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チャンピオンシップは確実、堅実なアントラーズに軍配(アントラーズvsジュビロ=2-1)(1998年11月29日)

日本でも、これほどのハイレベルのサッカーを見られるようになった・・。試合を追いながら、感慨にふけったものです。

 フィジカル(身体的側面)、テクニカル(技術的側面)、タクティカル(戦術的側面)、サイコロジカル(心理的側面)・・。そこまではほとんど互角でした。ということは、今回のチャンピオンシップは、アントラーズが「アンロジカル(ツキ)」でジュビロを上回った?! イヤイヤ、やはりそこには、勝つべくして勝利を収めたアントラーズ・・という構図が見えていました。アントラーズが、タクティカル(戦術的側面)的に、ジュビロをわずかに上回ったとすることができるのです。

 まず両チームの「ゲーム戦術(その日の戦術)」ですが、私が予想したとおり、90分で勝たなければならないとはいっても、ジュビロは「無計画」に攻め上がったりはしませんでした。対するアントラーズも、ジョルジーニョ、本田がほとんど上がっていきません。両チームともに、慎重なサッカーでワンチャンスをモノにするという、まず守備から入ってゲームのペースを握ることを目標にした戦術で試合に臨んでいたのです。

 これは、公式記録からも明らかなことです。両チームのシュート数は互角。ジュビロが「7本」。そしてアントラーズも「6本」です。両チームともに一桁のシュート数。それは、ハイレベルな対戦ではありがちなこと。決してそれが、このゲームのエキサイティング度の基準にならないことは、スタジアム、テレビで観戦していた皆さんが一番よくご存じのことだと思います。

 アントラーズは、とにかく相手の出方を見てから対応する・・そのためにまず守備で「いつものように」頑強な組織をつくり、そしてワンチャンスを狙う・・という戦術です。対するジュビロの方も、とにかく失点だけは食らわないようにする・・という姿勢がありありでした。

 ジュビロは、まず前半は「0−0」。そして後半に、ワンチャンスで一点さえもぎ取れば、そのままチャンピオンシップに優勝することができる・・と考えたに違いありません。

 そんな姿勢(ゲーム戦術)は、アントラーズもまったく同じだったということです。そして両チームの「中盤でのせめぎ合い」がはじまります。

 アントラーズはほぼベストメンバー。対するジュビロも、アジウソンを除いてほぼベストメンバーです。ただアントラーズに関しては、守備がより確実な内藤を、若き才能、阿部の代わりに先発させます。ここらあたりにも、アントラーズの「ゲーム戦術」が見えていたとすることができます。

 そして例によって、中盤での守備のやり方の違いによって、(20分過ぎあたりから)徐々にアントラーズが中盤でのペースを握りはじめます。「相手の攻撃が佳境に入ったら、全員が、その時点で決まってくるマークに付いていく(受け渡しなし)」という、堅実で確実な中盤守備の戦術。対するジュビロは、最終守備ラインを上げることで中盤の全体的なスペースを狭め、そこでのプレスを効果的に掛けるため、選手たちのポジションバランスを重視するという中盤守備戦術です。ただボールの奪取(これが守備の目的)では、ここ数試合でのゲーム展開同様、明らかにアントラーズに軍配が上がります。

 ただアントラーズは、(中盤での堅実・確実守備をベースに)流れを呼び込んだとはいっても、最後の勝負の場面では、ジュビロの守備組織を崩すまでには至りません。対するジュビロも、ドゥンガ、名波、藤田を中心とするボールの動きが思うようにいかないことで、攻めが「単発」です。

 前半の全体的な印象です。

 中盤を制したアントラーズ。ただ、最終的な勝負の場面までは容易に至ることができない。

 対するジュビロは、中盤でゲームを組み立てることさえできない(効果的にボールを動かすことさえできない)。ただ、たまに繰り出す「カウンター気味」のロングパスから、チャンスらしきカタチまでは持っていけるが、最後のフィニッシュまでは到達できない・・。

 アントラーズでは、ダブルボランチ、ジョルジーニョと本田の活躍が光っていました。前述したとおり彼らが上がっていく場面はほとんどなかったわけですが、それでもジョルジーニョは、後方からしっかりとゲームの起点になっていましたし、本田も、(見えないところでの危険な相手プレーヤーに対する忠実マークなど)縁の下の力持ちとして鬼神の活躍を見せていたのです。この二人の活躍が、前半の2得点の心理的なベースだった?! まあそれは、私のプロコーチとしての「感覚的評価」ですから・・。

