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日本オリンピック代表、オーストラリア代表に惜敗・・(0-1)(1999年5月12日)

地元オリンピックということで、リキの入るオーストラリア・オリンピック代表を迎えた試合。日本代表にとっては決してあなどれない相手です。

 日本代表は例によって、ラインのスリーバック、右サイドに中田、左サイドに酒井、明神と稲本がダブルボランチでその前に、チャンスメーカーの中村、そして柳沢と福田のツートップです。ゲーム戦術は、中盤での積極的なプレスで相手からボールを奪い返し、少ないボールタッチで素早く相手のゴールへ迫る・・ということでしょう。

 立ち上がり、日本代表では、一つのブロックを形成するような守備の組織作り、そしてその流れるようなポジション移動が目立ちます。オーストラリアをハーフウェイ付近では、両サイドタッチライン際に押し込み、日本ゴールに近づいてきたら、なるべく中央へ集中させる・・、これが、相手の攻撃の流れをコントロールする定石です。と、ここまではうまくいっていたのですけれど・・。

 オーストラリアの、従来型のスリーバック(後ろにリベロを置くやり方)も非常に堅実に機能しています。また彼らの中盤でのプレスも強烈。オーストラリアは、最後尾のファイブバックに、三人の中盤選手が積極的に絡むような、八人での守備ブロックで、中盤でのボールを巡るせめぎ合いを優位に展開しはじめ、日本チームが彼らの守備ブロックのウラを突けるシーンは希という展開になっていきます。

 ここからは「心理的」な主導権争い。どちらか、消極的になった方がペースを奪われてしまう。そして徐々に、日本チームが、試合のペースをオーストラリアに渡してしまいがちになるといった展開です。

 ペース争いでのもっとも重要な部分は、もちろん「守備」。そこで、どのくらい積極的なプレーを展開できるかが、次の攻撃に決定的に重要な影響を与えます。その意味で、中盤守備がうまく機能しているオーストラリアがイニシアチブを握るのは順当なのです。

 徐々に、オーストラリアのボールの動きを、目で追いかけはじめる日本代表。本来ならば、相手のボールの動きを予測して「先回りする」というイメージでプレーしなければならないのに・・。それは、「こいつらの当たりはキツイな・・」と感じている日本選手たちが、ほんの数分ですが、消極的になったスキを突いて、オーストラリアが大攻勢をかけてきた結果でした。

 それにしてもオーストラリア。何という大幅なイメージチェンジでしょう。彼らは、ほとんどといっていいくらい、(従来のような)アバウトなロングボールを放り込むことはありません。しっかりと中盤でつなぎながら、勝負ポイント(フリーでボールを持つ選手のこと=攻撃の起点)を作り出そうとします。これは、オーストラリアのコーチが優秀な証拠。彼は、本当の意味でのモダンサッカーに対する理解が深く、そのことを若い選手たちに伝える能力を持っているということです。

 押し込まれる日本。雰囲気は、完全にオーストラリアのものです。いつ盛り返せるのか・・。そのためには、中盤での「守備合戦」で押し返さなければ・・と思っていたそのとき、日本代表の素晴らしいカウンター攻撃が飛び出し、最後は相手のファールをさそってゴール前の直接フリーキックにつなげてしまいます。そして、例によって中村が左足で惜しいシュートを飛ばします。

 それでも、そんなチャンスが、「ペースアップの目覚まし時計」にならない日本代表。カッタるい・・

 稲本についてですが。最初の5分間の彼のプレーを見ただけで、「何かおかしい・・」とすぐに感じました。ケガ?! とにかく、彼の消極的なプレーが目立ちます。

 本来の、切れ味鋭い「読みベース」の守備もほとんどが空振り。要は、彼のところでオーストラリアの攻撃が「止まる」ことがほとんどないのです。そんなふうに空振りを繰り返せば、自信をなくすだけではなく、周りに対する心理・精神的な悪影響も大きい?!(これを書いているのは前半35分をまわったところ。後半からは実際に交代してしまいました)

 彼のケガは完治していないに違いない(サポーターを巻いていますしネ・・)?! ということは、守備での思い切った飛び込みだけではなく、攻撃でもダイナミックにプレーできるはずがありません。このような中途半端な状況で選手を使うことは、往々にして長く尾を引くスランプに選手を落とし込んでしまうキッカケになってしまうんですがネ・・トルシエさん。

 もし彼が100%ではないのなら、決して使うべきではなかったというのが私の意見です。

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 後半、案の定、稲本が石井と交代、そして、フォワードの福田も平瀬と交代です。たしかに前半での福田は、あまり目立っていませんでしたからネ。とはいっても、それは柳沢も同じ、要は、チームの出来が悪いから、フォワードが目立てるはずがないということか・・

