トピックス


天皇杯準決勝・・内容に見合った結果になったジュビロ対エスパルス(4-2)・・またアントラーズ対セレッソ(1-2)についてもショートインプレッション・・(2003年12月27日、土曜日)

アリャッ?! ゲームの立ち上がり、ジュビロのペースがまったく上がってこない・・というよりは、完全に気抜け状態・・。対するエスパルスは、とにかくオレたちが先制ゴールを奪うぞっ!という気合いの入ったプレー姿勢でジュビロを押し込みつづける・・。「アリャッ」の意味は、そんな立ち上がりになることは百も承知のジュビロのはずが、完璧にペースを乱されていたということです。百戦錬磨のジュビロなのに、なんて締まりがない・・。そして、思っていました。「やはり、中盤の底の二枚が欠けたのは痛すぎるということか・・」。そうです、この試合では、福西と服部がいないのですよ(河村と菊地の守備的ハーフコンビ)。

 守備的ハーフは、まさにチームの重心ですからね。全体のプレーイメージの中心ともいえる主力の二人が欠けている・・若い二人では、まだまだチーム全体の雰囲気をドライブするところまで行けないのも道理・・また前気味の名波にしても、前方のゾーンからペースアップをリードするのは難しい・・なんといっても、チーム全体のペースアップは守備からスタートしなければなりませんから・・ってな具合なんですよ。

 エスパルスの勢いのリソースは、もちろん中盤でのダイナミックな守備。そしてボールを奪い返した者が、タテにパスを出し、そのままパス&ムーブで最前線(決定的スペース)へ抜け出すというイメージを前面に押し出すなど、本当に積極的な仕掛けをつづけるのです。それに対しジュビロの中盤ディフェンスは、とにかくマークの受けわたしをやり過ぎ(完全に足が止まり、ボールを目で追うだけになってしまっている!)。だからクルクルとボールを動かされ、次々に程度フリーなボールホルダー(=仕掛けの起点)を演出され、そこから勝負パスやドリブルで守備ブロックが切り崩されてしまう・・。最終ラインは、中盤に対して文句を言っている暇もないほどテンテコ舞いの忙しさ・・ってな具合。

 こんな悪魔のサイクルを断ち切るためには、(前述したように)とにかく守備をキチンとやらなければなりません。それなのに、あまりにも「無為な様子見」が多すぎる。ここでいう「キチンとした守備」のコンテンツは、タイトなマンマークを連鎖させることしかない。まず誰かがピタリとキーマンをマークしつづけ、それを守備の起点として、周りの味方がボールへのチェイス&チェックをくり返すことで、「次」の効果的なアタックを可能にするというイメージ。それがあってはじめて自分たちのペースを取り戻せるというわけです。もちろんここでの「ペース回復」の意味は、相手の攻守にわたる前への勢いを「確信ベース」で抑制できること!!

 しかしジュビロは、エスパルスに押し込まれつづけ、チャンスの芽まで演出されつづけるという悪魔のサイクルを断ち切ることができません。だから、アン・ジョンファン、トゥット、澤登たちに「シュートのカタチ」まで入られてしまうのも当然の帰結だったのです。

 攻守にわたって組織がズタズタ状態だった立ち上がり5分間のジュビロ。「あれ」はやられ過ぎ。選手たちは感じていたはずです。「あっ・・これは、相手の前への勢いを受け止めているなんていうものじゃなく、本当にやられちゃっている・・」。それは、まさに「心理的な悪魔のサイクル」。プレーイメージのシンクロレベルが希薄なチームだったら、絶対に「そこ」から抜け出せない。でもそこは、(主力が何人か抜けているとはいえ)やはりジュビロでした。自分たち自身で「刺激」を与えてしまったのです。今回の「刺激リソースの演出家」は、西紀寛。彼が魅せた、中盤から前線へかけての爆発チェイシングは、まさにチームメイトたちのアタマをブン殴るハンマーになったというわけです。

 それは、前半5分のこと。この試合でも右サイドバックに入った西が、中央の低いゾーンを皮切りに、相手最終ラインまで、エスパルスのボールを全力ダッシュでチェイスしつづけたのです。誰が見ても「ムダ走り」。チームメイトたちも、西のダイナミックな「無駄アクション」をしっかりと見ていたことでしょう。そして実際にその走りは「ムダ」に終わってしまったように見えました。ただ実際は・・。

 たぶんチームメイトたちは、西のダイナミックアクションに「怒り」が込められていたことを敏感に感じ取っていたに違いありません。「何やっているんだ!・・ふざけるなヨ!!・・もっとしっかりプレーしろ!!!」ってな怒りのアクション。そしてチームの雰囲気が、その「無駄な爆発チェイシングプレーという刺激」によって、急に活性化されたと感じられました。何せチームメイトたちは、西のダイナミックアクションを、本当に「無駄骨」に終わらせてしまったのですからネ。サッカーは本物のチームゲーム。チームメイトたちは、西の仕掛けのチェイシングを「次のボール奪取アクション」につなげなければならなかったのに・・。だからこそ(良心の呵責という刺激?!)チームメイトたちが目を覚ましたと思っている湯浅なのです。

 この試合での私の見所は、このゲーム開始5分間における、物理的&心理・精神的な揺動プロセスに集約されていましたよ。いや、興味深い現象でしたし、良い再確認機会になりました。

