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キリンカップ・・日本代表vsベルギー代表(0-0)(1999年6月3日)

キリンカップは単なるフレンドリーマッチ。それでも日本代表にとって、またトルシエ監督にとっても一試合一試合が「勝負」です。負ければ・・。そのことは、チーム全ての構成メンバーが深く理解していることです。

 対するベルギーも、ベストメンバーではないとはいえ、来年の「ユーロ2000」ホストカントリーとして、(予選という勝負の試合がないことから)ベストなパフォーマンスを積み重ねていかなければなりません。選手たちも、自国ヨーロッパ選手権での代表の座を射止めるために全力で戦わなければならない試合だったというわけです。

 前半は、そんなベルギーの意欲が如実にグラウンド上のプレーに反映されたといった展開。完璧に、ベルギーが試合のペースを牛耳ってしまいます。

 日本代表は、例によってラインスリーの最終守備ライン(最高の出来の森岡、斉藤、秋田)。ダブルボランチは、名波と田坂、その前には中田と藤田のオフェンシブハーフコンビが控えます。強豪のベルギーとの対戦であることを考えれば、順当の「呂比須ワントップ」ということでしょう。呂比須の周りを藤田、中田が、はたまた名波が、縦横無尽に追い越していくこと(タテのポジションチェンジ)を念頭においたワントップということです。

 ただ、そんな日本代表の意図が空回りしてしまいます。ベルギーの、上げ気味のスリーバックをベースにした、中盤での強烈なプレスからの早い潰しに、まったく試合を組み立てることができない日本代表。

 ベルギーは伝統的に「しっかりと守り、強烈なカウンターを食らわせる・・」という戦術が得意です。この試合でも、それが見事にツボにはまります。中盤での「ボールサイド」に対する「連携プレス」は見事の一言。日本代表は、そんな「プレスの輪」の中に自ら入り込んでしまうという愚を犯し続け、そして自信をなくし、足が止まり気味になってしまいます。これではベルギーに圧倒されるのも当然といった展開です。

 そんなこともあって、日本代表の最終守備ラインも、まったくラインコントロールができない状態が続きます。

 それはそうです。中盤で簡単にボールを奪い返され、その瞬間に「ポン、ポ〜〜ン」と最前線の選手にラストパスが出されてしまうのですからネ。これでは、ラインをコントロールする暇なんてありっこない。ラインコントロールのベースは、(相手攻撃のスピードダウンなどの)中盤での効果的な守備ですからね。

 とにかく前半は、「トルシエ監督が本来やりたかったサッカー」を、逆にベルギーに完璧にやられてしまったという内容でした。シュート数は、ベルギーの八本に対し、日本代表はたったの一本だけ。

 それにしてもベルギーのカウンター(速攻)は危険そのもの。ボールを奪い返してから、数本のパスで、もうシュートまでいってしまうのですからネ(統計では、ゴールの六割は、ボールを奪い返してから三本以内のパスで決まっている・・ということを考えれば、ベルギーの意図はセオリーそのものとも言えますがネ・・)。とまれ、さすがにヨーロッパの強豪といったところ。

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 ただ後半は、ガラリと様相が変わります。今度は日本が完璧にペースを握ってしまったのです。

 その第一の要因は、日本代表が、中盤で無為な組立ショートパスだけを回すのではなく、無理だったら最終守備ラインまでボールを戻し、そこから、「ショート・ショート・ロング」という攻め方も混ぜるといったように、攻撃のやり方を変えたことです。これはトルシエ監督の指示だったのか、選手たちの中での話し合いで「そうやろうゼ!」ということになったのは分かりません(多分、中田が・・?!)。

 ともあれ、最終守備ラインからのロングパスだけではなく、一度、戻ってきた呂比須や交代した柳沢へタテパスを出し、そこからの「ショートパス」を、思い切って最前線や逆サイドへロングパスを送るという「変化」が功を奏し、日本代表のサッカーに活気が戻ってきました。

 対するベルギーは、それまではまったくなかった日本代表のロングパスや、大きなサイドチェンジパスにも対応するように(意図したのではないとは思いますが・・)少し最終守備ラインが下がってしまいます。そして中盤のスペースが空き気味になり、そこでの「ボールサイド・プレス」がうまく機能しなくなってしまいます。

