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アンダー22日本代表、韓国に大勝はしたけれど・・(4-1)・・(1999年9月7日)

「イヤ、素晴らしい試合だった・・」。「感動したヨ・・」。などなど・・

 他のメディアの人たちは、この試合の「内容」を非常にポジティブに評価しているようです。でも・・

 私が見る限り、日本が「本来の実力」を発揮できたのは、三点目、四点目が入ってから。もちろん中田は別ですがネ・・。私は、この試合には、さまざまな「心理的な流れ」があったと思っているのです。

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 韓国は、日本の「守備戦術」を熟知していました。だから彼らは、いたずらに中盤で時間をかけることなく、とにかく「前へ・・前へ・・」とボールを送り込んできました。予想した通り、最終守備ラインからだけではなく、中盤で少しでもフリーでボールを持ったら、すかさず、日本の最終守備ラインの後ろ側に広がる「決定的スペース」へ向け、どんどんとロングボールを「放り込んで」きたのです。もちろん「パスの受け手」も、同じイメージで、フリーランニングのスタートを切っています。

 日本の「ラインスリー」の基本的な意図は、最終守備ラインを積極的に上げ、中盤でのスペースを狭めることでプレスをかけやすくし、奪ったボールを素早く相手ゴールへ・・というものです。ただ相手が中盤を省略してしまったら・・

 最初の頃は、韓国の放り込みのタイミングは合っていませんでしたが、徐々に、最前線の選手や二列目からの「飛び出し」と「放り込み」のタイミングが合いはじめます。そして、日本の最終守備ラインの選手と、韓国の選手との「走りっこ」になってしまう・・という状況が頻発するようになっていきます。もちろん日本選手が最初にボールに追い付きはしますが、「もしミスしたら・・」という心理的なプレッシャーや、韓国二列目の素早いフォローアップもあって、徐々に「心理的にも」押し込まれはじめてしまったのです。

 そして日本の最終守備ラインの「ライン形成」がデコボコになるだけではなく、ジリジリと下がりはじめてしまう・・

 それはアタリマエです。この「守備システム」の心臓ともいえる「中盤守備」が、「フリーになったら、とにかく前へ!!」っていう韓国の素早いタテへのロングパスに対して、ほとんど機能せず、徐々に攻守にわたるプレー自体も消極的になっていってしまったんですからネ。そしてそれに呼応するように、最終守備ラインのポジション取りも中途半端になっていきます。

 対する韓国は、最前線の選手が、日本最終守備ライン選手たちのポジショニングを揺さぶるように(おびき出すように)、中途半端に「下がり気味」になりながら、サイドへ開いたりします(サイドバックの酒井、中村は、前気味のポジションにいるからそこまで戻っていない・・)。そして日本の「ラインスリー」が横に間延びしてしまうだけではなく、一人が「上がり気味」にマークにいくからラインも「デコボコ」になりがち・・これでは・・

 案の定、その「中途半端なポジショニング」を突かれ、最前線の韓国選手が、「ダッ!」と音がするくらいの勢いで、日本ゴール前の決定的スペースへ「爆発フリーランニング」をスタートさせたり、その選手と、これまた超速ダッシュで上がってくる韓国二列目の選手が「タテのポジションチェンジ」をやったりと、揺さぶること・・揺さぶること・・

 そんな「爆発フリーランニング」に、韓国「最終守備ライン」や「中盤の底」からのロングパスが、これまた見事に合ってしまうんですヨ。確かに単純・シンプルではありますが、ここまで徹底していると・・。これも「イメージ・シンクロ・プレー」ってことです。

 また、日本の最終守備ラインが、副審の「オフサイドを取る能力」を信用し切れていなかった・・ということもあるんでしょう。とにかく「ココゾ!」の、ライン上げタイミングを見失ってしまうシーンを何度目撃したことか。