 (稲本へのメッセージ: 自信をもってプレーできるまでにケガを完治させることを勧めます。中途半端が一番いけない・・。治療中の苦しい状況は、選手として、また人間として伸びる機会だヨ・・。何といってもキミの才能は、万人が認めるところなんだから・・)

 そしてこの交代が功を奏します。稲本、福田には悪いのですが、彼らの調子が万全でないことは事実ですからネ。代わった石井、そして平瀬は、最初からアクティブなプレーを展開し、日本のペースアップに大きく貢献します。

 特に石井。地元スタジアムということもあるのでしょうが、とにかく、それまで「ボールの動きを(自信なさげに・・こわごわと)消極的に追い掛けるだけ」だった稲本とは違い、はじめから「先回り守備」で、どんどんと「高い位置」でボールを奪い返してしまうのです。

 そしてゲーム展開が、前半とはまったく違うものになっていきます。

 後半目立つのは、中盤守備がアクティブになってきたことだけではなく、トップ、柳沢のプレーが格段に積極的になってきたことです。前半は、トップに張り付いていただけだったプレー範囲が、前後左右へダイナミックなフリーランニングを繰り返すなど、格段に積極的になってきたのです。それも、走ればパスが回ってくる・・という確信を持てるようになったからに他なりません。

 そして17分、中村からはじまった攻撃が素晴らしく美しいゴールチャンスにつながります。

 中盤でボールを持った中村。そこから、ワンツー二本をはさんで再び中村にボールが戻ってきます。そこからの中村の「自信ベース」のプレーが秀逸でした。彼は、パスを狙うのではなく、自らシュートまで行くという積極的な姿勢で、相手の最終守備ラインに突っかけていったのです。当然オーストラリアの守備陣は彼に集中します。その瞬間でした。ボールがないところでのドラマが完結したのは・・。

 その瞬間、中村が、得意の左足アウトサイドで、左サイドに開いていた平瀬へスルーパスを通したのです。フリーでパスを受ける平瀬。

 残念ながら、トラップミスでゴールに結びつけることはできませんでしたが、中村の才能を証明する、素晴らしく美しい攻撃ではありました。

 後半の中村は、稲本が抜けたこともあって、中盤でのリーダー役を十二分に果たしていたことも、この試合での収穫でした。

 その後、試合は完全に日本ペース。このままいけば・・と確信しかけた後半22分のことでした。日本の一瞬のスキを突いたオーストラリアのカウンターから、最後は日本がファールを犯し、直接フリーキックを与えたしまったのです。

 やや右サイド、ゴールからは20メートルといった距離です。そして、オーストラリア、フォックスのスーパーゴール。蹴られたボールは、カベに入った日本選手のアタマに当たり、少しコースを変え、そのままゴール右上に吸い込まれていきました。内容的には圧倒している日本の失点。これもサッカーということです。

 このタイミングで、最終守備ラインの戸田に代わり、アントラーズの本山が登場です。戸田の代わりに最終守備ラインに入ったのは、中田。本山は、ナイジェリアでの定位置、左サイドバックに入ります。これで、柳沢、平瀬の両トップ、中田、本山、そしてゴールキーパーの曽ヶ端と五人の若手アントラーズ選手が入ったことになる・・

 ここからは、もう完全に日本がイケイケ。

 36分、日本チームが一瞬のスキを突き、右サイドから明神が、逆サイドにいる平瀬へパンポイントのサイドチェンジパスを送り込みます。それはそれは、ピッタシカンカンの決定的センタリング。平瀬、ヘディングシュート! ただ相手ゴールキーパーのスーパーセーブに阻まれてしまいます。

 このGKは、落ち着いたセンタリングの処理、素晴らしいポジショニングからのスーパーセーブなど、今すぐにでもヨーロッパトップリーグで使えるくらいの能力があります。

 負けはしたけれど、日本のオリンピック代表は、(特に後半は)立派な戦いを披露しました。内容的に、彼らは自信を格段に深めたに違いないと思うのです。特に後半でのボールの動きと積極的なリスクチャレンジ。それは、「まさに秀逸」という表現がピッタリの素晴らしい攻めではありました。

 そして何度もオーストラリア守備陣を崩し切ったチャンスを作り出します。それでもゴールを割ることができない・・。彼らはちょっとボールを回し過ぎ、もっと思い切り良くシュートにトライしなければ・・。内容はいい、ただ彼らの「攻撃における本来の目的(=シュートを打つこと!)」を忘れたような攻めには納得いかなかった湯浅です。

 最後に、オーストラリアの「コレゾ集中力」と表現できる素晴らしい守備に対し、思い切り拍手をして筆を置くことにします。ではまた・・




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