 ここからは、もう日本のイケイケドンドン。一人ひとりのプレーが自信にあふれ、積極的になり、柳沢が、呂比須が、はたまた、サイドを駆け上がった相馬が、伊東が、中田や名波からの「勝負パス」を面白いように受けられるようになります。

 また、前半ではまったく見られなかった中盤での「ワンツー」を、中田、名波が中心になって何度も決め、ベルギーの大男たちを置き去りしてしまいます。

 この「日本ペース」の要因ですが、たしかにベルギーの中盤プレスの勢いが落ちてきたからだヨ・・ということもいえないことはないとは思います。

 サッカーは「二律背反性のボールゲーム」ですからね。ただわたしは、やはり「ペースを上げた主体チーム」を中心に現象を分析したいと思います。

 日本の改善した積極性、ボールの動き方の変化などによって、ベルギーの最終守備ラインが下がり気味になり、プレスも掛かりにくくなった。そして中盤守備のダイナミズムが失われていった・・というふうにね・・

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 交代出場した柳沢ですが、自信あふれる「決定的勝負」を何度も披露しました。21分・・柳沢の突破から呂比須へのラストパス・・呂比須がゴールを決めたがオフサイド。22分・・これまた柳沢の単独ドリブル勝負からのシュート・・惜しくも左に外れる・・などなど。頼もしいじゃありませんか。オリンピック代表でも、エースとして気張ってもらいたいモノです。

 さて、中田と名波。

 この二人は、日本代表中盤の「ダブル・キング」です。中田の、(相手に身体をあずけたり、走るコースに巧みに入り込んだりする)ボールキープや勝負ドリブル、「ここだ!」というタイミングでの守備参加など(彼が相手のボールホルダーを狙った場合、半分はボールを取り返してしまうと感じられるくらい効果的!!)。また名波の、見事なボールタッチからの、正確無比、素晴らしいタイミング、強さ、種類のパス、そして献身的、忠実な守備など。

 この二人は、確実に「外国人としてでも」ヨーロッパでやっていけると思います(もちろん中田はそのことを既に証明していますがネ・・)。外国人として・・といったのは、ヨーロッパ連合以外の国から来たプロ選手たちには、依然として「外国人枠」が適用されるからです。つまり、ヨーロッパのプロたちも認める(一目置く)存在にならなければ、確実に落ちこぼれてしまうということです。

 もし名波もヨーロッパでプレーするなら、中田のように、「チームの中心選手」というポジションを目指さなければなりませんが、この試合での彼の出来は、そんな「サッカーネーションクラブで中心選手として活躍する名波」を彷彿させるに十分なモノだったのです。

 ガタイの大きなベルギー選手との、手足も含む身体全体を駆使した効果的な「ボディーコンタクト」。(たしかにチョット鈍足ではありますが・・)決して引けを取ってはいません。また、その表情、態度からも伺える強い「自己主張」。これはイケル・・。そう思います。名波には、「ジャパンマネー」もターゲットにしているヨーロッパのサッカービジネスマンたちを、グラウンド上のパフォーマンスで見返して欲しいと思います。「アッ、こいつは純粋にサッカー選手として重要な存在だ・・」ってネ・・。

 最後に、GK川口について一言。

 これまでに何度か、彼の身体のサイズ、基本的な能力から、「世界」は無理だろう・・と書いたことがあります。

 ただこの試合での、「スピリチュアル・エネルギー」のオーラに包まれるように自信あふれる彼のプレーを見て、チョット考えを改めなければ・・と感じました。イヤ、ホント、(一度パンチングミスはあったとはいえ)それはそれは、素晴らしく安定したゴールキーピングではありました。

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 この試合での日本代表は、彼らが正しいベクトル軌道上にあることを証明しました。もちろんまだまだ多くの課題は抱えています。それでも、(彼ら自身が再認識できたに違いないことも含め)「良い方向へ歩を進めている」ことが実感できただけでも、この試合には大きな価値・意義があったというものです。




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