプレーも含めてね。でも日本代表では、どうも存在感が薄い。フィリップ・トルシエは、もっと彼にチャンスを与えるべき・・なんて、様々なメディアで書いたことを覚えています。だからこそ、ワールドカップ本大会直前のヨーロッパ遠征において(アウェーでのポーランド戦!)、久しぶりに久保が、抜群の存在感を発揮したことを心から喜んでいたのです(そのゲームレポートはこちら)。でも結局は本大会メンバーから外されてしまった・・(そのことについて、私のHPでこんなことを書きました・・)。
まあ、そんな経緯があって、東アジア選手権での彼のゴールに(本物のブレイクのキッカケを掴んだことに)心躍っていたというわけです。もちろんその背景に、マリノスへの移籍があったことは言うまでもありません。以前から、「もし久保が、しっかりとしたタテパスを送り込めるようなチームにいたら・・」なんていうタラレバのハナシから入り、やはり一人の選手がブレイクできるかどうかは、環境(運?!)が大きく左右する・・なんていう論を展開したものです。
あっと・・先制ゴールのシーン。久保が抜け出してパスを受けたところで勝負ありでしたが、それにしても、久保のシュートも秀逸でしたネ。左足アウトサイドでの、飛び出してきた相手GKの頭上を抜くロビングシュート。ため息がでましたよ。またマリノス追加ゴールのシーン(後半41分)でも、久保が魅せた決定的フリーランニング(その飛び出しタイミングとコースなど)を堪能させてもらいました。
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とはいっても、サンフレッチェも立派なゲームを展開しましたよ。たしかにゲーム立ち上がりは、(前述したように)ボール絡み、ボールなし両面での「局面プレーの質」に差を感じていた湯浅だったのですが、時間が経つにつれて、攻守にわたって吹っ切れたダイナミックプレーが展開できるようになっていきます。もちろんそこでは、マリノスにゴールを奪われたという刺激もあったでしょうが、私は、サンフレッチェの選手たちが、自分たち主体でペースをアップさせていったと感じていました。
一つのゲームのなかでの「自分主体の成長」。この試合でのサンフレッチェには、たしかに「それ」があったと思います。だからこそゲームがエキサイティングに盛り上がっていった・・。だからこそマリノスにとっても、ものすごく有意義な学習機会にもなった・・。
なかなかのゲームコンテンツに、最後まで意識を奪われていた湯浅でした。