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おめでとう、そして感動と勇気を有り難う・・日本オリンピック代表vsカザフスタン代表(3−1)・・(1999年11月6日、土曜日・・深夜)

これからの「日本」を背負う若武者たちがやってくれました。私は斜に構えたりはしません。素直に、彼らに対し「おめでとう! そして有り難う!」と声をかけましょう。

 先制ゴールを決められ、人数をかけて必死に守るカザフに対し、思ったようにチャンスを作り出せない日本代表の選手たち。彼らは、心理・精神的に追い込まれていたに違いありません。それでも、最後まで諦めたりビビッたりせず、クールに、そして全力で仕掛け続け、最後には「試合の流れ」を逆流させてしまいます。そんな彼らの、サッカーに取り組む姿勢に対し素直に大拍手を送ります。

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 試合は、日本代表にとって簡単な展開ではありませんでした。先制ゴール・・、そしてガチガチに守備を固めるカザフスタン。時に彼らは、フィールドプレーヤー全員が守りに入ってきました。

 私は、この試合に関して、四枚以上のメモを取っていました。それら全ての内容を書き込むのでは読む方も大変でしょうから、試合でのキーポイントだけを短くまとめることにします(少なくとも「まとめ」にトライはしますヨ・・エヘヘ・・)。

 カザフのシステムは「4-5-1」。対する日本は、例によって「3-4-1-2」。そして試合のペースを握ります。カザフは、「しっかりと注意深く守り・・ワンチャンスを・・」という「守備的な」ゲーム戦術で試合に臨んでいます。

 タイ戦では、早い段階で自分のマークを決め、「本当にしつこく、最後まで忠実に密着マーク」を続けるタイチームの戦い方に苦しんだ日本代表。ただカザフは、中田に対するマーク以外は、(自ゴール前以外は)ほとんどのゾーンでマークを受け渡します。タイ戦よりはやりやすいかも・・なんて思っていたのですが、それでも、時には9人が守備に入り、スペースを埋めてしまう「忠実な」カザフの守備に、日本代表も簡単には決定機を作り出すことが出来ません。

 ただ、そんなカザフの戦い方に、日本は、すぐにうまく対処しはじめます。

 密着マークされる中田や、最前線の平瀬が、戻ってパスを受けようとするのに対し、(彼らが下がってきたことでできたスペースへ)後方から、両サイド(中村、明神)稲本、はたまた最終日ラインの中田などが、チャンスを見計らって上がっていくのです。また、戻ってパスを受けた平瀬、中田は、無理をせずに、素早くシンプルにボールを展開し、今度は「二列目の選手」として「次」を狙うのです。

 こんな「タテのポジションチェンジ」が何度見られたことか。前半15分前後に魅せた、明神のシュートや、明神のセンタリングからの福田のフリーシュートなどが、攻めのキッカケを「自分たち自身で見いだした」日本代表の自信を増長します。

 相手が守備的にきた場合、まずボールを素早く展開する(動かす)ことが課題になります。それさえうまくいけば、「どこかの」スペースをうまく活用できるようになるものです。ボールの動きが活発でさえあれば、「ボールなしの動き」が停滞することはありませんからね。周りの選手たちも、「次はオレがパスを受けてやる・・」と、「次のスペース」へ動こうとする姿勢も活性化するというわけです。

 もちろん、ボールの「展開力」に優れた、前線の平瀬、中田が戻ってくるのですから、後方の選手たちにも「ヤツらだったらボールをしっかりと展開してくれるに違いない。ヤツらが戻っているのだから、オレが前へ行く・・」という意識を持つのも当然といったところです。

 中田に対する必死のマークは「しつこく、激しく、効果的」。いくらスーパーマンでも、そんなに自由にプレーできるはずがありません。そして代わりに「展開リーダー役」を務めたのが、左サイドバックに入っていた中村。後半になって、中田を最前線に上げ、中村を「中央」に据えたトルシエ監督の采配には拍手です。この試合での中村は調子がいい・・だから・・という判断はサスガと思うのです。

 それでも、先制ゴールを決められてからの日本代表の動きには堅さが目立つように・・。何とかしなければ、中盤でのドリブル突破、ロングシュートなど、何か「変化」が必要だ・・そんなことを思っていました。

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 後半は、最初から中村が「中央」に入り、中田が最前線へ上がります。そして福田に代わった本山が左から、そして遠藤に代わった酒井が(右サイドの明神がボランチへ)右サイドから、交互に鋭い攻撃を仕掛けはじめます。