 さて先制ゴールの場面です。ここでは、攻撃側の秋田と、戻ってきた中山との、ジュビロゴール前での「猫の額ほどのスペース」を巡るマーキングのせめぎ合いに注目です。FKのキッカーはビスマルク。誰もが彼の「ピンポイント・キック能力」を知っていますから、少しでも、本当に「アタマ一つ」でも前に出させてしまったら「勝負あり」ということを誰もが知っているのです。

 そこでのマーキングのせめぎ合いは、本当に熾烈を極めます(まるでド突き合い)。守備側(ジュビロ)の誰も、チラッチラッと視線を投げる以外、ボール(つまり、ビスマルクがキックする場所)を注視したりしません。ボールを(チョットでも長く)見た瞬間にマークする相手が消えてしまったら、その時点で勝負ありですからネ。

 ただこのマークのせめぎ合いでは、秋田が勝利を収めます。カラダを、ガシガシとぶつけ合うマーキングのせめぎ合い、その瞬間、秋田が中山のマークを外してしまうのです(どうやったのかは見えませんでしたが・・)。これで勝負あり。一瞬フリーになった秋田のアタマに、ビスマルクから本当に「ピンポイント」のボールが送り込まれます。

 まさに「サッカーはボールがないところで勝負が決まる」というセオリー通りの展開ではありました。その3分後には、ビスマルクが、今度はジュビロの左ポストに、ピンポイントでフリーキックを合わせてしまいます。こんなパーフェクトフリーキックでは、大神はまったくノーチャンス。これで「2-0」。勝負がほぼ決まってしまったという2点目でした。

 その後(後半も含む・・)、やっとジュビロの攻撃に火がつきます。全員が「リスクチャレンジ」の攻め上がりを見せはじめたのです。当然、ジュビロ守備の(前後の人数)バランスが崩れるに違いない・・と思っていたのですが、実際には、そんなに大幅なバランスの崩れは見えませんでした。それは、ドゥンガ、奥(福西と川口が交代したことでボランチの位置に下がる)のカバーリングが良かったからなのですが、そんな状態で、ほとんどのジュビロの攻めが、何らかの「フィニッシュ」までいってしまったことは見事でした。

 それでも、徐々にその勢いが殺がれていきます。そしてアントラーズの、ジュビロのイケイケという勢いの逆を突く(主にジョルジーニョやビスマルクから)一発ロングパスによるカウンター攻撃。フィニッシュまではいきませんが、それでもアブナイ雰囲気を醸し出すには十分な精度を保っていました。

 後半のジュビロですが、すぐに感じたことがあります。それはドゥンガの「アクティビティー(活動性)」が極端に落ちてきてしまったことです。

 「彼のコンディションは非常に悪かった。それは木曜日までまったくトレーニングできなかったほどだ・・」。試合後のバウミール監督のコメントですが、それでも危険な攻撃を仕掛け続けたジュビロ。ドゥンガの退団が決まっていますが、このチームは、純粋日本チームでもかなりやる・・そんな印象を与えるに十分なパフォーマンスではありました。頼もしい限りです。

 30分にビスマルクが二枚目のイエローで退場になってしまいます。また案の定、34分にはドゥンガが高原と交代です。そして39分には、中山のヘディングでのバックパスを、藤田が「ワザあり」のシュートを決めてしまいます。

 普通こんな展開だったら、「ドラマの予感」が強くしてくるものなのですが、この試合の内容からは、そんな気配を感じることはありませんでした。それほどアントラーズの試合運びに「落ち着き」を感じていたのです。

 チャンピオンの余裕?! それほどアントラーズの選手たちに心理・精神的な余裕があったということです。グラウンド上でプレーしている選手たちは、ゲーム内容を常に「体感」し続けているもの。そこまでの展開で、アントラーズ選手たちは、これならばジュビロに崩されることはない・・そう確信していたのです。

 これで、1998年度のリーグ日程がすべて終了しました。後は、血沸き肉踊る「一部参入決定戦」の最終勝負、アビスパとコンサドーレの試合を残すのみ。技術的、戦術的にレベルが低くても、サイコロジカルな「戦う姿勢」だけでも人々に感動を与えることができるもの。それも、「自由にプレーせざるを得ない心理ゲーム、サッカー」の魅力の一つというわけです。




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