トピックス


湯浅のドイツ報告・・さて国際会議が始まりました・・(1999年7月5日)

「さて、みんな立ち上がってくれ・・サヨナラを言わなければならない人たちがいる・・」

 ドイツ・サッカーコーチ連盟会長、クラウス・ロルゲン氏の野太い声がホール全体に重々しく響きわたりました。

 今年のドイツ・(プロ)サッカーコーチ連盟主催の国際会議は、ドイツの保養地方、ザウアーランドのほぼ中央に位置する町(というか・・村?!)「シュマレンベルク」のシティーホールで始まりました。いつもの、「一人ひとりに話しかけるような」雰囲気で、抜群のパーソナリティーを感じさせる開会演説のあと、ロルゲン会長が、最近亡くなった著名人に対して追悼の意を表そうとアピールしたのです。

 亡くなった方々の中には、1974年にドイツがワールドカップチャンピオンになったときのブレインの一人で、過去16年間もドイツサッカーコーチ連盟の会長をつとめた、ヘルベルト・ヴィドマイヤー氏も含まれていました。

 以前、私もかなり世話になったことがあります。その類い希なパーソナリティーで、多くのプロサッカーコーチの「父親」的な存在だったヴィドマイヤー氏。冥福をお祈りします。

 ヴィドマイヤー氏ですが、以前何度か、この国際会議で、参加者一人ひとりに対し、これまた「話しかける」ように演説をしたことがあります。

 「オマエたちは、ドイツの希望の星なんだ・・。もっともっと考え、トライし、前進して欲しい。もしオマエたちのクリエイティブな仕事を邪魔するようなヤツらが・・たぶん年寄り連中なんだろうが・・そんなヤツらがいたら、すぐにオレに報告しろ。すぐにケッ飛ばしに行ってやるから・・」  会場は爆笑のウズ。とにかく彼の、「歯に衣着せないポジティブなパーソナリティー(エネルギー)」は、他の追随を許しませんでした。

 ロルゲン会長が、亡くなった方々の名前を読み上げ、ヴィドマイヤー氏の名前になったときの、会場の「シ〜〜〜ン!」とした静まり返る雰囲気。それはもうホンモノのお通夜?! 参会者は、それなりの強烈な個性を持つ(プロ)コーチたちですから、もし壇上で話されることに内容が伴っていない場合、すぐにでも「ザワザワ・・」ってな具合。もちろん「規律」をチームに導入しなければならないコーチがそれでは・・なんですが、それでも「追悼」のときだけは、一人も、ほんとうに一人も、小さなノイズさえも出すことはありませんでした。息までも止めていたんだろうか・・

------------------------

 最初、何人かのゲストが挨拶をしたのですが、その中で、ヨーロッパでの「コーチ組織同士の協力関係」の現状が紹介されました。

 「UEFA(ヨーロッパサッカー連盟=会長は、あのヨハンソン氏)」の事務局長、ドイツ人のルドルフ氏(以前はドイツサッカー協会に所属)が挨拶に立ったときに触れたのですが、イングランド、ドイツ、オランダ、フランス、イタリア、スペインなどの「サッカートップネーション」の「指導的な立場にいる」コーチが、互いに情報を交換するだけではなく、今後のサッカーの「方向性」を探る活動も協力して進めている・・ということです。そんな情報・意見交換システムの構築には、「ヨーロッパ・サッカーコーチ連盟(UEFT)」の事務局長、ドイツのモイラー氏も大きく貢献しています。

 たしかに以前からそのような意見・情報交換の場はありました。ただそこで、現場のプロコーチとの「実践的なノウハウ」の融合をどのようにはかるかが「課題」の一つとして取りあげられているのは新しいことです。今後の「協力作業(その結果)」に期待しましょう。

 さて、実際の会議ですが、冒頭で講演したのは、ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟の副会長、クリストフ・ダウム。約一時間にわたり、内容の濃いスピーチを、エネルギッシュにこなします。

 次には、スポーツ選手の「ケガ」についての学術的なレポート報告。サッカーでは、「相手が絡まないケガ」も非常に多いが、それは、トレーニングの内容、栄養学的な処方で、三割、四割は防ぐことができるという興味深い内容(統計データ、対処策など)でした。

 そして午前中の最後を飾ったのが、現在のドイツ代表チーム監督、エアリッヒ・リーベック氏。落ち着いた話し方から、重要なところでは急にトーンを変化させ、表情豊かに、そしてたまにはジョークも混ぜながら、会場全体にアプローチするように話します。ナイス・パーソナリティーじゃありませんか。

 彼の発言のなかで面白かったことを二つ・・。

 一つは、代表チームに若手を多く入れることで、将来に備えるのがいい・・という議論はあるが、ドイツの国際的な名声の維持、経済的な背景などを考慮すれば、やはり、「若手とベテランの理想的な融合」をはかるほうが現実的だ。つまり、まず勝つことを考え、マテウス、ヴェルンス、エッフェンベルクなどのベテランも必要・・ということです(結局エッフェンベルクは代表カムバックをしないことを決心しましたがネ・・)。

 もう一つが、「オランダやフランスなど、様々な人種が混ざった代表チームの活躍が目立つが・・ドイツは・・」という参加者の質問に対し、「国籍の根拠は、母国語、成長過程などの文化背景が主だから、例えば、ドイツで生まれ育ったトルコ人を(帰化さえ問題なければ)代表チームに迎え入れるのには何の問題もない・・」。そこで、多くの参加者から拍手が起きたモノです。

 今日はここまで。また二〜三日後に、内容をまとめた報告をアップデートするつもりです。また、会議の冒頭でのクリストフのスピーチ内容については、かなり「深いモノ」もあったので、今週号の「Yahoo Sports 2002 Club」で取りあげようと思っています。ご期待アレ・・




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]