1998-1999年チャンピオンズリーグの決勝。立ち上がり6分に、素晴らしいバスラーのフリーキックで先制したバイエルン・ミュンヘンが、完璧な試合展開でマンチェスター・ユナイテッドにサッカーをさせず、「完全に(ドイツサッカーの)ツボにはまった。バイエルンの完勝はもう決定・・ってことか・・」、などと思っていたロスタイム。マンチェスターが、コーナーキックから連続ゴールを決めてヨーロッパチャンピオンに輝いてしまったのです。
マンチェスターが、「あの」ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、デニス・ロー(いましたよネ・・)、はたまたノビー・スタイルズなどのタレントを擁してヨーロッパチャンピオンに輝いたのは、今から31年前の1968年。ちょうど私が、高校でサッカーに夢中だった頃ですから、そのときのことは良く覚えています。懐かしい・・
今回の決勝が行われたノウ・カンプ(バルセロナのホームスタジアム)のスタンドには、そのボビー・チャールトンの顔もありました。感慨深げな笑みを浮かべて・・
「でもさ・・まあそれもサッカーだから・・。それにしても、オレたちの勝負強さはどこへいっちゃったんだろ。こんな風に負けるなんて、考えられないよな。いつもだったら、完璧に最後まで守りきってしまうのに・・」
試合後、ドイツの親友に電話を入れました。彼は医者なのですが、私の留学中には一緒にサッカーをやった仲(彼は東ドイツからの亡命者で、東ドイツではユース選抜にも選ばれたことある優秀なプレーヤー)。30分以上しゃべったでしょうか・・。互いに、悔しさを押し殺すように「これもサッカー・・ってことだよな」。
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(先発では)両チームでの「外国人」は、バイエルンが、ガーナ人のクフォーだけ(フランス人のリザラスとブラジル人のエウベルはケガ)、対するマンチェスターが、シュマイケル、ヨーンセン、シュタム、そしてブロンクビストの四人(間違いがあればご容赦・・)。スペイン、イタリアなど、地元選手の方がマイナーという「世界選抜チーム」が多いなか、かなりの「純血度」ということになります。
両クラブの地元、マンチェスターから二万五千人、ミュンヘンから二万人の観客が詰めかけたということですが、彼らの、チームに対する「(地元意識・国籍などがメインの)アイデンティティー」は、かなりのハイレベルだったに違いありません。
この試合、湯浅の「参加意識」は天井知らず。もちろん、第二の故郷であるドイツを代表するバイエルン・ミュンヘンが出場しているからです。チャンピオンズリーグは、クラブ対抗の選手権とはいいながら、そこに「各国トップリーグの代表」という重要な要素もあります。これが、「ヨーロッパ・スーパーリーグ」などという「興行」の決勝だったら、確実に「参加意識」は低下の一途を辿ってしまう?!(このことについては、Yahoo Sports 2002 Clubのコラム「プロスポーツの観戦価値」を参照)・・
試合は、前半6分に、バイエルンの才能、「スーパー・マリオ」こと、マリオ・バスラーが見事なフリーキックを決めたことで、ミュンヘンが少し注意深く、対するマンチェスターがどんどんと仕掛けていくといった展開になります。ただ、まったくバイエルンの守備陣を崩し切れないマンチェスター。
バイエルンの守備戦術は、確実に「人を見る」という「マン・オリエンテッド」が主体。もちろん、常に同じ相手をマークするような古典的な「マン・ツー・マン・マーク」ではありませんが、「ボールが回される瞬間」では、全てのマンチェスター選手たちが確実にマークされています。対するマンチェスターは、典型的な「4-4-2」。「基本ポジション・オリエンテッド」ともいいますが(この両表現は湯浅が考案)、まず自分たちの基本的なポジショニングをベースにして常にマークを受け渡し、最後の勝負の瞬間に「ブレイク」するのです(その瞬間にポジションバランスを崩し、ボール奪取の勝負を仕掛ける)。
全体的には、バイエルンの試合巧者ぶりが目立ったゲームでした。
前半早々のゴール。そしてそこから、試合を「一点を争う拮抗ゲーム」という雰囲気にしてしまいます。こうなれればもうバイエルンのもの。確実、堅実、忠実な守備をベースに、鋭いカウンター、危険なセットプレーを狙うという戦術です。
