トピックス


エキサイティングゲームを制したのは、ファンタジスタの「一発」が効いたグランパス・・2000年天皇杯決勝・・グランパスvsサンフレッチェ(2-0)・・(2000年1月1日、土曜日)

素晴らしく機能していた、クレバーで積極的な「ゲーム戦術」を打ち破ったファンタジスタ(才能)たち・・。今年度の天皇杯決勝は、そんな展開になりました。

 ファンタジスタたちとは、もちろんグランパスのストイコヴィッチを中心に、その周りを固める呂比須、平野、望月などのことです。

 前半は、ゲームを支配しているように「見える」グランパスに対し、たまに危険なカウンターを仕掛けるサンフレッチェという構図。要は、サンフレッチェのゲーム戦術が完璧に機能し、押されてるように見えても、実はゲームをしっかりとコントロールしていたということです。

 サンフレッチェは、守備に入った場合、両サイドバックも含めた最終守備ラインの「五人」の前で、三人のミッドフィールダーが積極的な中盤守備を展開し、グランパス攻撃の芽をどんどんと摘み取ってしまいます。フラストレーションがたまり、足が止まり気味になってしまうグランパス。これでは、彼らの「才能」を生かせるはずがない・・

 前半は、サンフレッチェの思うつぼという「才能殺し戦術」が見事に機能していたということです。もちろんサンフレッチェには、「相手の良さを殺す」という方向性で戦術を立てざるを得なかった事情もあります。久保、森保、沢田などの主力がケガですからね(また試合中にはポポヴィッチ、才能溢れるヤング、森崎もケガで交代!)。それでも、運動量豊富な、積極的&クリエイティブな中盤守備をベースに、素晴らしく「組織的」なサッカーを展開したサンフレッチェ。私はこのゲームを、「組織(戦術)」対「個人能力」という構図で見ていました。

 「ストイコヴィッチの、上村に対するプッシングは、完璧にPKだった・・」

 試合後、サンフレッチェのトムソン監督が、「クール」に憤っていました。私も同感! あれは完璧に「PK」でした。もしそれが決まっていたら・・。試合はまったく違う展開になったことでしょう。サンフレッチェの守備がよりアクティブに、強固になり、焦るグランパスの「守備ブロック」がバランスを崩すなかで、サンフレッチェの危険なカウンターがどんどんと決まってしまう・・なんてネ・・

 決して、私はサンフレッチェだけに荷担しているわけではありません。ただ、個人能力では明らかに差をつけられているサンフレッチェの、クレバー、忠実、そしてアクティブな(最高の集中=考え続ける姿勢)サッカーに、「プロコーチ」として共感していたことだけは事実です。

 逆にグランパスですが、たしかに「実質的なベース」を握られているとはいえ、トーレスと大岩を中心にした最終守備ラインと、山口とウリダで構成するダブルボランチ、はたまた、平野と望月の両サイドミッドフィールダーが展開する「クリエイティブ守備」はサスガ。たしかに、何度か「決定的スペース(最終守備ラインとGKとの間のスペース)」を突かれてセンタリングを上げられてはしまいましたが、そんなワンチャンスシーン以外は、「まさに鉄壁!」といえるソリッド名組織力を見せつけていました(来シーズン、トーレスの代替は見つかるのかナ・・)。

 前半のシュート数は、才能を揃えたグランパスが「0本」だったのに対し、決定的なチャンスを作り出す総合的なチカラでは確実に劣っているサンフレッチェが「1本」でした。

 そんな、トーナメントの決勝では典型的な「守備偏重」のゲームが続きます。それでも、両チームが繰り広げる「クリエイティブ守備」を見ているだけでも面白いことこのうえない?!