 そしてポストに当たるシュートを打たれただけではなく、それこそ何度も、最終守備ラインを崩されてしまうシーンが続出しました。

 日本の先制ゴール、そしてラッキーな追加ゴールが決まるまでは、しっかりとしたチーム戦術がうまく機能し、常にリスクにチャレンジするマインドを持つ韓国が、「内容的」にはゲームを制圧していたと見るのが自然のように感じます。

 ただ、この二つのゴールが決まった後、韓国は、サッカーにまとまりがなくなってきたと感じます。まとまりがない・・その最も目立ったポイントは、そこまでの時間帯ではキッチリとこなしていた「まず人を見るハード・マーク」が、徐々に「ルーズ」になっていったことです。特に中田に対するマークが・・

 また、それまではうまく保たれていた「前と後ろの、人数的、ポジション的バランス」も、微妙に崩れはじめました(無謀な攻め上がりと戻りの遅れ)。それが、相手のパスをカットした中村と、素晴らしいタイミングで「タテへ抜け出た」平瀬との、スーパー・コンビネーション・ゴール(三点目)につながった・・私はそう思っています。

 四点目は、小島の素晴らしい折り返しからの、中田の「ワザありアシスト」。もちろん冷静に決めた遠藤にも拍手ですが、トラップした瞬間の中田の「落ち着き」には、本当に「世界トップサッカーネーション」を感じたモノです。

 三点目が入った時点で、もう韓国はバラバラ。日本が、思い通りの守備から、何度も鋭いカウンターを仕掛け続けます。韓国も、「これは!!(PK!!)」というシーンを二度も作り出すなど、最後まで諦めずに攻め続け、結局、コーナーキックから日本のミスを誘い唯一のゴールを挙げました。

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 この試合で、まず私が感じたことは、「まだまだ日本は、逆境(最初の時間帯、選手たち自身がヒシヒシと自分たちのリズムを掴めていないと感じていたハズ)を、自分主体で切り開くことが十分にはできていないナ・・」ということでした。

 韓国に仕掛け続けられることで、攻守にわたってプレーがちょっと消極的になってしまい、ギリギリの仕掛けが影をひそめてしまう・・。これでは、世界との「肉を切らせて骨を断つ闘い」に勝つまでには・・。

 日本の若武者たちには、今回のゲームを、「結局は、自分主体で、積極的にリスクにチャレンジしていくしか、自ら仕掛けていくしか、逆境を切り開くことはできない・・」という教訓にして欲しいと思います。

 それでも、試合後の選手たちのコメントからは、かなり反省の声を聞くことができました。そうなんです。結果ではないんです。内容なんです。そのことは、グラウンド上でプレーしている選手たちが、一番、骨身に感じているに違いありません。

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 最後に中田について・・一言。

 韓国選手とでは、本当に「大人と、まだ熟し切れていない青二才」くらいの差がありました。たしかに最初の頃は、かなりのハードマークと、周りの味方の消極プレーもあって、かなり苦労しましたが、ペースを握ってからは、ボールを受けるまでの動き、ボールを持ってからの「身体」をウマク使ったキープ、そして展開力(味方のフリーランニングに自信が見えはじめたから?!)、守備力と、もうグラウンド上の王様といったところ・・。後半何度も魅せた素晴らしい「ワンツー」は、極上のワイン(ベーレン・アウスレーゼ)でした。もちろんまだ周りとのコンビネーションでは課題は見え隠れしていましたが、それも時間の問題です。

 基本的なキャパシティーレベルの高い「アンダー22代表」の選手たち。彼らには、常日頃から「世界」を意識してプレーしてもらいたいものです。目標が曖昧だったり、周りに合わせる(すぐに妥協してしまう)選手たちは自然に淘汰されてしまうもの。しっかりと「個人事業主」であることを自覚し、「世界トップにリンクするイメージトレーニング」だけではなく、どんどんと「世界とのギリギリの勝負の体感」を積み重ねていってもらいたいものです。




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