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久しぶりの興奮ドラマ・・ペルージャvsACミラン(1-2)(1999年5月24日早朝)

ホンモノのドラマになってしまいました・・セリエA、最終節。優勝争い、そして降格争い。

 両チームともに、負けられない。一つは優勝のために・・、一つは一部残留のために・・。

 試合は、立ち上がりからミランが大迫力の中盤守備をぶちかまします。彼らは(もちろんペルージャも)よく知っています。中盤の主導権争いが試合の行方を左右してしまうということを・・。そしてそんなセオリー通り、最初からミランが中盤を制し、ゲームのペースを握るという展開になってしまいます。

 そんな、立ち上がりからアクティブな「リスクチャレンジ」を繰り返すミランに対し、ペルージャは、どちらかというと「注意深く、分厚い守備」からのカウンター狙い。ただ、そんな彼らの意図に反するように、立ち上がり11分、ミランのグーリに先制ゴールを決められてしまいます。

 ペルージャは、分厚く堅実な守備からカウンター・・という基本的なゲーム戦術なのでしょうが、ミランの中盤でのダイナミックな守備をベースにした、(攻撃にうつったときの)素早く、広いボールの動きに完璧に振り回され気味。ミランのボールの動きをうまく予測できないことから、どんどんと(ミランに)フリーな選手が出てきてしまいます。

 攻撃における「前段階での目標」は、勝負をかけることができるゾーンで、フリーでボールを持つこと(もちろんそこはスペース。だからそれが「スペース活用」の意味ということになります)。それは、パスを受けたり、ドリブルで相手を抜き去った場合に達成することができるわけですが、ミランの場合は、ボールを動かすことで、連続的に(つまりパスを主体に)フリーでボールを持つ「攻撃の起点(選手)」をどんどんと作り出してしまいます。これでは・・

 32分。ペルージャが、コーナーキックからビアホフのヘッド一発で追加点を奪われます。それは、完全にマトレカーノのマークミス。飛んでくるボールを見つめるビアホフの目は、完全に「猛禽類」。そして細かい動き(前へダッシュする振りで急に止まってしまった・・)でマトレカーノのマークを外してしまったのです。

 これはペルージャにとっては厳しい展開になってきた・・。他会場の、ピアチェンツァ対サレルニターナの試合が気になります(後で、前半は0対0だということを聞いたわけですが・・)

 その後の34分、ラパイッチがサーラにファールされて得たPKを中田が冷静に決め、再び一点差になります。それでも内容的には、ミランに圧倒されているペルージャ。とにかくまず中盤での守備を修正しなければ・・例えば、ミランの主力選手対しては完璧に「マン・ツー・マン」にしてしまうとか・・とにかく何かしなければ、選手たちの消極的な姿勢を変化させることは難しい・・

 ところで、ビアホフのマークに苦労するマトレカーノがリーパに代えられてしまった場面ですが、私はそれを、ボスコフ監督の、チームに対する(心理的な)デモンストレーションという意味も込められていたのでは・・と思います。こんな交代は例外的ですからね。守備での「集中力」が落ちかけている選手たちに対する強烈な刺激だったと思うんです。「何やってんだ! もっと集中しろヨ!!」ってな具合のね・・

 たしかにそこら辺りからペルージャの中盤守備が、より堅実になりましたからね。そして後半、そのマインドを維持するペルージャが、前半とは見違えるように互角の試合を展開しはじめます(もちろん、ミランの試合展開が、リードしていることでチョット注意深いものに変化してきたこともあるんですが・・)。

 そんな時間帯で、ピアチェンツァが一点入れたという場内アナウンス。大観衆の雄叫びの意味するところを選手たちが感じないはずがありません。心理的なプレッシャーから解放され、より積極的なプレーを展開するペルージャ。逆に、より注意深くなるミラン。

 注意深く・・といったのは、ミランの「リスク・チャレンジ」に絡んでくる選手の数が、明らかに少なくなる傾向を感じるからです。しっかりとした守備から、ウェア、ビアホフ、ボバンなどの「才能中心」のカウンターを仕掛ける・・。それに対し、ヘルベグ、アルベルティーニ、グーリなどの押し上げからは、前半ほどの迫力を感じない・・。

 ということは、このまま・・っていうことか・・。ミランほどのチームだったら、「守り切る」という、戦術的に難しい目標を、高い確率で達成できるに違いありませんからね。

 そして、何度かの「決定的になりかけのチャンス」を両チームがつぶすような「アクティブな膠着状態」が続くなか、観客席から大歓声が・・。ピアチェンツァとサレルニターナが引き分けたのです。これで「まず」ペルージャの「A残留」が決まりました。そして試合はミランの意図通り・・

 三年ぶりの優勝を果たしたACミランは、確実な守備、(比較的少ない?!)チャンスを確実にモノにする狡猾さなど、本当に「渋い」ゲームを展開しました。

 最後に中田ですが、前節のウディネーゼ戦ほどではありませんが、この試合でも、彼の特徴である「シンプルなパス」や、たまに魅せる中盤での効果的なドリブルからのラストパスやシュートへのトライ、アクティブで効果的な守備、パスを受ける動き(ボールがないところでのクリエイティブな『無駄走り』)など、チームにとって素晴らしく価値のあるプレーを展開しました。

 これで、ガウチさんは、中田の移籍に積極的になるんですかネ・・(二部落ちだったら誰も出さない・・でも残留したら、行きたいクラブへ移籍させてやるヨ・・ってな発言が報道されていました)。商売上手の彼のことだから、(まだ契約が残っていることで保有券を有している)中田をできるだけ高く売ろうとするんでしょう。30億でも、欲しい・・というクラブが現れてくるとは思いますが、中田には、とにかく自分にとって一番良いと思われる道を冷静に(論理的に)探って欲しいと思います。

 まずチームの一員として認められること(中田が、自分たちにとっても価値があると認められること)、チームメートが彼のプレーに慣れること、そして彼が周りのチームメートのプレーに慣れること、監督との意志の疎通、生活環境などなど、彼が活躍できるための「物理的・心理的・精神的」なベースを整備することはそんなに簡単なことではありませんからね。

 チームプレーと個人勝負プレーが素晴らしいレベルでバランスした「シンプルプレーの天才」、中田のことですから、どんなスタイル・タイプのサッカーでも、すぐに大活躍できるとは思いますが・・そこは、様々な思惑がうごめく、限られた男たち(個人事業主たち)が形成する「閉鎖社会」ですから、予想を超えたことが・・

 とにかく中田には、(サッカーだけではなく、広く文化的な意味でも)これからも「日本の顔」として頑張ってもらいたいものです。オメデトウ・・中田




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