 それにしてもグランパスの攻撃。何度か、ストイコビッチや望月、はたまた平野などが、最終勝負局面でフリーでボールを持ったにもかかわらず、最前線の呂比須、二列目の選手たちの「決定的スペース」への飛び出しのカッタルいこと・・。これでは、シュートチャンスを作り出すことさえも出来なくて当然だ・・と不満いっぱいの湯浅でした。

----------------------

 後半の立ち上がりも大きな変化なし。とはいっても、グランパスの「リスクチャレンジ・マインド」が少しずつ活性化されてきている・・という印象をもちはじめました。

 そんな後半11分。緊迫した膠着状態のカラをぶち破る「夢のような先制ゴール」が決まります。ストイコヴィッチのセンタリングが、斜めに走り込んだ呂比須に、本当に「ピッタリカンカン」に合ったのです。それこそ当に「ピンポイント・センタリング(ラストパス)」!!

 美しい・・あまりに美しすぎる・・。このゴールについては、ヤフー「2002 Club」で取りあげることにしましょう・・

 そして、このゴールをキッカケにグランパスが息を吹き返し、やっと「才能」にダイナミズムが加算されるようになり、強く、美しいサッカーを展開しはじめます。決してサンフレッチェの守備が破綻したわけではありません。(先制ゴールによって?!)明らかにグランパスのサッカー(攻撃)が、二回りは活性化してしまったのです。

 それまであまり見られなかった「パス&ムーブ」で、サンフレッチェの中盤守備ブロックを置いてきぼりにしてしまう平野と小川のコンビ。呂比須をポストに、どんどんと二列目からサンフレッチェゴール前の決定的スペースへ飛び出していく望月、ストイコ・・などなど・・

 こうなったら、「才能軍団の勢い」を止めるのは容易なことではない・・そう感じ、実際にそうなってしまいました。

 ただ、ひとしきり(ある時間帯)ペースを握られていたサンフレッチェが押し返します。そのとき私は、「オッ」と淡い期待を抱いたものです。ただよく見てみると、それは、先制ゴールを決められるまでの「前後のバランス」をうまく取った組織的な攻撃ではなく、どちらかというと、タテの「人数的、ポジショニング的バランス」が崩れてしまうような、勢いだけを前面に押し出した「限界状態の押し上げ」だったのです。こうなっては・・

 案の定、何度かグランパスに「才能ベースの」カウンター攻撃を食らった後、ストイコヴィッチに、ズバッと、追加ゴールを決められてしまいます。後半32分のことでした。これで(トムソン監督も認めていたように)万事休す・・

 追加ゴールのシーンですが、そのカウンターがはじまった時点では、サンフレッチェのディフェンダーは、たったの二人。対して、サンフレッチェ攻撃の途中でボールを奪い返してカウンターを仕掛けるグランパスの選手は四人から五人・・これでは・・

 たしかに審判の「不明確」なアクション(副審がフラッグを一度上げ、すぐに下げた!)はありましたが、オフサイドの位置にいたとはいえ、「その時点」で攻撃に参加する意志を見せていなかったストイコヴィッチは、現行ルールではオフサイドではありませんでした。

 また、決定的なタテパスを受けたトーレスの飛び出しも、ギリギリの「グッドタイミング」だったように見えました。追加ゴールを決められた後、トムソン監督が、「一度フラッグを上げたじゃないか!!」と、副審に猛烈な抗議をしていましたが、それはチームに対する「刺激」という意味でのアクションだったのかも・・

-----------------

 目立ったシュートチャンスは少なかったとはいえ、全体的には、素晴らしくエキサイティングだった今年度の天皇杯決勝。最終的には、ファンタジスタの「一本」のスーパープレーが、素晴らしくうまく機能していた、サンフレッチェのクレバーで忠実な「戦術」をうち破りました。

 もちろん、まったく逆の展開もアリ。だからサッカーは面白い。実力的に、個人能力的に勝っているチームがいつも勝つとは限らないのがサッカーですからネ。この試合だって・・

 皆さんにとって、記念すべき西暦「2000年」が良い年になりますように・・。今年わたしは「年男」。二月に出版される予定の新刊(新潮社)も含め、何かエキサイティングな予感が・・。とはいっても、これからも「継続こそパワー」という普遍的な概念を信じつつ地道に頑張ります。今年もよろしくお願いいたします。

 追伸:湯浅健二は、数日後から二週間ほどヨーロッパ出張です。面白いことがありましたから、現地からレポートします。ご期待アレ・・




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]