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ゼロックススーパーカップ・・パープルの守備と、後半のジュビロが見所でした・・ジュビロ対パープルサンガ(3-0)・・(2003年3月1日、土曜日)

「もう、パク・チソンはいないのだから、彼のことは話題にしたくはない。今はまだトレーニングを開始してから3週間。まだリーグ開幕まで3週間あるから、これからどんどんと良くなるはずだ」。

 試合後の記者会見で、攻めがよくなったし、パク・チソンの穴が埋め切れていない・・という質問に対し、京都のゲルト・エンゲルスが語気を強めていましたよ。もちろんそれは当たり前の態度。もし監督が、「そうなんですよ。まだパクの穴を埋め切れていない・・」なんて発言したら、次元の低い言い訳だし、それを聞いた選手たちがどう思うか・・。「パクは、我々にとって、既にヒストリーだ・・」というゲルト・エンゲルスの発言が印象的でした。

 たしかに攻めには明らかに課題が山積みでした。それでもディフェンスは良かったですよ。例によって、互いのポジショニングバランスを基盤にする「考えるディフェンス」。相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する忠実で迫力のあるチェック。それをベースに、次、その次と、周りの味方が、ボール奪取イメージを描き、勇気をもってリスキー勝負(協力プレス)にチャレンジしていく。もちろんボールがないところでの、相手の決定的フリーランニングには、臨機応変に「ポジションニングバランスをブレイク」して最後までスッポンマークをつづける。そんな積極的なプレー姿勢は、高く評価されるべきです。

 昨シーズンのパープルは、リーグ序盤は連敗をつづけました。それでもゲルトは、「勝敗ではなく、内容が良くなっているからまったく心配していない。必ず、結果はついてくる」と自信を示し、そして実際に成果を挙げました。その根拠は、何といっても中盤でのディフェンスの質の向上だったと思うのですが、そんな監督の自信は、グラウンド上でプレーする選手たちに、これ以上ないという大きな影響を与えるものなのです。

 とはいっても、たしかに攻撃は「駒不足」。個のチカラに限界が見えます。黒部や松井は良い選手ですが、前線に孤立してしまっては・・。彼らにしても、個の勝負で局面を打開していくだけのチカラは、まだ十分ではありませんからね。もちろん相手は、「あの」ジュビロの守備ブロックですしね。

 まあ、ゲルトが言うように、もう少し時間をかければ、中盤選手たちの「確信レベル」も高揚し、より積極的に、そして柔軟に攻撃をバックアップできるようになるでしょう。もちろん両サイドの鈴木慎吾と富田を中心にしてね。

 相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する忠実なチェックを「守備イメージの起点」に、周りの味方が、スッ、スッと互いのポジションバランスを修正しながら次の勝負所を明確にイメージしつづける。もちろんポジションも、相手に付きすぎず、離れすぎずという微妙な(クリエイティブな)間合いを取りつづける。そんな、忠実でクレバーな「考えつづける」ディフェンスが、本当にインプレッシブ(印象的)だったパープルサンガでした。

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 さてジュビロ。前半は、どうなることかと思いましたよ。とにかく、各ステーション(ボールホルダー)のプレーが遅いことでボールの動きが緩慢。もちろんボールがないところでの選手たちの動きも、勢いがなく単発だから、有機的に連鎖しない。これでは、ボールの動きにダイナミズムがを注入できるはずがない。「A3」の後遺症?! そんなことまで思ってしまって・・。

 まあそれも、パープルの守備が優れていたからに他ならないわけですが・・。それでも後半は、やっと展開が加速しはじめます。昨シーズンから比べればまだまだですが、ボールの動きの半径が広がり、そのスピードも目に見えて速くなったのです。そしてボールが、縦横に動く。前半は、相手が明確に読めるタイミングの横パスと、短いタテパスのオンパレードでしたからね。

 ワンツーでのボールの流れに、三人目、四人目のボールがないところでの動きが、うまく絡むようになりはじめたということです。中盤で、名波と藤田がワンツーで抜け出す・・同時に、福西が後方からスペースへ上がり、最前線からグラウが戻ってくる・・そして彼らのなかで素早いタイミングのパスが交わされ、最後は決定的スペースへ・・。

 また大きなポジションチェンジも出てきました(タテのポジションチェンジも含む!)。右サイドのグラウが中央ゾーンへ入り込む・・そこで空いた右サイドのスペースへ、左サイドから、弧を描くように藤田が走り抜けていく・・そして中央ゾーンでの素早いパス交換から、最後は藤田へパスが回される・・。

 パープルの守備ブロックは、そんなジュビロの、ボールがないところでの大きく鋭い動き(ポジションチェンジ)も、しっかりイメージしていました。パープル守備陣の、「マークの受けわたし」に対する強い意識(対抗イメージ)に、そのことを明確に感じていた湯浅でした。それでも、ボールの動きが速くなってきたら、ポジションチェンジをした選手を確実に捉えつづけることは難しい。どうしても、間合いが開きすぎてしまうのですよ。まあ、前半にジュビロが展開した緩慢なボールの動きだったら、うまく対処できていたのでしょうが、後半では、彼らのボールの動きが格段に素早く、そして広くなりましたからね。また、球出しのタイミングも素早くなった。だから、確実なな対処も難しくなった。

 そして、遅れ気味のタイミングでチェックへ向かわざるを得なくなることで、その次の勝負ゾーンにおけるマークも弛みがちになっしまうのです(ここでは、タイトマークではなく、マークする相手を意識した正確なポジショニングという意味です!)。

 やはり守備は、イメージのシンクロを基盤にした連動性が大事。少しでも「無理な体勢やタイミング」で対処しなければならなくなると(少しでもほころびが出ると)、それが、周りのディフェンス組織に、微妙な悪影響を及ぼすということです。まあそれも、ジュビロのチーム力の証明ではありますがね。

 後半17分に挙げた、藤田の先制ゴールは、この試合で彼が為した優れた全体パフォーマンスに対する正当な報酬でした。また2点目ても「0.8点」は彼のものでしたしね。やはり藤田の、ボールがないところでのプレーイメージが機能しはじめると、ジュビロも、チームとして動きはじめる・・と感じていた湯浅でした。もちろん中盤コンダクターはあくまでも名波ですが、「駒」が動かなければ、いくら彼でも・・というのが前半だったというわけです。

 この試合でトップを務めたグラウ。技術やスピードなど、高原とは比べられませんが、労を惜しまないボールがないところでの「汗かき仕掛けプレー」は、少なくとも今の段階では、様子見シーンが目立ちすぎる西よりもチームにとってはプラスかも。とにかく、西とグラウが競争することはいいことです。

 あと三週間。ジュビロもきっちりと仕上げてくるでしょう。




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