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キリンカップ・・日本代表vsペルー代表(0-0)(1999年6月6日)

この試合をどのように評価したらいいか・・。前半は「天国」、後半の中盤を過ぎてからの時間帯は「地獄」といったところでしょうか。

 いま、横浜国際競技場から、自宅近くの原宿へもどってきました。移動のほとんどはオートバイですから早い、早い。トルシエ監督の「おかんむり記者会見(具体的なことは書きませんが、あんな態度では、メディアを敵にまわしてしまう?! 本当に彼には、『異文化接点パートナー』が必要だと感じます!)」が終わってから30分余りでもどってきました。そして、お気に入りのパン屋でコーヒーを飲みながら原稿を書いているというわけです。

 ペルーは、ベルギーとは対照的なチーム。ベルギーは、ハードな守備からの爆発的なカウンター、はたまた最終守備ラインからの一発ロングパス攻撃などが目立ちましたが、ペルーは、中盤で本当に細かなパスをつないで攻めようとします。

 一発ロングパスは皆無。ということで、ペルー最前線の選手たちの「決定的スペース」へ抜け出る動きも緩慢です。それはそうです。いくら、ボールホルダーとのタイミングをはかろうとしても、互いの距離が10メートルを超えてしまったら、ほとんどラストパスなどは出てこないのですからね。もちろん「短いラスト・スルーパス」は意図しているようですが・・

 こんな相手のサッカーは、日本は大好き。ペルーの攻撃は「ショート・ショート」主体ですから、「次のパス」が読み易く、プレスのタイミング、ゾーン取りなどが非常にうまく機能します。ほとんど攻撃を組み立てることができないペルー。それに対し、ダイナミック、効果的にボールを奪い返してしまう日本代表。

 それでも、「よし!!」というタイミング、ゾーン(相手ゴールに近い位置・・高い位置なんて言いますよネ)でのボール奪取はあるのですが、次の攻撃が・・

 最初の頃の日本の攻撃では、とにかくステーションが多すぎる(無為なパス回しが多すぎる)と感じました。相手からボールを奪い返し、素早く相手ゴールに迫る・・それがトルシエ監督のコンセプトだったはずでは・・

 それでも、前半も15分を過ぎたあたりから、中田、名波、そして伊東の中盤トリオが抜群に機能し(それに両サイドの相馬、藤田も絡んでくる)、完璧にゲームを支配しはじめます。そして攻撃にも危険なニオイがプンプン・・。対するベルーは中距離シュートを放つのがやっと。日本代表の最終守備ラインを崩すところまではまったくいきません。

 日本のツートップ、呂比須、柳沢にも、フリーランニングするポイントへ(良いタイミングで、走る彼らの足元へ)どんどんとパスが付けられ、そこからの「次の展開」も、相手の守備ブロックのウラを突くというクリエイティブなレベルです。ただシュートチャンスが・・

 ペルーの守備は思ったよりも強固(GKは二流でしたがネ・・)。忠実さだけではなく、ココゾ!の勝負場面でも、読みベースのクリエイティブなディフェンスを展開します。日本代表のフリーキックがポストを直撃するという場面もありましたが、それ以外では、中田の(前半21分)、中盤で左方向へドリブルしながら、逆サイドでフリーの柳沢へラストパスを通したプレーくらいが目立つ程度。フム・・・

 日本代表はゲームを支配してはいるけれど、決定的な場面を作り出すまではいかない。たしかに「これは!!」と期待させられるセンタリングシーンはあるのですが、ペルーの「最終場面での意外に忠実・確実なマークとポジショニング」に、チャンスに結びつけることができません。

 ここも日本の問題点の一つ・・?!

 センタリングを上げる選手は、どこかに「ターゲット」を絞りたいと思っているものです。もちろん相手との競り合いの中でのセンタリングではそんな余裕などないのが普通ですが、何度かは、確実に「ターゲットを絞り込める」シーンはありました。それでも、「中央」にいる選手が反応しないのです。

 反応とは、「ここだ! このピンポイントだ!!」と、爆発的なダッシュで相手のマークを振り切るアクションのこと。もちろん外れてしまうことの方が多いのですが、それでも「止まって」、アバウトセンタリングを待つようでは、進歩は望めません。足を止めて「待つ」よりは、(そんな決定的フリーランニングは)数倍も高次元の意図が込められた「ボールがないところのプレー」だし、そんな決定的場面での意志のあるアクションが、「決定力」と呼ばれる「抽象的なモノ」の本質でもあるのです。