 この試合での西は、名波とともに中盤でのリーダーシップの一端を担っていました。右サイドに張り付くのではなく、チャンスを見計らって逆サイドの成岡とポジションをチェンジしたり、二列目に進出してチャンスメイカーになったりとという積極プレーのオンパレード。そんな積極プレー姿勢だからこそ「実効ある結果」もついてきたというわけです。まあ、あれだけ主力が欠けていては、覚醒せざるを得ない・・。やはり環境こそが人を育てるということでしょうか・・。まあ、何度か、自分がマークすべきアン・ジョンファンやアレックスをタテへフリーで行かせてしまい、そこをサイドチェンジパスで突かれたという場面もあったけれど、全体的には、彼の才能に見合った、より大きな「ブレイク直前」という実効プレーを展開していました。

 この試合でもっとも美しかったジュビロの四点目ですが、それをボール絡み、またボールのないところで演出したのも西でした。それはこんな具合・・。

 右サイドでグラウがボールをキープし、二人のエスパルス選手たちの視線とアクションを釘付けにしてしまう・・この状況で、オーバーラップした西は完全にフリーでスペースへ入り込んでいる・・たぶん西のスタートが巧みだっただけではなく、彼をマークすべきエスパルス選手が、グラウのボールキープに意識を引きつけられていたこともあったのだろう・・ただ、あんなに見事にフリーになり、グラウからのスルーパスを受けることができたのは、西の「消えるプレー」が優れていたからに他ならない・・そしてそこから成岡のアタマ目がけて送り込まれた、正確でベストタイミングのクロス・・あれでは、ディフェンダーは、身体を寄せる暇もなかっただろう・・とにかく、見事な、本当に見事な決定的フリーランニングと正確なラストクロスだった・・。

--------------------

 結局ゲームは、ジュビロが内容的にも上回って決勝へ駒を進めたというものになりました。たしかにジュビロのゲームからは、いつものクリエイティブな「人とボールの動き」が見られなかったけれど、まあ仕方ない・・。

 次は一発勝負の決勝だから、この試合のように「美しさ」はそこそこに、どちらかといえば勝負をイメージした徹底サッカーになるのでしょうかね・・。私は、そんなゲーム戦術を徹底するなかでも何とかジュビロらしさ(高質なサッカーコンテンツ)を魅せて欲しいと願って止まないのですが・・。

 先日もアナウンスしたとおり、湯浅は、元日の決勝を、例によってラジオ文化放送で解説する予定なもので、なおさら期待がつのるというわけです。

 あっと、決勝の相手は、アントラーズとの決戦に粘り勝ちをおさめたセレッソ大阪に決まりました。その試合をテレビを見ながら、(一点を追いかける)アントラーズの攻めについて、「まあ、あの攻撃ではセレッソの堅守をうち破れないな・・守備を固められたらアントラーズのツボのテンポチェンジがままならないし、仕掛けも単勝になっている・・どうせなら、秋田を上げて、単純に放り込むことに徹した方が何倍か効果的だ・・」なんてことを思ったものです。でも、そんな考えが脳裏に浮かんでからキッカリ一分後に、アントラーズが同点ゴールを決めてしまうのだからサッカーは分からない。

 逆サイドスペースを、後方からフリーで入り込んだフェルナンドの見事なヘディングゴール! まさにセレッソ守備ブロックの一瞬のスキを突いたゴールでした。また、そのシーンを逆サイドから演出したアントラーズの野沢のプレーも見事の一言。とにかく素晴らしい「タメ・キープ」と決定的サイドチェンジラストパスでした。

 さて、振り出しに戻り、延長に突入したゲーム。もうこうなったら地力に優るアントラーズだろう・・なんて、安易に思っていたら(まあ延長における全体的なゲーム内容も、そんな感覚をバックアップするものでしたから・・)、押されつづけるセレッソが、それは、それは元気が込められたカウンター攻撃を仕掛けていくのですよ。それも、カウンターの流れがはじまったときには、少なくとも二人、三人と、ボールがないところで参加していくという本物の勢いが乗ったカウンター。そして一本、二本と決定的チャンスを作り出してしまうのです(アントラーズGK曽ヶ端のスーパーセーブ!)。でもそれが決まらなかったことで、またアントラーズもチャンスを潰しつづけていたことで、「もうこれはPK戦だな・・」なんて思っていたら、延長後半9分に、大久保の才能レベルの高さを如実に証明するスーパーロングシュートが決まってしまうのですよ。そのシーンを見ながら、「ちょっとオレは、安易にストーリーを描きすぎだな・・」なんて自嘲気味マインドに陥っていた湯浅でした。

 ということで決勝はジュビロ対セレッソ。地力ではジュビロでしょうが、何せ一発勝負ですからネ。私も「気を入れて」解説する所存ですので・・。

---------------

 今日はこれから、深夜に、稲本のゲーム(対サウサンプトン戦・・フル出場!)をスカパー再放送で観る予定。また明日の日曜日深夜にもリーグ戦(アウェーのアストンビラ戦)がありますから、この二試合をまとめてレポートしようと思っています。何せ稲本を観るのは久しぶりですからネ。楽しみです。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]