 相手が人数をかけて守備を強化してはいるが、まだ日本チームのボールの動きは良好だし、ボールなしの動きも活発・・。それでは、「攻め手」を増やそう・・(勝負にいこう・・)。ということで、両サイドに、どちらかというと「攻撃に強み」を発揮するタイプのサイドバック(このポジションは日本代表でのハナシですけれどネ)本山と酒井を送り込む・・。素晴らしいベンチの判断ではありました。

 案の定、この両サイドからの攻めが、日本チーム攻撃の「鋭さ」を格段に引き上げていきます。そしてそれにともなって、効果的なサイドチェンジも増えていきます。「サイドからの攻めがいいゾ・・」と感じているクリエイティブな日本の若武者たち。一方のサイドを攻めながらも、常に「逆サイド」のことも意識に入れていたに違いありません。

 そして日本チームの攻撃が、徐々に、前半にも増して「流れの中」でチャンスが出来そうなニオイを放ちはじめます。心理的に「物凄く」厳しい状況のなかでも、「冷静なダイナミズム」を、より高揚させられる・・、頼もしい、頼もしい・・

 後半6分・・タテパスを受けた中村が、そのまま持ち込んで、正面からシュート!! 素晴らしいシュートでしたが、相手GKがいい。ホントに、ナイス・セービングでした。

 そのすぐ後の10分。中央下がり気味でパスを受け、相手をかわした中村から、素晴らしい浮き球のパスが平瀬へ・・。トラップがうまくいかずにクリアされてしまう・・

 そんなふうに、完全に日本が押し込んではいます。それでも、攻撃の選手に代えて守備の重鎮、ビャコフを投入するなど(後半14分)、固い守備をもっと強化するカザフに手こずり続ける日本代表。そして「タテのポジションチェンジ」も目立たなくなってくる・・。何か、ネガティブな雰囲気が・・

 ここらあたりが、もっとも心理的にキツい時間帯だったに違いありません。そんな状況で、もし選手が「もしかしたら・・」なんて不安な心理状態になって「絶対にいつかはゴールが決まる・・」という「確信」を失ってしまったら・・

 そんな「心理的プレッシャー」を敏感に感じたのか、またまたベンチが素早く動きます。中盤守備の重鎮、稲本に代え、最前線の高原をグラウンドに送り込んだのです。

 これで平瀬、高原、中田、中村、それに本山、酒井が、縦横無尽の攻めを展開しはじめます(もちろん守備になれば中村、中田、両サイドが超ダッシュで素早く戻る)。このベンチの采配にも拍手です。

 そして日本の同点ゴール。

 このゴールは、中村から、左サイドにいた中田にボールがわたり、そこからのピンポイントセンタリングを、平瀬がヘディングで決めたものですが、そのセンタリングは、相手ディフェンダーへ向けて蹴られました。そこに平瀬が、まさに「あ・うん」の呼吸で「後方から」飛び込んできたのです。相手ディフェンダーの「目の前のスペース」をクレバーに活用する・・。私は、このゴールと、ジョホールバルでの対イラン戦で城が挙げた「起死回生」の同点ヘディングゴールが、「イメージ的に重なって」仕方ありませんでした。

 この両方のゴールを演出した、世界レベルの「スペース・イメージ(パッサーだけではなく、パスレシーバーとしても!!)」を持つ中田。まさに「レベルを超えたカリスマ」です。

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 シュート数は、日本の「21本(前半は10本)」に対し、カザフはたったの「3本(前半2本)」。総合力ではかなりの差がある両チームの対戦でしたが、先制ゴールはカザフ。そしてガチガチに守り切られそうになる・・こんなゲーム展開は、サッカーでは日常茶飯事です。

 その「日常茶飯事」を、日本の選手たちが知らないはずがありません。イヤな雰囲気・・。ただそれを「自分主体のダイナミックな仕掛け」を続けることで打破した若武者たち。トルシエ監督も、リスクにチャレンジしながら適切に、効果的に対処していました。

 このゲームは、彼らにとって本当に貴重な「成功体感」になったに違いありません。そんな「体感」だけが、「世界」へつながるステップになるのです。

 「逆境」を乗り切り、二回連続のオリンピック出場を決めた日本オリンピック代表。本当におめでとう・・




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