 ともあれ、前半の日本代表のサッカーには、「これが、今のところのベストメンバーでは・・」などと感じさせられるだけの「内容」がありました。

 森岡、秋田、服部(斉藤)の「ラインスリー」、伊東、名波のダブルボランチ、相馬、藤田の両サイド(最初不安定だった藤田も、徐々に「サイドバック」に慣れて内容を上げてきた)、呂比須、柳沢のトップ、そして「王様」・・

 そんなことを感じ、ハッピーだったんですがネ・・

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 後半がはじまり、そのメンバーの中心的な存在の一人である名波が交代してしまいます。

 ケガに違いありません(事実関係は分かりませんが・・内容からは、交代はあり得ない!)。そして服部がボランチに上がり、最終守備ラインに斉藤が入ります。

 それでも最初の時間帯は、中田、伊東、藤田などが素晴らしく機能し続けていたこともあって、大きなマイナスは感じませんでした・・藤田が交代してしまうまでは・・

 そして18分、藤田に代わり、マリノスの三浦が登場します。わたしは三浦に期待していました。彼の攻撃でのクオリティーの高さに大いなる希望をもっていたのです。ただそれが、(この試合に限っては?!)見事に裏切られてしまいます。

 彼のプレーは、まさに「パッシブ(受け身・消極的)」。守備においても・・攻撃においても・・

 その典型的なシーンです。25分のこと。中盤でボールを奪った中田から(彼の中盤での世界レベルの守備・・鳥肌が立ちます・・)、右サイドの三浦へ、夢のようなサイドチェンジパスが通り、まったくフリーの三浦がドリブルで突っかけます。「そうだ!そのままブッちぎれ!!」と叫びかけた瞬間、コトもあろうに、中央の選手へ(完璧にマークされ、カバーリングもキッチリされているのに!)パスを出し、それが相手にカットされてしまったのです。

 それは典型的な「逃げパス」。どうして?? そこは「タテへの」勝負じゃネ〜〜か!! 勝負しなくちゃ、(特に交代出場した)自分の存在感をアピールできっこない・・

 その後、一度だけ同じようなシーンでドリブル突破を成功させましたが(後半残り2分のこと)、それも後の祭り。彼のプレーには、「オレが中心になってやる・・」という意識は、微塵も感じませんでした。守備でも、攻撃でも・・。

 少なくとも守備ではもっと存在感が・・なんていう期待も裏切られっぱなし。「歩いてちゃ、守備の決定的シーンに参加することだってできないじゃないか!!」。そんな怒りばかりがこみ上げてきたものです。彼ほどの「才能」なのに、何故・・

 (名波に続いて)藤田の抜けた「穴」は、ことのほか大きいモノでした。それ以降は、中田も完全にパートナー喪失状態。(疲労もあったのでしょう・・)彼のプレーからもダイナミズムが失われていきます(39分、中田に代わって北澤が登場。ゲームに落ち着きを・・という意図だったのでしょうがペース変わらず・・)。

 名波、藤田という「ダイナミズム・ジェネレーター」を失い、「王様」の元気が失われた後は、もうベルーがやりたい放題。中盤(の高い位置)で簡単にボールを奪い返し、完璧なカウンターを何度も決めてしまいます(楢崎の鬼神の攻守は、彼に大いなる自信を与えたに違いない・・数少ないポジティブな成果?!)。服部、伊東も、もう戻るチカラが残っていない・・これでは・・

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 この最後の20分間によって、今回のキリンカップは何とも後味の悪い幕切れになってしまいました(成績も最下位・・)。ベルギー戦の後半、またこの試合での前半と、後半最初の頃の素晴らしいサッカーがあったから、なおさら残念で仕方ありません。

 とはいっても、日本サッカーが進歩を続けていることは事実ですし、ヨーロッパ(ベネチア?!)でチャレンジする名波も、サッカーネーションでも通用する(もちろんEU圏以外の外国人選手として!!)キャパシティーの高さを証明しました。

 たしかに「世界との最後の5%の壁」をうち破るためには、まだまだ多くの課題を抱えています。そしてそのほとんどが「日本の社会体質のネガティブな側面」と(心理・精神的に)深くリンクしているという事実もあります。

 「本当の意味で世界をキャッチアップする」というのは大変な作業なのです。

 ただ、だからこそ日本のプロサッカー選手諸君には、自分たちが日本の古い社会体質を打破していく・・という気概をもって、もっといえば、自分たちが「これからの日本人の生き方のイメージリーダーになるんダ・・」という高い意識をもってサッカーに取り組んで欲しいと思うのです。




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