そして試合展開は、まさにバイエルンの思うツボ。後半には、ショルが、ヤンカーが、カウンターやセットプレーから、ポストやバーに当てる決定的シュートを放ちます。対するマンチェスターは、ドリブル、スルーパスなど、全ての「仕掛け」が、ことごとく「バイエルンの壁」に阻まれ、チャンスの芽を作り出すところまでもいきません。確かに、何度かはバイエルンGKのカーンが横っ飛びにセービングするようなシーンはありましたが、それも偶発的なチャンスがほとんど。ただ一つだけ、残り3分のシェリンガムのシュートチャンスを除いて・・(後方からのロングボールを競ったシェリンガムへのリターンパスをシュート・・ただそれは、シェリンガムの、クフォーに対するファールだった?!)。
そんな展開では、選手たちが「心理的な悪魔のサイクル」に入ってしまうのも当然。どんなにフリーランニングしても、まったくフリーでパスを受けられないし、ドリブルしても、バイエルンディフェンダーの、冷静沈着な守備アクションで、ことごとく止められてしまうのですからね。
とにかく、バイエルンの、ボールへのチェックだけではなく、「ここが勝負!」と意識したチェイシングやプレス、はたまた「ボールがないところ」での守備は感動モノでした。確かに彼らの守備の戦術はエコノミックではありませんし、サッカー発展の歴史からすればオールドファッション。それでも、こんなハイテンションの一発勝負では、この確実さが最大限に生きてくる?!
ただ、マンチェスターは最後まで諦めません。一点さえ奪えれば・・そして・・。そんな彼らのプロフェッショナルな意識に敬服します。
それは本当にワンチャンス。両得点ともにコーナーキックから。一つは、跳ね返された後のギグスのシュートが、交代出場したシェリンガムの足元へ・・、もう一つは、またまた登場のシェリンガムの大迫力のヘディングシュートが、交代出場したノルウェー人プレーヤー、ソルスキアの、これまた足元へ・・。
それ(ピッタリ足元に合ってしまったこと)は偶然ともいえるし、選手たちが、「その可能性」をもイメージしていたともいえます。どちらにしても、神のみぞ知る(もちろんサッカーのネ)・・ってな具合です。
また、マテウスが交代してしまった残り15分間。バイエルン守備が、急に不安定になってしまったことも特記しなければなりません。前述した、(87分頃の)シェリンガムの決定的なシュート場面も(GKカーンがキャッチ!)、マテウスがいたら、シュートの前段階で、彼が「芽」を摘んでしまった(またはシェリンガムがシュートする瞬間に間に合っていた・・)と思われてならないのです(そしてロスタイムでの失点も・・?!)。
ドイツの守備は、「忠実・堅実」なプレーをするマーカーと、マテウスのように「危険な臭いをかぎつける」クリエイティブなプレーヤーが、うまくミックスして成り立っているのですが、マテウスが交代してしまったことで、彼らの守備組織から「創造性」が失われてしまったと思えてならないのです。もしマテウスが限界だったのなら、プレーヤータイプとしては、(実際に交代した)フィンケではなく(元ドイツ代表でマテウスのパートナーだった)ヘルマーとの交代だったのでは・・?!・・なんて、まだちょっと「引きずっている」湯浅の発言でした。
・・という風に、いろいろなドラマが展開された試合・・そしてタイムアップ・・。信じられないという表情でへたり込むバイエルンの選手たち。逆に、喜びを爆発させるマンチェスター。
ともあれ、両チームの真のプロフェッショナルたちには、心から敬意を表し、感謝したいと思います。「本当に、こんな素晴らしいドラマを有り難う」・・
最後に言い古された言葉をもう一度。この試合は、典型的な、「サッカーの神様が演出する、偶然と必然が交錯する歓喜と悲劇のドラマ」でした・・・
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(蛇足ですが・・)ところで、中盤で攻守にわたり大活躍だった、バイエルンの「スーパーマリオ」こと、マリオ・バスラーですが、彼のコーナーキックの後のスーパーな戻り(全力での守備参加で、何度もマンチェスターの危険カウンター攻撃を阻止!!)、また攻撃での素晴らしい「リスクチャレンジ(仕掛け)」の姿勢などを見ていると、これだったら(調子が悪い)いまのドイツ代表でも主力で活躍できるかも・・なんぞと期待を持ってしまうのですがネ・・